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リアクション
『第五試合、ハードコアルールシングルマッチ! 最初の入場はエル・イハ・デル・ドラゴ(クラウディア・マリア・ルナ・カスティージョ(くらうでぃあまりあ・るなかすてぃーじょ))選手! 藤色のドラゴンマスクに派手な全身コスチュームを身に包み、観客の注目を浴びております!』
『ドラゴ選手、自分よりも大きいラダーを持ち込んでいます。そしてセコンドとしてインペリオ仮面(アグスティン・コスメ・デ・イトゥルビデ(あぐすてぃんこすめ・でいとぅるびで))も従えています』
『おっと、ラダーをエプロンに立てかけて……駆け上がってトップロープを飛び越えて一回転!』
『ルチャらしい身軽な動き、調子は良好みたい。得意のラダーを使ったファイトが見られそう』
『さて、続いては小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)選手! 美羽選手はフリルたっぷりのコスチュームとは不釣り合いな太いチェーンを首に巻いています!』
『あれが彼女の持ち込み凶器のよう……美羽選手、ちょっとコンディションが不調?』
『そうですね……リングに上がる足取りも、何処か力なく感じられます』
『……その件について、美羽選手のパートナーコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)氏から情報が』
『え? 何々?』
『……どうやら美羽選手、焼肉フラッグ参加希望だったみたいでご飯抜いていたみたい』
『その件に関しては本当に申し訳ありませんでした……それでは両者、リングに上がったところでゴングです!』
試合開始直後、クラウディアと美羽はお互いゆっくり歩み寄ると手四つで組み合い力比べが始まる。
力は拮抗状態。腕だけでなく互いに胸を合わせた力比べへと移行。全身を使い、相手を捻りサーフボードストレッチの体勢を取り合うが、お互いうまくかけさせようとはしない。
先に動いたのは美羽。クラウディアの腕を取り、捻り上げる。それにクラウディアは抵抗せず、自ら転がりリングへダウン。美羽はそのまま絞り上げようとするが、クラウディアはヘッドスプリングで起き上がると逆に美羽の腕を取り、捻り上げる。
美羽はロープに手を伸ばし、掴むとクラウディアはすぐさまブレイク。直後、会場から拍手が巻き起こった。
『テクニコらしい関節の取り合い、先手を取ったのはドラゴ選手!』
『けどこれで美羽選手も目が変わった。今ので火がついたみたい』
泉空の言う通り火がついたのか、美羽も自らの頬を叩き気合を入れ直す。
クラウディアのジャベに対抗し、美羽もスコーピオンデスロックやテキサスクローバーホールドと、足腰を攻め立てる。
これらの技はルチャの動きを行うクラウディアには効果的だ。嫌がり距離を取る。
「てぇいッ!」
そこを狙い、美羽がラリアット。クラウディアの身体が一回転し、リングにダウン。
そのままフォールへは行かない。持ち込んだ鎖を腕に巻きつけ、その腕を高々と掲げる。
「いっくぞぉー!」
そしてロープへと走り、反動をつけて振りかぶる。だが、今度身体が回転するのは美羽の方であった。
勢いをそのまま利用し、風車の様に一回転させられた美羽に待っていたのはクラウディアの膝。
「あぐぅッ!」
旋回式バックブリーカーに、美羽の口から苦悶の声が漏れる。
『相手の勢いを利用したバックブリーカーが決まった! おっと、ドラゴ選手が場外へ下りて行った!』
『持ち込みのラダーを手に取った。これは試合が動きそう』
場外にたてかけていたラダーをリング上へ滑り込ませ、クラウディアもリングイン。
だがその直後、ダウンしていたはずの美羽がロープの反動を利用し、飛んでいた。
フライングネックブリーカーの様にクラウディアの首元に腕を絡ませると、彼女を軸にして旋回する。その勢いを利用し、クラウディアの後頭部をリングに叩きつける。
必殺のスリングブレイドを決めた美羽が、試合を決めるフィニッシュを狙いコーナーを駆け上がる。だが、狙いを定めようと見据えた先にはすでにクラウディアはいない。
「うわッ!?」
コーナーに上がっている間、クラウディアはすぐさま立ち上がっていた。ラダーを手に取り、美羽を突く。ダメージよりは驚きの方が強く、危うく転がり落ちそうになるが、リングに腰掛ける形でなんとか堪える。
それを逃さず、クラウディアはラダーをコーナーに立てかける。そして駆け上がり、美羽目がけニールキックを放つ。
「ぐぁっ!?」
これは流石に堪え切れず、美羽がリングへと転落する。クラウディアはトップロープを掴み、エプロンに着地するとロープを飛び越えリングイン。
美羽の身体を引き起こすと屈ませ、パワーボムの体勢を取る。だがクラッチはせず、美羽の股から彼女の腕をクロスさせるように通し、その腕を掴んで持ち上げる。
高々と抱え上げると、その場で旋回。勢いを充分につけると、クラウディアは美羽をマットに叩きつけた。
『ドラゴ選手の必殺、ブエコ・トルナード!』
『完全な形で決まった。これは返せない』
レフェリーがカウントを始める。両肩をマットに着けたまま、美羽はゴングの音を聞く事となった。
勝ち名乗りを挙げながら、クラウディアは美羽を見る。彼女はリング上で大の字になったままであった。ぐったりとして起き上がるのも辛そうである。
手を貸そうとした時であった。
「美羽ー、フラッグ戦はやらないけど焼肉はやるってー」
リング下のコハクが、美羽にそう言うと、
「ホントっ!?」
今までぐったりしていたのが嘘かのように、起き上がるとさっさとリング下へと降りていく。
「何時!? 何時やるの!?」
「お、落ちついてよ……試合終わったらみんなに振る舞うってさっき……」
「よし! 試合終わったよ! 早く行こうよコハク!」
「いや終わったらって全試合の事だから!」
そんなやり取りを、クラウディアは呆然と見ていた。会心の一撃だったはずが、相手がピンピンしているのである。
そんなクラウディアの肩をアグスティンがポンポンと叩く。そして『何も言うな』とでもいうかのように一人でうんうんと頷いている。
その態度に腹が立ったのか、
「ふんッ!」
クラウディアはアグスティンをカスティーゴ・セルピカレス(みちのくドライバー)で叩きつけた。
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