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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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迅竜 ブリッジ

 トリグラフと“フリューゲル”が互いを押さえ合い、甲板上で三機が大金星を上げた直後、ブリッジへと向かってくる“ドンナー”を見ながらルカルカは緊張の面持ちになる。
「飛んだ……!?」
 モニターで五機の“ドンナー”の映像を見たルカルカは思わず驚きの声を上げた。
「なるほど。確か、あの機体はシュバルツ・フリーゲとの類似を伺わせる機体だったわね。なら、飛行能力はあっても不思議ではないわ」
 冷静な声で説明するのは、空いているオペレーター席に座る鈿女だ。
 ハーティオンの整備と調整を終えた後、ブリッジに戻ったのだろう。
「それでも、飛行能力に特化した“フリューゲル”ほどではないようね……もっとも、あのレベルの機体が飛行するというだけでも十分に脅威だけど」
 相変わらず冷静な声で分析している鈿女だが、事態は深刻だ。
 モニターの中では飛行した九体の“ドンナー”が“斬像刀”を振り上げ、迅竜に殺到する。
 先程から対空砲火で防御しているものの、少しずつ敵の攻撃は迅竜に命中していた。
 そのせいか、艦は頻繁に揺れ、ブリッジの共用モニターでは破損個所を知らせるアラートメッセージがひっきりなしに更新されている。
 すぐさまルカルカは通信機を起動し、砲術セクションへと繋ぐ。
「対空砲火を強化! 敵機を寄せ付けないで!」
 通信機の向こうでコンソールを叩く音が響き、それに混じってクローラの声が聞こえてくる。
「既に最大火力です! ですが、現状では牽制がやっとの模様!」
 必死なクローラの声を聞いたルカルカは、努めて自分を落ち着けると、次なる指示を出す。
「映像出して!」
 ルカルカが指示を出すや否や、ダリルがコンソール上に指を走らせた。
 次の瞬間にはブリッジの共用モニターに、迅竜へと攻撃をしかける“ドンナー”の一機一機を捉えた映像が次々切り替わる形で表示される。
 そして、カメラが捉えた映像の中で、一機の“ドンナー”が振り下ろした“斬像刀”が迅竜の一部へと直撃した。
 まるで紙に刃を刺し入れるように易々と装甲にめり込んだ“斬像刀”。
“ドンナー”はそのまま柄を傾け、豪快に装甲を斬り裂いていく。
「第三格納庫破損!」
 ダリルが告げると、それに次いでルースも叫ぶ。
「該当箇所は無人かつ艦載機もなかった為、被害はそれほど重篤ではない模様。ただし、破損箇所に火災発生!」
 歯噛みしつつもルカルカは即答する。
「隔壁を下ろして対応できるところはそれで対応! それが無理な所は淵とカルキを向かわせて!」
 ルースがコンソールを叩き、隔壁を下ろす。
 延焼を未然に防げたことでルカルカはほっと胸を撫で下ろすが、すぐに現実に引き戻された。
 ブリッジのすぐ前に“ドンナー”が回り込んできたのだ。
 ガラス面のすぐ前、数メートルほどの距離。
 そこには“ドンナー”の姿がある。
 “ドンナー”は静かに、そして確かに“斬像刀”を振りかぶった――。
(団長、真一郎さん――)
 ルカルカが覚悟を決めかけた時だった。
 突如として飛来した銃撃が“ドンナー”をかすめ、“斬像刀”の刀身部分を吹き飛ばす。
 その直後、今度は高威力の銃撃が“ドンナー”本体に炸裂し、機体を大破させる。
 空中で爆散する“ドンナー”をルカルカが見つめていると、共用モニターに若い女性の映るウィンドウと、少女の映るウィンドウがポップアップする。
『っと、危ねえ所だったな。大丈夫か?』
『間一髪だったね。でも、無事なようで良かった』
 ウィンドウに映っているのはそれぞれ、シリウスとネージュだ。
 “斬像刀”の刀身を吹き飛ばしたのはフロイライン・カサブランカのウィッチクラフトライフル、“ドンナー”本体を撃墜したのはシュヴェルト13のバスターレールガンだろう。
「ありがとう……助かったわ!」
 ルカルカが安堵と感謝の気持ちが滲み出た声音で言うと、すかさず新たなウィンドウがポップアップする。
 そこに映っていたのは天御柱学院の制服を着た青年だ。
『“土佐”艦長の湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)だ。ツァンダ上空での戦い以来だな』
 心強い援軍の到着にルカルカの顔が更に明るくなる。
『俺の土佐以外含めた戦艦四隻、そしてイコン十三機――救援に駆けつけた次第だ』
 亮一の語る心強い言葉に、ルカルカは力をもらったようだった。
 心強い言葉はそれだけに留まらない。
 すぐに新たなウィンドウが迅竜ブリッジの共有モニターにポップアップし、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)の姿が、続いて彼のパートナーであるローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が映し出される。
『こちら“テメレーア”艦長ホレーショ・ネルソン。本艦は旗艦として土佐、伊勢、ウィスタリアから成る【H部隊】を統制。貴艦の援護にあたる』
『ローザよ。どうやらこっちも間に合ったみたいね』
 教導団所属の戦艦であるテメレーアは『速度差があり過ぎる為、迅竜の護衛は断念し別個に動く事で間接的に相互の負担軽減に努めるべき』というホレーショの判断により、迅竜とは別行動で葦原島に向かっていたのだ。
 三人の姿に続き、またも新たなウィンドウが追加表示される。
 今度は銀色の長い髪に赤い瞳の少女だ。
『“ウィスタリア”のアルマ・ライラック(あるま・らいらっく)です。【H部隊】の一隻として、迅竜を援護します』
 ウィスタリアからの通信の後、再び教導団の識別信号を出している戦艦からの通信が入った。
 表示されたウィンドウに映るのは黒髪と黒瞳の少女だ。
『“伊勢”艦長葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)であります。迅竜のバックアップとして味方機の整備を担当していく予定であります』
 吹雪は迅竜には乗らず航空戦艦『伊勢』でヒラニプラを発進し、途中で会った他校の生徒たちを乗せて救援へとやってきたのだ。
 各艦の艦長が揃い、一気に豪華になった迅竜ブリッジの共有モニターの中で、亮一が再び口を開く。
『俺の土佐をはじめ、【H部隊】の各艦には天学、空大及びその他のイコンを搭載してある。出撃後のイコン部隊の指揮は迅龍側へ委譲する』
 そう告げると、亮一は高らかに宣言した。
『よし、始めよう。イコン部隊出撃せよ!』
 亮一の合図を受け、土佐からは次々にイコンが出撃していった。