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紅き閃光の断末魔 ─後編─

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紅き閃光の断末魔 ─後編─

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第三章 情報を精錬せよ


 予期せぬ発言をした者がいた。

東 朱鷺(あずま・とき)
「待ってください……今、占いで犯人を割り出しています。
 結果が出たらお教えしますから」

 朱鷺が誰にともなく呟いたのである。
 彼女は先ほどからずっと、占いと称して何らかの儀式のようなものを行っている。
 いわく、これで犯人を暴くことができるそうだが……。

レベッカ・チッコリーニ
「……これはこれで厄介な人もいたもんね。
 占いなんかで犯人呼ばわりされたら、たまったもんじゃないわ」

デュオ
「ククッ……面白いではないか。
 もとより容疑者は5人しかいない。案外当たるかもしれんぞ?」

 そうは言っても、当然占いの結果待ちなんてマヌケな時間を過ごす訳にはいかない。
 こうしている間にも、外部犯はどんどん離れているかもしれないのだ。
 と、そこで今まで黙していた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が沈黙を破る。

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「……誰も無いようならば、発言いいか?
 気がかりというか、確認したい事があってな」

 甚五郎の視線は、生き残りの5人に向けられている。
 いったい何を聞かれるのかと身構える4人(デュオは動きを見せなかった)。

アメリー・フラット
「な、なんなんですかぁ……?」

レベッカ・チッコリーニ
「あの青髪男みたいに、しょーもない事だったら承知しないわよ!」

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「しょーもなくはないだろうと自負している。安心するがよい。
 聞きたいのは、管制室におけるセキュリティ操作の方法についてだ」

トマス・クラーク
「方法、ですか……大して難しいことではありません。
 各種制御機材のパネルやレバーを動かして、機能のオンオフを切り替えるだけですよ」

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「そのパネルやレバーというのは、ひと目見れば誰でも把握できるものか?
 例えば今これから俺が管制室へ向かったとしたら、正確に操作できるだろうか?」

トマス・クラーク
「いえ、それは無理です。
 マニュアルなどは置いていませんし、特に目印になるものはありませんから。
 正確に操作できるのは、いつもメンテナンスを行っていた私と副所長だけでしょう」

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「そうか、ありがとう」

アメリー・フラット
「え、えっ? それだけですかぁ?
 ……今のやりとりで何がわかったんだろ……?」

レベッカ・チッコリーニ
「さて、どうかしらね……何か掴んだようだけれど」

阿部 勇(あべ・いさむ)
「あー、ついでってワケじゃないんですが、俺からもいいですか?」

トマス・クラーク
「はい。なんでしょうか」

阿部 勇(あべ・いさむ)
「IDカードについてなんですけど、ロックを解除する時に誰のIDが使われたのか、
 記録みたいなものが残ったりするんですかね?」

トマス・クラーク
「……残りますよ。ただし、管制室と武器庫だけは別です」

阿部 勇(あべ・いさむ)
「別? どういうことです?」

トマス・クラーク
「管制室と武器庫のロックは、ご存じの通り私か副所長のIDでしか開きません。
 ですが、その2つのID間には特に違いが無いんですよ。
 早い話が“管理者用”のIDとして、同じものを使っているわけです」

草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)
「ふむ、つまり顔写真や書いてある肩書き等が違うだけで、
 機械的には全く同じものだということであろう?」

ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)
「へぇ〜、そうなってたんですか」

トマス・クラーク
「えぇ。ですから、どちらのものが使われたのかは判別できないはずです。
 もっとも、私は自分のIDカードはずっと身につけていましたから、
 犯行時に使われたのは、副所長のIDで間違いないと思います」

デュオ
「ククッ……貴様の主張はよくわかったが、根拠が少なすぎるな……」

早川 透
「そうだ! 副所長は殺されてンだぞ!?
 なのにどーして副所長がIDを使ってたなんて考えられんだよっ!」

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
「副所長“の”IDが使われてたって話さ……なるほどね。
 今のやりとりで、<カードホルダーの違和感>についての推測が立ったよ」

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「ホルダーの内側に残されていた血痕についてだな。
 俺の推測と同じだといいんだが……聞かせてもらえるか?」

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
「うん、そんな大した発見ではないけどね。
 <内部犯の動向>を見るに、内部犯は管制室で副所長を殺害した後に武器庫を訪れてる。
 けど武器庫を開けるためには、所長か副所長のIDが必要なんだ」

アメリー・フラット
「……あ! それって、もしかして……」

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
「そう、おそらく内部犯は副所長を殺害した後、
 副所長のIDカードを抜き取って、武器庫を開けるのに使用していたんだ……。
 それを戻す際に、誤って副所長の血痕がカードに付着し、ホルダー内を擦ってしまった。
 と推測できるよ」

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「どうやら意見が一致したようだな」

セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
「……その前提で考えるなら、トマスが内部犯というのはありえないわよね?」

早川 透
「ちょ、ちょっと待て! なんでありえないんだよ?
 納得できるようにちゃんと説明しやがれってんだ!」

セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「仮にトマスが犯人なら、自分のIDで武器庫を開ければ済む話じゃない。
 わざわざ副所長のIDを持ち出して戻す理由がないわ。
 どちらのIDで開閉が行われたかは、調べる事ができないもの」

阿部 勇(あべ・いさむ)
「いや、どうでしょうね?
 そう誤認させるため、あえて副所長のIDを使ったって可能性もありますよ」

ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)
「……実はこういう時に役立つかと、裁判が始まる直前に遺留品から副所長のIDを預かり、
 改めて【サイコメトリ】にかけてみたんじゃが……
 あの事件以前の出来事までは、やはり読み取れなかったのう。
 教導団まで運ばれてくる様子なんかは見えたのじゃが……まぁそれでも」

アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
「うん、状況から考えて、所長がわざとそうしたって事はないはずだ。
 ホルダーの内側に付いてた血痕は、ものすご〜く見つけにくい小さなものだった。
 ソースは俺だ! 俺は最初見たとき気づかなかったぜ!
 仮にわざとそうしたんなら、もっと目立つようにしておくはずじゃん?」

セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
「そうよね。気づいてもらえなかったら、偽装した意味自体が無くなるもの」

早川 透
「なん……だと……ッ、くっ、そういう事は早く言えよな!」

 映像が途絶えた瞬間の立ち位置、それに副所長のIDの状態。
 以上の点から考えて、トマスが犯人という線は無さそうである。
 流石の早川も、ここまで状況が整ってきたらトマスを疑うのは難しいようで、
 仕方ねえな、などとぼやきつつ引き下がっていく。
 が、簡単には引き下がらせない人物がいた。レベッカだ。

レベッカ・チッコリーニ
「っていうかさ、なんでアンタは所長を犯人に仕立て上げようとしてるわけ?」