リアクション
○ ○ ○ 12月中旬。 百合園女学院の生徒会室に役員と関係者が集まっていた。 「……ただいま戻りました」 瑠奈のパートナーのサーラ・マルデーラが、ティリアのパートナーでどこかで隠れていたモニカ・フレッディと共に生徒会室に戻ってきた。 「ただいま……ははは」 「はははじゃない。ここに座りなさい」 きまり悪そうに笑うモニカを、ティリアは自分の隣に座らせた。 サーラは皆に頭を下げてから、モニカの反対側の隣に腰かける。 「事情を話していただけますか?」 ロザリンドが問いかけると、2人は首を縦に振って交互に説明を始めた。 夏の終わりに、自分達のところに『騎士の指輪』という、指輪を求めている者が現れた。 その者は復活した古代シャンバラの技術と知識を用い、臣民のための政治が行われるよう、シャンバラを安定させていきたいと語っていたという。 古代の女王の力を封印した女王器を所持しており、計画を実行する際には多少の血が流れるだろう。 既に同志はかなり集まっていて、政府や、2人の上司や友人達の中にも賛同者がいると聞かされた。 その者は自分達の計画に賛同はしなくても、敵対をせずにこれらの話を漏らすこともなければ、2人のパートナーと家族には危害が及ばないよう、計画実行の前に連絡をすると約束をしてくれた。 「サーラは約束をして、協力も敵対もしない道を選んだわ。私は――その、私の前に訪れた方が、私がかつて仕えていた家のご主人様だったから。従わないとは言えなくて」 モニカは彼の下につくことは望まなかったが、彼らが探し求めていた指輪の探索については、協力を約束してしまった。 彼らとの連絡の手段を失わずにいれば、いざという時、皆を助けるために動けるかもしれない、そうも思って。 「指輪の一つで最も彼らが欲していた『白騎士の指輪』は、シスト・ヴァイシャリーというヴァイシャリー家の青年が持っているってことは、大体わかっていた」 夏の合宿の時、シストから瑠奈がプロポーズのように指輪を渡された。そんな噂話が流れていた。 その噂により、モニカは瑠奈がその指輪を受け取ったと思いこんでいた。 「私はシスト・ヴァイシャリーに踊らされたの。サーラにもね」 だが、瑠奈の部屋を探して見つかったのは、本物の白騎士の指輪ではなかった。 ヴァイシャリー家の男子は隠されているため、モニカにはシストに接触する手段がなく、サーラを監視しながら、瑠奈からの連絡を待っていたところ。 「倒れる前のサーラの言葉で、シストの居場所を知ったの。捕まえて吐かせたいとも思ったんだけど、分が悪くてこれ以上は無理だと思ったから……隠れさせてもらったわ」 彼らがまず、滅ぼそうとしたのは地球人でも、百合園女学院でもなく、実際はヴァイシャリーの――百合園にあるイコン等の兵器だった。 「電話で、百合園が狙われていること知らせたけれど。組織はもっと早くに、狙いは百合園だとヴァイシャリーの有力者に連絡していたはず。 百合園の生徒は狙ってなかったのよ。でも、それを白百合団に話したら、学園と設備を放棄して、百合園生の避難と、護衛を選ぶはず。 そうさせないため、ヴァイシャリー家や有力者はぎりぎりまで白百合団に教えてくれなかった。……のだと私は思う。古代の彼等に成功してほしかったわけじゃ、断じてないけど。私は今の領主、貴族たちは信頼できない。私やサーラだけじゃない、ヴァイシャリー家やツァンダ家だけじゃない。多くのパラミタ人が彼等の動向を知っていたけれど、自主的に動くことはなく黙っていたのよ」 「私は、今のヴァイシャリー家の人たちのこと、好きよ」 不満そうなモニカに、微笑んでサーラはそう言った。 「結果として、百合園は破壊されず、瑠奈も百合園生も誰一人命を落とさなかった。 モニカや、同じように組織の元に行っていた人達も、こうして帰ってくることができた。 どこかの貴族が騒ぎ立て、戦争を起こしていたら百合園生でも帰って来られなかった人がいるでしょうし、人々は確実に混乱し責任を押し付け合い、モニカ達は敵側に与したとして処分……最悪死刑になっていたんじゃないかしら。 