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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山

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賑やかな夜の花見キャンプin妖怪の山
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リアクション

 花見会場。

「……ハイナ、本当に視察なんだよな」
「妖怪と人との交流を深めるための仕事でありんす」
 ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)の妖怪の山視察護衛役の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は目立たないようにブラックコートで気配を消しつつモンキーアヴァターラ・レガースで木の幹等も足場にして移動していた。唯斗は騒がしい花見会場に眉を寄せていた。視察はただの騒ぐための大義名分ではないかと。

 その時、
「ここです!!」
 手を振って場所を知らせるルカルカ・ルー(るかるか・るー)がハイナを迎えた。唯斗は声を潜ませ気配を消して待機していた。
 ルカルカの他に何やら野点の準備をしているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に席に着いている金 鋭峰(じん・るいふぉん)と鋭峰の横顔を目が潰れるほど見つめている董 蓮華(ただす・れんげ)がいた。半分は公的な部分が多少あるためかルカルカとダリルは高級スーツに身を包んでいた。
「遅くなってごめんなんし」
 ハイナが陽気に手を振って応えてから鋭峰の隣に座った。
「百聞は一見にしかず、とても綺麗でありんす」
 座るなりハイナは夜光桜を見上げた。ルカルカから花見に誘われ即受けたのだ。
「本当に送迎しなくて大丈夫でしたか?」
 ルカルカが連絡の時に断られた事をもう一度確認した。ハイナと鋭峰の送迎はルカルカ達が高速飛空艇「ホーク」で担当する予定が鋭峰だけとなったのだ。
「心配ありんせん、頼りになる付き人がいんすから」
 ハイナはちらりと唯斗が潜んでいる方向に視線を向けた。
「……頼りになる付き人……大変だな」
 ダリルは誰の事を言っているのか予想が付いているのかハイナの視線の先にいる誰かさんに向かって言った。
「じゃ、ダリル。始めよう。さっさと始めないと、いつあの二人に巻き込まれるか分からないからね」
 ルカルカはここに来てすぐに知らされた狐火童の事と双子の事を思い出し、ダリルを急かした。度々双子に巻き込まれているためか今回も平和で終わるわけが無いと固すぎるほどに信じている。
「……確かに」
 ダリルはそう言うなり野点を始めた。ルカルカも茶の心得はあるが、今回はダリルが担当。
 光る花びらの中、略式の野点が始まる。
「……」
「……」
 鋭峰とダリルは互いの心を目によって会話していた。
 こうしてルカルカが鋭峰を誘ったのは少しでも楽しむ事が出来る機会を作りたいと思っての事だと鋭峰の理解者であろうとしている事、鋭峰は諸用が無いからと誘いを受けるが、多少なりともルカルカのその心を知ってルカルカとの信頼関係を築いているのだと。ダリルはその全てを見抜き、鋭峰はダリルがそれを知っていると分かっていた。
「……」
 ルカルカは神妙な顔でダリルと鋭峰を見るばかりだった。
「……ふむ、この茶菓子なかなかだな」
 鋭峰は焼き菓子を一口食べ、満足そうな感想を口にした。その声の調子は平坦だが。焼き菓子を用意したダリルは鋭峰のために甘さを控え目にしておいたのだ。
「美味しかったでありんす」
 ハイナは出された焼き菓子をがっつりと食べ終えていた。
「ハイナ、これを!」
 タイミングを見計らったようにルカルカがハイナに風呂敷に包まれた長方形の箱と花束を手渡した。
「わっちに?」
 花束を隣に置き、ハイナはまじまじと風呂敷に包まれた箱を見た後、小首を傾げた。プレゼントを貰うような心当たりが思いつかないようであった。
「誕生日が近いと聞いたので団長と相談してこれを」
 ルカルカは笑顔で言った後、黙々と焼き菓子を食べる鋭峰に視線を向けた。
「何でありんすか?」
 ハイナは誕生日プレゼントに心躍らせながら風呂敷を広げ、中の木箱を開けた。
 中身を確認した途端、ハイナは歓声を上げた。
「おおっ!!」
 中に入っていたのは、酒器(お猪口・とっくり)セットだった。酒器にはハイナの入れ墨と同じ模様が青一色で描かれているだけのシンプルな物だった。シンプルではあるが、デザインは発注した物であり魔法含有で頑丈さも増しているのでそれなりの値段がするオーダーメイド品だったりする。
「お酒が美味しく飲めるようにと選んだ物です。団長に頑丈で飽きずに長く使えるデザインが良いだろうと助言して頂いて……」
 ルカルカは素知らぬ顔で夜光桜を見ている鋭峰に目をやった。

