シャンバラ教導団へ

百合園女学院

校長室

薔薇の学舎へ

【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

リアクション公開中!

【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

リアクション

「……マスター、老夫婦の幽霊さんの手助けを頑張りましょう」
 ハナエから心当たりを聞き終えたフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)はぐっと拳を握り締めながら言った。
「まぁ、困っている人を助けるのはいい事だが。しかし、あの兄弟はいつも才能の無駄遣いしやがって」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は前途多難な予感にため息。人助けは良い事だが、どうにも気持ち良く言い切れないのはヒスミが街中で悪さをしているという情報のためかもしれない。
「ご主人様、探し物が幽霊だろうが任せて下さい!」
 忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は元気だった。どんな時であろうと役目はただ一つ。フレンディスの役に立つ事だけ。
「はい、頼りにしてますよ。早く戻って事情を話しましょう」
 フレンディスはポチの助に笑顔で言ってから一緒に親睦会を楽しんでいた天禰 薫(あまね・かおる)達の元へ急いだ。

「双子ちゃんがまた何かしてるって言うからみんなと来てみれば、また悪戯に巻き込まれてしまったのだ」
 薫はため息をついていた。薫達はフレンディス達と共に親睦会に参加したらとんでもない目に遭遇し、今に至るという訳だ。事情は真っ先に動いたフレンディス達が仕入れ中。

「ぴきゅうぴゅ(本当に懲りないのだ)」
 天禰 ピカ(あまね・ぴか)は呆れながら近くに置いてあった幽体離脱クッキーを食べた。
「事情はフレンディス達が聞きに行っているから待っている間に……」
 後藤 又兵衛(ごとう・またべえ)は、ハナエに事情を聞いているフレンディス達の様子を確認した後、好奇心で幽体離脱クッキーをぺろり。
「又兵衛! ピカ! クッキー食べたのか!? 双子が作ったものを安易に口にするな!」
 熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)はいつの間にやら幽体離脱クッキーを食べてしまった二人に呆れた。
「ぴきゅっぴ(クッキーを食べちゃったのだ)」
 ピカは元気に孝高に答えた。
「なかなか面白いぞ」
 又兵衛は自分の状態と椅子でぐったりしている肉体を見比べながら感想を一言。
「ぴきゅうっぴ(味は最高なのだ)」
 ピカは満足そうにはねている。
「……あれ、二人共いつの間にか霊体になっているのだ。あ、戻って来たのだ」
 薫もいつの間にか状態が変化している二人に驚くも事情を聞きに行っていたフレンディス達が戻り、視線をそちらに移動させた。
「薫さん!」
「フレンディスさん、心当たりはどうなのだ?」
 ハナエから心当たりを得たフレンディスに早速聞く薫。
「……大変な事になってるな」
 ベルクは他人事ではない有様に渋い顔をしていた。
「なるほど」
 フレンディスの話を聞き終えた薫はうなずき、これからの事を考えていた。
「はい。兄弟さんが作ったクッキーが御座いますので……あ、ピカちゃんと又兵衛さん、もう霊体になっているのですね」
 フレンディスはそう言い、霊体化しているピカと又兵衛に気が付いた。

「ぴきゅうぴきゅ(楽しいのだ)」
「なかなか面白いぞ」
 ピカと又兵衛は楽しそうに言う。

「待て、フレイ、何考えてる!?」
 ベルクは霊体化した二人を輝く目で見るフレンディスに気付いた。
「大丈夫ですよ? 私、マスターを信じていますので」
 フレンディスの霊体への好奇心がピカと又兵衛の様子を見てさらに強まってクッキーを手に取りぱくり。
「そういう事じゃ……というか早まるな!」
 ベルクは急いで止めようとするもあえなく手遅れとなった。
「……これが霊体ですか。不思議な感じですね」
 フレンディスはくるりと一回転して状態を確認する。満喫しているのが『超感覚』の耳の動きで丸分かりである。
「ご主人様が霊体になったのなら僕もついていくのです。ご主人様、見ていて下さい! 霊体でも犬たる僕の優秀さは変わりませんよ。今回も立派に活躍して見せるのです」
 ポチの助は迷い無く霊体化を果たした。
「はい、お願いしますね」
 フレンディスはポチの助に言った。
「……はぁ、なったものは仕方無い」
 ベルクはフレンディスの溢れる好奇心に頭痛と胃痛を感じつつも霊体になったものは仕方が無いと諦め、頭を事件解決に切り替える事にした。
「……エロ吸血鬼共は黙って従っていればいいのですよ!」
 霊体でもポチの助はしっかりと見下し発言するが、愛らしさは変わらない。当然、ベルクは相手をせず、又兵衛とピカの所に行くフレンディスを追った。

「あの、よろしくお願いします。ピカちゃんと又兵衛さんがいれば、私大変心強いです。一緒に頑張りましょうね」
 フレンディスは先に霊体なっていた又兵衛とピカに挨拶。ちなみに又兵衛とは初対面だ。

