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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
食い気? 色気? の夏祭り 食い気? 色気? の夏祭り

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 永遠の愛を誓う

 恋人から夫婦になって日々を過ごしていた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)はイルミンスール近郊の村で夏祭りが行われるという宣伝を学校で見掛け、アイドル活動と大学生としての超多忙なスケジュールをこなしていたところだけにアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)を誘って息抜きデートを決行しようと計画した。
「ねえ、アディ。せっかくの夏祭りだし浴衣でオシャレして息抜き……んっと、デートに行かない?」
「デート……? うん、いいですわね……でも、わたくし達現役アイドルだし変装とかした方がいいかしら……? せっかく行くなら、さゆみと2人で楽しみたいですわ……」
 アデリーヌの言葉に、さゆみはギュッと彼女を抱き締めた。
「変装とはちょっと違うけれど……夏らしく、お揃いの浴衣にしましょう? 髪型とメイクをちょっと変えたら、私達だってバレずに楽しめると思うわ」
 こくんと頷いたアデリーヌと共に、さゆみは早速浴衣を新調しようとデートの準備に張りきるのでした。


 ◇   ◇   ◇


 暑い夏に負けず、食べ物や小物の出店が立ち並ぶ祭り会場は多くの人で賑わいを見せていた。
「ねえ、さゆみ……わたくし、ちゃんと着こなせてるかしら……浴衣って初めてだし、変じゃありません……?」
 アデリーヌの浴衣は水色の紫陽花をあしらったデザインに花びらを散りばめた、麻の生地で仕立てられた涼しげな浴衣を着こなしている。
「大丈夫、可愛いわよアディ。はい、たこ焼き」
 たこ焼きをアデリーヌの目の前に出したさゆみの浴衣は、デザインは同じ紫陽花だが色違いでピンクの紫陽花をあしらい、花びらを散りばめた浴衣であった。人混みもあってか、彼女達が『シニフィアン・メイデン』である事に気付く人もいない様子で1つのわたあめを2人で両側から食べたり、フライドポテトを分け合って食べ歩きしていた。
「お姉ちゃん達可愛いねー、どうだい? オジサンの店で遊んでいきなよ」
 射的の店から声をかけられ、顔を見合わせたさゆみとアデリーヌはオジサンに見えないよう、ニヤリとした。

 射的の店にある景品はグルグルと上下に回転する台の上にあり、素人の腕前では中々当てる事は出来ないようだった。さゆみの隣で狙う青年は1回5発全てを外し、雨雲を頭の上に乗せている。
「じゃあ、まず私からやるわね。アデリーヌの欲しいもの当てたいけど……アデリーヌ、何か欲しい景品はある?」
「ん……そうですわね、ペアのマグカップがありますわ……さゆみと一緒に使いたいですわ」
 了解とばかりにさゆみは銃を構えた。上へ下へと回転する台をさゆみの持つ銃はゆっくり追っていき――

 パーン!

「げ、当たったのか……! お姉ちゃん達、素人じゃねえな……」
 射的へ2人を誘ったオジサンは驚き半分誤算半分といった様子で、当てた証にマグカップから上がる『当たり』の小さな旗にさゆみは笑顔を見せた。マグカップを包んでもらうと、アデリーヌは大事そうに手に持って射的台を後にした。
「ありがとうございます、さゆみ……お疲れ様ですわ」
 出店の少ない通りに差し掛かり、すれ違う人も少ないところでアデリーヌはさゆみの頬へチュッと軽く口付けたのでした。

「あ、お化け屋敷ってあそこにあったのね」
 照れ隠しにさゆみは目に入ったお化け屋敷を指差してみると、中々盛況なのか「キャー!」とか「怖いー、帰るー!」という悲鳴が2人の耳にも入ってきた。
「面白そうですわ……でも、さゆみは確か……」
「あ……ううん、アデリーヌが入りたいなら入ってみましょう! せっかく遊びに来たんだもの……大丈夫よ、夏祭りのお化け屋敷レベルだし……?」
 アデリーヌは興味を惹いたらしいお化け屋敷だが、さゆみはどうも苦手らしかった。さゆみを怖がらせる事はアデリーヌの本意ではないものの、さゆみもアデリーヌに少しでも思い出を残そうとしていた。

