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ミナスの願い

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ミナスの願い

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アルディリス

「……結局、ミナスの部屋と思われるところでは何も手がかりはつかめなかったね」
 遺跡都市アルディリスを移動しながら清泉 北都(いずみ・ほくと)はそう言う。以前遺跡都市を探索した時に分かったことを基にミナスの部屋を突き止めた北都だったが、そこには何もない部屋だった。
「サイコメトリでもミナスがいたんじゃないかってことくらいしか読み取れなかったからな」
 5000年もの時を経ても読み取れるとなるとよほど強い感情を残していないといけない。あの部屋でミナスはそこまで強い感情を持っていなかったんだろうと白銀 昶(しろがね・あきら)は言う。少しだけ読み取れたのはミナスの寂しいという感情。それだけだった。
「……っと、ここだよね? ミナの部屋だと思われるところは」
 ミナスの部屋と思われる場所ともう一つ二人が目的としていた場所。粛清の魔女ミナの部屋。繁栄の魔女と対になる存在である彼女の部屋へと北都たちはたどり着いていた。
「……ミナスの部屋もだったけどこっちも一方通行みたいだな」
 人々の祈りがこの部屋へと伝わるようにはなっているが、こちらから届けることはできないようだ。
「……それにしても、ここなんだか妙に生活臭が残ってるね」
 つい最近までだれかがここにいたのではないかと北都は思う。
「とにかく、サイコメトリしてみるね」
 目に付いたものを手に取り北都はサイコメトリを行った。



 私はあの街が、アルディリスが好きだった。
 唯一の肉親である姉と離れ離れになり会えなくなったのは確かにつらかった。
 でも、その姉は繁栄の魔女として人々の尊敬を集めていると思えば誇らしかったし、その裏側を自分が支えているという事実は落ちこぼれと言われていた自分の救いだった。急激に成長していく街を見守るのが、研究者以外の人間と交われない自分の楽しみだった。
 ……今思えばそれは単なる代替行為、勘違いだったのかもしれない。けれど、そうだとしてもそのときの自分にとってそれが全てだった。
 だからこそ、繁栄の魔女である姉がいなくなったときは絶望した。

 落ちこぼれである自分だけでは衰退の力による儀式の返済を満足に行えないから。
 姉に自分のことを見捨てられた気がしたから。

 そんな精神状態では普段よりも力を満足に扱えず、衰退の力を溜めていくばかりだった。
 結果として……

 起こった破産。死に行く人々は繁栄の魔女に救いを求め、災厄である自分を呪う。
 その怨嗟の声の中私は壊れた――

『――いいえ理解した。自分は間違っていたのだと』

恵みの儀式。その中で滅びの魔女、正式には衰退の魔女の役目は儀式の対象を衰退させることにある。それを自分はできうる限り損害が出ないように衰退の力を消費しようとしていた。それは間違っている。
それを理解した時、私はあれほど力に振り回されていたのが嘘のように衰退の力を自由に使えるようになっていた。力の意思と一体になった私は滅びの魔女としてやっと完成したのだ。

「けれどなら、どうして私はあの時ミナスを……姉を殺したのだろう」
 滅びの魔女として存在するのをよしとするのなら繁栄の魔女を殺して儀式を終わらせる必要はないのだ。
「どうして私は今衰退の力を使っているんだろう?」
 力を使わずため続けることがあの村を確実に滅ぼす方法なのに。

『力の意思とともにある私にはそれが分からなかった』



「……これがミナの想いなんだ」
 一言で言うのなら壊れてしまっている。けれど……。
「……ううん。今はそんなことより……昶、何か気づいたことはない?」
「とりあえず分かるのは……形はどうあれミナがニルミナスを滅ぼそうとしていること。それとミナスとミナ……恵みの儀式のために後天的その役目を担わされたことってことくらいだな」
「となると……二人に役目を担わせるような組織……多分アルディリスの運営なんだろうけど……その研究施設みたいなのがこの遺跡にはあるはずだよね」
「だろうな……といっても今の俺たちには現状手がかりはなしだ」
 現状それらしい施設についての報告はない。



