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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション公開中!

【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション




 フレイムタン・オアシスに到着できて、最も安堵しているのはピュラとモニカの二人。

「ある意味で……今までで最も困難な任務だったわ」

 メンテナンスの謎の無茶ぶりをどうにかこなし、少ない感情の中で達成感を得る。
 リリのマップのおかげで、入り組んだ道筋をスムーズに乗り越えて到着した、フレイムタン・オアシス
 フレイムたんの言葉通り、ここまでの通路の両脇を流れていた溶岩はなりを潜め、目を刺激する赤い熱の光とほてりは遠ざかり、まるで溶岩の海に浮かぶ小島のようになっている。
 フレイムタン・オアシスがニルヴァーナ人に利用されていたのは明らかなようで、オアシス全体は半透明な赤紫色のガラスともプラスチックともとれる質感の素材で、ドーム状に覆われている。
 そして、このドーム内はニルヴァーナ技術によって熱の遮断もなされていたのが、容易に想像できる。
 しかしもちろん、熱の遮断と換気を管理していたであろう機晶エネルギーは働いておらず、さらにオアシスの出入り口とおぼしきドームの隙間が開きっぱなしになっている。
 暑さそのものはこれまでのフレイムタンルートと変わらず、アルテミスの加護を解除することはできない。
 ドームが描く放物線の角度から予測すると、オアシスは都心の駅ほどの広さだろうか。
 エネルギーはもとより、生物の存在も全て消え失せ無機質が支配する中、アキラの目が鋭さを増し、リアトリスの犬耳がぴくんと動く。

『いる……!』

 二人の【殺気看破】は、明らかに強烈な敵意の存在を示している。

「ダイソウトウ!」
「うむ。総員、イレイザー応戦に備えよ!」

 何とかダイソウを舐めまわそうと、ぐるぐる回転するヴァルヴァラの上で、ダイソウも回りながら声を上げる。
 ダイソウの号令に呼応するかのように、オアシスを揺らす低いうめき声が響く。

「アキラ、リアトリス。どちらから来る?」
「あのでっかいビルのすぐ後ろ!」
「見て、尻尾が見えてるよ!」

 リアトリスが指さす方を見ると、5階建てほどのビルの脇から太く茶色い尻尾がのたうっている。
 その尻尾は岩石が張り付いたような分厚い鱗が覆っているのが、ここからでも分かる。
 続いてビルのてっぺんからは、ドラゴンをイメージさせる頭が持ち上がって来て、鼻先から牙を覗かせた口、そして巨大な目玉が見えてくる。
 そしてその目は、縄張りの侵入者へ敵意をむき出しにして、ダークサイズを睨む。

「……イレイザーよりでかくね?」

 ビルの後ろから全身を現したマグマイレイザーは、尻尾と同じく見るからに頑丈そうな鱗を纏い、肥大した身体を引きずるように、二本足で歩く。
 鈍重そうなシルエットであるが、普通のイレイザーより一回り大きく見えるマグマイレイザーは、相手を威圧し、ひるませて行動力を奪うには充分な存在感である。

「こりゃでかいな……」
「ていうか、どうやってオアシスに入ったんだ、こいつ?」

 ドームの破損が見つからないあたり、マグマイレイザーがどうやってオアシスに入ることができたのか。
 そんな考えが湧いてくる余裕ができるほど、マグマイレイザーはゆっくりと歩を進める。

「アルテミスよ。加護をイレイザーを包めるまで広げられるか? 皆が戦いやすいようにするのだ」
「承知」

 ダイソウの指示で、アルテミスは集中を高め、加護の範囲を拡大する。

「総統! 今回も先陣は自分にお任せを!」

 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、ダイソウに駆け寄って敬礼する。

「うむ、吹雪か。しかし今日は罠は張っておらぬぞ。いきなり突撃して大丈夫か?」
「大丈夫です、問題ありません! 前回の戦いから学習しまして、自分、新兵器を持ってきましたから。二十二号!」

