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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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「……」
 十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)は少し離れた所からグィネヴィアを見ていた。
「リーダー、どうしたでふか?」
 リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)は考え込んでいる宵一に言葉をかけた。
「いや、グィネヴィアともっと仲良くなれないかと思ってな」
 宵一はリイムの方に向き直り、考えていた事を話した。以前、グィネヴィア誘拐事件で出会ってからもっと仲良くしたいと思い、親睦会に参加したものの話しかけるきっかけが得られずにいたのだ。
「それなら仲良くして下さいと言えばいいでふ」
 素直なリイムは簡単で難しい事を言う。
「……それはそうなんだが」
 リイムの言葉は分かるが、なかなか本人の前で言うのは難しい。
「リーダー、お菓子とお茶はどうでふか」
 リイムは何とか助けようと色々考え、ある事を思いつく。親睦会にぴったりの提案。
「それはいいかもしれないな。キスミの料理を食べさせる訳にはいかないし」
 宵一はリイムの提案で『ティータイム』を使用して美味しいお菓子とお茶を用意する事にした。

「アグラヴェイン、行きますわよ。百合園生徒たるもの、困っている方、特にご老人を見捨てるわけには行きませんわ」
 事情と心当たりを聞いた後、白鳥 麗(しらとり・れい)はどうするかを考えていたが答えはすぐだった。
「では、お嬢様、捜索に向かわれるのですね」
「えぇ……グィネヴィア様とお茶を楽しみたいところですが、このままにはしておけませんもの。親睦会は皆が楽しめてこそ成功ですわ」
 サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)の確認に麗はグィネヴィアを見ながら答えた。
「確かにそうですね」
 アグラヴェインも楽しげにお喋りをするハナエを見た。
「捜索に行く前に親睦会の料理を確認してからですわ」
 そう言い、麗はアグラヴェインを引き連れ調理スペースへ行った。キスミの料理がどの様な状態か確かめるために。

「グィネヴィアおねえちゃん、おばあちゃん、みんなが戻るまでここでお話してまってましょうです〜」
 親睦会に参会していたヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がグィネヴィアとハナエの元にやって来た。
「あ、ヴァーナー様」
 グィネヴィアはすぐにヴァーナーに気付き、嬉しそうな顔になった。
「グィネヴィアおねえちゃん、クッキー食べてどうだったですか?」
 ヴァーナーはテーブルにあるクッキーを手に取り、ちょこんとグィネヴィアの横に座った。
「美味しくて不思議でしたわ」
 グィネヴィアはほわんとした表情で感想を口にした。それなりに気に入っている様子である。
「ボクも食べてみますよ〜」
 興味を持ったヴァーナーは幽体離脱クッキーをぱくり。
「おいしいです。ボク、オバケになりましたよ〜」
 霊体化したヴァーナーは楽しそうにくるりと一回転。

「楽しそうだねぇ」
「私達もいいですか」
 ハナエ達の話し相手をしに木枯と稲穂が登場。

「いいですよ〜、ね?」
 ヴァーナーはにっこり返事をした後、他の二人にも訊ねた。

「はい」
「本当に迷惑をかけてごめんなさいね」
 グィネヴィアとハナエも快く迎えた。

「迷惑ではありませんよ」
「そうだよ」
 稲穂と木枯は平気だと軽い調子で言い、席に着いた。

「あの、お二人のお話を聞かせてくれませんか。ハナエ様は死んでからもずっとヴァルドー様の側におられたと」
 グィネヴィアがハナエの身の上話に興味を抱き、話しかけた。
「そうなのよ。ハラハラするばかりだったわ。何かしたくても言いたくてもなかなか出来ないでしょ。この状態じゃ。姿や声が見えたり聞こえたりなんて滅多にないもの。不摂生な生活に物がどこにあるかも分からないし、いつもはほとんど仏頂面なのに私が死んだ時は名前を呼んで泣いてたのよ」
 呆れたように話すハナエも自分が死去した時、初めて幽霊となって見た夫の横顔を思い出し少しだけ寂しさと愛しそうな表情をしていた。
「……分かります。私、幽霊だった事がありますから。人に見えなくて発した声も届かなくて独りでした。近くに人がいてもとても遠く感じてそれが余計に孤独な日々を深めて流れる時間は果てしなく長く感じて」
 稲穂は記憶喪失で幽霊だった昔の事を思い出していた。表情も少し沈んでいた。
「……大変だったのね。今は大丈夫?」
 ハナエは優しく訊ねた。

