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リアクション
露店。
「ルカ達、何か凄い世界にいるよ」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は見慣れない街の様子を見回しながら言った。
「……またか」
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は見知った展開にため息をついた。
「せっかくだから楽しみながら勇者を助けちゃおうよ」
「いや、特に楽しいとも思わん。帰還が先だろ」
ルカルカは明るく言うが、ダリルは呆れる事しかできない。
「そう言うと思って準備は出来てるよ」
ルカルカはいつの間にか用意した大量の商品をダリルに見せた。
「……土産屋か」
商品の様子からダリルは一言。
「勇者屋だよ。勇者まんじゅうに勇者サブレにとある勇者の愛用品。あと、チラシ」
ルカルカは何気に楽しそうに商品、黄金色のサブレや温泉まんじゅうなどを紹介し、チラシをダリルに渡した。
「……特売のチラシ……勇者のサイン高く買います?」
チラシには特売を知らせとキスミを呼び寄せるための餌が付属していた。
「そう、これでキスミを呼び寄せるの。きっとこういうのに興味を持つはずだから」
「だろうな」
何度も巻き込まれているのであの兄弟が面白さを第一に考えているのは分かっている。
「他の人と協力してもいいかもしれないね。きっとあの二人の仕業だと知っている人は多いはずだし」
ルカルカはこれまた今までの事から予想出来る事を言う。
「それでここで待つのか」
やるべき事は分かったが、あとはいつ実行するかだけ。
「待つよりもこっちから行った方が早く見つけられるよ。来ない可能性もあるし」
ルカルカは移動販売の準備をしていく。目的はあくまでキスミをおびき寄せる事であって商売は二の次である。
「……一番騒がしい場所だな」
ダリルは考えるまでもなく居場所の見当はつく。
「そういう事♪」
ルカルカはダリルに笑いかけ、歩き始めた。
「勇者屋、本日開店だよ! 開店セールで大安売り! 勇者様のサインも買取してるよ!」
ルカルカは大声で宣伝しながらチラシをばらまき歩く。
「……」
ダリルはルカルカの後ろを歩き、周囲を見回していた。
街、裏路地。
「これはまた妙なもんに巻き込まれたなぁ。まぁ、それなりに楽しむか」
瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は巻き込まれた割にはノリが良い。
「……勇者が魔王に倒されない限り戻れないか」
裕輝は面倒臭そうなヤル気の見られない調子でつぶやいた。
あれこれを知っている生き字引な長老的人物に扮した。実際は隠れ陰陽師ではあるが。
「……勇者よ、この街を救っておくれ……こんな感じでええな」
裕輝は自分の役目に沿った台詞を少し練習。内心は毛ほども思っていない台詞であるが。
「……もうそろそろ行くか」
裕輝は、戦えなさそうな雰囲気をまとわせつつ勇者を捜しに行った。
小さなお店。
「いつぞやとまた同じ展開か……本当にあの兄弟と関わると前途多難になるのぅ」
自警団の一員となったルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は、犯人であるロズフェル兄弟に頭を押さえて呆れていた。
「とりあえず、自警団として活動するかのぅ」
ルファンは仕方無く自分の役目を果たす事にした。
「ダーリン、見回りならイリアも一緒に行くよ!」
店の可愛い店員イリア・ヘラー(いりあ・へらー)は、元気に言った。
「店を開けなくていいのか?」
自警団の一人、旅人風の格好をしたウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)がイリアに聞いた。
「ふっふっふ、普段は小さなお店の可愛い店員さん! でもその正体は自警団一のアイドル魔法使い!」
イリアはおかしな自称を口走り、ばっちりポーズを決めた。
「何だそりゃ。というか一人いねぇな」
ウォーレンはイリアの名乗りを肩をすくめて流し、ギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)がいない事を口にした。現実世界では一緒にいたはずなのだが。
「さぁ、どこかにいるんじゃない? それより、ダーリン早く見回りに行こう」
