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食い気? 色気? の夏祭り

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食い気? 色気? の夏祭り
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 魔術花火であなたに笑顔を

 夏祭りが行われている村の出店通りに足を運んだ博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は、最愛の妻であるリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)と一緒にお目当ての花火までの時間を過ごそうと、色々見て回っていた。
「ふふ、浴衣を新調して良かったです。リンネさん可愛いですよ」
「えへへ……ありがとう、博季くん! この浴衣の柄、大人っぽくって着こなせるか心配だったんだけど」
「そんな事ありませんよ、僕の見立ては正解でしたね」
 リンネの浴衣には撫子の花が彩られ、淡いピンク色の生地に紫の撫子が描かれていた。リンネの笑顔が好きな博季は、撫子柄に込められた気持ちを一緒に届けたくてこの柄を選んだ。
「……博季くん、本当にありがとう。あ、ねえねえあれも買っていこうよ!」
 腕を組んで歩く2人の手には、実は結構な祭りの戦利品があった。

 たこ焼き、ホットドック、フランクフルト、フライドポテト、駄菓子、わたあめ等である。
「あれ……ああ、りんご飴ですね。僕も食べたかったから買っていきましょう」
 2人で好きな物を食べながら花火の鑑賞――博季とリンネは夕暮れの祭り会場でその後も戦利品を買い揃えていったのでした。


 ◇   ◇   ◇


 花火の打ち上げを告げる放送が村の祭り会場に響き、博季とリンネは早速確保した場所へと移動した。
「リンネさん、シートを敷くので戦利品を持っていてもらってもいいかな?」
「うん、任せて博季くん」
 一際見晴らしの良い小高い丘の上に場所取りが出来た2人は、丁度花火会場を見下ろせる位置に居た。シートを敷いて、出店でゲットした戦利品を並べて座ると自然と2人寄り添いながら花火の開始を待っていた。

 ドーーーーーーーン……!

「あ! 始まった、ここ少し高いから何だか花火も近くに見えるね」
「そうだね、ん? リンネさん、今ハート型ですよ、ハート型!」
 定番の花火からちょっと変わった花火まで1発1発が上がる姿にリンネは目を輝かせて見入っていた。そんなリンネと花火へ視線を動かす博季は打ち上げの合間、ほんの少し花火を待つ時間にそっとリンネの頬へキス――
「え……博季くん」
 見る見るうちに顔が赤くなるリンネに柔らかな微笑みを見せる博季は、彼女の目の前に「はい」とたこ焼きを差し出した。
「甘いお菓子が続いたから、ちょっと味の濃いたこ焼きをどうぞ」
「あ……ありがと、博季くん」
 未だ顔の赤いリンネは博季とたこ焼きを摘まみながら花火を大人しく待っていると、今度は彼女の方が博季の横顔へ視線を向けた。
(あ、博季くん……口元にソース付いてる)
 どうしよう、と逡巡する様子を見せるものの再び始まった花火に気を取られた博季の隙を狙ったリンネは、少し背伸びをして博季の唇の端に付いたたこ焼きソースを舐め取るように口付けた。

「……!? リ、リンネさん!?」
「だって、さっきから博季くんにびっくりさせられてばかりだし……?」
 頭の中が真っ白になった博季は暫く花火の輝きも大きな音も耳に入らなかった。
「え、そんなの僕がリンネさんを可愛いって思ったから……っ、それにキスしたいと思ったのだってそうだし、リンネさん……僕に悪戯したらダメだ……」
 博季も顔を赤くしながら、浴衣に合わせて結い上げたリンネの髪を優しく撫でて見つめ合うとゆっくり顔を近付けた。それに合わせてリンネも目を閉じると博季はそっと唇を重ねた。


 どのくらいそうしていたのか、花火の終わりを告げる空砲が鳴り、花火会場からは家路につく人達の姿が目に入った。
「博季くんといちゃついていたら、花火が終わっちゃったなんて……」
「ご、ごめん……ちょっと、寂しい気分になるね」
「……博季くんのせいじゃないよ、それにこういう風にいちゃつくのも、えっと……いいかなって思ったし?」
 照れながら答えるリンネだが、メインのデートにしようと思っていた花火を余り堪能出来ていない事には変わらない――そう考えた博季はリンネの隣から立ち上がり、彼女の前に立った。
「博季くん……?」
「見てて、リンネさん」

 【マジカルファイアワークス】で博季の魔力が色鮮やかな打ち上げ花火のようにリンネの目の前で舞った。それこそ魔力が空になる勢いで博季はリンネに花火を見せ続ける。
「綺麗……博季くん、とっても綺麗……」
 赤に輝いた魔力が次の瞬間には白く眩しいくらいの光を放ち、勢いが薄れるとゆっくり金色に輝き始めてまた赤く色付いては白く輝く――


 リンネさん、僕はあなたと結婚出来て本当に幸せなんだ。

 だから、2人で見る花火も僕が作り出そう。

 ありがとうを、沢山込めて――


「愛しているよ……リンネさん」
 【マジカルファイアワークス】の向こうでは穏やかに微笑む博季と、作り出される魔力の花火と博季を見つめるリンネ。
「……うん、リンネちゃんも博季くんを……愛してる」
 この日のリンネの笑顔は撫子柄に込められた『笑顔』の通り、博季の胸に収められた。


「大丈夫? 博季くん……もう少しこうしていよう……?」
「はは……は……情けないな、僕」
 魔力が文字通り、スッカラカンになって博季は立ち上がっていられなくなり、リンネが膝枕で休ませていた。

 静かになった祭りの後――ゆっくり更けていく夜を博季とリンネは2人きりで過ごすのでした。