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紅き閃光の断末魔 ─後編─

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紅き閃光の断末魔 ─後編─

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第七章 君だけが知っている


 羅英照が指摘した犯人は、レベッカ・チッコリーニだった。

アメリー・フラット
「え…………レベッカちゃん……?」

レベッカ・チッコリーニ
「え……!?」

 あまりにも呆気なく指名されたためだろう。
 始めはそれに準じるかのような、呆けた表情を見せたレベッカ。
 しかし現状を理解するにつれ、遅れて怒りの感情がやってきたようで、

レベッカ・チッコリーニ
「なんで私なのよ!?
 早川とデュオだって、副所長が殺害された時間帯はフリーだったじゃない……!
 あいつらが犯人に決まってるわ! どうせ内部犯と外部犯を分担してやったのよ!」

ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
「参謀長、どういうことなのでしょうか?」

羅 英照(ろー・いんざお)
「根拠は2つある……まずは位置取りなのだよ。
 仮に衛兵達がメンテナンスの始まる22時00分を狙って管制室へ行く場合、
 トイレへ向かうレベッカさんと鉢合わせしていた可能性が非常に高い。
 君が休憩室を出たのもちょうど22時00分だった事実については、
 <休憩室の映像記録>で確認できるであろう」

セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「言われてみれば、そうね……。
 これだけ計画的な犯行だし、
 内部犯はキッチリメンテナンス時刻に合わせて管制室へ向かったはずだわ」

レベッカ・チッコリーニ
「た……確かにそうだけど、誤差の範囲じゃない。
 たまたま少し遅れて、私がトイレに入った後に管制室へ向かっただけでしょ!」

羅 英照(ろー・いんざお)
「2つ目の根拠は更に確定的である。
 一連の犯行に『機晶爆弾』が使われていたことなのだよ」

ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)
「それって、武器庫にあったやつの事ですか?
 凶器を処分するために使われたんでしたよね〜」

レベッカ・チッコリーニ
「ふん、それが何だっていうのよ?
 凶器を隠滅したいんなら、犯人があれを使おうとするのは考えられる話でしょ」

ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
「他にも、研究所の人々の注意を引きつける効果があったんじゃないかな。
 <研究員達の死体の位置>を見てみて?
 実際に外部犯による殺害が容易になっているわ」

サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)
「これ、なんでわざわざ武器庫なんだろうって思ってたけど……
 そういえば犯行に『機晶爆弾』を利用するため、だったね。
 流石に強力な爆発物まで持ち込むのは難しかっただろうし」

デュオ
「ククッ……なるほど、確かにそれは確定的な根拠だな」

レベッカ・チッコリーニ
「な、なんなのよ! どうしてそれが私が犯人ってことに繋がるわけ!?」

 レベッカにはまだ理解できていないようである。
 しかし、これだけの判断材料が揃った今、
 開廷前から少しでもレベッカを怪しいと踏んでいた者達にとっては……
 レベッカが犯人だという線しか、考えられない!!

夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)
「そうか……知らないのだな」

草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)
「どうやら、そのようなのだよ」

クナイ・アヤシ(くない・あやし)
「そして、レベッカ様は知っていたのでございますね」

東 朱鷺(あずま・とき)
「やはり私の占いは正しかった」

ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)
「終わりじゃな……レベッカ以外に、『機晶爆弾』を使った犯行は不可能じゃ」

レベッカ・チッコリーニ
「…………は?」

 レベッカは、今度は呆けた表情のまま戻らなかった。
 後に言葉が続かなくなったところで、やはりこの人、早川が騒ぎ出す。

早川 透
「お、おい! さっきから何の話をしてるんだよ!?
 そもそも『機晶爆弾』って? 武器庫であった爆発の原因がそれなのか?」

レベッカ・チッコリーニ
「そ、そうよ。爆発物は他に無いもの。当たり前じゃない……」

早川 透
「そうだったのか……ん?
 ってことは『機晶爆弾』なんて物騒なもんまで、検査で見落とされちまってたのか。
 くっ、くそっ! それさえ検出できてりゃ、こんな事件は起きなかったってのに!」

デュオ
「そうだな。
 歴戦の覇者である俺様が検査していれば、或いは見破れたかもしれんが……
 所員の持ち物検査は、事件当日の朝から昼にかけて行われたはずだ。
 夜勤の俺様や早川、そして衛兵Cが関わる事はできなかったな」

アメリー・フラット
「あ、あのぅ……早川さんじゃないですけど、聞かせてください。
 いったい何のお話をしているんでしょうか……?」

早川 透
「そりゃLH社の失態についてに決まってんだろ……。
 俺は新入りだけどよ……デュオさんに憧れて、この仕事に誇りを持ってやってんだ。
 こんな不始末を冒しやがった先輩方にゃ、物申さずにいられねぇぜ!」

アメリー・フラット
「それ、さっき言ってた検査で『機晶爆弾』を見落としたというお話ですか……?
 だったら安心してください。
 『機晶爆弾』は、元から武器庫に保管されてた物なんですよぅ」

 空気が凍る。
 その中でも「ですから、衛兵さん達のせいじゃないですよ〜」
 などと言っているアメリーだが、問題はそこではない事に、既に早川ですら気づいている。

羅 英照(ろー・いんざお)
「つまり、そういうことなのだよ」

アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)
「あちゃ〜……こうなっちゃうと流石に俺でも、助けてあげらんないなぁ。
 レベッカ殿すまん! 副所長も脅されてたっぽいし、
 内部犯はあんた1人で決まりやー!」

