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ニルミナス防衛団

「酷い怪我ですわ……今治療を……」
 酷く傷ついているニルミナス防衛団の男を見つけてユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)は駆け寄る。
「……俺のことはいい。それより村の人たちの避難は……」
 それを押しとどめるように防衛団の男はユーベルが担当していた村人の避難について聞く。
「先ほど、全て終わりましたわ。契約者とあなたたちががんばったおかげですの」
「そっか……なら、治療を頼む。俺以外にも傷ついている奴はたくさんいる」
 ユーベルは頷き治療を進める。
「固まってください、傷ついた方はあたしが癒しますわ!」
 防衛団の男の治療を終えてユーベルは大声で戦っているものたちに伝える。
(みすみすあたしの前で死人なんて出しませんわよ)
 被害を最小限に抑える為、ユーベルはその類まれなる治癒力の全てを費やすのだった。

「歌の効果がそろそろ切れそうね……一気に決めないと」
 戦況を俯瞰し把握したヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)はそう思う。傭兵団は現在花音たちの歌により弱体化している(正確には本来の実力に近づいている)。魔女の加護を取り戻せば契約者はともかくニルミナス防衛団やゴブリン・コボルトの負傷者は一気に増えるだろう。
「攻めは引き受けるわ。あんたたちは……昔の戦い方、もう一度できるかしら?」
 一気に勝負を決める為、ヘリワードは防衛団たちに確認をする。
「できないことはありませんが……あれはボスの指揮があっての戦い方でした」
 奇襲に始まる奇策の数々。それらは全てユーグの指揮があってのものだった。
「ボスほどじゃなくてもあたしが指揮するわ。……やってくれるわよね?」
「もちろんですよ。この村には恩があります。自分たちにできることならいくらでも」
 少しだけ自信なさげながらも防衛団たちは頷く。

 そしてヘリワードの指揮のもとニルミナス防衛団は動く。その目的はトリッキーな動きを用いた足止め。進行速度を遅らせ傭兵たちに隙を作るもの。
(……あとは頼んだわよ。二人とも)
 防衛団の指揮をとりながらヘリワードは信頼する二人の活躍を祈るのだった。

「……で、村にかわいい子いるんだよな? 報酬はその娘ってことでお願いしていいよな?」
「……せめて終わってからそういう話をしなさいよ」
 空気を読まないフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の言葉にリネン・エルフト(りねん・えるふと)はため息混じりにそう返す。二人ともそんな緊張感のない様子ながらも着実に傭兵団たちを無力化させていっていた。
「空賊団は俺に続け!」
 フェイミィは空賊団を率いて一人ずつ確実に傭兵を無力化していく。ニルミナス防衛団の足止めが成功しなかった相手など、遊撃の動きを主にしていた。
 そしてリネンは……
「邪魔よ!」
 『一騎当千』。その言葉を体現したような強さを見せつけ、ニルミナス防衛団により隙ができた傭兵たちを一撃の下に無力化させていく。その戦いぶりは鬼気迫るものがあり、敵に容赦がないのはいつものことにしても、怒りのようなものが見え隠れしていた。
「リネンの奴なんだか怒ってねぇか?……そんなにかわいい娘を報酬に頼んだのが悪かったかね」
 自分が悪いのかとフェイミィは思うが、そんな自分はいつものことだよなぁとも思う。
(ったく、ユーグの奴、何が『俺は最悪の事態を防ぐだけだ』よ。そんなの単なる逃げじゃない)
 戦いが始まる前、リネンはユーグに三番目の方法、つまりミナスの本を早く見つけるようにと喝を入れていた。それに対するユーグの答えがそれだった。いつものリネンであればその後さらに怖い喝をいれるところなのだが、その前にユーグが続けた言葉に踏みとどまっていた。
『俺は何があってもあいつらが……元部下が死ぬ結果だけは認められないんだよ』
 そのためならどんなことでもすると。
『だが……お前らを信じてぎりぎりまで待つ。だから早く見つけてくれよ』
「……邪魔だって言ってるでしょ!」
 もやもやとしたものをぶつけるようにリネンは一騎当千の活躍を続けるのだった。


