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百合園女学院の進路相談会

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百合園女学院の進路相談会
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「進路はもう決まってるんだよね? 変更はないって聞いてるけど……」
 静香が書類に目を落としてから顔を上げると、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の迷いのない視線が目の前にあった。去年の相談会では――相談相手は静香ではなかったが――パラミタに残り、パラミタ中を探検して回ると聞いている。
 生徒たちの中でも、他の思惑に惑わされずにいち早く進路を決めていたのがレキだった。
「ボクは来年が卒業だし、進路は去年の相談会でも先輩に話したように決まっては居るんだ。なのに何で相談に来ているかという事なんだけど」
 静香は分かった、というように頷いて続きを促した。
 レキは紅茶で唇を湿らせると、話し出した。それは相談といってもレキが何かを解決してほしいというのではなく、自身の進路と決意を話すためと、もう一つ……提案だった。
「この学園に来た頃は校長が中心だったと思うんですよ。何をするにも」
「そうだったね」
 最初は男性であることを隠してもいて、ばれたりして、色々ドタバタがあった。
「それが校長先生達の忙しさのせいもあり、周囲の状況が戦いに駆り出される事もあって、白百合会や白百合団としての活動が多くなってきました。勿論その活動が必要な事だと分かっているからボクもお手伝いしているわけですが」
 運動は好きだし、活発なのは自覚がある。だからって好きで誰かをぶちのめしたりするのは話が別だ。
「戦いを経て感じたのは、昨日共に居た人が今日は居ないかもしれない事。笑っていた子が笑えなくなったり、友達と思っていた人が偽りだったとか色々」
「……ごめんね。謝ってどうにかなるものじゃないけど……」
 静香は頭を下げる。
 色々あるのが分かっていて、生徒たちはパラミタに来ている。しかしそのパラミタにも地球にも思惑があって、いい思惑も悪い思惑もあって、仕組まれたことも全くの偶然もあって――けれどやはり、未成年者も多い、学生の身分の契約者たちが最前線で戦わされている。
 校長という後方にいることが多い静香としては、自校の、自分と変わらない年頃の生徒たちを送り出すことが気にならないわけがない。
 今日は先生を責めたり、謝って欲しいわけじゃないんです、とレキは続ける。
「そういうのもあったから、ボクは残りの一年は本来のお嬢様教育をしっかりと学び、卒業したら成人するまで、自分がやりたい事をする事に決めたんです。明日何があっても後悔しないように」
 やりたいことは、パラミタを回って、そしてもふもふを探す旅……だったりするけれど。
 それはともかく。
「その後悔しないという一環で、卒業前に、最初の頃のように、校長を中心とした冒険をもう一度してみたいと思っているのですが……どうでしょうか?」
「……冒険……か」
 静香は少し懐かしそうな、遠い目をした。
「ヴァイシャリーの事もシャンバラの事も、知っていることばかりになって、知らない場所が少なくなっていって……知れば知るほど、冒険する場所も、新しい場所に初めて行くドキドキも、少なくなってきた気がするね」
 契約者たちは、空を飛べる道具を手に入れて、翼が生えて、大地をバイクや車より速く走れるようになって、できることが増える度に怖いものがなくなっていった。脅威は減って、守れるものが増えたけれど。
「……そうだね、またみんなと冒険したい。考えておくよ」