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リアクション
05:『艦隊決戦! マネキ・ングVS葛城吹雪』
市街地上空。
ヘルガイア先遣艦隊のマネキ・ング(まねき・んぐ)は、メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)をゴールデン・キャッツに同乗させつつ戦場に艦隊を展開していた。
『これより、我が艦隊は本隊より切り離す。全部隊、横陣を敷きつつ第四戦闘速度に移行』
先遣艦隊は、マネキ・ングの命令に従い横陣になって前進する。
対する国軍は葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)大佐を司令官とし、旗艦の伊勢にて防衛戦を展開していた。
『艦載機全機発進してください。先行偵察中の笠置 生駒(かさぎ・いこま)少尉から転送されたデータを各自確認して、発信した途端に撃墜されないようにしてください』
コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の管制で伊勢から艦載機が続々と発信する。
『なんとかうまく発進できたようじゃな』
ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が生駒に対してそう言うと、生駒は「伊勢に通信。、送って」と、レーダー手でもあるジョージに頼んだ。
「任せろ」
そしてジョージがデータを送ると、コルセアが砲撃手にそのデータを転送する。
「主砲進路クリア。艦長、いつでも行けます」
「よし、主砲斉射。目標、敵主力。砲撃始め! てーっ!」
吹雪が上げた手を降ろしつつ命令すると、伊勢の主砲が発射された。
主砲は一条の光線となって敵艦隊に大きな穴をうがつ。
光から一瞬遅れて爆発が生じ、先遣艦隊の陣容が崩れた……かに思えた。
だが、マネキ・ングは策士だった。前衛部隊で後続を隠して、さらなる戦力を控えさせていたのだ。
「師匠、うまくいきましたねー」
メビウスがマネキ・ングを賞賛する。が、これはメビウスのアイデアだった。だが、それでもメビウスはそれをマネキ・ングの手柄のように言ってのける。
「なかなか敵の陣容も厚い……」
吹雪が感心したように呟く。
『艦隊司令、こちら生駒。敵艦隊上空高高度。空撮映像を送る』
生駒の通信とともに、超高空から発見されないように高感度カメラで撮影された映像が、伊勢を通じて前艦隊に転送される。
『ご苦労。オペレーターは偵察映像の結果から、敵の陣容の薄い部分をピックアップ。全艦隊に攻撃目標を支持』
『了解』
そして国軍の空母機動艦隊の攻撃が始まる。
果敢に攻める国軍に、ヘルガイア先遣艦隊は押されているかに思えたが、やがて前衛が引き始めると、後ろから無傷の部隊が現れた。
これは、戦国の名称上杉謙信がよく用いた車懸りの陣と呼ばれるものである。一部隊が敵と戦い、他の部隊は休憩する。部隊が疲労したら他の部隊と入れ替える。これを繰り返すことにより自軍は常に最良の状態で闘いつつ、相手には休憩を許さない。もちろんこれは一糸乱れぬ指揮統制がないとできない技ではあるのだが、メビウスの指示がそれを可能にしていた。
車懸りの陣によって空母機動部隊は次第に疲弊していく。だがそこに、員数外の増援が現れた。
勇者と、流星の機体である。
『あなたはだれ?』
美羽が流星の機体に訪ねる。
『僕はユイ。ちなみにこの機体はクロガネが対ヘルガイア用に地球に降ろした勇者だそうだよ』
『そうなんだ。あたし美羽。よろしく』
『よろしくね』
恵は音声のみの通信で勇者たちに挨拶すると、『ここは僕に任せて』と言って攻撃を開始した。
『目標補足……ターゲットロック。発射!』
スカウトされた天才パイロットらしい精密射撃で、恵はどんどんとヘルガイア機を落としていく。
『司令、勇者の動きを捉えたであります』
ヘルガイアの偵察機を操縦する大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、生駒と同じく高高度から勇者の様子を観察していた。
「お兄さん、接近する敵影あり。こちらと同じ偵察機みたいだよ」
敵の動きを感知したのはサブパイロットで従妹の鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)。そしてそれは、ヘルガイアの偵察行動を察知した生駒のジェファルコン特務仕様だった。
「どうやらあちらさんやる気みたいだね」
