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リアクション
廊下を駆けるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
そんな二人の顔に向かっていきなりの洗礼――9mmのアルミの弾が飛んできた。
セレンは空間認識力を高めていた為寸ででそれに気付き、命中には至らなかったが、
銃弾は彼女の焦げ茶色の髪の先を掠め焼いてしまった。
正確過ぎる射撃。
敵の正体は見る間でもなく想像はつく。
「リュシアン・オートゥイユ。
あんた、美女の顔目掛けて銃弾ブチ込むなんて中々良い根性してるわね?」
「『汝平和を欲さば、戦への備えをせよ』ですよ。
それってつまり『やられる前にやれ』って事でしょう」
「随分都合のいい解釈ね」呆れ顔のセレアナだが、考え自体は悪く無いとも思ってしまう。
「いいわ。
あなた、見るからに面倒な事嫌いそうだから、ここはシンプルに行かない?」
「元よりそのつもりです」
そう言ったリュシアンは、先ほどの示威行動を非難したわりに、無礼にも言い終わる前に撃ち終えていた。
だが恐らく相手はそういう奴なのだと、セレンフィリティとセレアナも何処かで察知していた。
それで彼女達の前にはフォースフィールドのバリアが展開されている。
三人はそこから絶え間なく動き始めた。
距離を測り、タイミングをみて射撃。基本的なヒットアンドアウェイの繰り返しだ。
「はぁ……あなた達、連携が厄介ですね」
「それはどうも!」
「本気で褒めてるんですよ。
僕はそんな風にパートナーと共闘した事ありませんから」
セレンの20cmの2丁拳銃は走り回るリュシアンを狙い続けている。
その間にセレアナは周囲に落ちていた天井や壁の欠片を超常の力で舞い上がらせた。
「っ! 本当にバディは厄介です!」
リュシアンは飛んできた破片を撃ち跳弾を狙った。
一部はビンゴで、あちこちへ飛んで行き間合いが取れたし、一つは確実にセレアナの足下へ跳んだはずなのだが、
どういう訳か彼女の足は無傷だ。
一旦壁の後ろに引いたリュシアンは、視界の悪い中でも割と言う事を聞く灰色を凝らしてみる。
するとセレアナの足がついているはずのカーペットの上に影が掛かっていのが分かったのだ。
「成る程成る程。少し浮いてたんですね」
言いながらリュシアンはその間も動いていたセレンフィリティへ視線を移し、動きを分析した。
しかしそれはセレンフィリティの作戦だった。
周囲の風景を利用し微妙な『ズレ』を感じさせる事で、彼女はリュシアンの頭に致命的な錯覚を齎したのだ。
壁から飛び出したリュシアンがセレンフィリティの頭を狙う。
が、確実なはずの弾が当たらない。
「ッ!?」
気づいた時にはもう遅く、目潰し為の光が目の前で弾けた。
自分でも自信があったスピードを駆使してもう一度走ると、
恐らくそこだという場所を定めてリュシアンはオブジェの後ろへ隠れてた。
目が見える迄にどのくらいかかるだろうか。
リュシアンは相手の集中を削ぐ為に彼自身は好まないが得意な『無駄な会話』でどうにかしようとしていた。
「さっきから気になっていたんですけど」
「何?」
「空調、寒くないですか?
適当に電源入れたままなんです。さっきあのまま部隊を一つ置いて来たんですけど、
貴女達『ずいぶんと寒そうな格好』ですし、ご希望があれば温度上げさせましょうか」
「お気遣いありがとう。でもね……
強くて美しい女に余計な装いは無用よ!」
「同感です!」
二人が同時に撃った銃弾は、中空でぶつかり合った。
起こりえないような特異な現象に驚いているのはセレアナだけだ。
「だからね、あなたのその銃も大き過ぎてちっとも実用的じゃないと思うんですよ。
多少キックが強くなっても、この位の方がシンプルで、何より使い易いでしょ。
僕のパートナーも火薬量が多いイコール正義みたいなハイパワーハンドガンフリークですけど、
あれって実用性を考えるとどうなんでしょうね。
まあ僕はそんなに鍛えてませんから、あんなの使ったら速攻ジャムらせる自信もあるんで、
そう言う点でも手を出す気にならないんですが」
其処迄話していると自分の背を護っていたオブジェが背中から離れて行くのを感じて、リュシアンは横へ飛んだ。
セレアナが己の中の秘めたる力を発揮しそれを持ち上げたのだ。
今度こそ彼の契約者のような下品な悪態が口から出そうになってしまう。
リュシアンは息を吐いて頭を切り替え、落ちたオブジェが割れた破片を自分の腕を見せつける様に撃抜いた。
「そう。結局は本人の腕次第ですよね。
当たれば殺せる、じゃなくて確実に当てる。
そうやって殺せばいいんです」
視界は戻ってきている。リュシアンはセレンフィリティの頭に向かって確実な弾を撃つべくトリガーを引いた。
「くっ!」
セレンフィリティはそれを避けようと飛んだが、一度目の銃弾は一の手。
そこへ二の手の6発が迫っていた。
それは両手撃ちだと思われたリュシアンがさっきから堂々とホルスターから下げていた
シングルアクションの軍用モデルのリボルバーからばらまかれたものだった。
「(しまった!!)」
セレンフィリティとセレアナがそう思った瞬間、三人の戦いで穴だらけになった廊下が唐突に強い光りで包まれた。
二人が目を開くと、リュシアンが額から落ちる血を抑えている。
彼の向こう側には、魔鎧を着た蔵部食人が立っていた。
生きていたのだ。
確かにリュシアンはあの時、食人の頭を撃った。
アルミの弾は彼の頭蓋を抉り減り込み大量に出血し、即死だったはずだ。
本来ならば。
魔鎧と特注の金属が織り込まれたニット帽が彼を護ったのだ。もう運が良かったとしか言いようがない。
シャインヴェイダーの力で徐々に回復していた食人が目を覚ました時、
意識を失うまで敵だったはずのリュシアンはすでにセレンフィリティとセレアナと交戦中だった。
そのまま放ったらかしにされているという事は、もしかして自分は戦死扱いされているということだろうか。
「(なんで俺が死んだ事になっているんだ?
まぁいい。チャンスだ)」
こうして食人はタイミングを見計らい、スカージの光でリュシアンを攻撃したのだ。
溢れてくる血は視界を塞ごうとするがリュシアンはそれを無視して走り距離を取っていた。
「四人相手ですか。少々不利ですね……!」
彼が壁際まで来た時だ。
反対側の廊下から、彼の部隊9名が大将の壁になるように狭い廊下を横に並び塞いだのだ。
「部隊長。ここはお任せ下さい」
「ええ、お願いします」
リュシアンはハンドガンをデコッキングしてホルスターに戻している。
戦いは終わりだという意味だ。
「空調の件なら結構よ!」
「逃げるのか!?」
飛んできたセレンフィリティと食人の言葉に、
リュシアンは三人へまるで絵画の中から抜け出たような微笑みを向けて言った。
「ちょっと双頭の鷲を起こしに。
貴女達を見ていたら、僕もたまに共闘っていうのをしてみたくなったんですよ」
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