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学生たちの休日16+

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    ★    ★    ★

「うーん、おかしいなあ。ここで待ち合わせのはずなんだが。まさか、またすっぽかされるんじゃないだろうなあ」
 番長皿屋敷の中で、シオン・グラード(しおん・ぐらーど)が待ちくたびれたように言いました。
「もぐもぐ、待ち合わせ……もぐもぐ……ですか?」
 相席となったフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、お菊さんの作ったチャーハンを頬ばりながら、シオン・グラードに聞きました。
「ええ、まあ」
 美味しそうによく食べるなあと、シオン・グラードがちょっと感心しながらフレンディス・ティラに答えます。
「そうですかあ……もぐもぐ……私も……もぐもぐ……待ち合わせなんですけど……」
「来ないんだね。ああ、なんだかよく分かるなあ」
「もぐもぐ……誰かは知りませんが、あなたもチャーハン食べます?」
「そうだなあ。ああ、自分で頼むから。おばちゃーん、こっちにもチャーハン一つー」
「私にもおかわりー」
「はいよー」
 なんだか、意気投合しているシオン・グラードとフレンディス・ティラでした。

    ★    ★    ★

「そこをどけ!」
「お前こそ、そこをどけ!」
「にゃー」
「にゃー」「みゃー」「にー」
 またもや、シャンバラ大荒野のど真ん中で道を譲れ合戦が始まっていました。ちなみに、大荒野ですから、障害物など何もありません。一歩横に移動すれば、楽にすれ違えます。
 見渡す限りの大荒野で、なぜか再び相まみえたナン・アルグラード(なん・あるぐらーど)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)、そして、四匹のニャンルーたちでした。
 えっ、四匹? なんだか増えてませんか?
「ここでまた出会うとはな。ならばやることはただ一つ。今度こそ、山田の方が優秀であると証明してやろう」
「ふむ、ナン・アルグラードよ、またもお主に会うとはな。これはもはや運命と言うべきであろうか。今度こそお主とは決着をつける必要がありそうだ」
 大剣の切っ先をカチャカチャとぶつけ合いながら、ナン・アルグラードとレティシア・トワイニングが言い合いました。その足許では、ナン・アルグラードの従者であるニャンルー山田と、レティシア・トワイニングの従者であるニャンルー・モミジニャンルー・サクラ、が、同じように見つめ合って……、もとい、睨み合っています。ちなみに、ミャンルー・ボタンはレティシア・トワイニングの頭の上に垂れて乗っています。そのため、ボタンに目を奪われがちなナン・アルグラードが、ちょっと劣勢です。
「ミャンルーを盾にするなど、なんて卑怯な!」
 何とか体勢を立てなおして、ナン・アルグラードが叫びました。
「なんだと! 盾にしているのではない。ボタンも戦っているのだ!」
「みー」
 そうだーっと、ボタンも叫びました。うっと、ナン・アルグラードが3センチ後退します。
「そもそも、ニャンルーたちは最初から勝負をつけるまでもない。モミジは掃除、サクラは料理、ボタンは洗濯と、三位一体。そちらの山田の三倍の性能を有しているのだ。どうだ恐れ入ったか」
「ふっ、三匹揃って一人前ではないか、片腹痛いわ」
「三位一体と呼んでもらおう」
「ならば、そもそも、山田と俺とは一心同体。立て板に水、豚に真珠、猫に小判、御飯に鰹節の仲なのだ」
 なんだか、猫たちの自慢をしている以外、会話がかみ合っていません。
「俺が、投げようと思えば、これこの通り……」
 ナン・アルグラードが、思いっきり振りかぶったその腕に、山田がぶらーりとぶら下がりました。
「また投げるつもりか、よーしドーンとおねーさんの豊かな胸に飛び込んでくるがいい。そっちの男の胸よりも気持ちいいぞ、ほれほれほれ」
 レティシア・トワイニングの言葉に、思わずナン・アルグラードと山田が一歩前に踏み出します。
「貴様は来なくていい。我の胸に飛び込んでもいいのは山田だけだ!」
 思いっきり、レティシア・トワイニングがナン・アルグラードを拒絶しました。
「だから、俺と山田は一心同体……」
「可哀相に。どうせ一心同体になるのであれば、我と一心同体にならぬか。ほーら、こっちへおいでおいで」
 レティシア・トワイニングが、山田を手招きしました。
「ふっ、ポケットをふくらませた女になど興味はないよな、山田」
「き、急に何を言いだす」
「隠しても俺には分かる。そのふくらんだポケット、中に猫カリカリをたくさん詰め込んでいるだろう。それで山田の気を引こうなど、おろかな」
「な、なぜ分かる! そういう貴様こそ、そのポケットに何を入れている。思いっきり猫缶の形が浮きあがっているぞ!」
 なんだか、五十歩百歩の指摘をし合うナン・アルグラードとレティシア・トワイニングでした。野良ニャンルー用の餌を常時携帯している……、意外と二人は似た者同士です。
「猫カリカリ……」
「猫缶……」
 ところが、ニャンルーたちは、二人のポケットの中身に興味津々です。ニャンルーですから、仕方ありません。
「なんだ、山田、何を見ている。そうか、むこうのサクラが気になるのか」
 山田の視線の先を見た、ナン・アルグラードが言いました。ちょっと勘違い、いえ、シンクロしているので、山田の心理を見透かしたのでしょうか。
「うむ、そういえば、サクラはなかなかの器量よしのようだな。よし、決めた! サクラを嫁にもらおう!」
「ちょっ、いきなり何を言いだす!」
 突然サクラの嫁入り話をされて、レティシア・トワイニングが慌てました。気分はもう、花嫁のおとうさん状態です。
 でも、まんざらでもなさそうな山田とサクラの間に、モミジが割って入りました。お兄ちゃんは許しません状態です。
「結婚するなら、山田が婿に来るべきだ。そうだ、それがいい。さすれば山田は我のもの! どうだよい条件であろう?」
「誰が山田をやるものか。そちらがサクラをよこせ。何なら、三匹纏めて面倒を見てやってもいいのだぞ」
「だが、断る!」
 なんだか、急に婿嫁の話に発展してしまいました。
「いいか、大切なのは本人の気持ちだ。お前の気持ちではない。そして、俺と山田は一心同体、俺の気持ちは山田の気持ち。だからサクラをよこしてもらおうか。ダメなら、まずは友達からよろしくお願いします」
 そう言って、ナン・アルグラードと山田がシンクロした動きで手を差し出しながらお辞儀をしました。
 その手を、レティシア・トワイニングががっしりと掴みます。
「お前にプロポーズしたわけじゃない……」
「お友達からお願いします……って、あああ、サクラ、何やっている!」
 いつの間にか、サクラと山田が握手しています。どうやらシンクロしていると言いはっていたため、なぜかナン・アルグラードとレティシア・トワイニングまでもが握手してしまったようでした。あまりに、ニャンルーたちに思い入れしすぎの結果です。
 そんなナン・アルグラードとレティシア・トワイニングたちとは関係なく、山田とサクラはメールアドレス交換を始めようとしていました。そうはさせじと、間に入って赤外線を阻止しようと変な踊りを踊るモミジと、なんだか奇妙な戦いを繰り広げています。
「おとうさんは……」
「おかあさんは……」
 睨み合ったまま、ナン・アルグラードとレティシア・トワイニングが声を揃えます。
「許しません!!」
 そんな叫び声だけが、むなしくシャンバラ大荒野に消えていきました。