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学生たちの休日16+

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リアクション

    ★    ★    ★

「今日も自主警備御苦労様」
「いえいえ、これが俺の務めですから」
 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)に言われて、酒杜 陽一(さかもり・よういち)が悪びれずに答えました。
「それじゃあ、ちょっとつきあってもらえるかしら」
「もちろん、喜んで」
 二人は、連れだってシャンバラ宮殿の高層階を後にしました。
「また、どこかに行くつもりね。追うわよ」
「はーい」
 相変わらず高根沢理子を保護者的に監視しているセレスティアーナ・アジュア(せれすてぃあーな・あじゅあ)の命令に、皇 彼方(はなぶさ・かなた)テティス・レジャ(ててぃす・れじゃ)がちょっと気のない返事をしました。いいかげん放っておいても問題ないでしょうに。
 二人の後をついていくと、高根沢理子がシャンバラ宮殿の別のフロアにあるショッピングモールへと酒杜陽一を連れていきました。また、単なるショッピングデートでしょうか。
「ここは……」
「さあ、早く早く。どうせ今年もやるんでしょう。どうせだったら、いい物が着たいじゃない。あっ、支払いは任せたわよ」
 そう言って軽くウインクすると、高根沢理子が酒杜陽一の腕を引っぱってブティックらしき店に入っていきました。
「いったい何を買うつもりなのかしら……」
 いいかげん、官給品には飽きてきたのかと、セレスティーナ・アジュアがブティックのショーウインドゥをのぞき込みました。
 そこには、純白のウェディングドレスが並んでいました。
「わあ……」
 思わず、テティス・レジャが、美しい意匠のドレスたちに見とれます。で、瞬間、皇彼方の方をチラリと見ました。
 こちらも、いいかげん、暗黙の了解からはっきりさせればいいのにと、セレスティーナ・アジュアが軽く溜め息をつきます。まあ、そのためには、皇彼方のお尻を思いっきり蹴飛ばさなければ無理そうですが。相も変わらず、セレスティーナ・アジュアの周囲は前途多難です。これでは、ゆっくりと自分のことにかまけている暇がありません。

    ★    ★    ★

 同じころ、シャンバラ宮殿前の広場では、何やらイベントが開かれていました。
「さあ、牛乳の日と、父の日と、お乳を祝って、今日はミルクパーティーよー。みんな、好きなだけ浴びるほど飲んでってねー」
 相も変わらず、パラミタペンギンやら様々な従者たちを総動員して、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)がお祭り騒ぎをして、いえ、お祭りイベントを開催していました。
「あいよー、パラミタ山羊の新鮮なミルク、ただいま到着ー」
 広場に乗りつけた痛飛空艇の操縦席から顔をのぞかせて、神戸紗千が受け取りの係を呼びました。
「では、こちらに受け取りのサインを。請求書は、後日お送りいたしますので」
 主の持つ牧場から随伴してきたジェイムス・ターロンが、取り引きの確認をします。
「さあ、おかわりが届いたわよー。じゃんじゃんやっちゃってー」
 酒杜美由子が、ひときわ大きな声で人々に語ります。
「まあったく、牛乳でも飲んでなきゃやってられないわよ」
 牛乳と言いつつ、ミルキーセピアをがぶ飲みしながら、酒杜美由子が愚痴りました。
 だいたい、今ごろは、酒杜陽一はまた高根沢理子とよろしくやっているのでしょう。
 けっ、やってられません。
 どうせ、今年もまた疑似結婚式だなんだと言っているに違いありません。だいたい、疑似ってなんです、疑似って。あれ、模擬結婚式だったかな。まあ、どーでもいいやそんなこと。だいたいにして、結婚って、疑似とか模擬とかってありなの? えっ、そうなの? どうなの? 死ぬの? リア充なんて死ねばいいのに……。
 だいたい、結婚ってえのは、そうゆーもんじゃーなくてー。たとえば、私もしたいなーとかー。ああ、そうだよ、してーよ。私だって、一度ぐらい。ちきしょー。だいたい、陽一のやつ……うっぷ。うげげげげ、げろげろげろ……。

