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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション




 諸々の打ち合わせを終え、ダークサイズとチーム・サンフラワーはいよいよフレイムタンへの進攻を開始した。
 拠点設営チームに見送られながら、隊は「アルテミスの加護」の範囲内でまとまる組と、「『亀川』の冷気」の影響下で進む組とに分かれる。
 フレイムたんの言うマグマイレイザーを警戒しての組み分けだ。
 アルテミスの加護は、アルテミスへの食糧の供給さえ止めなければ安定しているが、『亀川』の方は冷気と熱の相殺で適温にせねばならないので、コントロールが難しい。
 露出した溶岩の熱をはじき返せる強さの冷気を、『亀川』とフレイムたんの距離感で図る。
 さらに、暑さも寒さも極端なため、『亀川』と自分との距離を上手く取らないと辛いことになる。
 従って『亀川』の運搬は台車では厳しい、となり、リリが買って出て【空飛ぶ箒シーニュ】から紐でぶら下げる形をとった。
 もちろん、亀甲縛りでぶら下げている。

「思ったよりタートンの方は面倒ね」

 茅野 菫(ちの・すみれ)は『亀川』に自分流のあだ名をつけながら、【召喚獣:フェニックス】と【召喚獣:ウェンディゴ】を呼び出し、『亀川』と溶岩の距離感を見ながら適温エリアの拡大に努める。
 どこで現れるとも分からないマグマイレイザーへの警戒も兼ねて、『亀川』班よりは小回りのきくアルテミス班が、隊列を先導する。
 ダイソウは先頭になって後ろを振り返り、

「では、先へ進むぞ。皆、警戒を怠るな」

 と、注意を促したところで、

「ちょっとまてーい!」

すぱああああん!

 軽快な音を立てて、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が【光条兵器】のハリセンでダイソウの頭をはたく。

「いきなり何をするのだ、アキラ。私はまだ何もボケておらぬというのに」
「いーや、ボケたぜ。ボケボケだぜトウちゃん!」

 モモがダイソウを「トウさん」と呼ぶのに影響を受けたのか、アキラもダイソウを下の名前で呼ぶ。

「ったく、みんなをもっと信用しろよ。ダークサイズもこんだけ戦力が整ってきたんだぜ? 前に立つのは俺達に任せて、トウちゃんは後ろでふんぞり返って、落ち着いて状況を見てればいいんだよ」
「む……」
「そんなこったから、イレイザー戦でテンパってペンギン連れてきたりしちゃうんだよ」
「むむ……」

 前回のイレイザー戦では、皆に追いついて頑張ろうと、ペンギン部隊を引き連れて無理やり前線に加わったダイソウ。
 流石のダイソウもその時ばかりは冷静な判断を見失っていたので、アキラにそこを突かれるとぐうの音も出ない。
 クロスは【ピコハン】を抱えて、

「しまった。そういうボケだったんですね、ツッコみそびれました」
「違うぞクロス……」

 それを見ていたリアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)もにこやかに笑い、

「そうだね。ダイソウトウさん、もっと後ろに下がっていいよ。地図もあることだし、僕も【殺気看破】を使ってる。むしろ中央にいてくれた方が、僕らはダイソウトウさんやアルテミスさんを守りやすいもの」
「そうそう! てなわけでトウちゃんは下がった下がった。ちょうどいいからこいつにでも跨ってさ」

 アキラが指さすと、ヴァルヴァラ・カーネーション(ばるばら・かーねしょん)が怪しい目つきでダイソウを見上げる。
 ダイソウはヴァルヴァラを見て、

「おお、じゃじゃ馬のセキトバではないか」
「グルルルォォ……♪」

 ヴァルヴァラは喉を鳴らしてダイソウの足に頬をすりつける。

「うむ、そうだな。ではそうするとしよう」

 まさかアキラにまともな説教を食らうとは予想外だったが、ダイソウは目の覚める思いでヴァルヴァラに跨る。
 ダイソウの体重を感じて、妙に身体をくねらせるセキトバことヴァルヴァラ。

「ケケケ……」

 ヴァルヴァラの乗りこなしに苦労するダイソウの後ろから、くぐもった笑い声が聞こえた。

「む、何者だ?」
「良い部下を……持っているみたいだな……」

 仮面をつけてフードを被り、ミステリアスな雰囲気を醸し出す男。

「ククク……おまえたちがニルヴァーナに列車を引くと聞いてな。俺の目的と共通するものがある。少し……手伝ってやろうと思ってな」
「ほう、おまえの名は?」
「俺か? そうだな……メンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)とでも呼んでくれ」
「なるほど、管理が大変そうな名だな。ではメンテナンスよ、どのように手伝ってくれるのだ?」
「ニルヴァーナの末裔、ポータラカ人の超技術から誕生した、俺のパートナーが役に立つはずだ」