 稲穂はぱっと顔上げ、隣に座る木枯の方を見た後、
「大丈夫です。旅をしていた木枯さんに出会い名前を貰って救われて今はこうやって楽しい時間を過ごしています。思いがけない出会いというものはあるんですね。私と木枯さんが出会ったように。今日も……」
 明るく話を続けた。誰にも見えなかった自分を見つけ名前を与えてくれた木枯に旅に誘われ、楽しい時間と木枯の陽気さに心救われ、パラミタを見る内に失った記憶が僅かに戻り契約をして今に至るのだ。
「私も出会えて良かったと思ってるよ」
 木枯は感慨深げな笑顔で稲穂に言った。
「ボクも会えてうれしいよ〜、今日は最高の日♪」
 ヴァーナーは思わず励ましと出会った喜びを表現しようと稲穂をハグしようとするが、霊体のためするりとすり抜けてしまう。
「……今、ボク、オバケでした」
 ヴァーナーは失敗に可愛らしい照れ笑い。
「……私も今日は最高の日です」
 稲穂はヴァーナーに笑いかけた。ヴァーナーもそれに笑顔で応えた。

 そこに
「辛気臭い話はそこまでにしてせっかくの一期一会、この凄い出会いを楽しもうぜ!」
「わたくし、シリウスと会う前の記憶がありませんから皆様の昔の話にとても興味がありますわ」
 シリウスとリーブラが登場。

「……本当に思いがけない出会いというものはありますわね」
 リーブラは稲穂にそう言いながら隣に座った。リーブラも稲穂と木枯に似ていた。シリウスの生家からシリウスによって発見され、リーブラはシリウスと姉妹のように平和に暮らせる時間を得て、今こうしてこの場にいるのだ。
「そうですね」
 稲穂は通じるものを感じ、柔和に笑んだ。
「シリウスおねえちゃんとリーブラおねえちゃんもいっしょにお話しましょうです〜」
 ヴァーナーは嬉しそうにシリウス達を迎えた。
「それで二人はどうやって出会ったんだ?」
 シリウスがハナエに訊ねた。話している内に忘れている事も思い出すかもしれないと考えながら。

 親睦会場からかなり離れた場所。

「またあの兄弟が何か仕掛けたようだよ。幽霊の老夫婦もいるとか」
 ルカルカはローザマリアからの突然連絡で事情を知った。
「あの二人は神経が図太いな。様子を聞く限り料理については害は少なそうだな」
 『薬学』を持つダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)はルカルカから知らされた内容と周囲が妙に騒がしくない事から判断。
「それは少し安心。捜索に出ている人がたくさんいるというから探し物もすぐだよ」
 ルカルカはほっと一安心。迷惑を振りまいているのは変わらないが今までに比べると可愛いものだ。
「……しかし、古城か」
 ダリルは探し物よりも以前関わった事があるためか古城が気になっていた。ただの変死伝説では終わらないと思えてならない。
「まさかの場所だよね。後でその事も聞いてみよう。ちょうど、お腹も空いてるし……」
 ルカルカも話題に上がるとは思わなかっただけに驚いていた。
「行くのか?」
「もちろん。盛り上げるよ。グィネヴィアを驚かせるような登場をしてエスコートして希望の物を取る為に執事を呼んだり……」
 ダリルの問いかけにルカルカは当然と言わんばかりに即答し、じっとダリルの方に見た。
「……俺!?」
 ルカルカの視線にダリルは当然渋い顔になった。
「ルカ、上流階級として行動したいな。だめ?」
「……仕方ない。ただし、論文を手伝って貰うが」
 ルカルカの子犬のウルウル目に折れたダリルは、機晶姫医学用の論文の手伝いを条件に出した。この約束は親睦会終了後、きちんと果たされた。
「いいよ。さぁ、準備準備」
 ルカルカは軽く約束を結んだ。
 そして、二人は親睦会に行くために準備を整え会場へと向かった。