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悪魔の鏡

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「……と言うように! 勝手に知人や友人の複製を作って、Hなことをしようとする連中がいるのよ!」
 許せないわ! とグッと拳を握り締めて力説しているのはルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)だった。
 彼女は、この日、雅羅と一緒に空京へと遊びに来ていたのだ。
 買い物の途中、雅羅が突然姿を消した時にはとても心配したが、なにごともなく再び合流できて良かった、とルゥは胸をなでおろす。
 この街で起きている良くない事件の噂はすでに彼女の耳にも入っていた。災難体質な雅羅のこと。どこかで事件に巻き込まれて、あんな目やこんな目に遭っていたらどうしよう、と一人妄想して悶々としていたのだ。
「雅羅、どこにいってたの? アブナイ連中がうろついているんだから、気をつけないとだめよ」
「うん、ちょっと、ね……。心配かけてごめんね」
 ふと、思い当たることがあって、ルゥは尋ねる。
「……もしかして、ニセモノがいたの?」
「……ええ」
「どうりでね。あなたと待ち合わせをしている時にあなたの事見かけたんだけど。声をかけても完全無視で行ってしまったからどうしたのかな、と思っていたのよ」
「ごめんね。そんなことがあったの?」
「あなたが謝ることじゃないわよ。それもこれも、サノバビッチとか下品な名前の天才さんが巻き起こしている騒動でしょう。何をやらかすつもりかしら」
 自分のコピーが作られていたらどうしよう、とルゥは身震いした。もう、人に言えないようなことをされているのではなかろうか。そんなことやこんなことや、あまつさえ、ああいけません……な事をされていたら、もうお嫁に行けません! 
 ルゥが一人身悶えしていると、尋ねられた。
「ところで、さ……。ルゥって……その、キスしたこと、ある……?」
「な、ななななにを言い出すのよ、突然!?」
 ルゥは、一瞬戸惑ったが、すぐに気を取り直した。ドヤ顔で大きな胸を張って見せる。
「ご想像におまかせするわ」
「そう」
「雅羅はどうなの?」
「私は……どうなんだろ?」
「ま、まさか、雅羅もう済ませてしまったんじゃないわよね!? そんな事、お天道様も許さないし、私も許さないわよ! ……で、相手は誰なの? 二度とキスできないよう、そいつの唇を削ぎ落としてやるわ!」
「ルゥがどうしてそんなに怒ってるのよ?」
「い、いやまあ……、その……ごにょごにょ……」
 ルゥは、あさっての方を向いて何やらぶつぶつ言う。
「あ〜あ、私、いけないことしちゃったかな……?」
「なによ、もしかして恋話? ま、まさか雅羅もうあんなことやこんなことまで済ませてしまったんじゃないわよね!? そんな事、お天道様も許さないし、私も許さないわよ! ……で、相手は誰なの? 二度と恋できないよう、そいつの心臓えぐりだしてやるわ!」
「だから、どうしてルゥが取り乱しているのよ?」
「べ、別に雅羅の事なんかなんとも思ってないんだから、勘違いしないでよね!?」
 ビシリ! と指を突きつけてくるルゥ。雅羅はクスリと微笑む。
「ねぇ……、一度やってみよっか……? 二人で、……その……試しに、キス、を……」
「い、いやいや、何を言っているのよ、雅羅!? ……冗談、よね……?」
「そう、冗談よ。冗談なんだから、本気にしないでね……」
「そ、そっか……、冗談なら、ちょっとくらい、いい……かしら……?」
 ルゥはドキドキしていた。雅羅とは出会ったときから親しくなりたいと思っていた。もっともっと親しくなりたいと思った。柔らかな唇、暖かい肌、一度触ってみたいと思っていた。真っ白な肌に人形のような顔立ち、さらさらの金髪……もっと近づいてみたいと思っていた。言葉だけじゃわからない。触れ合わないと……。
 この機会を逃すと、もうこんな僥倖は二度と訪れることはないだろう。鏡捜しにやってきたのに、まさかこんな展開になるとはお釈迦様とて思うまい!
「……」
 二人は、両手をお互いに絡み合わせて顔を見合わせる。
 過分な溜めは必要なかった。そう、これはあくまで女の子同士の冗談。試しなんだから……。軽く、あくまで軽く……。
「ん……」
 まるで約束されていたように、二人目を閉じはそろりと唇を重ね合わせる。しばしそうして……。
 カラン! と何かがぶつかる音がした。
 ルゥは、雅羅の口元から顔を離しそちらに視線をやる。
「え?」
「……」
 驚愕に目を見開いたまま硬直していたのは、雅羅だった。
「あ、あれ……、雅羅が二人……?」
「あちらがニセモノよ」
 ルゥとキスをした雅羅が雅羅を指差す。
「な、何を言っているの! あなた太字表記じゃない! 誤魔化しても無駄よ!」
「メタな判断の仕方しないで!」
 雅羅は、ルゥの腕を親しげに取った。本物と同じ弾力が伝わってくる。
「わかったわ。こちらが本物ね!」
 ルゥは、雅羅を労わるように抱き寄せた。
「ええええええ……」
 雅羅は唖然とした。今日のルゥはちょっとおかしいんじゃないだろうか。
「まさか……、ルゥもニセモノじゃないわよね……?」
「失礼ね。今の唇の感触が偽りのわけないでしょ」
「軽蔑したわ、ルゥ……。あなた、そんなことをしたいと思っていたのね……」
「そ、そんなわけないでしょ! ニセモノを捕まえるために、敢えて引っかかったフリをしていたのよ! 途中から太字表記だって気づいていたんだから!」
 ルゥは【身体検査】や【至れり尽くせり】などのスキルで、相手の欲求や害意を確かめていたのだった。
「ニセモノ、覚悟よっ!」
 ルゥは大慌てで雅羅を捕らえにかかる。相手は、身をかわし反撃してきた。
「くっ……!?」
 ルゥは衝撃で体勢を崩し、逃げようとする雅羅に覆いかぶさるようにしがみついた。その勢いで二人は重なり合ったまま倒れる。
 ちゅ……。そして、もう一度。今度は不可抗力だった。
「私のニセモノがキス魔だったなんてね」
 雅羅は、ドッペルゲンガーを捕らえると逃げ出さないよう確保する。縛られた雅羅と縛る雅羅。他では見ることが出来ないであろう圧巻の光景だった。
「鏡探しとか、もう教導団に任せておけばいいでしょう」
 いい仕事をなし終えた充実した表情でルゥは言う。
 さて、帰ろう……。今日は、これだけでご飯三杯はいけそうだった……。