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白百合革命(最終回/全4回)

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白百合革命(最終回/全4回)

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第2章 狙いは百合園

 百合園女学院会議室。
 その日は、元々訪れていた有力者は少なかった。
 そして、大荒野から届いた情報により、ヴァイシャリーに住む有力者以外は、百合園側からの勧めもあり、帰還していった。
『イコン班、目的地に到着しました』
 大荒野に向かったイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)から通信が入った。
 パソコンに映し出された彼女の顔を見ながら、白百合団副団長のロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はマイクに向かう。
「異空間にいる人、向かった人にも話したことですが。双方に、全ての作戦に向かわれる人に、お願いがあります」
 イングリットが呼びかけ、班員たちが全てロザリンドの通信を受信する。
「無理や無茶をするなとは言いませんし言えません。
 この状況ではむしろ無理をしないといけない部分があるかもしれません。
 ですが。
 諦めない事、皆で生きようと頑張る事、生きて帰る事。
 誰かの命の上に成り立つことのないようにお願いします」
『わかりました。無茶はしても、皆様の命も、自分の命も百合園に持って帰りますわ』
 イングリットから届いたしっかりとした言葉に、ロザリンドは強く頷いた。
「随時連絡をください。そして、砲台を操る方から声明等の放送が流れるようなことがありましたら、誤射として基地局を破壊してしまってください。砲撃予兆の連絡もよろしくお願いいたします」
『了解しました。長引くとマスコミの方が集まりそうですよね。それが心配です』
 大荒野に現れた砲台の砲口がヴァイシャリーに向けられている。
 その話と映像が流れただけでも、ヴァイシャリーはパニックに陥ってしまうだろう。
「ロイヤルガード候補生の演習をやると情報を流しておいた。砲台やイコンを撮影されるくらいなら、大丈夫だろう」
 神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、近づく者がいたら、強制的にであっても離れさせるようにと、イングリットに指示を出した。
「副団長、これはどこにおけばいいでしょうか?」
 毛布を持ってきた団員の言葉に振り向いて「あ」と、ティリア・イリアーノ、ロザリンド、優子の三人が同時に声を上げた。
「っと、すまない」
 反応してしまったことに苦笑して、優子はパソコンのモニターに視線を移す。
「はい、毛布はそちらの隅にお願いします。テーブルは片付けてください」
 ロザリンドがそう指示を出すと、少女は元気に返事をして毛布を隅へ運んでいく。
 会議室にはテレポートに必要な物質や救護に必要な道具類が運び込まれていた。
 また、回復魔法が使える団員に待機してもらったり、救急隊もすぐに来てもらえるよう手配をしてある。
「ミルミさん、携帯電話試してもらえますか?」
 ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)も、ライナ・クラッキル(らいな・くらっきる)と一緒に会議室に来ていた。
「つながらないよ……鈴子ちゃんとも、アルちゃんとも」
 ミルミはとっても不安そうな顔をしていた。
 ロザリンドは声を落して、側に居る優子とティリアだけに聞こえる声で言う。
「怖いのは未だに犯行声明といいますか、主張を言ってこない点ですよね」
「そうね。神楽崎先輩もロイヤルガード方面から何か聞いてはいませんか?」
 ティリアの問いに「何も」と、優子は首を横に振った。
「こちらの対応が取れなくなる最終段階になってからするつもりなのか、それともまだ何らかの準備が残っているのか……」
 ロザリンドはモニターに映っている砲台の写真を見ながら考え込む。
「あの砲台ってさ、アルカンシェルに少し似てるんだろ?」
 荷物運びを手伝っていた大谷地 康之(おおやち・やすゆき)アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)に尋ねた。
「はい、アルカンシェルの魔導砲と似てます」
「構造や動力部とか弱点もそれなりに似通ってるんじゃないかな? そこを狙って止められないか? といっても、時間がなさそうだよな」
「そうですね……。でも、アルカンシェルと同じなら、すぐに撃てるタイプじゃなくてチャージに時間がかかると思います」
 だから、少しは時間があると思うとアレナは言った。
 ピロリロリ
 パソコンから着信音が流れてきた。
 式神で異空間を視ているエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)の側に居る白百合団員からだ。
『救護班第2班、1班のメンバーと合流したとのことです。システィお姉様はまだしばらく戻らないようです。あと、異空間にいる方々は、力を吸い取られているような感覚を受けているそうです』
「力を吸い取られる……まさか」
 優子はアルカンシェルの炉をイメージした。剣の花嫁の生命力を力とする古代の兵器――。
 その場にいないものの力も、パートナーを通じて兵器のエネルギーに転換していたあの兵器のような兵器ならば。
 優子が眉間に皺を寄せたその時。
 ティリアの携帯電話が鳴った。
「モ、モニカ!? あなた一体どこに……」
 慌てながら、ティリアは携帯電話のハンズフリー機能をオンにした。
『ごめん、言えない。ただ、私は別に白百合団やティリアを裏切ったわけじゃない』
「それなら、早く帰ってきて潔白を証明しなさい」
『今は無理。でも聞いて。大荒野の砲台の狙いは、百合園なの。砲台が姿を現したということは、攻撃間近なはず。気を付けて、ティリア。みんな』
 その言葉を最後に、モニカからの電話は切れた。
 すぐにティリアは掛け直すが、電源が切られてしまったようでつながらなかった。
『優子お姉さま、接近してみたのですがバリアーが張られていて、砲台から内部に入るのは無理なようです』
 続いて、桜月 舞香(さくらづき・まいか)から優子に報告があった。
「舞香、近づきすぎて発見されたり、捕らえられたりしないように注意してくれ」
『わかりました。侵入できそうな場所がなければ、無理に入り込もうとはしません』
「亜璃珠達はテレポートで入ったと思われる。多分地上からの入口はない。
 近くの鍾乳洞に向かって行方不明になった者がいるから、そこから先に進める可能性もあるが、連絡が途絶えたということは、敵の手に落ちたと考えられる。絶対近づかないように」
『……分かりました。周辺を監視しながら、引き続き探っていきます。また連絡します』
「頼む。危険なことをさせてすまない」
『いえ、優子お姉さまも、皆さまもどうかお気をつけて』
「ああ」
 舞香との連絡を終えると、優子は立ち上がり剣をとった。
「アレナ、屋上に行こうと思うんだけど、一緒に来るか?」
 優子がアレナに声をかけると、アレナは微笑んで「はい」と、優子の側に駆け寄った。
 康之も黙って、2人の後についていく。
「イリアーノ副団長は会議室にいる方々の避難指示を。私は学院に残っている生徒達を帰宅させます」
 ロザリンドは緊急放送を流すために、急ぎ放送室へと駆けて行った。

