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湖の家へいらっしゃい

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湖の家へいらっしゃい

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 羽純から「アレク達がきた」と連絡を貰い、歌菜が気を聞かせてくれたお陰で、ジゼルはフレンディスと休憩を取りアレクとハインリヒと一緒にきたベルクとジブリールとビーチへ下りていた。
 と言っても彼等はそのままきているから、水着では無い。アレクとハインリヒなど、一応Tシャツにカーゴパンツというラフなスタイルではあるものの、実はあれは戦闘服の類いだ。
「ジブリールも着替えて来たら?」
「貸し出しの水着もあります故……」
 ジゼルとフレンディスに薦められ、ジブリールは頬を人差し指でかいて少し気恥ずかしそうにする。 
「オレ元々肌晒すのはタブー環境だったから抵抗あってさ、
 それがなければトゥリン達とも一緒に遊びたかったんだけどね」
 その言葉にアレクが顔を上げるが、ハインリヒが薄い笑顔で首を振って合図する。するとジブリールは無邪気に微笑んだ。
「オレとお兄ちゃんだけの秘密だよ?」



 膝の間に座りはむはむとかき氷を頬張る及川 翠(おいかわ・みどり)から視線を移して、アレクは正面に座るミリアとサリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)、此処迄無事連れて来たアリスを見ている。
「アリスはアレクさんに捕獲されてたのね……
 すみません、いつもいつも……」
 言いつつも、ミリアの手はダジボーグペルーンを思う様にもっふぁんもっふぁんしていて上の空だ。いつものように説教をする気は無いらしい。子山羊達が一体どのタイミングで捕まったのかは分からないが、本人? らがまんざらでもなさそうなのと、ご主人様も「良かったな」とケラケラ笑っているだけなので、まあ良いんだろうとアレクからは何も言わない。
「むぅ〜、どうしてアリスちゃんはここまで見事に迷子になれるのかなぁ……
 おにーちゃんと合流できたのはちょこっと嬉しいけど、アリスちゃんを許してあげる事は出来ないよ?」
「ふぇ……ゴメンなさいー……」
「サリア、その辺りにしてやりなさい。アリスもわざとじゃないんだ」
「もー、おにーちゃんはアリスちゃんに甘すぎるよ」
「うん、甘いよ。妹には。
 だからサリアにも甘くするので……、アリスの事は許してあげな。お前もなんか食べたいものあるか?」
「そう言う事じゃないんだよおにーちゃん、もう!」
 ぷっと頬を膨らませるサリアの可愛い怒り顔に、周囲から笑みが零れる。



 ふと彼等の視線に、水の上に浮かぶ二つの影が映った。
 浮き輪に乗ってふよふよと波間を漂うハーティオンとツライッツだ。
「あれ…………」
 アレクが指差しながら質問するのに、ジゼルは「ああ」と声を漏らす。
「ハーティオンがね、ツライッツと一緒に水に挑んで打ち勝ったのよ。良かったわ」
 にこりと微笑んで彼等の勝利を称えるジゼルに同意して、皆が微笑んだ。勿論それはハインリヒもだ。
「それは良かった。ハーティオンさんのお陰でツライッツも楽しめてるみたいだね」
「うん、ハーティオンはね、ツライッツの肩に手をこう――」言いながらジゼルはハインリヒの両肩に手を置いてぎゅっと掴み、熱っぽい瞳で見上げながらあの時の様子を再現してみせる。
「――がしって置いてね、熱い説得をしていたのよ」
「そう、肩を…………」
 ハインリヒの笑顔は変わらない。ただ彼が何時も纏っているキラキラとした――オーラのようなあれが、何かを発散するように禍々しく凄みを増して行く。
「それから手を繋いで水に入ったの。二人は仲良しさんね、うふふっ」
「二人は手を繋いだの? ……ふーん……」
 静かなトーンで得心しつつ、ハインリヒの寒色の双眸は足下に転がるロープを凝視していた。ロープの先は適当な杭に結ばれている。
「託君、これは?」
「ああそれ? 命綱だよ。彼が沈んだら引っぱりあげるのに使えって、彼のパートナーが渡してきたんだよねぇ〜。
 でも僕も仕事が有るからねぇ……ずっと持ってる訳にもいかないし、一応水中で息をする対策はしてるらしいから、とりあえずそこへ結んでおいたんだ」
「へえ……そう」
 反応しながら、ロープを見たままのハインリヒは、ベルトのポーチの一つから片手で銀色の何か――太陽の光りに反射しよく見る事が出来ない――を取り出した。指先で弄ぶようにクルクルと回しパチン、パチンと独特の音が鳴らしながら、ハインリヒは湖を見つめたまま口を開いた。
「ところで彼、こんなに塩分濃度が高いところに浸かっていて錆びたりしないのかな…………」
「どうかしら。長くいたら危ないかもしれないけど……、
 それこそロープを引っ張って合図してあげればいいわよね。ね、託」
「そう言う使い方もあるねぇ」
 ジゼルの託のやりとりを聞いて、ハインリヒは片眉を寄せ、喉をくっと震わせた。
「そんな事俺が知るもんか」
 見ていた彼等が「あ」と思う間もなく、ハインリヒはそれ――バタフライナイフの先でスパンッとロープを切ってしまった。
 最早笑顔は目元どころか唇にも残っていない。
「息が出来るなら大丈夫だろ」
 言った直後、感情の読み取れない表情が、大抵の女の子なら見ただけでときめいてしまいそうな笑顔へと切り替わった。邪魔者を排除したら、すっかり気分が変わったのだ。伸ばした腕をぶんぶんと振りながら、何事も無かったかのうように恋人へアピールするハインリヒの背中の後ろで、アレクと託は腹を抱えて転がっている。
 本人知らず流されて行くハーティオンを見て、近くで浮いていたミスティは
「遂に何か有りましたね……」と呟き、レティシアと顔を見合わせる。
 『あおぞらの』店先で一部始終を見ていた羽純は、何とも言えない表情だ。
「歌菜、俺は今……正義が歪んだ瞬間を見た気がするんだが…………」
「わ、私達何も見て無いよ、羽純くんっ!」