 そして北都たちがあると予測した研究施設の前。
「今日こそ封印さんといてこの中を探索なの!」
 その封印を解こうとその存在の報告を忘れていた及川 翠(おいかわ・みどり)は気合を入れる。
「えぇと……翠さんはそのハンマーをひとまずしまってください」
 ハンマーで今にも扉を壊し始めそうな翠に徳永 瑠璃(とくなが・るり)は落ち着くようにお願いする。
「ええー……前はこれで開いたの」
「いや、だからそれは違いますって……」
 結果的にそうなったが、実際はまったく違う。
「まぁ……翠なんだしまともな手段で解決しようとするはずないわよね……でも、こんな場所にこれだけ厳重な封印。何かあるのは確実なんだけど……」
 軽く触れてみただけでもこの封印が遺跡都市の入り口にあった封印とは桁違いの封印だと分かる。あちらもかなり高度な封印であったが、当時であれば解析して解ける術者もある程度はいただろう。翠……もといミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)たちが苦戦したのはそれが5000年前の未知の術式であったためだ。だが、この封印はそういう段階ではなかった。けして解けないように……その先にあるものを知られたくないような、そんな厳重具合だ。
「ふぇ〜……確かにぃ〜、こんな厳重な封印は奇妙ですよねぇ〜……」
スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)もミリアの言葉に同意する。
「とにかく調べられるだけ調べてみましょうか」
 ミリアの合図で三人の調査活動が始まる。
「……ニルヴァーナの色が封印の中に見えるけど……根本的には独自の術式ね。……翠、ひとまずそのハンマーしまいなさい」
 ルーン知識やニルヴァーナ知識で封印の解析を進めるミリア。
「……ぜんぜん知らない術式ですね。……翠さん。ハンマーを振りかぶらないでください」
 ミリアとスノゥの解析を手伝いながら自らも代西洋儀式魔術の知識から解析を進める瑠璃。
「ふぇ〜……難しいの。……ミリアちゃんいきなり物理的手段をだめですよ~?」
 東洋魔術や錬金術の知識から封印にアプローチをかけるスノゥ。
 三人は真面目に封印を解こうと頑張っていた。
「うぅ……みんな邪魔ばっかりするの」
 翠は涙目でそう言う。その台詞は間違っていないが決定的に間違っている。
「……そうね。翠、やっちゃっていいわよ」
 ある程度解析を終え、このままでは封印をとくのは不可能と分かったミリアは翠にそんなことを言う。
「え? 封印さん殴っていいの?」
「だめよ……というか無駄よ」
 見た限り封印には物理的障壁も張られている。これを破るほどの威力をぶつければ遺跡ごと壊れかねない。
「だから、狙うのは封印そのものじゃなくてそっちの壁」
 壁を壊せば封印をとかずとも中には入れるんじゃないかとミリアは言う。
「それじゃ〜私も召喚獣さんで攻撃しますねぇ〜」
 スノゥも壁を攻撃する準備を整える。
「せ〜のっ! なの」
 翠の合図とともに召喚獣とハンマーによる攻撃が壁を襲う。その攻撃は確かに壁を破壊した。
「……え? 壁が修復されて……」
 瑠璃の言葉通り、二人の攻撃によって壊れた壁は一瞬で修復を開始し、入るまもなく元通りになる。
「これは……手ごわいわね」
 壁が直ったこともだが、壁が壊れた先にも封印らしき不可視の壁があった。封印をどうにかしない限り部屋に入るのは不可能だろう。

「その先へは『鍵』がなければ入れませんよ」
「あれ? えっと……村長さんの娘さんなの?」
 現れたホナミに翠はそう聞く。村長に遺跡の調査をお願いするときに何度か見た顔だ。
「どうしてあなたがここに……」
 七歳くらいの見た目の少女がくるようなところではないだろうとミリアは思う。
(……私たちが言うことじゃないわね)
「それより、『鍵』というのはどこにあるんですか?」
 瑠璃は聞く。
「分かりません。おそらくはこの都市が滅んだときに一緒に失われたんじゃないかと思いますが……」
「ふぇ〜……それじゃあ、この先にはいけないの〜?」
 スノゥの言葉にホナミは首を振る。

「ないなら作ればいいんじゃないですか。材料さえそろえば多分作れますよ」


 遺跡都市の研究施設。その扉が開くのはまだ先の話のようだ。