「なによ……案外防衛団の奴らやるじゃない」
 その指揮を執りながらセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はつぶやく。防衛団たちは傭兵たちに比べれば速さにしても攻撃力にしても、その戦略性にしても大きく劣っている。そんな彼らが一つだけ傭兵団に勝っている部分があった。
「タフさだけはほんと契約者並ね」
 傭兵たちが弱体化しているということもあるのだが、その一点において優れているニルミナス防衛団は契約者の指揮や援護のもと立派に村を守る戦力になっていた。
「けど、油断はできないわ。私たち契約者の力はやっぱり効きにくいみたい」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は自らの『タイムコントロール』が傭兵たちにほとんど効果を見せなかったことを報告する。
「なら、正々堂々と肉体言語で語ることにしましょうか。思った以上に役に立つみたいだしね」
 セレンの言葉に防衛団の男たちは士気が上がる。防衛団の男たちにとって、セレンは畏怖の対象であり、同時に憧れの存在でもあった。自由に生きるセレンの生き方は日陰を生きてきた彼らにとってまぶしい。
「それじゃ、あんたたち、行くわよ」
「援護するわ」
 セレンとセレアナ。二人は歴戦の戦士であると同時に優秀な指揮官でもある。
 セレンは防衛団を指揮しながらその個人戦力を余すところなく発揮し、その勢いに乗り防衛団たちも普段以上の力を発揮する。
 セレアナはセレンと相互に連絡を取りながら、それを部隊単位で援護することで効率の良い戦果をあげていく。
(……もう少し士気をあげるのもいいかしらね)
 少しだけ防衛に余裕ができたところでセレンはそう思い上着を脱ぎ、上半身だけビキニになる。
(ふふん、男だしこんなにきれいな体見せられたら士気も上がるわよね)
 セレンはこれくらいのサービスならしてもいいだろうと防衛団に見せ付ける。その体は確かに芸術品のようだった。
「……姐さん。いきなり脱ぎだしてどうしたんですか?」
 その美しい体に反して、防衛団の反応は薄い。
「どうしたって……サービスよサービス。あんたら頑張ってるし、士気が上がるんじゃないかって……」
「あ、すんません。俺ら姐さんのことそういう目で全然見てないんで」
 防衛団は他にもセレアナ姐さんのほうが嬉しいとか、そういえばセレン姐さんって女性だったなとか散々な言いようだ。
「……あんたら、この戦いが終わったら覚えときなさいよ。死んだほうがましってくらい鍛えてあげるから」
 怖いくらいにきれいな笑顔でそんなことを言うセレンに防衛団はがくがくと震える。
(……本当に敵わないわね)
 セレンの意図とは大きく外れているが、その目的は果たされている。また単なる士気向上でもなく、それはどこか力みの抜けたいい緊張感を持ったものだ。
「ほら、漫才はそれくらいにして。お客さんよ」
 セレアナは優しい気持ちになりながらも気を引き締めるように言う。新たな傭兵団たちがこちらへと向かっているのが分かった。
「それじゃ、さっさと終わらせるわよ」
 セレンの合図。そうして彼女たちとニルミナス防衛団は協力して黄昏の陰影の襲撃から村を守るのだった。


「傭兵たちが退いていく?」
 ちょうど歌が終わりそうなころ。傭兵団はいっせいに退いていった。
「まだ、戦えるようだったけど……」
 セレンは疑問に思う。歌も終わり、これから襲撃が激しくなると思っていただけに違和感がある。
「ま、……今は気にしても仕方ないか」
 退いていく傭兵団を追撃するというのも現実的ではない。
「あとは頼んだわよみんな」
 村の防衛はなった。後は村を救うために動いている契約者たちを信じるだけだった。



「リーダー。良かったんですか? まだ戦えたように思えますが」
 黄昏の陰影の一人は撤退の指示を出したリーダーに疑問を投げかける。
「魔女への義理は果たした。……これ以上戦力を失うわけにはいかない」
 落ち着いた雰囲気を持つ傭兵団のリーダーはそう言う。
「体勢を整えたら地球へと帰る。クライアントがお待ちだ」
 先んじて重要な情報は送っているが詳しい報告が必要だとリーダーは言う。

「忌々しい契約者たち……お前たちの天下ももうすぐ終わりだ」

 小さな村の存亡など興味のない様子で黄昏の陰影は結末を待たずしてニルミナスの地を離れるのだった。