 ただいま、お見苦しい場面が続いておりますので、愛らしい小ババ様の踊りで目をお逸らしください。
「こばこばちゃちゃちゃ。こばこばちゃちゃちゃ」

    ★    ★    ★

「ああ、美味しかった。ごちそーさまー」
 ちょっと高級なイタメシ屋から出てきたマサラ・アッサム(まさら・あっさむ)が、ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)に言いました。
「どういたしまして。お口に合って幸いです」
 マサラ・アッサムがどんな料理を好んで食べたのかをしっかりと記憶したホレーショ・ネルソンが、紳士然とした態度で答えました。
 なんだかんだ言って、二人の中は順調に進展しているようです。
 けれども、それに伴って、ホレーショ・ネルソン側は、何やらあわただしく動き回っているようでした。
「もうすぐ夏ですな。ふむ。いかがでしょう。このグリーンのワンピースは、貴方にとてもお似合いだと思いますが」
 商店街のブティックの前で立ち止まったホレーショ・ネルソンが、ショーウインドゥの中のワンビースを指して言いました。
「そうかなあ。似合うかなあー」
 ショーウインドゥの前に立ったマサラ・アッサムの姿が、ガラスに映ってワンピースと重なります。そういえば、今日は珍しくゴチメイ隊のいつものゴスロリ服ではなく、薄水色のノースリーブのブラウスに、若草色のロングスカートという、ちょっと清楚な出で立ちです。
「それならば、試してみればよろしい。ちょっと試着してみましょう」
 そう言うと、ちょっと強引にホレーショ・ネルソンがブティックの中へ、マサラ・アッサムを誘いました。
「いらっしゃいませ」
 店員として出てきたのは、なぜかローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)です。胸の名札には、しっかりとバイトと書かれています。
「試着でございますか? 当店は、オーダーメイドが基本でございますので、とりあえずスリーサイズを測らせていただけますでしょうか。ささ、どうぞ、こちらへ」
「えっ、ちょっと……」
 戸惑うマサラ・アッサムの背中を押して、ローザマリア・クライツァールが試着室へと移動しました。
 そこで、素早くスリーサイズを測ります。
「ええと、B79、W58、H83と……。それだと、これなどはいかがでしょうか」
 サイズの合う服を何着か試着する間に、ローザマリア・クライツァールが体形をメモった物をホレーショ・ネルソンに渡しました。
「気に入った物がありましたか?」
「うーん、今回はちょっと……。でも、いろいろ着替えられて楽しかったかな」
「そうですか。では、洋服はまた今度でも」
 杓子定規にローザマリア・クライツァールに挨拶すると、ホレーショ・ネルソンはマサラ・アッサムと共にブティックを出ていきました。
「やれやれ。さてと、頼まれた物の手配をと……」
 二人を送り出してから、何やらローザマリア・クライツァールがあわただしく動き回ります。
 一方、ブティックを出たホレーショ・ネルソンたちは、空京神社の参道へと進んでいました。
「なんで、神社なんかに行くんだい?」
 デートにしちゃ、ちょっと変かなあとマサラ・アッサムが聞きました。まあ、とは言っても、空京神社はりっぱな観光スポットですし、実際デートに訪れるカップルたちもたくさんいます。けれども、せっかくのデートだったら、もっといろいろ面白い所がありそうですのに。
「いや、結構眺めがいいんですよ」
 そうマサラ・アッサムをなだめると、ホレーショ・ネルソンが展望台の方へとむかいました。空京神社は高台の上にありますので、展望台もあります。
「本当だ。キマクやイルミンとはまた違った景色だねー」
 シャンバラ宮殿を初めとする空京市街を一望して、マサラ・アッサムが言いました。夜景と言うにはまだまだ時間が早いですが、近代的なビルの群れは幾何学的な文様を描きだしていて、それもまた一つの現代の美でした。
「空ゆく船に乗っているときもそうですが、こうして広く周囲を見渡すと、なんだか自分が今世界と対峙しているという気分になりませんか。ここで誓ったことは、世界に対する宣言であるとも思えるんです」
「それって、少しオーバーじゃない?」
 ちょっと大げさだと少し苦笑するマサラ・アッサムの瞳をホレーショ・ネルソンがのぞき込みました。
「私は知っての通り、海の上しか知らない前世を歩んだ英霊でした。それを一変させてくれたのは、マサラ嬢。貴方の存在なしに語ることはできません。心より愛しているその証として、これを受け取ってはいただけないでしょうか?」
 そう言うと、ホレーショ・ネルソンが指輪をマサラ・アッサムに差し出しました。
 プロポーズです。
「ええっと……」
 どうしていいのか分からなくなって困るマサラ・アッサムの答えを、ホレーショ・ネルソンはじっと待ち続けています。
「う、うん……」
 やっとのことでそれだけ言うと、マサラ・アッサムが真っ赤になってうつむきました。

「で、なんで、本殿に上がらなくちゃならないの?」
 まあ、お約束の展開がいくつかあって、なぜか、ホレーショ・ネルソンに空京神社の本殿に連れてこられたマサラ・アッサムです。
「やあ、来た来た、待ってたよ」
「まったく、遅いですわよ」
「ええっ、なんで、ちいねえとだいねえがあ!?」
 本殿にいたキーマ・プレシャスお嬢様ことシルフィール・プレシャスの顔を見て、思わずマサラ・アッサムが叫びました。
「なんでも結納だそうだよ」
「ほんと、いきなり呼び出されて、いい迷惑ですわ」
「ええっと、状況が……」
 よく分からないとマサラ・アッサムが引きつる間にも、ホレーショ・ネルソン側の親族としてローザマリア・クライツァールが現れ、あわただしく執事君メイドちゃんが裏方をやってくれて結納式は進んでいったのでした。