「敵はジェファルコンでありますか。プラヴァーを改造したフライトスターとどっちが上でしょうかね?」
「やってみればわかるよ、お兄ちゃん」
「よし、やるであります」
そう言うと剛太郎は戦闘態勢に入った。
「ショージ、こちらは敵の偵察を妨害したいが、アタシは戦闘は極力回避したい。であるならば、どうすればいいだろうね?」
「簡単だ。一撃して離脱。敵の戦闘能力を確かめた後に味方に対処を任せればいい。一戦して敵の力を探る。これも威力偵察という立派な偵察じゃ」
「なるほど……」
そして、生駒は操縦桿を握る。
「トリニティ・システム起動。ターゲットインサイト……」
「メーザーヴァイヴレーションブレード! 一気にかたを付ける!」
望美が、大好きなアニメっぽく見得を切って、突貫を仕掛ける。
だが、生駒は3つのエンジンによるトリニティシステムで高機動仕様のプラヴァーの機動力をも上回る高機動を見せると、ビームサーベルで斬りかかる。
「はやい!?」
望美が驚く。
「このっ!」
なんとかMVブレードでビームサーベルを受け止めると、次の攻撃を用意する前に生駒のジェファルコンは高速で離脱していった。
「なにあれ……?」
望美は生駒の意図が見抜けずに首を傾げる。だが、まもなく生駒の要請を受けて駆けつけた国軍の部隊の対応に追われ、望美はそれを考える暇は与えられなかった。
国軍は善戦し、勇者もよく戦っていた。それでもなお、先遣艦隊が優勢なのが現状だった。
「ふん、招き猫め、やるじゃないか」
乱暴な口調でそういったのは、ヘルガイア主力軍総司令官エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の部下で、魔神皇帝の娘にして皇女である戦魔皇姫カグヤこと、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)であった。
輝夜は、聴くものを熱狂させる呪歌という特殊な力を持ち、かつ生物的な特徴をもった異形艦隊の旗艦【オールドワン】に搭乗していた。
「あのエッツェル卿を倒した実力、まぐれで無いならばコレ位の事は乗り越えてもらわんとな」
そういって、国軍と勇者たちに期待の眼差しを注ぐ。
「ククク……こんな連中、わざわざ試すまでも無いってぇ」
抑えきれぬ破壊衝動と狂気をにじませつつそう猛るのはネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)。
5mサイズの魔瘴龍エルアザルに騎乗して旗艦付近を飛行しているネームレスは、オールドワンにそう通信を入れた。
ネームレスは龍魔騎将と呼ばれ、魔神帝国の双璧である。多くの魔龍達を意識だけで指揮する空の蹂躙者で、見た目は子供っぽいが、素手で機動兵器を粉砕できる怪力と鋼鉄よりも硬い皮膚をもつ、戦闘狂で好戦的な将軍である。
「……ネームレス、我らに下された指令は待機だ。勝手に暴れるな」
それを諭すのはアーマード レッド(あーまーど・れっど)。鋼魔機将アーマードの二つ名を持つ将軍で、魔神帝国の双璧である。機械魔たちを指揮する陸の破壊者であり、その巨体から想像できない高速機動と凄まじい火力を持った戦闘兵器だ。無慈悲で冷静沈着。ネームレスの手綱を引く武将である。
「早くこいよぉ……ダレでもいいからかかって来いよお! 早く! 早く早く!! 早く早く早くぅ!!!」
待ちきれないといったようにネームレスが喚く。それを、アーマードがさらに諭す。
「……万一、我ら本軍へと突っ込んでくる戦力がいれば相手をしてやればいい、それまでは待機だ」
「つまらないよぉ! 殺したいんだよう!」
なおも喚くネームレスだったが
「ネームレス、黙りな」
輝夜が冷たい声で一括すると
「わ、わかったよ……」
とおとなしくなった。
「とりあえず、いまは出番じゃない」
そう言って輝夜は艦長席で眠りに入った。
「勇者が接近してきました! 第13特殊部隊を当てます! ですよね、師匠?」
「あ、ああ。そのとおりだ」
マネキ・ングは、メビウスの言うとおりに部隊を動かす。
まだ幼い女の子だというのに、メビウスの才能は恐ろしいものであった。
そして、メビウスの采配した第13特殊部隊により苦境に追い込まれる勇者たち。
『むう……これは拙いのう……』
信長が呻く。敵は特殊な力こそないが、高度な訓練を受けている様子で攻撃に一点の隙も見つけられなかった。そのため、勇者たちは防戦一方に回っていた。
『確かに……っ……これは……厳しいな……』
朋美が、激しい回避行動を取りながら、呟く。その言葉は、時折命中する攻撃の衝撃によって、ところどころ力が入っていた。