「ぴきゅ〜(頑張るのだ)」
 ピカはふんわりとはねながらフレンディスに答え、ポチの助をからかいに行った。
「よろしく。せっかくの霊体だ。程良く楽しもうな。よーしよしよし」
 又兵衛は楽しくなる予感と初対面の挨拶を併せてフレンディスの頭を撫で撫でした。
「……あ、はい」
 撫で撫でされたフレンディスは照れながらも素直に喜んでいるのが尻尾の動きで手に取るように分かる。又兵衛に対して父親のような印象を受けたので余計に嬉しかったり。

「……フレイ、あの犬を呼んで来い。本体を運ぶ準備をするぞ」
 フレンディスと又兵衛のやり取りにちょっとした殺意やら嫉妬心を抱いたベルクはさっさとフレンディスを引き離した。自然と目つきも鋭くなっている。
「はい、マスター!」
 ベルクの鋭い目つきの理由にも気付かない鈍感なフレンディスは、少し離れた所でピカと戯れているポチの助の所に行った。ベルクは自分と同じようなやり取りをしている孝高達の所に行った。

「フレンディスさんとポチさんもクッキー食べちゃったのだ!? 気の向くままに行動しちゃってベルクさん、大変そうなのだ。これは何とかしないと……」
 薫は霊体二名と苦労人一名追加状況と気ままに霊体化を満喫しているピカと又兵衛に大慌て。そして、幽体離脱クッキーを食べようとする。

 しかし、
「……落ち着け、天禰。俺だってもしお前が霊体になったら焦るぞ?」
 孝高の強い言葉が薫を止めた。

「そうだよね。パートナーが霊体になったらびっくりだもんねぇ。我も出来るだけお手伝いするのだ。まずは肉体をどうするか考えるのだ」
 薫は落ち着きを取り戻すも言葉に込めた孝高の気持ちはさらりと素通りし、ピカと又兵衛の抜け殻へ向かった。

 向かう道々、
「……我が霊体になる事に孝高が焦るのはどうしてだろ?」
 ふと薫は孝高の言葉を思い出していたが、やっぱり鈍感のため孝高の気持ちに気付かないまま。

「……はぁ、何で察してくれないんだ。惚れた女が霊体になったら誰だって焦るだろうが!」
 孝高は疲れのため息を吐きながら薫を静かに見送っていた。普通なら伝わるものが伝わらない悲しさ。疲れも倍増するというもの。

「……お互い、苦労が絶えないな」
 ベルクはそっと心当たりのある不憫さをまとう孝高に同情していた。
「……そうだな」
 孝高も同じようにベルクに同情していた。互いに想い人が鈍感なためどうにも正確に気持ちが届かず、苦労ばかり。それ故、ベルクと孝高は言葉少なでも通じる心の友である。
「……それで肉体はどうするんだ。悪戯の恐れを考えると目の届く所の方が安全だが」
 孝高は霊体となっている互いの仲間を眺めながら言った。
「それは問題無い。聖邪龍ケイオスブレードドラゴンがある」
 ベルクはあっさりと答えた。ポチの助が持っている聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに四人分の肉体を乗せるつもりだ。
「マスター、戻りましたよ」
 ピカを乗せたポチの助を連れたフレンディスが現れた。
「……よし、準備をするぞ」
 ベルクは孝高、薫と協力し、肉体を聖邪龍ケイオスブレードドラゴンに無事、四人分の肉体を乗せ、予備のクッキーを薫がしっかりと手に持ってようやく頭探しに出発した。ちなみに肉体を乗せる際、ポチの助はエロ吸血鬼ごときが優秀な僕の体に触るなと騒がしかったが、ベルクはうるさいとさらりと流していた。

 孝高が薫のクッキー使用阻止とベルクが殺意を抱いていた時。

「霊体でもご主人様の役に立つのだ!」
 ポチの助は意気込んでいた。そこに思わぬ事件。

 かぷっ。

 ピカがポチの助の尻尾に噛みついたのだ。

「ぴきゅうぴきゅうー(霊体化の確認なのだ)」
 そういうピカの様子はどこにも悪気はなく、むしろわざとである事が丸分かり。

「下等毛玉! 優秀な忍犬たる僕の尻尾に噛みつくとは許さないですよ。こんな攻撃この僕にはきかないのです」
 ポチの助は少し痛そうにしながらも毅然とピカをにらむ。霊体化を念入りに確認したピカは華麗に飛び上がり、ポチの助の背にちょこんと着地した。
「下等毛玉、この優秀な忍犬である僕の背に乗るとは!」
 ポチの助は必死にピカを振り落とそうとするが、ピカは巧みに落ちないよう頑張っている。
「ぴーきゅ、ぴっきゅう(ポチさん、細かい事をキャンキャン言わないのだ)」
 ピカはポチの助の様子をすっかり楽しんでいる。
「……むぅ、これはどちらが上位の存在か知らしめる必要があるのです」
 表情を引き締めるポチの助。ピカにライバル心を抱きまくりである。

