リアクション
「……ジナママ、今何時っすか?」
「夕方を過ぎましたですよ、もう閉店作業も終わりましたです。そろそろ動けやがりますか?」
気を失った時点で裏で寝かされていた太壱は、漸く目を覚ますとジーナに手を貸されながら立ち上がりのろのろと店内へと戻った。
椅子もテーブルもすっかり消えた店内はがらんとして、今は関係者しか残って居ない。
「……ちょっとアイツに写真付きのメール送りたいんだけどさ
ジナママ、俺とジゼルと一緒に写真に写ってくんねぇ?
「アイツ……ほほう、思い人さんでやがりますね!」
にやりと笑って、ジーナはジゼルを呼びに行く。
「それで唯斗、おぬしが何故ここにいるのであろうな?
今日は休みで、家に居た筈では?」
「そっちこそなんで……」
「わらわがあおぞらで仕事をしていては不味いのか? ん!?」
「い、いえ…………」
さて、片付けもすっかり終わった店内の中央で、唯斗はエクスの前で俯いたまま正座をさせられていた。
昼間のはしゃぎぶりが嘘のように――何しろ口ごたえすると余計酷いので――静かな彼に、トゥリンとトーヴァは申し訳ないが笑いを耐えきれない。
「ふふ、もう、たまにはしゃぎたかっただけよね? 年甲斐も無く。
それよりエクス、舞花が呼んでるわ」
ジゼルの口から聞き捨てならない何かが聞こえた気がしたが、そこに気付いたのは唯斗だけで、エクスはそこへ突っ込みもせずに誘われるまま仲間のもとへ一旦戻って行く。
「お疲れ様です皆様。
折角ですし、記念撮影しませんか?」
という舞花の提案は素敵だったし、アルバイトの皆も笑顔だったが、その後ろに正座したままの唯斗が映り込んでいたのは、皆も後になってから気付いた事だ。
*
こうして、『湖の家・あおぞら』の営業はつつが無く終了した。
アレクが妻と妹と弟と、皆を車に乗せられるか人数を数えていると、ハインリヒが車の鍵をスヴェトラーナへ向かって投げる。
「僕の使って良いよ」
「伯父様は?」
質問するまでもなく、ハインリヒはツライッツのバイクの席へ股がってエンジンをかけている。
「明日基地の何時ものところに置いといて」
「はい。じゃあお借りしますね。
おやすみなさい伯父さま」
「うん、おやすみ」
スヴェトラーナがジゼルと軽く手を振って車へ乗り込んだのと同じタイミングで、ハインリヒの座る座席も上下に揺れる。
「浮きました」
倉庫の鍵を閉めたツライッツが戻って来て後ろへ座ると、ごく自然に腰に腕を回した。
「凄いですね……! 俺、あんなふうに水面に浮かんだの、初めてです」
軽く興奮したような様子で、そう報告するツライッツの手を、ハインリヒは上から握って落ち着かせる。ジゼル等の前ではそこまで見せなかったようだが、彼はツライッツがどれだけ水を怖がっていたかを知っていた。克服のきっかけが自分でない事はつまらない――というよりかなり気に入らないが狭量なところは見せずに、ツライッツの頑張りを「良かったね」と賞賛の相槌で返した。つい先日贈ったばかりの真新しい揃いの指環が、指先を掠めたからだ。
「はい、楽しかったです」
「じゃあ来年のヴァカンスはビーチに行こうか」
「ええ、そうですね……ちょっと、行ってみたくなりました。
ハーティオンさんが湖へ入ろうと誘ってくれたお陰です。そういえば途中から姿が見えないのですが、もうお帰りになられたんでしょうか……」
「さあ、どうだろうね。
錆びてないといいけどな」
振り返って笑みを見せると、ハインリヒはそのまま湖を一瞥して、自宅へバイクを走らせて行った。
*
夜の砂浜に転がる一つの大きな影。
遂に水に浮いた! という経験に表情は明るかったが、彼はその表情のまま『固まってしまっている』。
「ねぇ、大丈夫?
おーい、生きてますかぁ〜?」
ライフセーバーミルディアの呼びかけは、それから暫く何度も何度も響いていたという……。
シナリオにご参加頂き有り難う御座いました。
今回頂いたアクションですが、ダブルアクションがかなり多かったです。こういった形式のシナリオで東の判定の場合確かに採用率は上がりますが、余りに多いと反映出来る描写が削られてしまいますのでご注意下さい。
(ガイドに出現の可能性が示唆された不審者ですが、すでにダブルアクションの上での記述が多かったため、登場致しませんでした)
今後のシナリオ予定ですが、現在アクション期間中のシナリオ、そして漫画シナリオなどを予定しております。
東個人のシナリオはそのあと一本で終了予定です。
最後迄お付き合い頂けると幸いです。