リアクション
○ ○ ○ 『インターネットテレビで怪しい動きがあります。放送が流れてからでは遅いので、基地局を……お願いできますか』 百合園の会議室で全体指揮を担当しているロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)から、インテグラルナイトに乗り待機していた祥子に連絡が入った。 「わかったわ。ここでの作業を終わらせた後、私は情報伝達の為にヴァイシャリーとの中間点に向かうわ」 『お願いします』 「もしかして屋上に、生徒達集まってるんじゃない?」 『……はい』 ロザリンドの返事を聞いて、祥子はふっと息を漏らした。 「シャンバラ女王に仕える女官を育てることが目的の白百合女学院。 側仕えの女官は軍やロイヤルガードの護りが破れた時、女王陛下の最後の盾となる立場だと思ってる」 優子とパッフェルとアレナ。 ティリアに白百合団員。 そして、その後ろにいるであろう、美緒や一般の百合園生を思い浮かべながら祥子は言う。 「白百合団で経験を積んだ者なら、尚の事。どんなに追い詰められても切羽詰まっても、冷静に、自分の出来る事、しなきゃいけないことを見極められるようになれればいいわね」 『はい』 ロザリンドのしかりとした返事を聞いた後「そちらも気を付けて」と言葉を送ると、祥子は通信を切った。 そして、モニターに基地局を映し出す。 「これからは暴力の時間ね……。百合園の一般生徒にはあまり見せられたものじゃないわ」 ここの基地局は鉄塔だ。付近に人の姿がないことをもう一度確認しておく。 「イングリット・ネルソン班長。こちら、実行に移します」 『了解しました』 「いくわよ……!」 イングリットに連絡を入れた後、祥子は黒色チャクラム・ホロウで一気に鉄塔を破壊した。 「優子お姉様! 突然崩城さんの反応が強くなりました。同時に、砲台全体に張られていたバリアーが消えたみたいです」 砲台を探っていた舞香は変化を察知し、優子へ連絡を入れた。 『舞香、エネルギー炉を破壊できそうなポイント分かるか?』 「はい!」 『それを直接現地の団員に連れてくれ。自身は早急に退避だ』 「わかりました」 舞香は優子との連絡を終えると、すぐにイングリットに攻撃ポイントを教えて、自分自身はその場から離れる。 「基地局を破壊した後、受信した砲台のポイントを撃ちますわよ。 百合園への砲撃は止めなければなりませんが、代わりにわたくし達がターゲットになるわけにもいきません。こちらに砲口を向けられてしまった際に素早く退避できるよう、一か所に固まらないようにしてください」 「了解!」 イングリットの指示に、ホワイトスノゥ・オーキッドを操るネージュ達白百合団員は従って、攻撃ポイントを確認しつつ、互いとの間に距離をとる。 「目標確認、基地局破壊するよ!」 ネージュは先に、任されていた基地局の破壊を行う。この付近にあったのは、道路脇に立っているコンクリートの柱のみだった。 ネージュがウィッチクラフトライフルで基地局を破壊した直後。 「撃て!」 ティリアから指示を受けた、イングリットが号令を発した。 「行けー!」 ネージュはすぐに方向を変えて、ホワイトスノゥ・オーキッドで砲台の根元、エネルギー炉と思われる部分を狙い、魔力の弾丸を射出した。 白百合団員達が付近に攻撃を加える中、ネージュの弾丸はまっすぐ目標ポイントに直撃し――爆発が起こった。 砲台の一部が破壊されたことで、砲身の向きが変わった。 「退避!」 イングリットがスピーカーを用いて命令をする。 「了解!」 イコンの中でネージュは答え、直ぐにその場から離れる。 少しして、また爆発が起きた。 爆音が響き、大地が揺れた――。 砲身からエネルギー弾が飛び出すことはなかった。 ○ ○ ○ 「ぐは……っ」 地面の下から、男性が少女と女性を抱えて地上に飛び出してきた。 そのままその男性――ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)はその場に倒れた。 彼の肩からは、激しく血が吹き出ている。 「ぜすたん!」 地面に投げ出された少女、リン・リーファ(りん・りーふぁ)が彼の傷を見るが、癒す能力は無く、手で傷口の傍を押さえて血の量を減らそうとすることくらいしか出来なかった。 「んー。これはすぐに魔法で直さないと危ないですね。とっても危ないですねー」 共に地下から現れた女性、牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)も彼がかなり危ない状態だと分かるが、回復の手段を持ち合わせておらず、飛ぶ道具もないので。 「運ぶしかないですねぇ……。リンちゃんが彼を姫だっこして、私がリンちゃんを姫抱っこ。それともその逆がいいでしょうか」 「最悪……カッコわりぃ……」 ゼスタは片手で自分の顔を覆い、弱くそう呟いた。 「動かすより、誰か魔法を使える人連れてきてもらった方がいいかも。あたし、ここで見てるから」 「そうですね。止血さえできれば、あとは血を上げればなんとかなるでしょうし……」 アルコリアが人を探しに、出発しようとしたその時。 「大丈夫ですか? ……もしや、レイラン先生ですか?」 近くの――鍾乳洞の方から白百合団員のアルファ・アンヴィル(あるふぁ・あんう゛ぃる)が走ってきた。 「そう、ゼスタ・レイランせんせーです。早急に手当てが必要なのですが、アルファさん、回復魔法使えます?」 「はい、多少ですが」 急いで駆け寄って、アルファはヒールをゼスタにかけた。精神力が尽きるまで何度も。 おかげで、血の噴出は止まり、ゼスタの症状は安定していく。 「はあ……」 大きく息をつくと、ゼスタはリンの手を借りて、半身を起こした。 「ぜすたん、起き上がって大丈夫?」 「みっともねー」 ゼスタは片手で顔を覆ったまま、苦笑していた。 「みっともなくないよ」 リンは彼の頭の上に手を置いて、お疲れ様と言いながら撫でた。 ゼスタは顔を隠したまま、力なく笑っている。 『百合園女学院、生徒会執行部です! 急いでここから離れて』 ネージュが操るイコン、ホワイトスノゥ・オーキッドが近づいてきた。 「はい、百合園の生徒ですー。お風呂まで運んでくださいー!」 アルコリアが手を振りながら大声を上げる。 早くお風呂に入ってさっぱりして、みるみ分を補充したかった。 『あ! アルコリアさんに、アルファさん! それにゼスタ先生と行方不明の魔女さん。大変大変』 ネージュはイングリットに連絡を入れながら、4人に近づくと。 『乗って。ゆっくり運ぶけど、ちゃんと掴まっててね』 イコンの手の上に大切に4人を乗せて、ヴァイシャリーまで運んだのだった。 同時に、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の反応があった場所を頼りに、亜璃珠と、共に向かったはずの錦織 百合子(にしきおり・ゆりこ)の捜索が行われた。 砲台の斜め下。瓦礫で潰された砲台をコントロールしていたと思われる部屋の中に、重傷を負った亜璃珠と、重体の百合子がいた。 それから、同じ場所で、マリザ・システルース(まりざ・しすてるーす)とファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)も瀕死の状態で発見されたという。 |
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