 その時、
「ポチの助くん、霊体になったんだねぇ」
「仲良しですね」
 ポチの助を発見した木枯と稲穂がやって来た。

「……仲良しではないのです。今、この下等毛玉に優秀な忍犬である僕の凄さを知らしめているところなのですよ」
 ポチの助は稲穂の発言を否定し、強がりを言う。
「ぴきゅう〜(弱い犬ほどよく吠えるのだ〜)」
 ピカはポチの助の背の上で楽しそう。

「頑張って下さい」
「早く頭を見つけてあげてねぇ」
 稲穂は励まし、木枯は頼りにする。
「下等生物の励ましなどいらないのです」
 ポチの助はプイと顔を逸らしながら強がりを言うが尻尾は嬉しそうなので木枯と稲穂は笑顔だった。

「ポチの助とピカちゃん、仲良しですね」
 稲穂と同じ発言をしながらフレンディスが現れた。

「……ご主人様、仲良しではありませんよ」
 自分を呼びに来たフレンディスに訴えるポチの助。

「さぁ、出発ですよ。あ、木枯さんに稲穂さん」
 フレンディスは笑顔のままベルクの伝言を伝えた後、木枯達に気付いて挨拶。

「フレンディスさん、気を付けてねぇ」
「ポチの助さんとピカさんも」
 木枯と稲穂はフレンディス達とピカを見送ってからハナエの所に行った。

「大変でしたね」
 ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)はハナエを気遣った。
「ありがとうね」
 ハナエはにしっかり礼を言った。
「グィネヴィアさんが連れて来た時、まるでグィネヴィアさんが娘か孫のように見えました。失礼かもしれませんけど」
 風馬 弾(ふうま・だん)は心当たりを聞く前に初対面の時に感じた事を口走った。
「あら、嫌だわ。こんな可愛いお嬢さんのおばあちゃんなんて」
 きゃらきゃらとハナエは笑った。
「わたくしは嬉しいですわ。ご夫婦、仲が良く素敵ですもの」
 グィネヴィアは満更でもない様子だった。
「あら、仲が良いなんてあの人が一人で何も出来ないからいてあげてるだけなのよ」
 ハナエはグィネヴィアの言葉を否定するもヴァルドーに向ける目は優しかった。
「そうですか」
 ノエルは言葉とは裏腹のハナエの気持ちを知り、笑んでいた。
「それで今朝は、おはようのチューはしましたか?」
 と弾が訊ねると
「もう、こんなおばあちゃんをからかわないの」
 ハナエが陽気に答えた。弾を叩く動作も付けて。
「ごめんなさい。あの、それでどこで頭が無い事に気付いたんですか?」
 透けた手が弾の腕をかすめた後、弾は謝ってから改めて頭の行方を訊ねた。
「そうねぇ……」
 ハナエは心当たりを話し始めた。
「分かりました。では、探して来ますからゆっくり待っていて下さい」
 心当たりを聞き終えた弾は優しく言った。
「ありがとう。まだ若いんだから怪我をしないように気を付けてちょうだいね。死んだ私達よりも生きているあなた達の方が大事なんだから。見つからなければ見つからないで何とかなるはずだから」
 と心配の顔でハナエは言った。その様子は孫を心配するおばあちゃんの様にさえ見えた。
「……何とか、ですか」
 ノエルが聞き返した。頭が無い事が何とか出来るものかと不思議に思いながら。
「えぇ、そういうもの」
 心配の顔を引っ込め口元をお茶目に歪めた。何かヴァルドーが怒るような事でも考えている事は明か。例えば、代わりに頭以外の物を体に接続するなど。
「そうですか」
 ノエルはうなずき、話を終わらせた。もうそろそろ頭探しに行く必要があるので。
 弾とノエルはハナエと別れ、捜索の準備を整える事にした。

 準備中。
「とりあえず僕は霊体になるよ」
 弾は幽体離脱クッキーを手にした。
「私はこのままで同行しますね」
 ノエルは弾のサポートとして実体のまま行く事に決めた。
「……ハナエさん、明るい人ですよね。ここに助けに来た時もですけど」
 ノエルは、幽霊らしからぬハナエの明るさに思い出し笑いを浮かべていた。
「そうだね。もう亡くなってしまっているのが残念だよ。楽しい人なのに」
 弾は少しだけ沈みがちにうなずいた。ハナエと話している間、自分の祖母のように思っていた。特に自分達を気遣ってくれた時、おばあちゃんがいたらこんな感じなんだろうなと。それはノエルも同じだった。二人共家族がいないからかもしれない。

「そうですね。早く二人を助けましょう」
「行こう」
 弾とノエルはヴァルドーの頭探しに出発した。