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『一般参加プロレス試合も佳境を迎えてきました第八試合! 通常ルールタッグマッチを行います!』
『この試合、ゲストとして冬月 学人(ふゆつき・がくと)さんが解説するとのこと』
『ご紹介預かった【DレジェンドX】広報担当、冬月学人です。今日は我が【DレジェンドX】の素晴らしさを、無知な皆様にもわかりやすく解説してあげましょう』
『それでは選手の入場です! トランスミュージックの中、入場ゲートから現れたのはアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)選手!』
『彼はテーブルケーキに相手諸共突っ込む、というテーブルクラッシュに定評がある選手。通常ルールだけど、何処かでテーブルが見られるかもしれない』
『リングインしたアキュート選手、何やら頭上を指さしますが……その先から翼を纏って死神乙女、クリビア・ソウル(くりびあ・そうる)選手が舞い降りてきた!』
『髪から妖気をまき散らしながらリングイン……ちなみにあの妖気、クリビア選手曰くドラッグストアで売っているとか
『ベビーパウダーとは言わせませんよ! さて続いて――』
『おっと、ここからは広報である僕の仕事だ! 今日この二人の試合が見れる幸運に感謝したまえ! 魔女っ娘ヒート、ろざりぃぬ九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず))が笑みを浮かべて現れた! そして最新式丸鋸は血に飢えている! クールバズソー、ハートブレイクカンナ斑目 カンナ(まだらめ・かんな))の入場だ! 本来ならばローライダーを入れたかったところだが、今日は勘弁してもらいたい!』
『ちなみに会場側から『傷がつくので修繕費大変なのでお願いだから勘弁してください』と泣きつかれたのが理由』
『何処もお金に関しては大変ですねぇ……と、世知辛い世の中はおいといて、通常ルールでありながらハードコアさながらの試合が展開されるのか、今、ゴングです!』

