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白百合革命(最終回/全4回)

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白百合革命(最終回/全4回)

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第3章 休息地

 異空間にて。
 百合園の救護艇で訪れた救護班第一班のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、マリカ・ヘーシンク(まりか・へーしんく)と合流し、瑠奈の状態を確認した後、マリカが乗り捨てたエアバイクの場所に戻った、
 そしてマリカと一緒にバイクに乗って、人造人間たちが訪れる場所、向っていく先へと出発した。
「長期戦になった場合、拠点がどうしても必要だから!」
 少し遅れて、刀真が使っていたエアバイクに乗って、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)もまた、人造人間達が向かう方向へと向かっていた。
『マリカちゃん』
 シュヴェルト13が3人に近づいてきて、高度を下げた。
『地形はマリカちゃんが持ってる地図と相違ないよ』
 サビクがスピーカーを用いて知らせてくれた。
「ありがとう!」
 聞こえないとは思うが、お礼の言葉を言い、マリカは片手を振った。
 シュヴェルト13は再び高度を上げて、どこかに飛んで行った。
「風見団長、大丈夫かな……」
 レキはエアバイクを運転しながら、瑠奈の姿を思い浮かべる。
 話によると、瑠奈は仮死状態にまで陥ったらしい。駆け付けた刀真が懸命に魔法をかけて、蘇生させたということだ。
 薬は持ってきてあるが、直ぐに戻って適切な治療を受けさせないと、非常に危険な状態だった。
 シュヴェルト13が飛んでいるということは、イコンから降ろしたということだろうか?
 少し前から、力が吸い取られるような感覚も受けていた。
「他の行方不明者の人でも、風見先輩のような状態な人いるかもしれない……」
 人造人間たちは、生存者を捕まえようとしているようだった。
 それなら、人造人間が向かっている先に、捕まった人達がいるかもしれない。
 いなかったとしても、生存者を識別できる装置かなにかが、あるかもしれない。
「それがあれば、この世界にいる人達を探せるかもしれない」
 希望を持って、レキはエアバイクを飛ばしていた。
「腕輪持ってないけれど、攻撃してこないね」
 レキの後ろに乗っているマリカが言った。
「うん。光条兵器を持った人型の方も、ロボットの方も近づいてこないし、攻撃してこないね」
 レキ達が向かっているのは、光条兵器を持つ人型の人造人間が向う先だ。
 ロボットも同じ方向に向かっているが、近づいても来ないし、攻撃もしてこなかった。
 レキは念のためマントで身を覆い『光学迷彩』で姿を見えにくくしているが、特に対処をしていないレオーナにも、人造人間は近づくことはなかった。
「苦しい……でも、弱音なんて吐いてられない!」
 レオーナは、野生の勘を働かせ、人造人間達を見かけない時にも方向を間違えることなく突き進む。
「一度はダメだと思った命だもん、もう怖いものはないよっ」
 助けてくれた人達に心から感謝しながら、人造人間の側を通る時にも恐れることなく、ただ前に進んでいく。
「見えた、多分あそこね!」
 レオーナが片手を前に出す。
 街の外れにドームのような建物があった。
 1人の光条兵器使いが、ドアを開けてその中に入っていった。
 レオーナは猛スピードで近づき、急ブレーキで止まる。
 そしてすぐに、エアバイクから降りると、ドアへと向かっていく。
「レオーナさん、注意してね! 捕まったり、怪我したらまた皆に負担かけちゃうよ!?」
 レキが大声を上げる。
「そ、そうね。慎重にいくわ」
 レオーナはドアの側で待機し、レキとマリカを待った。
 レキは少し離れた場所の建物の影にエアバイクを止めて、マリカと一緒に注意しながら、近づく。
 そして3人は頷き合い、レオーナがそっとドアを開けた。
(重い……ええと、調理室の冷蔵室みたいなカンジ)
 そんなことを思いながらドアを少し開けると、冷たい風が流れてきた。
 中は――倉庫のようだった。
 敷かれているマットの上で、人型の光条兵器使い達が寝転んだり、座りながら虚ろな目で茫然と過ごしていた。
(あ、飲み物)
 部屋の中には、大きなタンクがあり、中には液体が入っているようだった。
 人造人間が1人、タンクに近づき、携帯していた水筒の中に、タンクの中の液体を満たした。
「調査させてもらうよ」
 レキは慎重に部屋の中に足を踏み入れる。
「閉じ込められたりしないよう、見張っててくれるかな?」
「分かったわ。気を付けて」
 レオーナに入口を任せると、マリカもレキの後に続いた。
「皆同じような顔。命令している人とかもいなそう……機械類もないね」
 レキ達が部屋の中を探り始めても、人造人間達は何もしてこず、ただ茫然と過ごしてる。
(突然、ここに集まり始めたのは、誰かから命令があったからだと思うけれど……。ここに命令を発している人はいないみたい。記録なんかも残ってないかな)
 レキは部屋の中を探してみるが、コンピューターの類や、ノートや筆記具も見当たらなかった。
(風見先輩は、ずっとこの世界にいたみたいだし、その風見先輩の偽物をつくるということは、風見先輩のデータを入手したってことだよね)
 部屋の中、人造人間、そしてこの中にはいないロボットのことを思い浮かべ、レキはうんと頷いた。
(あのレンズのような目、アレで記録してるのかも。ここじゃデータ取り出すの無理だよね……)
 ロボットの方も燃料の補給などが必要なはずだから、定期的にどこかに戻っていそうだが、確認をするためにはかなりの時間が必要になりそうだ。
「この液体、ヴァルキリーの女性から渡された飲み物と同じだっ」
 マリカはタンクに入った液体を指に落として舐めてみた。
 普通のスポーツドリンクのような味だった。
「こっちは、人造人間の食糧かな。泡みたい」
 もう一つのタンクからは白い泡のようなものが出てきた。
「栄養食品のような味、かな」
 こちらも舐めてみて、マリカが言った。
「量は沢山あるし、この中はあまり暑くないから、長引く場合はここで待機しているといいかもね」
「うん」
 マリカの言葉にレキは頷きながらも、その場合人造人間達はどうすべきか考える。
「……出口があるんじゃないかって、少し期待したんだけど。違ったみたいね」
 マリカは大きくため息をついた。
「マリカちゃん、レキちゃん! 空が光ったよ。戻ってこいっていう合図だよ!」
 入口を守っていたレオーナが空の輝きに気付いた。
 恐らく、鈴子が発した魔法だ。
「あれ?」
「んん?」
 レキとマリカは急いで外へ出て気付く。
 大気の状態が随分と変わっていた。
 地図を開き、印をつけてから、3人はエアバイクに乗り込み、急いで皆の元に戻っていった。