 吹雪はパートナーの鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)を呼ぶ。
 二十二号はマグマイレイザーを見ながら吹雪の元へ駆けつける。

「我の出番というわけだな。大日本帝国が威信を賭けて開発した、本土人型決戦兵器の力を、存分に使うがよかろう」
「あっ、そこの方! あなたも身が軽そうですね。自分と一緒にイレイザー先発隊をやっていただきたいのであります!」
「えっ、俺?」

 吹雪に声を掛けられて、柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が自分を指さす。
 吹雪は恭也の手を握り、

「あなたもダークサイズに入りに来たのでありましょう?」
「え、あ、まー、一応そうだけど」
「でしたら自分と第一撃を決めて、この組織で出世を目指すであります!」
「そ、そうだなぁ……」

 突然の展開に、戸惑いながら恭也がダイソウを見ると、ダイソウはうなずき、

「任せたぞ……!」
(えー! 俺何も言ってないのにー!?)

 まだ名乗ってもいないのに、一番槍を任される恭也。

「ま、まあ、しょうがねえや。よし、俺も行くぜ!」
「自分たちがマグマイレイザーの目を引く間に、みなさんがイレイザー包囲網を展開してくれるはず!」

 吹雪は二十二号を従えて、武器を構える。
 見覚えのあるそれに目を見張るダイソウ。

「む、吹雪。それはまさか」
「はい! 【ウルフアヴァターラ・ソード】であります! 前回これで効果的なダメージが与えている方がいましたから!」
「なるほど、おまえの新兵器とは、ギフトのことだったか」
「では、参りましょう!」
「うおおおおーっ!」

 吹雪と共に、恭也も走りだす。
 しかしすぐに、吹雪は背後に違和感を感じて振り返る。

「(予期しないエラーが発生しました。予期しないエラーが発生しました)」

 二十二号は、女性の声でアナウンスを流しながら棒立ちになっている。

「このポンコツぅーーー!」

 どうやら、二十二号のOSがフリーズしてしまったらしい。
 吹雪は急いで二十二号に駆け戻って再起動をかける。

「よし! こっからどうする……ってあれーっ!?」

 慌てたのは恭也である。
 彼は吹雪のトラブルに気付かず突進し、独走態勢でマグマイレイザーのそばまで走っていた。
 マグマイレイザーからすれば、カモがネギ背負ってやってきたようなもの。
 踏みつぶしてやろうと、マグマイレイザーは足を上げる。

「やべえええ!」

 恭也は方向転換してダッシュ。
 かろうじて逃げ切った足の直後、マグマイレイザーは弄ぶように尻尾を恭也に振りおろす。

「ちくしょーっ! いつもの不幸じゃねーかーっ!」

 恭也はいつもこのような目にあっているようだ。
 そしてダイソウはそんな恭也を眺め、

「うむ。見事な囮っぷりである」
「いいからさっさと応援よこせよ!!」

 恭也は目に涙を溜めながらダイソウに叫んだ。

「フハハハハ! まさかオアシスに着いていきなりイレイザー戦とはな!」

 いつもの高笑いと共に、ダイソウの隣にドクター・ハデス(どくたー・はです)が現れる。

「悪の組織は努力を惜しまぬ。全ての道がローマに通ずるように、交通を制する者がニルヴァーナを制すというわけだな。我が友ダイソウトウよ、よい所に目をつけたではないか!」
「そうであろう、ハデス……ハデス?」

 ダイソウが思わず二度見してしまったが、前回のダメージからミイラのように顔じゅうに包帯を巻いたままのハデス。

「火傷したままなのか」
「うむ、治療が間に合わなかったのだ。とにかく、今はマグマイレイザーであろう、ダイソウトウ」
「そうだな。超電導コイルはイレイザーの体内から発掘した。フレイムたんからの情報も鑑みると、このマグマイレイザーの体内にも何らかの有用なアイテムがあると、私は見ている」
「ふむ。どの道、マグマイレイザーを倒すのは必須というわけだな。よかろう! 我々秘密結社オリュンポス、今日も一肌脱ごうではないか。リニアモーターカーの組み立てなら、天才科学者ドクター・ハデスに任せるがよい。そしてマグマイレイザーは、我が幹部と怪人たちがお相手しよう!」