 ゴングが鳴り、まずリングに入ったのはクリビアとカンナ。距離を測りつつ近づくと、最初にカンナが鋭いローキックを叩きこむ。微動だにせずクリビアは張り手で返すが、間髪入れずにカンナがローとミドルのコンビネーションキック。重い音が響く。
『ハートブレイクカンナ、序盤からキックが格闘技ばりにガチだ! これにはろざりぃぬも苦笑い!』
 これを受けたクリビアは目を見開きながら、カンナに往復ビンタ。掴んでいた胸ぐらを離すと、間髪入れずローリングソバットを叩きこむ。
『クリビア選手も黙っていません! 妖気をまき散らしながらローリングソバットを叩きこんだ!』
『打点の高いソバット。彼女、イロモノってわけじゃないみたい』
 よろけるカンナをクリビアは捕らえるとフライングメイヤーで転がし、背中にサッカーボールキック。パン、と気味のいい音が響くが、カンナがすぐさま立ち上がるとお返しとばかりにフライングメイヤー、背中へのサッカーボールキックを食らわす。
 立ち上がり、クリビアとカンナがお互いを見据えた所で、互いのパートナーからタッチ要請が入り、素直に選手交代。アキュートと九条がリングに入った。
 ほぼ同時にお互いが駆け寄ると、九条がアキュートをアームホイップで転がす。だがアキュートは即座に起き上がり、九条にエルボーを叩きこむ。二発ほど叩き込むと、今度はグーパンチ。九条が殴られた個所を痛そうにリアクションをとった。
 プロレスでは拳によるパンチは反則になる(と言っても注意程度で済む物だが)。レフェリーが拳を作りアキュートに注意する。
「頂きぃ!」
 その一瞬を狙い、九条がピースのような指でアキュートの目に笑いながらサミング。
 蹲るアキュートを見て、九条はロープに走り勢いをつける。だが待っていたのはアキュートのカウンター、フロントスープレックスだった。
『教科書通りのフロントスープレックス! 綺麗に決まった!』
 ダウンした九条をアキュートが引き起こそうとすると、一瞬の隙を突きスモールパッケージホールドで丸め込まれる。レフェリーの死角を突き、足をロープにひっかけ体重をかける小技を見せるがカウント2でアキュートが返す。
『流石ろざりぃぬ。レフェリーのブラインドを突いての小技が早速見られたよ。諸君らは運がいい』
 両者距離を取るとタッチ。再度試合権利はクリビアとカンナ。
 クリビアがカンナをロープに振る。そのまま自分もロープに走り、助走を得る。
 しかしカンナが倒立しロープにもたれ掛ると、その勢いを利用してのバックハンドエルボーで襲い掛かる。
『ハートブレイクカンナのバックハンドエルボー! カンナの武器は蹴りだけではないよ!』
『クリビア選手、妖気をまき散らしてダウン! そのままカンナ選手、コーナーへと追い詰める!』
 コーナーに追い詰めたカンナが、コーナーポストにクリビアの頭を叩きつける。髪に塗したパウダーがまき散らされ、わずかながらクリビアが表情を歪めた。
 するとカンナはコーナーに上がり、クリビアの両脇に自身の足を絡めるとロープにタランチュラで貼り付ける。絞り上げ、クリビアから苦悶の声が漏れる。
 だがこの技は反則に類する技である。レフェリーがカウントを開始。
「ちぃっ!」
 アキュートがカットの為リングイン。だが、
「あまいっての!」
 九条がアキュートの邪魔をする。アームホイップで転がし、すぐにとらえると、
「スリーアミーゴス!」
三連続の高速ブレーンバスターで放り投げる。アキュートが場外に逃げるが、九条は逃がさない。追いかけて捕縛し、近くにある実況席にアキュートを顔面から叩きつけると、そのまま横たわらせる。
 そしてエプロン下を漁り、ラダーを引っ張り出すとリングサイド付近に設置。リング上でやるには時間がかかりすぎると判断したためだ。
 さっとラダーを頂上まで登り、アキュートを見据える。
「行くっての!」
 ラダートップで見えを切り、九条が跳ぶ。空中で身を縮め、すぐに広げるフロッグスプラッシュ。
「させるかよ!」
 だが、実況席に横たわっていたアキュートは飛んだことを確認すると、すぐさま転がり下りる。
「んなぁッ!?」
 残ったのは誰もいない実況席。腹から着陸し、実況席が真っ二つに折れる。

『Holy Shit! ろざりぃぬのスーパーダイブで実況席は粉々だぁッ!』
『……これ、実況席弁償どうしようか』
『後で請求書送るんで、よろ』
『HAHAHA! こんな素晴らしいダイブを観れたのだから細かい事言いなさんな! (その件についてはまた後程相談ということで……)』