 レキ達が光条兵器使いの休息所にたどり着くより前――。
 荒野の門の側では、門から現れた人々によりヴァーナーの治療が行われていた。
 魔法で怪我を治すことは出来ていたが、大量に出血したことと、体力が奪われ続けているため、ヴァーナーの意識が戻ることはなかった。
 そんな中。
 パッと周囲が光った次の瞬間。
 門の側に、新たに人が現れた。
「こ……ここ、どこ? 苦しい」
 苦しげに言ったのは秋月 葵(あきづき・あおい)だった。
「やられた……っ。しっかりして!」
 雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、自分に覆いかぶさっている男――吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)を、横たわらせる。
「葵お姉様、リナリエッタお姉様!」
 百合園生の2人に気づき、が駆け寄った。
 彼女達の他に2人、瀕死の男女が現れていた。
「ここに治療できる人いる? 彼をお願い! あとこの人たちも、死なせたくはない」
 リナリエッタが竜司達の症状を見ながら言う。
「オレは大丈夫だ、女の方を診てやってくれ」
 竜司は顔をしかめながら起き上がる。
「魔法が、上手く使えない……っ」
 葵は、魔法で倒れて全く動かない女性と、片腕のない男性――ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)を癒そうとしているが、魔法が思うように発動できない。
「皆様、お力をお貸しください。どうか、どうか……もう、誰も命を落とさないよう」
 凛が悲痛な声で皆に呼びかける。
 焼けるような暑さの中、体力まで奪われて、誰もがもう限界だった。
 それでも、リナリエッタや凛の呼びかけに答え、何人かの若者が3人の治療に力を貸してくれた。
「秘術書……『ヒュー』よ。オレと契約をしろ」
 ジャジラッドが這うようにリナリエッタに近づき、足を掴んだ。
「この世界を……安定させる、には、お前の力が、必要だ。オレじゃなくてもいい、ここにいる吉永でも」
「てめぇを扱えるかどうか、わからねェが、オレでよければ契約しよう」
 ジャジラッド、そして竜司が、リナリエッタがもつ魔道書に手を伸ばした。
 リナリエッタは迷いつつ、魔道書を二人の方へと差し出す。
 引き寄せられるように掴んだのは、ジャジラッドだった。
「シャンバラとエリュシオンの戦いは、終わっている。ヒューよ、この世界を安定させろ。そして、パラミタの大荒野に共に行こう」
 そう呼びかけるジャジラッドの前に炎が現れて、渦巻いていき。
 一人の青年の姿となった。
 青年が両手を広げて呪文を唱え始めると、世界の色が少しずつ変わっていった。
 薄く赤く染まっていた空気が、大地が。
 普通の色に戻っていく。
 熱さがなくなっていき、体が楽になっていく。
 ほぼ同時に、体力が奪われることもなくなった。
(アルコリアさん、リンさん、ありが、とう。……美緒、美……緒)
 岩陰で小夜子はそっと胸に両手を当てて、目を閉じた。

