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【原色の海】樹上都市の感謝祭

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【原色の海】樹上都市の感謝祭

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第1章 感謝祭のその前に。


 幾つもの青が重ねられた“原色の海”(プライマリー・シー)中央に浮かぶ島、自由交易都市ヴォルロスより東。
 波間の下から伸びた大樹によってできた海上の森は、ドリュス族と呼ばれる花妖精たちと守護天使たちが住む樹上都市だ。
 かつて無人だったこの森はをはじめに住処と定めたのは、ティル・ナ・ノーグから渡って来た花妖精たちだったと伝えられている。
 原色の海の底、パラミタノ水源の一つ――そこから染み出した、浄化されぬ魂の穢れが生み出した怪物によって荒れ果てたこの森を、守り育てようと決めたのだと。守護天使たちはそんな彼女たちを守ろうと決めたのだと。
 だからだろうか、いかにもか弱く力ない彼女たち自身は、海の穢れの影響を受けた怪物たちに対抗する手段は持ち合わせていなかったが、
「初代のドリュアス・ハマドリュアデスが一度この森を復興しています。先例があるのですから、きっと私たちにもできます」
 族長ドリュアス・ハマドリュアデスは菫色の髪を揺らして、菫色の瞳で笑いながらそう言った。
 初代の、という言葉に疑問を抱き、フランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)の個人的なメイド・菫の花妖精ヴィオレッタに聞いてみると、族長は森の中心たるオークの大樹の声を聞く花妖精から選ばれるが、選ばれた時にこの名を継ぐのだという。だから白い菫を咲かせた花妖精である現族長は、族長になる前には個人の名があったし、族長の花妖精も薔薇であったり、ラベンダーだったりジャスミンだったりしたのだそうだ。
「そういや今の族長さんはお幾つなんだろうな、ずいぶん若くて可憐なお嬢さんに見えるけど……」
 白く長い衣を引きずるように歩くドリュアスは、十歳くらいか……せいぜい十代前半に見えた。彼女を眺める船医の視線に、ヴィオレッタは不快そうに口をへの字にして、
「あんたの出る幕なんかこれっぽっちもないのですよ。一人だけぶらぶらしてないで、さっさと荷物運びのお手伝いでもしてくるがいいのです」
 と、ツンと澄ましてそう言った。
「へいへい、仕事に戻りますよ。あーあ、どうせ今日は救護所でヒマしてるだけなんだろうなぁ……」
 ぼやきながら船の甲板を歩き出した彼は、そうだ、途中で部下に代わってもらおう、とナンパの計画を練りつつ、積荷を海面に設けられた桟橋に下ろしている仲間を横目に、百合園の生徒たちの方へ歩いて行った。
「よっ、お嬢さん方、手伝うことないかい?」
「ありがとう。じゃあここの一山だけ手伝ってくれる? 桟橋の隅に積み上げてね」
 お嬢さん――レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は船医に軽くそう言うと、自分でもうんしょと重い袋を持ち上げた。
「よいしょー!」
 どさっ。
 元気な掛け声とともに百合マークの袋を、甲板から桟橋を往復しながら積み上げていく。
「よーし、次はこっちの小麦粉……うーん、何か粉が多いなぁ? レベッカ、数えてくれる?」
 レキが振り返った場所、樹を取り囲むように設置された螺旋階段と桟橋との間に、一人、女性が立っていた。
 23歳のレベッカ・ジェラルディ。本来存在し得ない存在。20歳で海でレベッカが死んだ後、錬金術師の“父”によって作られた、レベッカのクローンだ。