 ハデスが白衣をはためかせると、彼の後ろにはバスタオルを身体に巻いた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)、ちょっと溶けてる聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)、そしてバスタオルを身体に巻いたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の姿が。
 咲耶はバスタオルの裾を必死で抑えながら、ハデスに苦情を言う。

「あの、兄さん……服は……」
「そんなものは、ない!」

 前回の遺跡探索の折、モンスターのせいで服を失った咲耶とアルテミス。
 そして、溶岩のダメージで【鉄甲】の身体が、少しいびつになっているカリバーン。
 ほとんど、治療が間に合わなかったハデスの巻き添えのように、前回のままの姿である。

「と、とにかく、マグマイレイザーを倒さないと、どうにもなりませんものね。私の服も」

 アルテミスはバスタオルを固く結び、激しい動きに耐えられる準備をする。

「よし、了解したぞ、ドクター・ハデス。マグマイレイザーは任せろ。アルテミス、俺を使え!」

 と、カリバーンは『俺を使え』といいつつ、自分をイメージして作った【光条兵器】を渡す。

「か、カリバーン様!? 形がちょっと変ですけど……?」

 アルテミスの言葉通り、変形部分が噛み合わず、カリバーンの切っ先はハサミのように開いたまま。

「やんぬるかな……!」

 と、アルテミスが持ったカリバーンから、悔しそうな声が聞こえる。

「むっ、早速力押しに出るか。では、俺達も行かねばなるまい」

 マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)を連れて走り込む。
 マグナはダイソウを指さし、

「言っておくがダイソウトウ。俺はダークサイズとチーム・サンフラワー、どちらの味方か決めたわけではない。別にダークサイズに入るわけではないのだから、勘違いするな」

 マグナの警告には、ダイソウが驚いたように少し目を開き、

「マグナ……おまえは、ツンデレだったのか……」
「なっ! ち、違うぞ! 変な風にとるでない! あくまでマグマイレイザーを倒すまで、手伝ってやるだけでだな! 別にそういうことでは、ないんだからなっ!」
「でもマグナ。あなたが言ってること、完全にテンプレ通りよ?」
「なぜだっ! 普通のことを言っているだけなのに!」

 リーシャが冷めた目でつぶやき、マグナが頭を抱え出す。

「おい、ダイダル! 俺達もあの攻撃に参加しようぜ。一点突破で攻めた方がよさそうだ。短期決戦で決めるに限るぜ」

 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が、ダイダル卿に声をかけ、さらにダイソウの周りに集まる。
 ダークサイズの中でも信頼できるパワータイプが続々と集合するが、

「ちょ、ちょっとラルクさん! そんな恰好……!」

 と、咲耶は顔を手で覆い、指の隙間からふんどし一丁のラルクを見る。

「んあ? こう暑くちゃ服なんか意味ねえぜ。それに火の粉で燃えちまったらこまるもんな」

 と言えてしまうのは、彼の強靭な肉体があってこそ成立する考えだが。

「……つかよ、咲耶は人のこと言えんのか?」
「こっ、これは違うんですっ///」

 イレイザーと戦うとは思えない格好ばかりの面々だが、さらにもう一つの突っ込みどころがある。

「ぱぱぱぱんだだだだーだいだる(サポートは俺に任せて思う存分やっちまってくれ、ダイダル卿)!」

 ダイダル卿の身体に絡みついて連れて歩いてもらうことに、すっかり味をしめた朝霧 垂(あさぎり・しづり)とぱんだ部隊。
 今日もダイダル卿には、垂が頭、ぱんだたちが胴や腕、腰やら背中に鎧のように張り付いて、『蒼空のぱんだりおん』が出来上がっている。