 と、メンテナンスは自分に従う二人の女性を指す。
 青い髪をボブカットにした、優しげな赤い瞳はピュラ・アマービレ(ぴゅら・あまーびれ)、金のロングヘアに青く鋭い瞳の方はモニカ・アマービレ(もにか・あまーびれ)という。

「ダイソウトウ。ポータラカの技術で培養した、人造ヴァルキリーだ。ニルヴァーナの情報もインプットされている。無論、このフレイムタンの地図も頭に入っている。二人が先頭になって、安全にみんなを案内できるはずだ」

 メンテナンスの説明をして、ピュラとモニカはどきりとする。

(……ピュラ。私たちがフレイムタンを案内するってどういうことなの)
(……わかりません、モニカ。私も初耳です……)

 二人は感情の起伏がない口ぶりで、ひそひそ話す。

(私、フレイムタンのことなんて知らないわ)
(私だって)
(ていうかなんで私たち、ニルヴァーナの事なんでも知ってるみたいな説明されてるの?)
(分かりません。全く、分かりません)
「なるほど、それはありがたい。頼むぞ」
『はい!』

 ダイソウの謝意に、思わず返事するピュラとモニカ。
 謎の男メンテナンスが、何故二人がフレイムタンを案内できると思ったのかは謎である。
 とはいえ、ダイソウの信任を得たメンテナンスの言葉をむげにするわけにもいかない。

「ピュラ、何故『はい』なんて言ってしまったの」
「モニカこそ」

 後に引けなくなった二人は、とにかく先頭に立ってみる。
 【超感覚】で犬耳を立てたリアトリスが、

「やあ、フレイムタンの道案内をしてくれるんだって? すごく助かるよ」
「へー、すっげえな。ポータラカのワザが味方につくなら、百人力じゃん」

 アキラも二人を歓迎する。

(どうしますか、モニカ?)
「と……とにかくあなた方が写し取ったという地図を見せてくれるかしら? 地図が合っているかどうか、私たちがチェックしながら進むわ」
(なるほど。いいアイデアです)

 ピュラは、地図が正確か確認するというフェイクを挟んで、体裁を整える。
 一方、そんなみんなの命を護るアルテミスは、

(あの女豹……ダイソウトウさまになれなれしいやつではないか。しばらく見ぬと思ったら、また来ておったのか)

 ダイソウを乗せて涎でも垂らさんばかりのヴァルヴァラを見て、むすっとしている。

「其れ、アルテミス。貴様はわしらの生命線じゃからな。歩いておらんで、わし自慢の空飛ぶ家を使うのじゃ」

 ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)が、アルテミスの様子を気に留めずに彼女の手を引く。
 ルシェイメアは、最近手に入れたばかりという【バーバ・ヤーガの小屋】にアルテミスを招き入れ、

「くつろぎながらでよい、加護を頼むぞ。【普通のお弁当】も持ってきた。まあこれでは足りんじゃろうから、他の者が料理をしてもよい。簡易医務室としてケガした者やへばった者を入れるじゃろうが、貴様は気にせんでよいからな」

 ルシェイメアの言葉通り、皆の命を護るアルテミスを大切に扱うのはよいことだ。
 だが、小屋に放り込まれたことでアルテミスは、

(外の様子が、いや、ダイソウトウさまの様子が見えぬ。あの女豹、ダイソウトウさまに妙なことをしていなければよいが……)

 と、変な不安が拭えない。
 アルテミスの不安はだいたい当たっており、

「グルオォ、クアァ♪(久しぶりねぇ、ダイソウトウ。上に乗るのもいいけど、そろそろ顔舐めさせてくれないかしらぁ)」
「セキトバよ、前を見て歩かぬか。溶岩に足を突っ込んでしまうぞ」
「グァオガウゥ(肌の触れ合いが足りないわ。ズボンが邪魔なのよ)」
「セキトバ、私の服を噛み切るでない」

 と、何故か中年男が好きなヴァルヴァラは、ダイソウにちょっかいを出し続ける。
 そんなダイソウにさらにバーバーモヒカン シャンバラ大荒野店(ばーばーもひかん・しゃんばらだいこうやてん)がちょっかいを出す。