 どこを眺めるでもなくぼんやりとしていた彼女の手の中にはやたら高価そうなクリップボードがあり、数枚のA4用紙がひらひらと夏の終わりの風に揺れていた。
「レベッカー? 数が合ってるか、数えてくれる?」
「あっ、ええ……」
 レキは大股歩きでひょいひょいと桟橋を歩くと、再び船の上に戻ってまた新しい袋を持ち上げた。力仕事は性に合っている。
「分からなかったら聞いてねー?」
 レベッカは頷くと、めくれる紙を指で抑えて数を数え始めた。
 そう、レベッカとレキは呼んだ。
 クローンであり、本物ではないことは、レキも他の皆も知るところとなっていた。しかし、誰もが彼女のことをレベッカと呼んでいた(今は獄中のジルドを除けば、だが)。本物のレベッカが長らく人前でレジーナと呼ばれていたから、であろうし、今のレベッカを偽物と、別の名で呼ぶのも本人を刺激するのだと思われたのかもしれない。彼女は自分で望んでここにいる訳でもない。
 今の彼女は、百合園に身分を預かられることを承知はしたけれど、ぼんやりと無気力で、どうでもいい、という態度をしばしばとっていたし、人に交わらず言葉少なだった。
 事情を知らない百合園生の中にも、微妙な空気を感じ取ってかそんな彼女に腫れ物に触るような態度をとったり、或いは関わらないようにする生徒も多かった。
 事件の加害者の一人、と知っている者からすれば、余計どう扱っていいか解らない者もいた。
 しかしレキはあえて彼女を、そして誰とも、区別なく接している。
(辛い想いをしたのはこの水域の人達も同じだし。事件の中心にいようが外側に居ようが、皆同じ輪の中だもんね。ボクも輪の中で自分のすべき事をしてきたつもり)
 海軍の兵士の中にも漂う、持て余したような空気も感じるが、あえてそれは気にしないでおく。
「にしても、これが薄力粉でしょ、今度は強力粉? 本当に粉モノが多いなぁ……レベッカ、これで大丈夫?」
「……合ってるわ」
 何を作る気なんだろう、と思いつつ荷物を運び終えて時計を見ると、
「あっ、そろそろ着替えてこなくちゃね! 数え終わったらここはもうオッケーだから!」
 レベッカに言い置いて、レキは船内に入っていった。百合園生用の更衣室になった一室でささっと着替えて、戻って来た時、まだ桟橋にいたレベッカはぷっとふき出して口元を抑えた。いや、ここに来るまでにもう周囲の軍人さんに注目されまくっていたのだが。
「何それ……おかしい」
「え? おかしい?」
 とぼけて言ったレキの姿は――まさに、「大根」だった。仮装と言っても何も舞踏会でもお祭りでもなく、仮装大会に出かける、といったような。
「レキさん、あちらに行くならこれをテーブルに届けて……ゆ、百合園生としてのひ、品位……をっ……」
 顔を出した生徒会長アナスタシア・ヤグディン(あなすたしあ・やぐでぃん)もふき出した。
「って、足見ないでよ!」
 レキは白いタイツをはいた足を後ろに下げて、抗議する。そのレキが笑ったり口を尖らせたりするたびに、アナスタシアは笑いをこらえるのが大変だった。青首大根そのままの仮装の、ちょうど青首に当たる部分が丸くくり貫かれて、そこに顔を出していたからだ。
 頭の上には髪の代わりに緑の葉っぱを出して、その更に上に白い大根の花を咲かせてる。
 レキは地球には根性大根って話があってね、と話をして、大樹も根性で立派に乗り切って欲しいんだ、と彼女たちに真面目な顔で言った。
「ちゃんと聞いてる? ……それと、花なんだけど。野菜の花ってあまり見る機会がないから、知らない人も多いんじゃないかって」
 準備でも、パーティに行ってからも、レキは歩くたびにたちまち注目の的となって、見た人たちを笑顔にしていった。
 ――散々笑われているけれど、面白がられてるんだからいいや。笑ってくれたらきっと癒せる傷だってあるはずだよ!
