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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
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 可愛い恋人たち

「着いたー! いんぐりっとちゃん、早く早くー」
「ふふ、そんなに急かさなくてもお祭りは逃げませんわ」
 はしゃぐ天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)の手をしっかり握って自分の方へ引き寄せるイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)は人混みから結奈を護るように出店通りに入っていった。賑わうお祭りの出店では美味しそうな匂いがそこかしこに漂い、目移りしてしまいそうである。
「いんぐりっとちゃん、何が食べたい?」
「そうですわね……あなたとなら、何を食べても美味しいと思いますけれどお昼も過ぎましたし、少々お腹が空きましたわ。ここは定番のたこ焼きはいかがかしら?」
 二つ返事で結奈がたこ焼きの出店へ走り、その後をイングリットが付いていく姿は、知らない人が見れば仲の良い姉妹に見えるかもしれない。
「お待たせ、いんぐりっとちゃん」
 たこ焼きを1パック買ってイングリットの所へ戻った結奈は爪楊枝に刺したたこ焼きを1つ差し出した。
「あのね、いんぐりっとちゃん……私やってみたい事思いついたの、それでね……んっと……」
 首を傾げたイングリットは結奈の頭を撫で、落ち着くように促した。撫でられて嬉しそうな顔を見せる結奈は思い切って言ってみた。
「食べ物屋さん、全部制覇しようよ! 2人で分け合って食べたら大丈夫だと思うんだもん……それに、いんぐりっとちゃんと食べさせ合いっこしたいの!」
 結奈の言葉にほんのりと頬が赤くなるイングリットだったが、差し出されたたこ焼きを手に持った彼女はそのまま結奈の口元へ持っていった。
「そうですわね、わたくしも……結奈にこうして差し上げたいもの」
 自分で言いだした結奈だが、目の前にするたこ焼きに恥ずかしそうに口を開けると、イングリットはそのままたこ焼きを食べさせた。もぐもぐと食べる結奈を愛おしげに見つめる彼女は、もう一つたこ焼きを取って結奈の口元へ運んだ。
「え、え……? いんぐりっとちゃん、次……私がっ」
「いいのですわ、結奈がとても可愛いのですもの」
 にっこりイングリットに微笑まれて何となく断れない雰囲気にのまれた結奈は半分のたこやきをイングリットに食べさせてもらうのでした。

 それから2人はカキ氷にフランクフルト、わたあめ、フライドポテトと目に付いた食べ物を1つ買って2人で分け合い、食べさせ合いっこが出来る食べ物は空いているベンチに腰掛けてその時間を楽しんだ。
「……あっという間ですわね、もう夕暮れなんて」
「うん……ねえ、いんぐりっとちゃん。花火も見て行くよね?」
「勿論ですわ、あなたと一緒ならきっと花火も綺麗に見えますわ……」
 やがて、2人の耳に花火会場のアナウンスが入り、結奈とイングリットは手を繋いで花火会場へ向かった。


 ◇   ◇   ◇


 出店通りに負けない賑わいを見せる花火会場は座る場所を確保する人達で、これまたごった返していた。
「うー……これじゃあ、見えないよね……」
 既に前の方の席は取られていて、結奈やイングリットが入り込める隙は無さそうとみると、イングリットは結奈の手を引いて花火会場から離れた。
「良い場所を探しましょう、大丈夫ですわ……きっと見つかると思いますわ」
 結奈を慰めるように撫でるイングリットの手に結奈も自然と笑みを見せ、2人で祭り会場の近くを歩き回ると少し開けた小高い丘が見えた。どうやら誰も居ないようで辺りは静かだ。
「いんぐりっとちゃん、ここなら座って見られるね!」
 腰掛けるには丁度いい岩がいくつか並んでおり、その中の1つに結奈とイングリットは並んで腰かけた。それから間もなく、大きな音と共に夜空を飾る大輪の花が2人の目の前で潔く咲いて散っていく。
「そういえば、結奈の浴衣も花火柄でしたわね。可愛いですわ……よく似合っています」
「えへへ、ありがとう! いんぐりっとちゃんの薔薇の浴衣もすごく素敵だよ……うん、すごくドキドキしてるんだもん、私……」

 繋いだ手をお互い握り直し、暫く花火を見つめていたが不意に結奈はイングリットを見上げ、その横顔を見つめた。
(ううん、どうしよう……我慢出来なくなっちゃった)
「いんぐりっとちゃん、あのね……内緒のお話があるから耳貸して?」
 花火が打ち上がる合間の空白の時間が訪れると、結奈はイングリットにそっと耳打ちし、素直に顔を近づけたイングリットの唇へ結奈は不意打ちキスをする事に成功した。

「ゆ……結奈……もう、困った人ですわ」
 触れるだけの、エンジェルキス――照れているようにも、困ったようにも見えるイングリットの表情には、結奈への愛情が溢れていた。

 花火が上がる空白の時間が訪れる度、結奈とイングリットはエンジェルキスを繰り返し交わすのでした。