『パワーはそれほどでもない。スピードもそれほどでもない。だけどこいつら、動きに無駄がなさすぎる!』
勇平が叫ぶ。第13特殊部隊の攻撃によって、勇者たちは確実に追い詰められていた。
『美羽さん、このままじゃ危険です!』
ベアトリーチェが警告する。じわじわとダメージを受け続け、勇者たちは劣勢に立っていた。
『古き者たちの力も、これでは役に立たない……』
アポロンがそう言って、コンピュータを操作しながら何とか打開策がないかと必死に探っている。と、戦場に新たな機体が舞い降りた。
その機体は、真紅。目も覚めるほどの鮮やかな紅。その機体の名前は通称『レッドウォーリア』。正式名称を高機動プラヴァー・カスタムRWといった。
国軍が開発していたが、高スペックのために扱える者がいないことからテスト段階で廃棄同然の扱いを受けていた機体だった。その機体に乗っているのは、香 ローザ(じえん・ろーざ)。以前行方不明になり死亡したと思われていた国軍の特殊部隊所属のエリート少女【ローザリア・フォルクング】と、クロガネの同類【香(ジエン)】と融合した少女だった。
彼女はかつてクロガネと同類の【香(ジエン)】と呼ばれる存在に導かれ勇者に乗って戦っていたことがある。その後敵に捕まり勇者の研究実験の対象にされていたのだが、結果的に、【香】と【ローザリア・フォルクング】という名の少女が融合させられ新たな人格として「香・ローザ」が誕生したのだった。
ローザは大破した機体とともに地上に落下して意識を失い、幼い頃からローザの部下であったシェラ・リファール(しぇら・りふぁーる)に発見、救助されて国軍の医務室で眠っていた。
しかし、勇者の苦境を悟ったのか突如目覚め、シェラに出撃をすると伝えた。
「し、しかしローザ様……」
病み上がりのローザを心配したシェラに
「シェラ、私が行かねば、彼らは敗れるでしょう。それを見過ごすほど、私は強くありません」
といって再度出撃を伝えた。
「……努力します。しかしローザ様、今まで何をなされていたのですか?」
シェラのその問に、ローザは香のこと、捕まったこと、融合したことなどを話した。
「それでも、ローザ様は昔と変わらずローザ様です」
人格が変質したローザにとって、シェラのその言葉は慰めになったようだった。ローザは安心して落ち着いた声で何か機体がないか尋ねる。
「以前試作されましたが、あまりの高スペックゆえに操ることができるものが誰もいなかった機体があります。ローザ様でしたら、御することも可能ではないかと……」
「では、それを」
ローザはシェラを信頼して全てを任せると、調整が終了したレッドウォーリアに乗って出撃したのだった。
そして、ローザに呼応するように、かつての勇者が現れる。
それは、元勇者にして勇者たちの教師であり、元国軍のエースパイロットイーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)と、その娘のジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)であった。
イーリャは前回の出来事をきっかけに軍に復帰し、勇者たちの訓練教官として働いていた。造反部隊のクーデター時は非番だったのだが、緊急事態に慌てて駆けつけ、ようやく出撃可能になったのだった。
赤から群青色に塗り替えたフィーニクス・ストライカー/Fを操って戦場に駆けつけると、子供たちに高宣言した。
『ここは私が引き受けるわ。みんな、覚えてる? 私が訓練教官になった時にみんなに言った言葉を……』
イーリャは、そのとき、こう言った。
「みんなが戦う事を決めた以上は容赦はしないわ。
もし怖気づいたものがいるのなら、即刻立ち去りなさい!」
厳しい顔をしてそう言ったあと、顔を斜めにそむけた。
「……なんて。本当は、私がそうしてほしいのだけどね。
戦いの辛さ、厳しさはイヤというほど知っているから……こんなこと、誰にも言えないけど」
それから、正面を向いて、決意を込めた表情で言う。
「それでも戦うと決めた皆は命にかけても死なせやしないわ。
そのために厳しい訓練もさせるし、実戦では最前線で戦い続ける。いいわね」
そして、その言葉に子供たちは頷いたのだった。
「さあ、行くわよジヴァ。でも、危なくなったらあんたはすぐに脱出しなさいよ?」
「……そんなことはいいから、ママ、戦闘準備。敵は容赦しないよ?」
その言葉を聞いて、イーリャは喜んだ。
「あら? 今日はちゃんとママって呼んでくれるのね」
「……なに喜んでるのよ! アンタがそう呼べって言ったんでしょうが!