 大根を知らない小さな子に説明したり、しっぽを掴まれたりしながら、レキは笑顔で手を振りながら、お祭りを楽しんだ。


 アナスタシアは、レキの大根の後ろ姿を見送って、笑いをやっとおさめると、レベッカからクリップボードを受け取った。
「これで荷物は全部ですわね。では今度は皆さんの進捗状況を確認してくださらない?」
 そうして新しい、自分の持って来た一枚の紙を手渡す。
「予定表ですわ。各自の……名前と顔は一致してらっしゃるかしら?」
 いつも高飛車なアナスタシアだが、彼女の様子を伺いながらなのか、少々ぎこちない。
「覚えてなくても、大丈夫ですよ。皆さん自分から名乗ってくれますよ」
 と、横から助け舟を出したのは橘 舞(たちばな・まい)だった。
「私たちもお手伝いします。わからないことがあったら、なんでも聞いてくださいね」
 舞の後ろからブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が「何を勝手に約束してるのよ」、と口を出したが、気にしない。
「レベッカさんは、これから大変かもしれませんけど、アナスタシアさんをはじめ、百合生は皆いい人達ばっかりですから………焦らずにゆっくり、自分の進む道を考えればいいと思います」
「自分の進む道……?」
 怪訝げなレベッカに、ええ、と舞はにこやかに応じる。
「えっと、ブリジットも……その、口は悪いですけど悪気は全然ないんですよ。今の私がいるのも、ブリジットのおかげですし。レベッカさんもいずれ運命的な誰かと出会えると思いますよ。あんがいもう出会ってるかも知れませんけど」
 にこにこ顔の舞に、ブリジットは呆れたようだった。
 毎回毎回、親切なことだと思う。舞のお人好しな部分は嫌いじゃないが、このレベッカは、ちょっと前まで、こちらが死のうが知ったことではない、というような態度の、敵だったのに。
 といっても、「今は」敵対しない人間に燻っているかもしれない火にわざわざ油を注ぐことはないわけで……。
 そのせいか、ブリジットは視線を外して、親切心をアナスタシアに向けてから跳ね返す、という妙な使い方をする。
「とりあえず、アナスタシア」
「あら何ですの?」
「前にも言ったけど、真実は常に一つで、時には、知らないほうがよかったって思える時もあるわ。それでも真実を追求する、それが私たち探偵の仕事だから……」
 ブリジットさんが素直に……、と、ちょっとアナスタシアは感じ入ったようだったが。……が。
「……なんて言うわけないでしょ!」
「はっ?」
 虚を突かれて目を丸くするアナスタシアに、ツンと横を向いて。
「まったく、私がレベッカの計画を見抜いてなかったら――少し外れたけど、想定の範囲という名の誤差よ――、百合園の生徒会長の名前が新聞の三面記事を飾ってるところよ。ねぇ、レベッカ? あなたからも何か言ってやってよ、このヘボ探偵に」
「ヘ……ヘボ!?」
 抗議は無視しておく。
「まぁ、私には通じなかったけど、あなたの方がむしろ探偵とか向いてるかもしれないわ。いっそ、助手になってあげたら? 迷子の犬探しさせたら自分が迷子になりそうな人には有能な助手はいると思うのよ」
 早速ブリジットに非難をするアナスタシアをさらりと無視するように、彼女はレベッカに話しかけた。
「助手……?」
「迷子になんかなりませんわ!」
 まぁまぁ、と舞が間に入ってをたしなめる。
「アナスタシアさんとも別に仲が悪いわけじゃなくて……探偵の仕事って、困っている方を助ける素敵な仕事だと思ってますけど、時々知らなければよかったって思うことも知ってしまうことがありますから……今回は真相次第では真実を知ったアナスタシアさんが傷つくんじゃないかってことをブリジットは心配してたんですよ」
 そんなの思ってないわよ、とのブリジットの言葉をまた舞は無視した。
「まぁ、本人はツンデレさんなので否定しますけどね」
 アナスタシアは胡散臭いものを見るような、疑わしげな視線を舞に送る。