ギャドルと仲の悪いイリアは大して心配する様子は無く、それよりもルファンと見回りする事に熱心だった。
「うむ。見回りついでにギャドルを捜してみるかのぅ。見回りが終わり次第、教会に集合じゃ」
ルファンはイリアに腕を引っ張られながら自警団の仕事を開始した。
「了解。俺も行くかな。おもしれぇ事になりそうだ」
ウォーレンは、ルファン達を見送ってから自警団の活動を始めた。それなりに楽しみながら。
城下町、入り口。
「……ようやく、我が故郷に戻って来たわ。城に乗り込む前に街の様子を確認しなきゃ」
オデット・オディール(おでっと・おでぃーる)は立ち止まり言葉を洩らした。
「……このオデット姫が今度こそ魔王軍から民を守ってみせる」
踊り子に身をやつした王族の一人であるオデットはぐっと握り拳を作り、決意を強く街に入って行った。素晴らしい熱演である。
街に入ったオデットは、様子を知るために聞き込みを始めた。
教会、食堂。
「本当に助かった。もう路銀が無くなって野宿しかないと思ったよ」
流浪の吟遊詩人の斑目 カンナ(まだらめ・かんな)は向かいの席で摘み取った効能別に瓶に仕分けしているシスターの九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)に感謝の言葉をかけた。
「いえ、困っている時はお互い様ですよ」
ローズは作業を休める事無く笑顔でカンナに言った。
「何かお礼をしたいんだが……」
カンナは感謝を形にしたいと思うもお金が無い事を思い出し、頭を巡らせる。
二人のやり取りを見るとこの世界の住人そのままであった。それもそのはずで二人はこの世界に来たショックで記憶を失い、それぞれの役目になりきっているのだ。
「その気持ちだけで十分ですよ」
「そうは言っても」
ローズの優しい言葉にカンナは申し訳なく思い、余計に何とか感謝を示したいと強く思う。
「それより、食事がまだですね。厨房見て来ます」
ふとローズは、運ばれるはずの料理が一向に来ない事に気付き、厨房で料理をしている神父のシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)に確認しに行った。ちなみにシンも二人と同じ状態である。
厨房。
「……何か忘れているような」
料理中のシンはぼんやりと作業の手を止め、上の空で天井を見ていた。忘れている何か大切な事を思い出せそうな気がしてならないのだ。前からここに住んでいたはずなのに。
そんな時、
「神父!」
確認に来たローズの声が飛び込み、シンを仮想世界に引き戻した。
「あぁ、すぐに料理を持って行く」
シンは急いで調理を再開した。
食堂。
「ほら、しっかり食べろ」
シンは、心身共に癒す最高の料理をカンナの前に並べ、どこかに行った。
「はい」
カンナはゆっくりと食事を始める。
「神父の料理は本当に美味しい。パッチワークも素敵で。ところで神父はどこに? ざんげ室?」
カンナは『調理』を持つシンが作った最高の料理に舌鼓を打ちながらも訊ねた。この教会では訪れる者に料理を振る舞ったり『裁縫』を持つシン自作パッチワークを格安で提供したり『薬学』と『医学』を持つローズがいるので病院としても機能している。
「そうですね。今頃……」
ローズの言葉はざんげ室から聞こえてくる凄まじい轟音にかき消された。
シンがメリケンサックをはめた拳でちょっとした悪事を告白した相手を吹っ飛ばしていたのだ。
「……すごいな。最初、ここに泊めて貰った時は驚いたよ。ざんげを聞く前に鉄拳制裁の神父と魔王軍を蹴散らすシスター」
カンナはちろりとローズの方を見た。実は神父とシスターは言葉より先に拳が出ると問題にされている人達なのだ。
「教会を守り、人々の心を守るのが私達の役目ですから」
ローズはシスターらしくにこやかな笑顔を浮かべていた。問題の人とされても気にしてはいない。大事なのはシスターの務めだけだ。
「……礼に二人に詩でも送ろうか。しかし……」
カンナは食事をしながら小さな声で二人への礼を考えていた。二人が登場する詩でも作ろうと考えるがすぐに思い直す。銃を振り回すシスターに不良神父とありのままの姿を書いてしまったら風評被害となって二人に迷惑をかけてしまいかねないと。
「……あたしに出来るのはそれぐらいしか」
カンナは小さく言葉を洩らしながら、他に何か良い方法はないかと模索していた。
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