っていうかあたしは超能力者なの!あんたが作った強化人間なの!」
(まあ、前回、夢から覚めたのはボスを倒してだったわよね。なら今回も、みんなと協力して悪の組織を倒せばいいのね。ゴタついても夢が続くだけよ。何でもやったろうじゃない)
そうして現実との接点を持つジヴァは、流されながらも覚悟を決めたのだった。
そして、もう1機、機影が現れる。
その機影を見て、ローザは驚愕する。
『ヘルガイア!!』
そして、戦闘態勢を取る。
『ちょっと待った。俺だよローザ! 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だ』
その言葉を聞いて、ローザは更に驚愕する。
『恭也!? あなたなのですか? お久しぶりです。しかしその機体はヘルガイアの特務機です。なぜ恭也がそれに?』
それは、一人の利用の小型機、といった。前回の戦いで限界がきていた機体を修理に出し、用務員としての仕事を続けていたところ、裏山に落ちた流星を追いかけるようにして落ちてきたのだという。
『それは、ヘルガイアの屠龍と言います。
魔神帝国ヘルガイアが開発した最新の対勇者用の小型機で、機体の一部に過去に倒した勇者のパーツが組み込まれているので、勇者とも互角に戦えます。
無人機で、性能試験を兼ねて私を追っていましたが……どうやら私の攻撃で制御AIが停止し墜落したのですね』
『ローザが流星!? どういうことなの?』
イーリャが驚いてローザに尋ねるとローザは香のことを説明します。
『なるほどね……』
『ママ、おしゃべりはそこまで。いい加減戦いに集中して!』
そう、かつての勇者たちは、呑気におしゃべりを繰り広げながら戦闘をしていたのだ。
それでも、第13特殊部隊を圧倒しているあたり、ベテランの勇者の強さというものは計り知れないものがある。
そして、第13特務部隊を倒し、勇者と元勇者は、全力でマネキ・ングの旗艦に攻撃を仕掛けた。
『合神!』
美羽がリミッターを解除してオーバードライブさせると、付き従っていた流星機にしてドラゴン型のロボットが分解、変形しアーマーとなってグラディウスに纏われる。
『六天魔王よ! の力を解放せよ!』
信長の声に従い、第六天魔王はその力を開放する。
第六天魔王はバリアを機体に纏い超高速で旗艦に接近する。
『援護するよ! 突っ込んで』
(シマック、そこで……)
(わかってる)
朋美とシマックはリミッター解除こそしないが精神を感応させて息のあった攻撃を展開する。
『アポロン、僕達も……』
フレイとアポロンも、精神感応で次々と銃弾を叩きこんでいく。
『同調率60%維持。通常モードから戦闘モードへ移行完了』
勇平のバルムングはコアとセットで真価を発揮する。
それはコアと機体が接続し、同調することによって得られる強さだが、同調率が上がれば上がるほどコアであるセイファーに対してダメージのフィードバックもかかってくる。
そのため今までは30%程度で運用していたがのだが、前回圧倒的機体性能差がありながらクウェイルに苦戦したことが頭にあり、たとえ相手が幹部であり、歴戦の兵であったとしても痛すぎる経験だった。
それ故勇平とセイファーは洞調律を60%まで引き上げた。
『私は負けません……絶対に!』
『前みたいにはいかねぇぜ。おらおら、とっととどけええ!』
セイファーと勇平は前回の辛さを噛み締めながら、旗艦周辺の敵を叩き続けていた。
『レッドウォーリア! 私の想いに応えて!!』