 プップーと、クラクションの音が響いた。
「百合園女学院の白百合団ですぅ! お待たせしました〜!」
「皆さん、ご無事ですか!」
 ルーシェリアが運転するトラックが到着を果たし、助手席から美咲が飛び降りた。
「強い回復魔法を使える鈴子先輩もいらしています。急いでそちらに向かいましょう!」
 最悪の条件下で、重体者の治療を行っていた者達も倒れていく。
「ヴァーナー!?」
 呼雪が、介抱されているヴァーナーを見つけ、駆け寄る。
「九条先生、こちらの方々を診てください!」
 美咲は体の一部を失っているジャジラッドと女性を見つけ、医者のジェライザ・ローズを呼んだ。
「わかりました。これは酷い……っ」
 ローズはすぐに駆けつけて、応急処置を施し美咲と共にトラックの荷台に運んでいく。
「早く、トラックの中に……この子は?」
 美羽は服がかけられた下に、幼子の遺体があることに気付いた。
「この子はもう、亡くなっています」
 凛が自分の洋服で幼子を包んだまま、両腕で抱き上げた。
「この子の故郷で、埋葬してあげたい、です」
「……うん、トラックに連れて行ってあげて」
 美羽がそう言うと、頷いて凛は幼子をトラックへと連れて行く。
「皆、どうしてここに集まってるの? 魔力を増幅する杖、ここにない?」
 円が誘導しながら尋ねた。
「……円さん」
 岩陰から、小夜子が姿を現した。
「よかった、無事だったんだね。アルコリアさんとかもいる?」
 円の問いに小夜子は首を左右に振って、門を見た。
「アルコリアさん、リンさんはテレポートでどこか別の場所に行きました。この空間ではない、建物の中です。
 この世界にいる光条兵器を使う生き物とロボットは、何者かによりつくられた人造人間のようです。それらはこの世界に訪れた生存者を集め、どこかへ連れて行っていました。
 ここにいる方々は、連れられた先から戻ってきた方々です」
 小夜子は知っていること、この場で知ったことを円に話した。
「となると、この世界に居る生存者のほとんどがここに集まってるってことだよね。杖はこっちじゃなく、連れられていった先にありそうだ」
「いや、ここにある」
 そう言ったのは、ヴァーナーを抱き上げた呼雪だった。
「どこで手に入れたんだ?」
 呼雪はヴァーナーと側に居る者達に問いかけるが、ヴァーナーの意識ははっきりとしておらず、周りに居る者達は、何も知らないと首を左右に振った。
「それでしたら、倉庫のような場所で発見しました。経緯は移動中に話します」
 トラックに向かいながら、凛が言った。
 呼雪は頷いて、ヴァーナーをトラックの荷台へと運んでいく。
「大気が安定してきたわね。力も取られなくなったみたい。理由分かる?」
 何故か動こうとしない小夜子の腕をブリジットが引っ張り、トラックへと連れて行く。
「大気の方は、この世界に渦巻いていた魔力が、治まったからのようです。体力の吸収は……」
 小夜子は凛に抱かれた幼子をちらりと見て目を伏せた。
「別の世界に向かわれた皆さんのお蔭です」
 そしてそう答えたのだった。