「のう、垂。おぬし、当り前のようにわしにとりついとるが……」
「ぱぱんだ! ぱんだんだよ(偶然発見した俺達の合体技だけどよ。俺、必殺技考えて来たんだぜ。これでイレイザーも一撃だぜ)!」

 と言って、垂は頭の上からダイダル卿に耳打ちを始めた。

「ではゆくぞ。まずマグマイレイザーを撹乱、後続の攻撃部隊が標的にならぬよう、頼んだぞ」

 とのダイソウの合図で、涼介が叫ぶ。

「よし! 私が道を拓く!」

 涼介は【神の審判】を放ち、恭也とのおっかけっこに興じていたマグマイレイザーの横っ面を叩く。
 そのまま恭也が逃げるのと反対から、マグマイレイザーの横に回り込み、

「吹雪け嵐よ! 我が敵を凍てつかせよ!」

 続けざまに【禁じられた言葉】と【ブリザード】のコンボで、マグマイレイザーの右目を狙う。
 前回のイレイザー戦では、イレイザーの目を塞ぐことで優位に立つことができた。
 そこから学んだ涼介の攻撃だが、これは功を奏した。
 結界で封じられ、恨みを溜めこんでいたイレイザーとは違い、このフレイムタンで安穏と過ごしてきたマグマイレイザー。
 何やら自分の縄張りに妙な生物の集団がやってきたが、子虫は踏み潰せばなんということはない。
 という油断した雰囲気が、肥大した身体と緩慢な動きから伝わってくる。
 そんな逃げまどう子虫が、まさか自分に一矢報いてくるとは夢にも思わない。
 突然右目が痛みに襲われ、固い氷で視力を奪われ、マグマイレイザーは慌てたような叫び声を上げる。
 この子虫たちはただ自分に踏みつぶされるのを待っているのではない。
 排除しなければ痛い目を見る。
 マグマイレイザーはそう認識を変えたのか、残った左目に鋭い怒りを、口の中には熱を含ませる。

「マグナ、なんだか喉を鳴らしているわ」
「うむ。今にも炎を吐きだしそうだな」

 リーシャが【光条兵器】の狩猟笛で【怒りの歌】を奏で、マグナの胸にはめ込まれているクリスタルを光らせる。
 それが『始動キー』となっているマグナ。
 クリスタルの輝きと共に、体中に力が漲ってくる。

「おおおおっ! さあマグマイレイザー、こっちだ! それを俺に吐いてみるがいいっ!」

 始動キーで全力となったマグナに、【鬼神力】とリーシャの【怒りの歌】が上乗せされる。
 死角を突いて、マグナは【レジェンドストライク】をマグマイレイザーの足に叩きこむ。
 さすがに頑強な鱗に覆われるマグマイレイザー。
 ダメージ、とまではいかないが、怒りを増幅させるには充分な痛みを与えた、マグナの攻撃。
 マグマイレイザーは足元のマグナに向けて、口を開く。

「下がって、マグナ! 炎じゃないわ!」

 リーシャの警告で、マグナが反射的に後ろに飛び退く。
 直後、マグマイレイザーの口からは真っ赤な光線が垂直に伸び、地面を溶かして穴を開けた。

「熱線か……!」

 あれを食らっては火傷どうこうではなく、熱で身体を溶解されてしまう。
 マグナはひやりとしながら、標的を固定されないよう走る。

「なんという熱量だ……」

 【痛みを知らぬ我が躯】で痛覚を遮断したが、その負担で疲労と発汗が増えているグラキエス。
 フレイムタンでの戦いは何としても短期決着せねばならないことを、肉体の実感からも最も強く認識している一人だ。
 グラキエスはさらに【行動予測】を重ねて、