 ラダートップからのスーパーダイブ失敗により、九条が離脱。カンナがローンバトルを強いられることとなる。
 多彩なキックで打開を試みるが、アキュートとクリビアの巧みなコンビネーションにより捕獲されてしまう。
 コーナーに振られ、貼り付けられたカンナにまずアキュートがラリアット。続いてクリビアがエルボーで飛びつく。
 クリビアはそのままカンナの頭を脇に捕らえ、DDT。一回転し、仰向けに倒れるカンナ。
「行くぞぉ!」
 そしていつの間にかコーナーに上がっていたアキュートが、首を掻っ切るポーズをとると両手を広げてダイブ。カンナにヘッドバッドを落としていく。
『カンナ選手にアキュート選手のダイビングヘッドバッド! 放ったアキュート選手も痛そうです!』
 頭を押さえてのた打ち回るアキュート。むしろ放ったこっちが痛そうである。そんなアキュートを放置し、試合権利があるクリビアがそのままカンナをフォール。
 レフェリーがカウントを唱えるが、2で止まった。
「させないっての!」
 テーブルの瓦礫に埋もれていたはずの九条が、場外からレフェリーの足を引きそのままリングから下ろしてしまった。
 そしてそのまま自分も入れ替わるようにリングイン。手にはパイプ椅子。そのパイプ椅子をアキュートを威嚇するように構えた。
 ちらりと九条は場外に目をやる。自分が引きずりおろしたレフェリーは、エプロンに手をかけ立ち上がろうとしていた。もうすぐ上がってくるだろう。
 すると手にしたパイプ椅子を九条は大きく振りかぶる。だが、椅子はアキュートに振り下ろされず、マットに叩きつけられた。大きな音を響かせると、椅子をアキュートにパス。咄嗟にキャッチしてしまうアキュートを見ると、九条はそのままマットに倒れ込んだ。
 そして九条はさも殴られたかのように頭を押さえ、
「痛いっての〜! あいつがやったっての〜!」
リングに上がったレフェリーにアキュートを指さしアピールする。
 レフェリーの目には、アキュートが九条を椅子で殴ったようにしか見えない。
「お、俺はやってねぇよ! 大体使うならテーブルだろ!」
 椅子を捨て、レフェリーに身の潔白をアキュートが叫んだ。
『ろざりぃぬの頭脳プレイだね。椅子はただ殴る以外にも使い道はあるんだよ』
『いや、そもそも殴るって使い方が間違いだと思うんですが』
『アキュート選手も、その言い訳違う』
 その光景にクリビアも気を取られていた。ルールは通常ルール。下手をするとこのまま反則負けになりかねない。
 僅かであるが、隙ができた。僅かであるがその隙は、カンナが回復し、毒霧を用意するには十分であった。
 カンナは口に含んでいた毒霧をクリビアに向かって噴射した。クリビアの顔がグリーンミストに染まる。
 そして、すかさず頭部を狙っての蹴り。一瞬ぐらりとクリビアの身体が揺れると、両手を広げ背中から倒れ込んだ。
「レフェリー! フォールだってばよ!」
 カンナが抑え込むと、九条が尚注意するレフェリーに叫ぶと同時に、アキュートに向かって駆けだし、飛びつきホイップするように転がす。そしてそのままアキュートの足を変形のテキサスクローバーホールドで捕らえた。
『おっとろざりぃぬが驚異的な回復力を見せる! そのままラソ・フロム・エルパソで捕らえたよ!』
「ちぃッ!」
 アキュートが舌打ちして技を解こうとする。ダメージ狙いではなく、抑え込むことを目的としているようで痛みは無いが簡単に返せない。
 その間もカウントは進む。クリビアはピクリとも動かず、カウント3。ゴングが鳴る事となった。
 
 勝利の名乗りを上げている九条とカンナ。その背後から、
「おらぁッ!」
アキュートがラリアットで後頭部を襲った。回復したクリビアも一緒である。
『クローズライン! クローズラインがろざりぃぬを襲う! もう試合は終わっている! 誰か止めるんだ!』
 試合は既に終わったと、ゴングが何度も叩かれるがアキュートは止まらない。
「せぇッ!」
 カンナにケンカキック。倒れた所を、いつの間にかクリビアが用意したテーブルに乗せる。
 ダウンしている九条を引き起こすと、サンダーファイヤーパワーボムの体勢で持ち上げる。掲げた所に、クリビアがエプロンからスワンダイブ。顔面にエルボーを叩きこんだ。
「くたばれぇッ!」
 エルボーの勢いを利用し、アキュートは九条をテーブルの上に寝ているカンナに叩きこむ。衝撃に耐え切れず、真っ二つに折れるテーブル。そして破片に埋もれ、折り重なる様にカンナと九条がぐったりとして動かない。
 その光景を見て、アキュートは満足げに笑みを浮かべると、クリビアを促しさっとリングを降りた。

『やっぱり壊されましたね、テーブル』
『通常ルールだけど何処かでやるとは思ってた』
『さて残り試合数もあとわずか、続いて第九試合。リング上のテーブルを片付けるまでしばらくお待ちください』