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王子様とプールと私

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【キロス、モテ期到来中?】

「あ、キロスさん! こんなところで会うなんて」
 キロスがヴァレリアの覚えた変な知識を訂正していると、そこにマリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)が通りかかった。テレサ・カーライル(てれさ・かーらいる)と一緒である。
「キロスさんもお友達と一緒に遊びにきたの?」
「あら、違いますわよ。わたくしはキロス様とデート中なんですの」
 キロスが声を上げる前に、ヴァレリアが口を挟んだ。
「へえ、キロスさん、今日もデートの練習なんだ。それなら、このプールは練習にちょうどいい場所だね」
「練習ではありませんわ。結婚を前提としたデートですの」
「結婚……」
 至極真面目な顔で答えるヴァレリアを見て、テレサが面白いものを見つけた、とばかりに口元を歪ませる。
「え、キロスさんはに香菜さんという、両思いの人がいるんだよ?」
 一方、目を丸くしたマリカはヴァレリアに告げる。
「いや、香菜とのことは別にそんなんじゃ??」
 慌てて弁解しようとするキロスの隣で、ヴァレリアがショックを受けたように固まっていた。
「わたくしを助ける前に、他の方を助けていた……ということですの? つまり……重婚!?」
「……は?」
「そっか、最近は重婚なんてのも流行ってるみたいだけど……まさかキロスさんも!?」
 キロスの言葉を遮るように、ヴァレリアとマリカが見当違いな方向へと話を持っていき始めた。
「そうよね、強い王様は側室を置くというしね……エリュシオンでも普通なのかな」
 どこから訂正したら良いものやら分からずポカンとするキロスに、マリカは複雑そうな表情を向けた。
「あら、マリカさんも重婚に加わりたいのかしら?」
 テレサが横から茶々を入れる。
「正妻の座は香菜さんで揺るがないとして、第二妃は先にデートしたマリカさん……となりますよね?」
「はっ……では、わたくしは3人目の女……ということになりますわね」
「でも、キロスさんは他の方ともデートの練習をしてるよね? 何人と重婚することになるのかな……」
「わたくしは第何妃でも構いませんわ。おとぎ話には第何妃か、なんて書かれていませんもの」
 訂正する間もなく、どんどん話の流れがおかしくなっていく。
「で、結局どうしたいんだ俺を……」
 キロスが頭を抱えた瞬間、近くを歩いていた女性が、ふらっ……とキロスの胸元に倒れ込んできた。すぐにキロスは女性を抱きとめる。
「おい、大丈夫か?」
 女性は薄く目蓋を押し開いて、キロスに弱々しく微笑みかけた。
「あの……ありがとうございます。私ったら、ちょっと体調が優れなくって……」
 照れたように色白の頬を染めるのは、黒髪の美しい女性である。清楚な雰囲気に、思わずキロスはドキッとする。
 ……その女性が、桃幻水で外見を変え女装した高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)だとはつゆ知らず。
「助けて下さってありがとうございました。あの……よろしければ、お礼にお茶をごちそうしたいのですが……」
 宮司美沙と偽名を名乗った玄秀は、相変わらず騒いでいるヴァレリアとマリカたちも一緒にカフェへと誘った。