「ダイソウトウ……奴は徐々に危機感を募らせて、本気になって来ている。アルテミスと亀山が俺たちを護っていることに気づく可能性もあるぞ」
「む、それはいかん。マグマイレイザーはアルテミスの加護の範囲に入れてしまっている。あの熱線がこちらに向けば、防ぎようがない。一気に決着をつけねば」
「おっしゃ! それならとっととやっちまおうぜ!」

 空京大学で医術を学ぶラルクは、グラキエスに応急処置の解熱剤を渡し、【熱狂】を発動。

「こいつを使えばイコン並みの力が出るっていうからな!」

 【レゾナント・アームズ】の能力を引き出すため、大きく息を吸う。
 ちなみに、ふんどし姿に鎧を纏うという不思議な格好になっているが。

「いくぜみんなー!」
「応とも!」
「アララララララーイ!」

 ラルクは古代の英雄よろしく、雄叫びをあげながら走る。
 【レゾナント・アームズ】の発動条件として声を発し続けるが、その副作用と言うべきか、周囲の戦闘要員の志気も上がり、

『アラララララーイ!!』

 全軍ラルクにつられて叫びながら突撃する。

「10連コンボいくぜ!」

 ラルクは【神速】からの蹴り、【雷霆の拳】、【七曜拳】の七連打、最後に回し蹴りを流れるように打ち込む。
 パワーの底上げを徹底的にやった上での攻撃が、なんとマグマイレイザーに尻もちをつかせる。

「うひょー! こりゃすげえや!」

 イコンレベルの攻撃を食らわせた直後、思わずラルクは自分の拳と鎧を見ながら感動している。

「おおー、ラルク! その連携技いいのう!」

 ダイダル卿は羨ましそうに言い放つと、ラルクの肩を踏み台にして跳び上がる。
 加えて垂の【空飛ぶ魔法↑↑】で、垂とダイダル卿、つまり蒼空のぱんだりおんは、ドームの天井ギリギリまで舞い上がる。

「ぱぱんだぱんだ(いくぜ、ダイダル卿)!」

 垂がダイダル卿の頭から合図を出すと、ぱんだたちがダイダル卿の身体を這って、彼の右腕に集中する。

「ぱんさつ(必殺)!」
『無限ぱーーーーーーんだ!!』

 ぱんだりおん(垂とダイダル卿)が右の拳を突き出すと、拳の先からぱんだが重なり伸びてゆく。
 10体のぱんだで、リーチが伸びるぱんだりおん。
 しかし、全てのぱんだが重なってもマグマイレイザーに届いていない。

「垂、10体では届かんようじゃぞ?」
「ぱんだぱぱんだ(あとは任せろ)!」

 というと、最後尾のぱんだが前のぱんだを伝って先頭に回り、次のぱんだがまた前に回り、さらに……というのを高速で繰り返す。
 以降、ダイダル卿の身体を離れてぱんだ達の自力走行である。
 最後に垂が先頭になったところで、

「ぱぱぱ、ぽぽんだぁ(これで、トドメだぁ)!」

 【聖杭ブチコンダル】をどこからともなく取り出して、ラルクが10連コンボを打ち込んだのと同じ所に突きたてる。
 ラルクのダメージと鱗の隙間を狙ったのが重なって、【聖杭ブチコンダル】はマグマイレイザーに突き刺さった。
 直後、垂は【氷術】と【ファイナルレジェンド】を立て続けに発動する。
 皮膚に傷をつけた上でのスキルは効いたようで、マグマイレイザーは今度は痛みの咆哮を上げた。

「のう垂、無限ぱんだじゃが……わしは必要だったんかのう……?」

 ラルクとぱんだりおんの二撃に続いて、総攻撃が始まる中、初速以外はぱんだの自力攻撃に形になっていて、置いてきぼりになったダイダル卿が、思わずつぶやいた。

「むっ、ダークサイズにお株を奪われてなるものか! チーム・サンフラワー、ここにあり!」

 ラルクとぱんだりおんに後れを取るまいと、コアがゲブーと永谷を肩に乗せて走る。
 それを見送るラブが向日葵にポンポンを持たせ、

「向日葵、これであたしと一緒に応援よ♪」
「何これ?」
「だいじょぶだいじょぶ。ただのチアじゃなくって、【妖精のチアリング】があるからね! あたしたちでみんなをバックアップだよ♪」
「そっか、わかった!」
「わたしもー!」