「舞さんはいつもそうやってブリジットさんを良く見ようと……善意に解釈しますわね。全く、通訳みたいなものですわね!」
「通訳だなんて失礼じゃない? 別の言語を喋っているとでもいうの?」
「あら、顔を合わせる度に何かと罵られてる気がしますわ」
 口論が再開したが、喧嘩するほど仲がいいのでしょうね、二人をにこにこ見ながら、舞はレベッカに、
「探偵の助手はともかく、生徒会のお手伝いとかいいかもしれませんよ。人の役に立てますし、それにティータイムには美味しいお茶も頂けますよ」
「人の役に立てる……?」
「そうですのよ、皆さんで舞カップを持ち寄って……」「古い話を持ち出さないの」
 今まで妹のため――ひいては父のためにだけ過ごしてきたレベッカには、もう、「誰かのために」何かをするという発想がなかったのだろう。
 意外そうに舞の言葉を聞いている。
「流石舞さんですわね、それはいい案ですわ」
 アナスタシアがわざわざブリジットの方を見ながら言うので、舞は困ったように笑った。

 そこに、颯爽とやって来たのは桜月 舞香(さくらづき・まいか)だった。今日はお手伝いに徹するつもりなのか、メイド服姿だった。
 今日は主にキッチンやテーブル周りを担当している。
「あら、アナスタシア会長、ごきげんよう。お仕事はいかがです?」
「ええ、一区切り付きましたわ」
「それは良かったです。あちらで一息つかれてはいかがです? ――今、お茶をお淹れしますね」
 舞香は近くの椅子を勧めると、小さな皿の上に乗せたクッキーをアナスタシアの前に置く。不恰好な豚のかたちのクッキーを眺めている間に紅茶をこぽこぽとカップに注ぎいれた。
「これは豚……?」
「違います、猫なんですよ」
 くすりと笑う。
「このクッキー、レベッカが焼いたんですよ。試食してあげて下さいな」
「あら、何時の間に……?」
 焼いた、と言っても、レベッカはちょっと型抜きを手伝っただけで、殆ど舞香が作ったものである。味の方は大丈夫だ。
「さ、レベッカ。この辺りの支度を整えちゃいましょう」
 お祭りになれば、他都市からの来客で樹上都市に人が溢れかえる。どこからでもお祭りや樹が眺められるように、休めるように、都市のあちこちにガーデンテーブルとチェアが並べられているのだった。
「こう見えてもあたしも一応はメイドの経験あるのよ? お仕えしてるはずのパートナーの綾乃の方が家事上手いから凹むのよね………あ、あたしは家事でも、お掃除とかの力仕事の方が得意なのよ!」
 ふざけて、おどけてみせるのは、レベッカに少しでも笑顔が戻るようにという配慮だった。
 いくらなんでも生まれてから笑った事が無いわけではないだろう。少なくとも、今の彼女になる前には。
「配置はこんな感じよ。大丈夫かしら? 家ではどんな手伝いしてたの?」
 レベッカは妹の世話を一通りさせられていた、とはいえ洗濯や食事の支度などはほぼすべてメイドが行っていたためか、限定的な経験しかない。舞香は段取りを教えながら訊ねた。
「主に錬金術の手伝いをしていたわ……それから、妹の世話を。体を拭いたり」
 死者の世話というのはぞっとしないが、舞香は彼女が「そういう暮らし」をしてきたからだろう、とあっさりと納得した。
 一度は敵対したわけで、馬車から蹴り落としたりもしたがが、今は百合園の仲間なのだ。本人の冗談通り肉体派……あっさり切り替えてしまえるところが、彼女のいい所なのだろう。
「――ところで会長、まだ探偵やるおつもりなんですか? 琴理お姉さまが頭抱えてましたよ」
「まあ、桜月さんまで」
「まったく、監視が必要なのは会長のほうなんじゃないかしら……。そういえば、結局探偵団の名前って決まったんですか?」
「まだですわ。案はいただいてますから、じっくり悩んで決めたいと思いますの。今度事務所の看板を作ろうかと思ってますのよ」


 屋外に置かれた無骨なダッチオーブンの、温度を確かめながら、藤崎 凛(ふじさき・りん)が大きな丸焼き用の鶏を両手に抱えた。肉の表面には香草やスパイスがまぶされ、いい香りがする。それを入れて重い蓋を閉めてから、彼女はオーブンから顔を上げた。