ローザは勇者の機体ではないレッドウォーリアを、香の力とヘルガイアの実験との結果でその限界性能を超えた機動を生み出し、圧倒的な強さで攻撃をしかけていた。
『ストライカー・フルバースト……えっ?』
『危ない!!』
イーリャがリミッターを解除しようとしたところ、マネキ・ングの旗艦からの攻撃がイーリャを襲う。
それを恭也は機体を前に出すことで庇い、ダメージを受けすぎて制御不能になる。
(マニュアルでも……制御不可か……。重力装置が働いてるから墜落することはないが、地面に降りたところでエネルギーが切れそうな気配だな……)
果たしてそのとおり。恭也の屠竜は活動を停止し、着地の衝撃で脳震盪を起こした恭也は気を失った。
『恭也!』
イーリャは叫び、それからフィーニクスを変形させる。
そして全兵装をフルオープンのフルバースト。全弾発射で弾幕の嵐を先遣艦隊に叩きこむ。
『ふはははは、アワビの生体エネルギーを用いたアワビバリアーの前にはそんな攻撃など効かぬわ』
マネキ・ングが高笑いをする。
「任せろ!」
そう言って躍り出たのは飛空艇乗りの天城 一輝(あまぎ・いっき)だった。
一輝は迷彩塗装の飛空艇で敵旗艦に接近すると、その構造を解析する。アーティファクサーの経験から割り出した旗艦の弱点は、一輝にとっては明白だった。
(常識で考えて、勇者の攻撃でもビクともしない装甲板への機銃掃射は無謀だ。奴らもそう考えて油断するだろう。だが、それが命取りだ)
ニヤリと笑うと、鉛コーティングのタングステン鋼弾を発射する。
通常より重いためその弾数は少なく160発。だが、一輝はその160発を寸分違うことなく同一箇所に命中させる。
スナイパーも真っ青のピンホールショット。それは旗艦のハッチに確実に穴をうがった。
「アーティフィサーの経験で脆弱な接合部は把握している。そこに全弾命中させた。これが零狙撃【十六夜の月】だ!」
そして、そこにビームを発射する。
ビームの束が真円でないのは、目に見えぬ程の微細なひびにビームが吸い込まれたからだ。
ハッチ内部に降り注いだビームの光は、まぎれもない「十六夜の月」だった。
爆発。そして
「師匠! アワビが足りないです!」
「なんですとー!」
そして、エネルギー切れ。十六夜の月とエネルギー切れのダブルパンチでバリアーが消え、勇者たちの攻撃が直撃する。
全艦退避命令が出される中、マネキ・ングの前にヘルガイア客将のセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)と玉藻 御前(たまも・ごぜん)が現れる。
「おお、助けてくれ!」
その言葉にセリスは
「「お前では勇者には勝てんよ……メビウス、おいで」
と、まるっきり無視してメビウスに呼びかける。
「はーい」
メビウスの方も師匠と読んでいた相手を無視してセリスに抱きつく。
「あ、あれ?」
「なに……いますぐに決着を急ぐことはあるまい。
他にも我らを利用し、よからぬことを企んでる組織が見え隠れするからのぉ〜
まぁ、よい……準備は整った……これより魔神帝国ヘルガイアは次の段階へ進むとしよう……
我らが悲願、魔神皇帝の復活をな……撤退じゃ」
そして、三人が虚空に消える中、マネキ・ングだけが取り残され、やがて戦艦は爆発した。
「ふむ、先遣艦隊がやられたか」
ヘルガイアの本陣、異形の艦隊の旗艦の中で、輝夜が呟く。
そして、艦隊がすべて虚空へと消え去った。
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