 向日葵の隣には、またしてもあっというまに自分のポンポンを作り上げ、ノーンが立っている。
 アイドルと巫女服と幼女で構成される、即席応援団。

「せーの!」
『れっつごーれっつごー、み・ん・な!』

 と、【妖精のチアリング】のラインダンス。
 ポンポンを振り、足を上げ、そして

『イレイザーぶっころせー! おー!』

 親指で喉を掻き切って、その指を下に向ける。
 幸か不幸か、ポンポンのおかげで親指の動きは見えないようになっている。

「で? どう攻めんだよ、俺様達は?」

 肩の上でゲブーがコアに問う。
 コアは、

「うむ。鈿女博士によれば、やはり攻めどころは内臓のようだな。博士曰く、あの頑強な皮膚を剥げば勝ちは間違いないらしい。幸い、すでにダークサイズが傷をつけてくれたしな。叩きに叩くのみだ!」
「やつが身体を起こせば、また熱線を浴びせてくるかもしれない。あの体勢を変えさせてはダメだ。ハーティオン、あの状態だと、尻尾を警戒すべきだろうな」

 と、永谷がマグマイレイザーの太い尻尾を指し、コアも頷く。

「大丈夫だ。私にも新たな秘策がある!」

 イレイザー討伐をさらに有利にするための対策は、コアも練って来ている。

「ゲブー、永谷。尻尾と足の攻撃は私が引き受ける。二人は先ほどダークサイズがダメージを与えた部位を攻めろ」
『よし!』

 徐々にであるが、限られた人数の中で連携が強くなりつつあるチーム・サンフラワー。
 ゲブーと永谷はコアの肩から跳び、マグマイレイザーの身体を目がける。
 ぐぐっと上体を起こし始めたマグマイレイザーの目を睨み、

「そうはさせぬ。おまえが熱線を吐くことは二度とない、と思ってもらおう!」

 ブン、とコアの身体が一瞬ぼやけ、彼の両脇から次々と残像が生まれてゆく。
 【分身の術】だ。
 コアからは総勢9人の分身が発生し、本体を合わせて10人のハーティオンたちが並ぶ。

「見たか! これがロボット忍術、『ハーティオンズ10(テン)』! イレブンまであと一歩だ! イレブンになったらイナズマしちゃおっかな!」

 【分身の術】はあくまで高速移動による残像である。
 攻撃できるのは本体のみだが、分身など見慣れないマグマイレイザーを惑わせるには充分だ。

「迷っているヒマなどないぞ。必殺! 流星一文字斬り(【魔障覆滅】)!!」

 コアは間髪いれずに【勇心剣】で斬り込む。

「どうした! おまえの力はその程度か? 遺跡のイレイザーの方がまだ手応えがあったというものだ!」

 攻撃陣を攻めに集中させようと、マグマイレイザーをあおるコア。
 その罠にまんまとはまるマグマイレイザーは、10人のコアのうち、あてずっぽうに1人を尻尾で横薙ぎに払う。
 残りの9人のコアたちは、さらに挑発するため高笑いを上げ、

『はっはっはっは! 愚か者め!』

 そしてビシッとやられた1人を指さし、キメの台詞。

『そっちは本物だ!』

……

『ぐはああああーっ!!』
「は、ハーティオーーーーーン!!」

 10分の1の当たりを引かれたコア。
 ラブたちチア軍団が、思わずコアの名を叫ぶ。
 マグマイレイザーは、コアに追い打ちをかけようと尻尾を振りあげ、彼目がけてまっすぐに振りおろす。