「ありがとうございんした」
 ハイナはルカルカと鋭峰に感謝を述べ、嬉しそうにお猪口を隅々まで眺め回している。
「……気に入ってくれたか」
「当然でありんす! これからもよろしくお願いしんす」
 素っ気ないながらも気に懸けている様子の鋭峰にハイナは感謝とこれからも仲良くしたいと握手を求めた。
「……あぁ」
 拒む理由など無いので鋭峰はハイナと握手を交わした。
 教団と葦原明倫館のお偉いさんの交流が何気にされていたり。この先何があるか分からないため他校と仲良くする事は互いに良い事だ。ルカルカの目的もこれだったりする。
「……(少しは総奉行らしい事をしているな)」
 護衛役の唯斗はすぐに花見だ酒だと騒ぐと思っていただけに少し驚いたりしていた。
「あとはこれで酒とかつまみがありんしたら……」
 ハイナはちらりと隠れている唯斗に向かってわざとらしく酒を所望する。
「……(酒とつまみって視察じゃなかったのかよ)」
 心の内で文句を言いながらも唯斗はハイナの為に酒とつまみ調達へ走った。
「この山も少し平和になって良かったですね。まるでケンカした後仲直りした兄弟のようで」
 ルカルカは先の事件について自分なりの意見をハイナに言った。
「そうでありんすね」
 ハイナは周囲の賑やかさに目を向けつつ軽く答えた。
 その時、がさごそと草むらが揺れたかと思ったら小さな妖怪達が現れた。
「あっ、妖怪!」
 真っ先に発見したのは蓮華だった。小さな妖怪達は陽気に踊りながら歩き鋭峰やハイナの周りを取り囲む。
「草履にカラ傘、提灯、茶碗、しゃもじ、付喪神ですね」
 ルカルカは頭部に見覚えのある妖怪ばかりに正体がすぐに分かった。
「花見の賑やかさに引き寄せられたんだろう。そもそも妖怪は隠里のように場所を妖怪として捉え……」
 ダリルはそう言うなり少々小難しい話しを始めた。
「しかし、面白いでありんすね」
 ダリルの話をそこそこに聞きながらハイナは面白そうに茶碗妖怪をピンと指で軽く弾いた。茶碗妖怪は可愛らしく少しよろめくも踊りを続けた。

「ところでお二人が大切にしている物って何ですか?」
「すぐには思いつかないでありんす。でもこれには憑きんすよ」
 ハイナは一瞬思い悩む姿を見せたかと思ったらプレゼントを手に持ち、声を弾ませた。よほど嬉しかった事が見て取れる。
「喜んで貰えて嬉しいです!」
 贈った者としてルカルカはハイナの喜びようがとても嬉しかった。
「……特に無いな」
 鋭峰の答えか彼らしいものだった。ハイナとは正反対である。
「そうですか」
 鋭峰の事を知り、慕うルカルカはそれほど気を害した様子は無く、鋭峰らしいと思っただけだ。ただ鋭峰の答えはそれで終わらなかった。
「……しかし、人は大切だと考えている」
 鋭峰はルカルカ達や蓮華に視線をさっと巡らしながら淡々と自身の大切なものを語る。人がいなければ何かを成す事など出来ないと、遠回しに仲間を大切に思っていると表現していた。明確にそれを言葉にしないのが鋭峰らしいのだが。この場にいる者は皆それを察していた。
 それから狐火童が遊び回る中も何やかんやと話し込んでいた時、
「は、花束が盗まれたでありんす!!」
 ハイナが贈られた花束がいつの間にか無くなっていた事に気付いた。
 慌てて周囲を探すハイナ。
「……あれではないか」
 鋭峰が犯人を見つけた。示した先には花束を抱え、飛び回る狐火童。
「狐火童は泣いて遊びをせがむ妖怪のはず。という事は……」
 ルカルカは悪さをしている狐火童の様子にとても思い当たる事があり、ダリルの方に視線を送った。
「おそらくあいつらが悪さをしているんだろう。物取り遊びだとでも言えば簡単に狐火童を言い聞かせる事が出来るだろうからな。懲りる事が無いな」
 ダリルは呆れたようにあいつらに対してため息をついた。
「……花束はすぐに取り返して来ますから団長とハイナはゆっくりしていて下さい。蓮華、お願い」
 ルカルカは蓮華に後の事を任せ、ダリルと共に花束奪還とあいつら事双子をとっちめに急いだ。ルカルカ達にとってすっかり馴染みの展開であった。