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通り雨が歩く時間

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第二章 交流を楽しむ通り雨


 イルミンスールの街。

「……ここは何処でしょう?」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は困り顔で周囲を見回す。
「イルミンスールよ。空京に買い物に行くはずじゃなかったの? 行きたい店があるって言うから道案内を任せたのに」
 フレリア・アルカトル(ふれりあ・あるかとる)が冷静に現在地を伝え、こうなった経緯に対して指摘をした。
「でもいいですよ。元々特に欲しい物があったわけじゃないですから。むしろイルミンスールでよかったですよ。色々空京にはない店があるはずですから」
 指摘されてもヴェルリアは能天気で今の状況を受け入れていた。そもそも極度の方向音痴なので目的地につけなかったのは仕方が無い。
「……まぁ、ヴェルリアがそれでいいなら別にいいけど。ただ、自分の妹ながら呆れるわ」
 フレリアは呆れの溜息。
「ほら、フレリアお姉ちゃん、あそこの雑貨屋さんに行きましょう」
 フレリアの呆れなどどこ吹く風、ヴェルリアは近くの雑貨屋を発見して歩き出した。
「はいはい」
 フレリアは来てしまったのは仕方が無いと付き合う事に。放って置くとまたどこかに迷い込みそうだから。
 姉妹仲良く雑貨屋で可愛らしい小物を見て回ったり石屋で魔法石を見たり花屋を覗き、ぶらぶらとウィンドウショッピングを楽しんだ。

 花屋『シャビー』を出て軒下、
「フレリアお姉ちゃん、次はどこの店に行きますか?」
 ヴェルリアは楽しそうに訊ねた。何せフレリアと一緒の店巡りなので余計に楽しい。
「どこでも……あら、雨?」
 フレリアは答えようとするも言葉は突然降り始めた雨に飲み込まれた。
「ですね。でも不思議な雨ですよ。光ってますし、鈴の音がします」
 ヴェルリアは手を伸ばして輝く雨を手の平で受け取る。
「おかしな雨だけど通り雨ね。強くなる前にどこかに避難した方がいいかもしれないわ」
 フレリアは青空を見上げながら言った。
「それじゃ、近くの喫茶店に入って何か食べましょう」
「良い案だけど、この周囲には無さそうよ」
 ヴェルリアの名案にフレリアは周囲を見回し、溜息をついた。近くの店に行くにはたっぷりと雨を浴びる必要があるのだ。
 そんな困った時に
「お姉ちゃん達、傘持ってないの?」
 元気な少女の声が二人の耳に入って来た。
「……石屋にいた子ね」
 フレリアは新品の長靴に傘を装着した少女に見覚えがあった。石屋『ストッツ』に立ち寄った時にいた5歳のシャンバラ人の子供だと。
「キーアだよ。ほら、新しい長靴と傘だよ」
 キーアは笑顔で名乗り、くるりと一回転して傘と長靴を自慢した。
「素敵ですね。買い物ですか?」
 素直なヴェルリアは手を叩いてキーアの相手をする。
「冒険だよ。だってこれ使いたかったから。良かったら貸してあげるよ?」
 キーアはにっこり答えた後、差していた傘をヴェルリア達に渡そうとする。
「いいんですか?」
 ヴェルリアはすぐには受け取らず訊ねた。あれほど気に入っていた傘をあっさりと貸し出したものだから。
「いいよ。アタシ、レインコート着てるもん」
 キーアは着込んでいるレインコートを見せながら言った。
「それじゃ、ありがとうございます。フレリアお姉ちゃん、入って下さい」
「えぇ。喫茶店に行ったら返すわね」
 ヴェルリアはキーアから傘を受け取り、フレリアと一緒に仲良く傘の中。
「……喫茶店……そうだ。いいお店教えてあげる。付いて来て!」
 フレリアの言葉で何かを閃いたキーアはヴェルリア達に一言言うなりどこかへ案内を始めた。

 案内を始めてしばらく。
「ここだよ。紅茶もケーキも美味しいんだよ。冒険中に見つけたんだ!」
 キーアが嬉々としてややこしい道を通り案内した先には古めかしい明らかに流行っていない店の前だった。
「……営業しているのでしょうか」
「……どうかしらね」
 ヴェルリアとフレリアは素直な感想を洩らし、キーアに付き添う形で店内に入った。

 店内。

「マスターさん、お客さん連れて来たよ」
 キーアは店に入るなり元気な声で唯一の店員に挨拶をした。
「おや、キーアちゃんか。また冒険かい。あぁ、これはいらっしゃいませ」
 カウンターにいた狐の獣人で中年の男性がキーアとヴェルリア達を笑顔で迎えた。
「ほら、お姉ちゃん達、座って」
 キーアは適当な席に座るなりヴェルリア達を手招きした。
 言われるまま席に座るなり
「……静かね」
「……お客さんいませんね……一応、迎えに来て貰えるようにメールしておきますね」
 フレリアは自分達以外に客がいない店内を見回し、ヴェルリアは柊 真司(ひいらぎ・しんじ)にメールを送った。
「場所のせいか、なかなか来ないんだよ。まぁ、穴場みたいな?」
 マスターは陽気に笑い、ヴェルリア達の注文を伺いに来た。
 ヴェルリア達は、適当にケーキと紅茶を注文した。他に客がいなかったためかすぐに料理が運ばれた。
 そして、
「……この香りとても和むし美味しいわ」
「ケーキも美味しいです」
 フレリアは紅茶を楽しみヴェルリアはケーキに大満足だった。
「でしょう。マスターさん、ほら、見て、新しい長靴だよ!」
 キーアはヴェルリア達の様子に嬉しくなった後、マスターとお喋りしに行った。
 ヴェルリア達は雨が止むまでゆっくりと静かな音楽が流れる店内で和んでいた。
 雨宿りを始めてどれぐらいか経った時、
「……雨、止んだみたいね」
 フレリアが窓の外が静かになっている事に気付いた。
 そこでヴェルリア達はキーアと共に店を出た。

「フレリアお姉ちゃん、虹ですよ」
 店を出てすぐ頭上の変化に気付いたヴェルリアが大声を出して知らせた後、携帯で写真を撮って保存をした。これまでに見た事のないほどの美しい虹を。
「綺麗だね!」
 キーアも興奮したような声を上げ、じっと虹を見つめる。
「……そうね」
 フレリアも虹を見ながら今日一日悪くなかったと思っていた。
 途中でキーアと別れてヴェルリア達は迎えに来た真司と共に帰宅した。

 イルミンスールの街。

「うわぁ、雨だよ」
「通り雨だからすぐに止むとは思うが、それにしてはおかしな雨だな」
 買い物に来ていた遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は慌てて近くの店の軒先に避難し、妙な雨を眺めていた。
 ふと
「羽純くん、ここ雑貨屋さんみたいだよ。見ていこうよ」
 歌菜は雨から店の方に視線を向け興味を抱いた。
「そうだな」
 羽純は賛成した。いつ止むのか分からない雨を突っ立って見守るよりは店で楽しむ方がずっと有意義だから。
「こんにちは〜」
 歌菜は店のドアを開いて羽純と一緒に入店した。雑貨屋『ククト』に。
 ちょうど、先客が盛り上げている所だった。