 夏祭りのお化け屋敷レベル――

 さゆみはそう思っていたものの、半分程進んだ頃にはアデリーヌに半ばしがみついてしまっていた。一歩一歩慎重に進む2人だったが何かのスイッチを踏んだらしく、彼女達の眼前には明らかに作り物の幽霊がヌッと下から湧き出てきた。
「キャーーーーー!!!!」
 更にしがみついたさゆみを守るように、彼女の肩を抱いてアデリーヌは通路を進んでいった。
「大丈夫ですわ……さゆみ、作り物ですし……ただの映像のようです」
 怖がるさゆみの瞼へ軽くキスし、どさくさ紛れにイチャイチャするアデリーヌであった。

 出口付近で待機する幽霊役達が、さゆみとアデリーヌがやってくるとスタンバイして出口を塞いで取り囲むタイミングを計っていた。
「さゆみ、もうすぐ出口ですわ……涙は止まりました?」
「……まだ、みたい……」
「じゃあ……止まるおまじないですわ」
 さゆみの瞼に口付けするアデリーヌは、幾度かそれを繰り返していると漸くさゆみも涙を止めた。暗闇の中で良い雰囲気を作るさゆみとアデリーヌの姿に幽霊達も出るに出られず、良く言えば「空気を読んだ」としてそのまま2人をお化け屋敷の出口へ見送ってしまう事になった。


 ◇   ◇   ◇


 祭り会場も夕暮れ時を迎え、売り切れの出店は店じまいを始める中で花火鑑賞の会場案内がアナウンスで入った。
「そろそろ、花火が始まるみたいね。例のとっておきの場所、行きましょう」
「そうですわね……楽しみですわ」
 祭り会場から少し離れた小高い丘の上で、既に上がる花火を暫し静かに見つめていた。定番の「菊花」や、少し変わったハート型や星型の花火を上がる。
「すごいわね……ハート型はちゃんと赤っぽく見えて、星型は金色に見えるようにしてるわ」
「ええ、綺麗ですわ……ハート型、もう一度上がらないかしら」
 2人だけの世界を満喫するように、花火が花開く時の盛大な音が鳴り響く以外は物音はない。自然と肩を寄せ合い、指を絡ませるように手を繋ぐとさゆみは花火を見上げるアデリーヌへ声をかけた。

「ねえ、アディ」
「ん……どうしたのかしら? さゆみ……っ?」
 顔を向けたアデリーヌへ、さゆみは不意打ちでキスをした。アデリーヌも驚いたがそのまま互いに離れるまで長く口付ける。ゆっくり離したさゆみの唇に少し名残惜しそうなアデリーヌは、さゆみの瞳に溜まる涙に気付いて指先でそっと拭った。
「……まだ、怖いかしら?」
「違うわ、そうじゃないの……」

 さゆみは地球人、アデリーヌは吸血鬼――
 どうしても、さゆみが先に死んでしまう事は変えられない。さゆみは、自分が死んだ後に残されるアデリーヌの側には居てあげられないけれど、その分思い出は彼女に残してあげたい。

「愛しているわ、アデリーヌ……今日の事は絶対に忘れない……あなたとの大切な思い出で、2人で居たという愛の証でもあるのだから……」
 アデリーヌにも、さゆみの言わんとしている事が解る気がした。
「……そうですわ、さゆみとの思い出はこうして積み重ねていくんですもの……わたくし達だけの、愛の証ですわ」
 今度はアデリーヌからさゆみへキスした。

 長い、長いキス――
 上がる花火を背景に2人の夜は更けていったのでした。