○     ○     ○


「百合園を狙ってるの!?」
 パートナーと共に、イコンのホワイトスノゥ・オーキッドで大荒野を訪れたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は、班長のイングリットから知らせを受けて、遠くに見える砲台をモニターに写しだした。
 砲身は変わらずヴァイシャリーの方向に向けられている。
『あそこに捕えられている人もいるようですので、攻撃は出来ません。接近して調査をしてくださっている方がいます。報告が来るまでここで待機していましょう』
 イングリットからの通信に「わかりました」と答えて。
 ネージュは深呼吸をする。
(来てよかった……ヴァイシャリーも、百合園も守りたいもん。でも、あたしたちだけじゃ、どうにもならないよね)
 不安な気持ちもあった。
 あの砲身がもし、自分達に向けられたら……自分達は粉みじんになり、ヴァイシャリーにも地球にももう戻れなくなってしまうだろう。
『百合園には、ロイヤルガードの優子さんとアレナ、ロザリンドやパッフェルもいるから、万が一の時にも砲撃を撃ち落とすくらいのことはすると思うわ。……いえ、出来るか出来ないかはともかく、しようとはするでしょう』
 インテグラルナイトに乗り、団員と一緒に訪れていた教師の祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)が団員達にそう言った。
『この辺りは携帯電話の基地局や電波塔は多くはないけれど、付近の基地局も抑えておいた方がよさそうね。
 ここはあなた達に任せるわ。副団長達の指示に従い、決して無謀なことはしないように』
 祥子は通信でそう団員達に話した後、イコンを操り基地局の方へと向かって行った。
「遠距離砲撃型の装甲装備と機体設定だから、あたしは遠距離で砲台や基地局狙えると思うよ。援護が必要な時には行ってね」
 ネージュはそう祥子に通信し、祥子からは『その時はお願いね』との言葉が返ってきた。
『なんだか、不気味に光っているように見えますわね』
 イングリットが砲台の方を見て言った。
 確かに……淡く、そして時折放電のようにバチバチと、砲台とその付近が光っている。
「ヴァイシャリーも、百合園も絶対護るんだから……っ」
 操縦桿を握りしめながら、ネージュは指示を待った。