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キマクの休日



「真司、悪いなー、毎度相手してもらってよー」
「いいってことよ。ちょうど模擬戦の相手がほしかったところだ」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の言葉に、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が軽く応えました。
 シャンバラ大荒野で対峙するのは、紫月唯斗とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の乗る魂剛と、柊真司とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)の乗るゴスホークです。
 改修の終わった魂剛は、全体のスペックが一段引き上げられています。デザイン的な大きな差異は、両肩にあるフローターの形状が、肩鎧型から翼型に変化したことです。本来は飛行速度の強化に使われる物ですが、魂剛の場合姿勢制御に特化しているようで、全体のスピードよりも俊敏性を高めるものとなっています。
「見た目は、バインダー以外極端な変化はないように思えるが。わざわざ、試したいと言ってきたんだ。何かあるんだろう」
「流星をベースとした接近戦特化型の鬼鎧ですね。最初は、中遠距離を保ちつつ、敵武装データを収集するのが無難だと思いますが」
「よし、それで行こう。BMI、シンクロ率50%からスタートだ。状況に応じて、上昇させる」
 ヴェルリア・アルカトルの言葉に、柊真司が慎重に相手の出方をうかがうことにしました。

「うーん、なんだこりゃ。感覚が今までとまったく違うぞ」
 鬼鎧真化を装備したコントロールシステムに戸惑いながら、紫月唯斗がつぶやきました。
「ちょっと待て、無茶苦茶だ! ええい、全部手作業に近いぞ!」
 出力コントロールするエクス・シュペルティアの方も、顔を引きつらせながら叫びます。どうにもこうにも、人工筋肉へと送られる信号の負荷が変化しすぎです。簡単に言ってしまえば、寝たきりだった人間が、突然器械体操を始めたようなもので、筋組織の動かし方がバラバラなのでした。もちろん、原因は紫月唯斗です。
 鬼鎧真化は、言ってみれば一般人でもBMI相当の運動性能を引き出すためのシステムですが、未だオンリーワンであるため圧倒的に実戦データ不足です。まあ、そのための模擬戦でもあるわけですが。
「イメージしろ、イメージしろ……。いっちに、いっちに、はいはい、あんよが上手……」
「おーい、出力が……」
「あん、どう、とろわ……」
「おーい」
「ええい、気が散る!」

「なんだありゃ? 歩くのも大変という感じだな。よし、レーザービット展開」
 ややぎこちない動きで接近してくる魂剛に対して、ゴスホークがレーザービットを環状に展開しました。その中央を突き抜けるようにしてプラズマライフルを放ちます。

 筒状の大きな空間を丸ごと有効範囲にした攻撃に、魂剛がまともに吹っ飛ばされます。
あいって……くないっ!
「防壁消滅、次来たら防げないぞ。新品をもう壊すつもりか」
「そんなわけないだろ。それにしても、さすがは真司だ、容赦ないな。だが、そろそろこちらもコツがつかめてきたぜ」
 エクス・シュペルティアに言い返すと、紫月唯斗が立ちあがろうとしました。その動きにシンクロして、魂剛も機体を起こします。

「敵イコン、移動を再開。十秒後の予測移動ポイント出します
「接近させるか」
 再びゴスホークが魂剛にむかって一斉射撃を放ちました。
 それを、魂剛が奇妙に機体をかたむけて回避します。
「なんだ、あの避け方は」
「予測不可能です。あれでは、まるで酔拳、いえ、でたらめです」
 少し呆れたように、ヴェルリア・アルカトルが言いました。
 どうやら、紫月唯斗の方はセオリー通りに機体が動かないことを利用して、予測を外したトリッキーな機動をしているようです。
「来ます!」
 範囲内に入ったレーザービットを神武刀・布都御霊で切り払いながら、魂剛が突っ込んできました。
「面白い」
 振り下ろされる魂剛の神武刀・布都御霊を、ゴスホークも神武刀・布都御霊で下から切り上げて弾きました。

「いい感じだ。いけるか?」
 すかさず敵の横へと一歩踏み込むと、魂剛がゴスホークを掴んで古武道の投げをうとうとしました。
 が、ぎりぎりの所で手が届かず、素早くゴスホークが回避していきます。
「間合いは完璧だったはずなんだが。まだ、慣れていないのか!?」
 ならばと、離れていくゴスホークにむかって、魂剛が神斬刀・天羽々斬を構えました。
 実際にはゴスホークのG.C.Sによって動きを鈍らされていたのですが、感覚が魂剛とシンクロしすぎていたために、自分の動きが鈍いのだと錯覚を起こしています。
「制限解除します」
 リミッターが外れ、流れ込むエネルギーに神斬刀・天羽々斬が光につつまれます。
「うまく避けろよ!」
 紫月唯斗が、大きく神斬刀・天羽々斬を横に切り払いました。エネルギー波が広範囲にわたって周囲を切り払います。避ける場所もなく、斬撃がゴスホークを腰の部分から真っ二つにしました。ところが、そのまま斬られたゴスホークが消滅します。
「幻影か!?」
 気がついたときには、G.C.Sで瞬発的にジャンプして神斬刀・天羽々斬を回避していたゴスホークが、巨大化させた神武刀・布都御霊を真上から振り下ろしてきていました。
 即座に、魂剛が神斬刀・天羽々斬で受けとめます。
 空を切る音と共に、弾き飛ばされた神斬刀・天羽々斬が、ズンと地面に突き刺さりました。
 エナジーバーストの発光に機体をつつんだゴスホークが、魂剛の後方に、神武刀・布都御霊を斬り下ろした姿勢のまま着地します。
「戦闘続行困難です」
 あちこちで赤いランプが明滅するコンソールを見ながら、エクス・シュペルティアが言いました。