 ミトンを側の作業台に置いて、捲った袖を戻しながら、軽く息を吐く。
 シェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)は区切りのいいところと見て、パートナーに声を掛けた。
「リン、ちょっといいかい?」
「なあにシェリル?」
 テーブルにセットする花瓶やらスパイスやらの入った箱を床に置いて、シェリルは彼女に近寄った。
「レベッカなんだけど……」
「レベッカさんがどうなさったの?」
 凛は一度、舞香と椅子の位置を整えるレベッカを遠くに見てから、シェリルに視線を戻した。ここからは聞こえない。それを確認したくなるような表情を、シェリルはしていたから。
「確かにパラミタの種族には、クローン技術で生まれ、今も生きている者もいくらかはいる。
 でも、彼らは古代の高い技術で生まれた存在だよ。あのレベッカが生まれた原色の海に、そんな設備はないはずだから……」
 直接的な表現を使わなかったのは、凛の心情を慮ってのことだった。
「生まれて、人のかたちになって、そこに意思が宿って、話せて……そうやって彼女がちゃんと思考し、動ける状態になれたのも奇跡だったのかもしれないんだ」
 凛は彼女に伝えたいがために、レベッカにネックレスを届けるために、必死に馬車から飛び降りまでした。
 そこには彼女に生きて欲しいという願いがあったはずだし、これからも生きていくだろうという思いがあったはずだ。しかしそれが……違ったとしたら?
「そんな……」
 凛は息を呑み、しばしそのままで硬直してから……、意外なことに、にこりと笑った。
「もしそうだとしても……それならなおさら、充実した今を過ごして頂かなければいけませんわ。色々学ぶことも必要ですし、それに……思い出だって沢山作らなきゃ!」
「凛……」
 意外な切り替えの早さに、今度はシェリルが驚く番だった。
 入学前の出会ったばかりの凛だったら落ち込んだままだったろうに。少しずつ成長を感じていたけれど、いつの間にそんなに心も強くなったのだろう。
「もたもたしていられませんわ! さあレベッカさん、丸焼きができるまで一緒にテーブルのセッティングをいたしましょう?」
 女性としても長身のシェリルの、女性から見ても小さな凛の背中は本当に小さかったのに、いつの間にか大きくなっていたんだなぁと思う。
「私も手伝うよ、凛」
 シェリルは小柄な彼女が大きなテーブルクロスを運び出してくるのを半分持ってやりながら、凛がレベッカと明るく話す様子を見ていた。
「私も、百合園に入るまではこういったこととは無縁でしたの。ですから、始めは失敗も多くて……でも、やってみると案外楽しかったですわ」
 テーブルクロスを皺をが付かないようにかけて、その上に味付け用の調味料を置いていく。辛党の凛故か、香辛料が多かった。
「人のためにすることが楽しいことなの? ……はじめは楽しかったわ。でも、それからは苦しみばかりだった……」
「なかなか素敵ですわ。ほら、ここにお花を飾ったらどうかしら? ……美味しいと褒められたり、お礼を言われたり……それが目的ではありませんけれど、誰かに喜んでもらえるのは嬉しいことですわ」
「そんなこと……言われたことなかったわ」
 自分のためでもなく、誰かのためにしても喜ばれることも少なかったレベッカにとっては、新しい発見だったようだ。
「ねえシェリル」
「え?」
「あなたも遠い時代に作られた存在なのよね。でも、どんな生まれ方だって、私の一番の親友なのには変わりないわ。
 今はまだ頼りないかも知れないけれど、いつかあなたにも頼って貰えるように頑張るわ。だから、ずっと一緒にいてね」
 凛の屈託のない笑顔に、シェリルはちょっと自分を自嘲(わら)うように、
「私は、バカだね……」
 凛はシェリルが自分で思うよりも、色々なことを――自分の事を、考えていてくれたのだ。
(私のこと、いつか話すよ。笑い話としてさ……)