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ジゼルちゃんのお料理教室

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ジゼルちゃんのお料理教室
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リアクション

「うーん、何故かボク一人だけになっちゃったけどぉ……優秀な指揮官っていうのは奥の手を用意しておくものだよねぇ」
 突然、というか遂に食堂に現れた変態微笑みデブこと、ドミトリー。
 その後ろから現れたのはメカ咲耶だった。彼女の腕には――如何なる経緯でそうなったのか分からない――人質の天照が拘束されている。
 その場に駆けつけたキアラと色花は、首を傾げて立ち尽くすしかない。
「なんスかこれ。
 事件は無事解決の筈なのに、なんでロボとかメカとか出てくるんスか!?」
「……一体この状況、どうすれば……」
「おや、色花よ。そんなに慌ててどうしたのじゃ?」
「兄さん! これは一体どういうことなんですかッ!?」
「さ、咲耶めっ!
 ハデス殿からホワイトデーのプレゼントをもらったじゃとっ?!
 べ、別に羨ましくはないんじゃからなっ!」
 分かっているようで状況が全く見えていない様子の奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)の発言に、咲耶は「今はそういう事やってる場合じゃないんです!」と声を荒げる。
 彼等がこんな風に好き勝手に喋り始めるので、食堂に居たお菓子作りの面々も、キアラと色花もどうしたらいいのかわからない。
 しかし困惑する彼等を置いてけぼりに、ハデスとドミトリーは握手を交わしていた。
「頼んだよぉ、メカサクヤちゃん。
 ウィンウィンイっちゃって〜」――因にこのドミトリーの発言の間。ノーンはナオの耳を慌てて塞いでいた。彼にはまだ早過ぎる。
「よし。早速、性能実験といこう!」
 スイッチオン。で再び動き出したメカ咲耶は、皆の視界を奪う猛吹雪を作り出した。
「これじゃ折角作ったお菓子が滅茶苦茶になっちゃう!」
 今にも舞い上がりそうな包装紙を抑えて、美羽が叫ぶ。
「きょ、今日こそ、ハデス殿の役に立ってみせよう!
 べ、別にハデス殿のためではないからなっ!」
「フハハハハ行くぞ咲耶!」
「もおお兄さんッ!」
 ハデスが即席で作り上げたホワイトチョコを撃出す銃を武器に、食堂を暴れ回るメカ咲耶。
 そして彼女に負けじと神奈も天叢雲剣を振るう。
 混乱の中で、色花は右に左に両手を動かしあわあわするばかりだ。
「どうしましょう、仲間の皆さんは違う場所に向かってしまいましたし、天照さんが人質が取られていてはこちらからはロクに攻撃もできません……大ピンチです」
「もーやだ、もーーーやだ。隊長呼ぶ! 隊長に怒ってもらう!」
 キアラが内線電話の受話器に手を掛けた瞬間だった。

いい加減にしなさい!!


 基地内全てに響く程の剣幕に、始めは誰が言ったのか分からず、皆は口をぽかんとあけたままだったが、一人だけ誰が声を上げたのか分かっていたハインリヒが椅子を引いた。
「食堂は食事の為の場所だよ。俺はマナーのなってない奴が大嫌いだ。
 それからジゼルを怒らせる事も」
 ハインリヒの後ろでは、ジゼルが顔から火が吹き出さんばかりに陶器の如く白い肌を、真っ赤に染上げていた。
「キッチンを……皆が作ったお菓子を……ぐちゃぐちゃにするなんて許さないんだから……!
 私今、とっても……とっても怒ってるんだから!!」
 ジゼルが言った直後、歌菜や唯斗、リカイン達が食堂に飛び込んでくる。
「もう容赦はしなくてもいいよな?」
 羽純の光条兵器に服を斬り裂かれたドミトリーを、空かさず唯斗の雷術が襲う。
「ははは、悶えろ非モテ!」
 訓練を怠っていたデスクワーク専門のドミトリーが簡単に落ちる。
 その隣ではハデスがハインリヒの拳を顔面に喰らって壁まで吹っ飛んだ。と、思ったら壁にぶつかる直前にまたも間合いまで入っていたハインリヒは、ハデスの頭を掴むと壁に勢い後頭部を打ち付ける。
「Kopf hoch!!(*元気出せよ)」
 減り込んだ頭を無表情で引き抜いて、もう一度壁へ打ち付ける。
「Bitte laecheln!(*さあ笑って)」
 ハデスの頭が生み出す天井が揺れる程ガンッガンッと壁を叩く音を聞きながら、ジブリールは考える。
(昔のオレに敵対する指令が来なくて良かったよ)
 そして内線を持ったまま顔を青くして様子を見守るしか無いキアラは、思った事をそのまま口から出していた。
「何アレ超怖い……! あの人超ヤバい!!」
「Was?(何?)」
 ハデスの頭から吹き出した返り血を浴びて、振り返ったハインリヒに、キアラは「ヒッ!」と悲鳴を上げるが、彼はそれで無表情だった顔を笑顔に変えた。
「だってこの人すぐ復活したり爆発したりするし。危ないから可能性から殺っとこうかと思って。
 さて、君たちはどうする?」
 見下ろしてきたハインリヒのグレーの双眸に、おもちゃのリモコンを拾い上げた神奈はガタガタと震える手で、メカ咲耶の操作をした。
「さ、咲耶」
「ハ、ハイ!」
「人質を離すのじゃ!」
「ハイ!!」
 天照が解放されるのに、「これで一件落着ですね」と色花が漸く息を吐く。
「……次やったら、斬り裂くのは服だけじゃない事になるかもな」
 こうして羽純が昏倒したままのドミトリーに向けたこの言葉と共に、事態は集結するのだった。