リアクション
リリィの花
「ニルミナスは滅びなかったし、ミナホちゃんも死ななかった。前村長のことは残念だったけど……最悪の結果じゃないよね?」
ネコミナスの店。そのカウンターに座ってアテナは瑛菜にそう聞きます。
「あたしには分からないよ。何が良かったのかなんて。ただ……今のあの子を見るのは少し辛いかな」
「ミナホちゃん、なんだかまた性格が幼くなったよね」
「そうだね。アテナにまた近づいた」
人一人に関する記憶の全て……それも人格形成に大きな影響を与えただろう父親に関する記憶を失ったのだ。むしろ多少幼くなっただけで済んだのは僥倖かもしれない。
「……もしかしたら、ミナホはこうなることを予想していたのかもしれない」
だからこそ自分が死ぬなんていう馬鹿な選択肢を選んだ。……自分が自分のままで死ぬことを。
「それでも私はミナホお姉さんが死ななくて良かったと思います」
コトンとコーヒーを瑛菜の前においてホナミは言う。
「私が始めてお客さんに出すコーヒーです」
見るとホナミに淹れ方教えたらしい沙夢がカウンターの向こうで様子を伺っていた。
「……これ、本当にあんたが?」
素人感想だが、市販されているコーヒーと区別がつかない。基本に忠実……完璧と言っても良かった。
「教えてくれる人が上手だったんです」
事実をただ伝えるようにホナミはそう言う。だが、七才程度に見える少女が教えられただけでこれだけ淹れられるというのは異常だろう。
「ふーん……ま、そういうこともあるか」
ここはパラミタだ。不思議なことなんてそれこそどこにでもあふれている。そんなことよりも……。
「ホナミちゃん、ミナホちゃんのこと『お母さん』って呼んでなかった?」
瑛菜の疑問を代弁するようにアテナは聞く。
「おじいちゃんのことを忘れたミナホお姉さんのことをそう呼ぶのは……正直辛いです」
単純に甘えられる相手ではなくなったとホナミは言う。
「今でもミナホお姉さんのことは好きです。でも、もう母という風には思えないんです」
「それでも、あんたはミナホが生きていて良かったって思うんだな」
「はい。好きという気持ちに嘘はありませんし……いつかまた『お母さん』って呼べる日がくるんじゃないかって……そう思いますから」
それは単なる願望じゃないだろうかと瑛菜は思うがそれを口にはしない。それはきっとホナミという少女の一つの希望だろうから。
「あ、それと今日から私『藤崎 穂波』って名乗ることにしました。字はこう書くんですけど」
そう言ってホナミ……穂波は紙に字を書いて瑛菜達に見せる。
「これって……日本名だよね? いきなりどうして?」
アテナの問い。
「おじいちゃんのことを忘れたくないですから」
穂波はただそう答えた。
「ミナホさん? 何を見ているんですか?」
ユニコーンの住処のそばにある花壇を前に腰をかがめるミナホに鉄心は声をかける。
「いえ……この花ってユリですよね? このあたりではあまり見かけない種類ですけど」
「これは……見た目だけなら完全に日本に咲く白百合と一緒ですね」
パラミタでその上冬に咲いていることから完全に同じとは言えないけれどと鉄心は言う。
「ミナホさんはこの花を植えたのが誰か心当たりがありますか?」
以前、同じ質問をしたとき、ミナホは父が植えたのではないかと言っていた。
「いいえ。全く見当がつきません」
「……そうですか」
やはり、ミナホの中から父親の記憶は完全になくなっているらしい。
「でも……」
寒空に咲く白百合を見つめながらミナホは続ける。
「この花のことはなんだか好きになれそうです」
リアクション「ミナスの願い」をお送りします。
……今回の結末について語ると長くなりそうなので語りません。一言くらい何か書こうと思いましたがやっぱり長くなったので語りません。
今回で粛清の魔女・恵みの儀式編は終了になります。次は休日シナリオです。その後は新たな村おこしシナリオで新事業を、問題発生シナリオではアルディリスの遺産を巡る話をしようと思っています。
今回のご参加ありがとうございました。