レベッカ・チッコリーニ
「は、早川とデュオは、
 武器庫に『機晶爆弾』があったこと、知らなかったっていうの……?」

早川 透
「知らないってレベルじゃねえぞ。まったくもって初耳だ!
 LH社に送られてきてた備品リストには、そんなもん載ってなかった。あれは嘘だったのか!?」

トマス・クラーク
「いえ、嘘ではありませんよ。
 リストを送付した時点では……ですが」

 そう、<武器庫の機晶爆弾>で明記されていた通り、
 犯行に用いられた『機晶爆弾』は、研究の過程で使ったものの余りだったのだ。
 だからこそ、所長が提出した<武器庫の備品リスト>には手書きで追記されていたわけで……
 当然この事実を、研究に携わっていない衛兵達は知る由はない。

草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)
「うむ……実に筋が通っておる。
 それに、持ち物検査の話で思い出したが、レベッカは夜食を持ち込んでおったな。
 もしやそなたは、その中に隠して『ハンドガン』を持ち込んで犯行に及んだのではないか?」

レベッカ・チッコリーニ
「…………」

アメリー・フラット
「レベッカちゃん……」

ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)
「これはもう、決まりですね〜。
 レベッカさん、これから外部犯を追跡する必要もありますし、
 素直に自白して情報提供に応じた方が、あなたのためにもなりますよ」

羅 英照(ろー・いんざお)
「うむ。彼女の言う通り、外部犯に繋がる情報を吐くというのなら、
 事情によっては刑が軽くなることもあろう。認めるがよい」

レベッカ・チッコリーニ
「…………わよ」 

羅 英照(ろー・いんざお)
「……何?」

レベッカ・チッコリーニ
「認めないわよ! だって犯人は早川とデュオで!
 私は無実なんだからねッ!!」

 チェックメイト―――誰もがそう思っていた。
 それほどまでに追い詰められていたレベッカだが、まだ無実を主張できるのか。

デュオ
「ククッ……これは驚いたな。
 まだ反論の余地が残っているのなら、是非ともお聞かせ願いたいものだ」

早川 透
「見苦しいぞっ! 俺達は『機晶爆弾』の存在を知らなかったんだ!
 犯行に『機晶爆弾』が使われてた以上、お前が犯人で確定だろうが!」

レベッカ・チッコリーニ
「じゃあ!
 逆に言えばアンタ達が『機晶爆弾』の存在を知ってたなら、
 アンタ達にも犯行が可能だったって事になるわ!」

 武器庫にあった『機晶爆弾』は、本来は研究の過程で使われていたはずの物だ。
 ところが何個か余ってしまったため、一時的に武器庫に保管されていた……。

セレスティア・レイン(せれすてぃあ・れいん)
「どういうことですか?
 大部屋での研究に参加していない衛兵さん達が、その情報をどうやって得るんです……?」

レベッカ・チッコリーニ
「簡単な話よ。
 大部屋で殺害された所員の誰かから、犯行前に聞いていたんだわ!
 それなら早川とデュオにも、『機晶爆弾』を利用した犯行が可能になるでしょ!」

早川 透
「へっ、そんなわけねぇだろ。
 どうやら頭が弱いのは、あんたの方だったみたいだな!」

セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
「いえ、そんなわけなくはないわ……。
 レベッカが犯人だという話は、『機晶爆弾』の情報の有無でしか断定できない。
 苦し紛れの理屈に聞こえるけど、筋は通っているわ」

早川 透
「な、なに!? ってことは、まだ俺達が犯人だって言う気かよ!」

阿部 勇(あべ・いさむ)
「早川氏やデュオ氏に、『機晶爆弾』の情報を誰かが与えていたか否か、ですか……。
 大部屋があんな事になった以上、もう確認する術はありませんね」

レベッカ・チッコリーニ
「その通りよ。
 『機晶爆弾』の件じゃ私が内部犯だったなんて、断定できないわ!
 それに、私よりも彼らの方が怪しいって根拠もあるのよ」

 レベッカは溜めるように言いかけてから、
 早川とデュオの方を指差して、渾身の追求を行う。

レベッカ・チッコリーニ
「副所長の殺害方法を思い出してみて……?
 後頭部を正確に撃ち抜き即死させるなんて、何の技術も無い私には無理だと思わない?
 現役の衛兵である早川、ましてや歴戦の覇者を自称するデュオなら、簡単なはずだわ!」

早川 透
「た、確かに……。
 『ハンドガン』は小型だが、素人が扱うには反動がデカくて狙いが逸れやすいもんだ。
 じゃ、じゃあやっぱり俺達が犯人なのかッ!?」

シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)
「お、おい、落ち着け!
 お前、もはや何言ってるのか自分でもわかってないだろ!」

デュオ
「フハハハハッ!! そうか、なるほど、確かにその通り!
 後頭部を正確に撃ち抜いたと言ったか?
 その程度、歴戦の覇者である俺様ならば、朝飯前どころか昨日の昼飯前まであるぞ!」

レベッカ・チッコリーニ
「ッ……そうやって高慢な態度で、みんなを煙に巻こうったって無駄よ……。
 以上の点から、私より衛兵達の方が怪しい事は明らかで―――」

黒衣の男
「おいおいあんた、なんで副所長が後頭部を撃たれて死亡した事まで知ってるんだ?」