世界全体でみると、犠牲も出ているし、苦しんでいる人も沢山いるけれど……白百合団はパラミタの皆と共に、被害を最低限に抑えることが出来たと思ってる」 そして、サーラは皆に頭を下げた。 「ありがとうございました」 「サーラさんもお疲れ様だよ。調子よくなって良かったね」 副団長補佐のレキがそう言うと。 「瑠奈を助けてくれて、本当にありがとう」 サーラは強く頷いて微笑んだ。 「それで、結局あの異空間は何だったの? 何があって、どうなったの?」 レキがそう問いかけると、ロザリンドが各方面からの報告書を見ながら慎重に話し出す。 「今こちらで話し合われていること、これから話すことは全て皆様の胸に留めておいてください。記録として生徒会室に残すこともありません」 5000年前。古代の兵器であるエリュシオンの『火の秘術書』の力を、土地ごと『女王器の光の魔道書』で封印した。 それが、ダークレッドホールの先にあった古代の世界――異空間。エネルギーが荒ぶる世界。 そのエネルギーと、有能な地球人の力利用して、百合園や地球絡みの軍事施設への砲撃がなされようとしていた。 火の秘術書の暴走は、シャンバラの契約者であり恐竜騎士団に所属しているジャジラッドが、契約をすることで治めた。 秘術書と人型になった分身は、救出されたエリュシオンの女性、晴海と共にエリュシオンに届けられ、厳重に管理されているとのことだ。 光の魔道書は白百合団には知らされていないが、誰かが持ち帰り、シャンバラのどこかで管理されているらしい。 「行方不明になっていた方々の体には異常はなかったそうです。ただ、ヴァーナーさんにつきましては、怪我は完治していますが、拉致されてから今までの記憶を失ってしまっているそうです。 ゼスタ・レイラン先生はもう普通に授業を担当されています。 風見団長はクリスマスには退院できるとのことです」 エリュシオンから訪れていた女性――それがかつて白百合団に所属していた御堂晴海(みどう・はるみ)であることは、知ってはいたがロザリンドは皆に言わなかった。 彼女は辛うじて一命を取り留めたが、臓器の一部を失ってしまい、子供は望めなくなってしまったそうだ。 今月行われるはずだったヴァイシャリー議会の会議は、事態の対応のため延期となった。 ロザリンドは意見書に、命を賭して皆を帰還させたシスティ・タルベルトについて書き記して、ヴァイシャリー家に提出した。 白百合団はこれまで、契約者だけで構成される生徒会組織でした。 しかし、彼女は契約者ではありません。シャンバラの力ある家の貴族でした。 今もこれからも、こうして契約者のみでは、対処できないことがあります。 そして未契約者でも契約者と同等以上に頑張ろうとする人がいます。 それらを踏まえまして。 契約者が治安を守る組織ではなく、皆で協力して治安を守る白百合団の形が、これからであり、 その為に大人や場合によっては、外部からの役席者設置と定期的な協議をしていき、 今回のような一部暴走を抑える形を望んでいます。 後のミケーレ・ヴァイシャリーからの知らせによると、今回の事件と、白百合団からの意見により、議会では、ヴァイシャリー警察発足に関しての話し合いが行われるそうだ。 システィ・タルベルトは百合園に戻ってくることはないそうだ。 意識は戻っていないが、命に別状はないと白百合団には連絡が入っていた。 残してきたものを回収するために、回復してからもう一度向かわせるか。 それとも別の方法を試みてみるか。回収を見送るか。 回復を待ちながら検討を進めている、とのことだった。 「一先ず、白百合団の作戦はこれで終了となります」 大荒野では、エリュシオンの龍騎士団と、シャンバラの国軍、ロイヤルガードによる合同捜査が行われている。 事件は百合園の手を離れていた。 「皆さん、お疲れ様でした」 ロザリンドが微笑むと、生徒会室にいた皆が拍手を始めた。 既に疲れは消え、学生達の顔には輝きが戻ってきていた。 ――白百合革命 完―― |
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