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シャンバラの宅配ピザ事情

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A Hard Day’s Evening

 低いエンジン音を響かせながら、メルヴィアは主が指定して来たパラ実校舎跡地へとやって来たのだが……
「この跡地を指定して何をするつもりなんだろうか……」
 バイクから降りたメルヴィアはピザの入ったバッグを肩に掛けると瓦礫が置いてある場所へと進んで行った。
「三十分以内に来たな。待ちくたびれたぜぇ」
「お前、何者だ! 姿を現せ!」
瓦礫の間から現れたゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は、メルヴィアの言葉に反応すると、近くにあった登れそうな瓦礫によじ登った。
「へっへっへ。よく聞いてくれたな。俺様は無く子も黙るパラ実一の悪党、モヒカンピンクだ!!」
「モヒカンブルー!」
「モヒカンイエロー!」
「モヒカングリーン!」
「モヒカンレッド!」
 モヒカンの色だけ違い、ゲブーと同じような格好の男達がゲブーの口上に合わせてそれぞれ瓦礫の隙間から出て来る
 モヒカンレッドだけ何故だかモヒカンが生々しい血の色でまだらだった。
「正義の影に悪党あり! 俺達五人合わせてモヒカン戦隊モヒカンレンジャー! てめぇパラ実生の実習「とりあえず襲え」に抵抗してボコってくれたそうじゃねぇか! モヒカンの友が泣いてたぞ! つまり俺様達がピザを奪ってやるぜぇ!」
四人の男達は、ゲブーに近づくと、銘々のポーズを決めたのである。
 そこに間髪を入れずにメルヴィアの斬糸が空中を舞う。
 男達は、メルヴィアの先制攻撃を見切っていたのか、メルヴィアを取り囲むように散って行った。
「ふはは! てめぇのワイヤー・アタックは見切ったわ!!」
「勝手に私の得物に名前をつけないでほしいね!」
 ニヤリと笑い、踏ん反りかえっているゲブーにメルヴィアは指を突き付けた。
ゲブーはひとしきり笑うと、瓦礫から飛び降り地面に着地し、メルヴィアに向けて蹴りを放とうとする。
メルヴィアは、斬糸を巧みに操ると蹴りを放とうとするゲブーの足に向けて糸を絡ませた。
「その斬糸切れ味が鈍ってるんじゃないのか? 俺様の服が切れてないぜぇ!」
「糸は斬るだけのものではないのだよ」
 ゲブーの挑発に乗る事も無く、静かに言うとメルヴィアは糸を上へと引っ張り上げる。引っ張り上げられた糸は、繋がっているゲブーの足を持ち上げたのだ。
 予想だにしなかったメルヴィアの攻撃に、ゲブーはバランスを崩して地面に尻もちをついた。
「てめぇ! ピンクになんて事をしているんじゃ!!」
 モヒカンイエローがメルヴィアに向けてマシンガンを突き付けると、即座に引き金を引いた。
メルヴィアはマシンガンの攻撃を避けようと、一旦操っていた糸を手放し急いで地面へと伏せる。
 マシンガンから放たれた弾は、瓦礫に当たり多少穴が開いただけだった。
 と、イエローがマシンガンを撃っている最中にこぶし大の瓦礫が、音も無く虚空に浮くのをメルヴィアは見逃さなかった。浮いた瓦礫はそのままイエローの頭へと当たり地面へと落ちる。
 イエローがびっくりして、銃の引き金から指を離すと辺りを見渡した。
「どうやら間に合ったみたいだね」
「誰だ、てめぇ」
 ざっと小さい土埃を立てながらやって来たのは、フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)とメイド服を着ている泰輔だ。
「お前達、どうして此処に?」
 メルヴィアは立ち上がると、ゲブーの足に絡ませている斬糸を切り、よそ見をしているイエローのマシンガンに向けて糸を繰り出す。
 糸は、音も姿も見せずにマシンガンのみをバラバラにした後、メルヴィアの手に戻ってくる。
「次百君がメルヴィア君の事を心配していたから、僕達が様子を見に来たんだ」
 フランツは、メルヴィアの疑問に答えるとゲブーを睨みつける。
「とりあえず顕仁はん、出番やでー」
 泰輔が召喚を使い、讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)を呼び出した。
「なんだい、泰輔……って、なんでそんな恰好をしているのじゃ」
 泰輔の隣に出現した顕仁は、パートナーの姿を見て首を傾げる。
「僕のこの姿は今は気にせんでええ。後で説明するわ。顕仁はん、そこのピンクモヒカンを攻撃してほしいねん」
 泰輔は、顕仁に軽く突っ込みを入れるとゲブーに指を突き付ける。
「了解したのじゃ」
 顕仁は泰輔の指の先を確認すると、顕仁は轟雷閃をフロンティアソードに纏わせた。
「へっ! そんな攻撃カウンターで反撃してやるんだぜぇ」
 対してゲブーは顕仁を睨みつけると、拳を構える。
 二人が動いたのは同時だった。すれ違いざまに顕仁は横薙ぎに剣を振るうが、ゲブーの言葉通りに金城湯池によって掠ってしまう。
言葉通りの展開に、顕仁はぎりっと唇を強く噛んだ。
「そんな攻撃俺様には通用しないぜぇ。今度はこちらから行くぜぇ」
 振り返りざまに、ゲブーは顕仁の腹に膝蹴りを入れようと足を上げるがゲブーは一つ大事な事を忘れていた。
 まだ剣には雷がまとわりついている事に。
 剣の腹に膝が掠っただけで、高温の静電気が一斉にゲブーの身体へ移動してくる。
「痛たた……痛ぇじゃねぇか!」
 ゲブーは攻撃を止めると、顕仁から距離を置こうと後方へ下がる。
「あ、今後方に下がったら……」
 フランツがゲブーに何か言いたそうにするが一足遅かった。
 ゲブーが後ろに下がったことにより、モヒカンブルーが持っていたナイフが身体に触れて静電気がブルーへと移動し、静電気状態を回復させようとレッドが二人の近くで腕を突き出すと、腕と指の隙間から静電気が発生し三人を襲ったのだ。
「……なにこのコント」
 ぎゃーぎゃー騒いでいるモヒカンジャー達を呆れながらメルヴィア達は見ているだけだった。

「ところで、この注文したピザの代金なんだが」
「うぅ……負けたんだぜぇ。俺様はピザの金は持ってねぇよ」
 あの後、静電気はイエローとグリーンの二人にも襲いかかり、モヒカンレンジャーは倒されたのである。
 倒れたゲブーを起こし、顕仁が首に剣を突き付けて逃げないようにさせるとメルヴィアは代金を請求した。
「……なら、五人で割り勘をしてもらうしかないな!」
 耳障りな音を立たせながらメルヴィアは斬糸を鞭のようにしならせる。
「わ……判った……だからその音はやめるんだぜぇ」
無事、ゲブーもといモヒカンレンジャー達からピザの代金を回収すると、すっかり冷めてしまったピザの箱を置いてメルヴィア達はキマクの街へと帰って行った。