「へいへーい、ダイソウトウ。バーバーモヒカンが入れてあげた、剃り込みの具合はどうだい?」

 本当はダイソウをモヒカンにしてやろうと仕掛けたバーバーモヒカンだったが、最終的に側頭部に剃り込みを入れる形になっていた。

「うむ、言われてみれば、通気が良くなった気がするな」
「だろだろー? でも剃り込みだけじゃまだ快適とは言えないねー。ほら、あっちのピンクモヒカン兄貴を見てみなよ! フレイムタンの中なのに、汗一つかいてないでしょ? あれ、モヒカンにしてるおかげなんだよねー」
「そうなのか?」
「だからダイソウトウ! こんなあっつい場所を拠点にするんだから、あんたも快適な髪形にしないと禿げちゃうよ。モヒカン職人、バーバーモヒカンが完璧に剃りあげてあげるからさー!」

 と、間髪いれずに【毛神『理髪師バリバリカーン』】でダイソウの側頭部目がけて突進する。

「ぐるくわぁ」
「これ、セキトバ。まっすぐ歩かぬか」
「ダイソウトウ、ちょ、動くと危ないよー」

 ヴァルヴァラが動くことでダイソウトウがランダムに揺れ、バーバーモヒカンの攻撃がいちいち当たらない。

「動くなってばー」
「ぐるるぅ」
「これ、セキトバ」

 と、おじさんと子供と黒豹の、三つ巴のじゃれあい。
 そうとは知らぬアルテミス。

(よもやダイソウトウさま。種を越えた愛に目覚めなどなさるまいな……ああ、もっとはっきりアタックしておくべきだっただろうか……)

 隔たった空間にいることで、アルテミスは要らぬ考えが膨らんで悶々とし始める。
 そういう精神的な迷いは、往々にして魔力に影響を及ぼすもので……

「ううっ……」
「どうしました、エンド?」

 突然苦しそうに膝をついたグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に、ロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が急いで手を添える。
 グラキエスは思わぬタイミングで感じた暑さに汗をにじませ、

「分からない……瞬間的に熱が襲ってきたようだ。もう大丈夫だ……くっ」

 と、再び立ち上がろうとしてまた足が崩れる。
 属性の関係上、熱には極端に弱いグラキエスは、アルテミスの加護の微妙な揺らぎからくる熱の侵入に、非常に敏感に反応する。

「グラキエス……遺跡でもあれほどの苦労を強いられたのだ。フレイムタンがどれほどの熱か、分かっておったろうに」

ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が、反対からグラキエスの肩を支えようとする。
 一隊の中で足を止める者が見えたルシェイメア。

「どうしたのじゃ? ふむ、属性が……よかろう、わし自慢の空飛ぶ家で回復を図るがよい。アルテミスも中におるから、溶岩の影響が最も少ない場所じゃしな」
「いや、フレイムタンに入ったばかりだと言うのに……くっ、自分の足で歩くことを、まだ放棄したくないんだ……」

 グラキエスはルシェイメアの誘いを丁重に断りながらも、熱の波にことのほか苦戦する。

「……」

 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)が、口を開かないまま【小型飛空艇ヴォルケーノ】を叩く。
 グラキエスに乗れと言っているようだ。
 ロアがウルディカを制止し、

「いや、乗るなら私の【アルバトロス】にすべきでしょう。エンドの休息に有用なのは、私の飛空艇だけなのだから」
「揉めるな。では間を取って、我の背中におぶさるがよい」

 と、二人の間にゴルガイスが割って入る。
 しかしグラキエスは、

「いや、避難するのも足手まといになるのも……ごめんだ。ならば……」

 と、スキルを使って感覚の遮断を行う。

「なっ、エンド! まさか、【痛みを知らぬ我が躯】を!?」
「グラキエス、分かっておるのか? 痛覚は遮断できても、属性の後退に拍車をかける結果になるのだぞ……!」
「……」
「かまわ、ない……このまま動けなくなるよりましだ……!」

 感覚の遮断に成功したグラキエスは、足に力を込める。
 三人のパートナー達は知らず知らずのうちに拳を握り、

(……ばーれ……がんばーれ……がんばーれ……!)

 と、グラキエスに熱い視線を送る。
 グラキエスは額の汗を払い、

「よし……いける……!」
「おお……立った……」
「エンドが……立った……!」
「……」

 ゴルガイスとロアが思わずつぶやき、ウルディカは、すいっと目を逸らしてフレイムタンの熱で目を乾かそうとする。肩が少し震える。

「さあ行こう。いつイレイザーが襲ってくるかもしれない。警戒を怠るな。アルテミスと亀山には、指一本触れさせない」
「分かりましたエンド。亀山君の方は中空に浮いていますし、冷気が自己防衛の効果も兼ねているように見えます」
「うむ。亀山は秋野とかいう者たちに任せ、我々はアルテミスの周囲を固めるがよかろう」
「……」

 序盤からドラマチックなグラキエス達を見送りながら、

(亀山じゃないぞよ。『亀川』! 『亀川』じゃよーっ!)

 ルシェイメアは叫びたくてたまらない気持ちを、必死で抑えた。