「危ないっ!」

 オリュンポスのアルテミスが飛びだし、二股になったカリバーンで受け止める。

「か、かたじけない!」
「お、重い……」

 コアがアルテミスに礼を言うが、超重量級の尻尾を受け止めたアルテミスは、それに押されて膝をつく。

「わ、私のレベルがもっと高ければ……」
「アルテミス、何をしているのだ! アレを抜け!」
「は、はい!」

 ハデスが後ろの方で叫び、アルテミスはカリバーンの柄を地につけて柱にし、【ウルフアヴァターラ・ソード】を構える。

「お前たちもギフトを手に入れておったのか」
「ククク。羨ましかろう、ダイソウトウよ。咲耶、カリバーンに【氷術】だ。コア・ハーティオン! 少々癪だがお前ならばよかろう、カリバーンを使うがいい!」

 勇者の剣カリバーンの柄を、熱き心のコアが握る。

「カリバーンさん、いきますよ!」

 咲耶が【氷術】をカリバーンに放つ。
 冷気を纏ったカリバーンが、コアに叫ぶ。

「ゆくぞハーティオン!」
「うむ!」
『流星一文字・ブリザード・スラッシュ!!』

 コアがカリバーンでマグマイレイザーの尻尾を切り上げる。
 同時に、

「グレイシャルハザード!!」

 アルテミスもギフトで尻尾を攻め、

ぐおおおおおおお!!

 痛みの叫びと共に、マグマイレイザーの尻尾が斬り飛ばされた。
 尻尾の根元から大量の血しぶきが飛ぶ。
 血の雨を浴びながら、

「ハデス様! 私、やりました!」
「い、いかん!」

 アルテミスが両手を挙げて振ると、カリバーンが慌ててアルテミスの目の前の地面に刺さる。

「アルテミス、バスタオルはどこへやった!?」
「え? あ! きゃああ! バスタオルがない! 血で吹き飛ばされちゃった〜!」

 気づかぬうちにアルテミスは、バスタオルを飛ばされて全裸であった。
 カリバーンの刃が、アルテミスの丁度良い部分を隠す。
 マグマイレイザーの血のおかげで、修正済みの画になっていたものの、

「どこー!? バスタオルどこー!?」

 アルテミスは血の海をはいずりまわってバスタオルを探している。全裸で。
 ノーンがこれはひどいと思い、咲耶にとことこ近寄る。

「服、作ってあげようか?」
「ええっ、本当に!? 助かりますー!」

 それをハデスが手で制し、

「少女よ、あえて言おう……要らぬ世話だと!」
『ええー!』

 と、チーム・サンフラワーの施しを断ってしまった。
 そんなこんながありつつも、ギフトや超のつく強力な攻撃を立て続けに食らわし続けるダークサイズとチーム・サンフラワー。

「よし、今だ!」

 と、戦いの頃合いを見計らっていたセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)
 【緑竜殺し】を手に、

「しかし驚いたな。まさか尻尾を切り落とすとは。御前が目をつけるだけの事はあるな」

 と、玉藻 御前(たまも・ごぜん)を振り返る。

「そうじゃろうそうじゃろう。わらわの先見を甘く見てもらっては困るぞ」

 と、御前はセリスに自慢するものの、

(それにしても強いのう……あれだけふざけておいて、きっちりダメージを与えておるしのう。これでは活躍できんわい……)

 などと独り言をつぶやいている。
 セリスは落ち着いた瞳のまま口だけでフと笑い、

「けど、いい感じだ。とどめは俺達がいただくとするか」
「ところでセリス、あいつはどこに行ったのじゃ?」
「ん? ああ、あいつか……」

 二人が「あいつ」呼ばわりするもう一人のパートナー。
 マイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)は、絶命寸前とはいえまだ息のあるマグマイレイザーの腹の上で、何故かムーンウォークをしている。
 マイキーは右手で帽子を押さえたまま、左手でマグマイレイザーの左目をビシッと指さす。

「フォウ! ヘェ〜〜〜イ、マグマイレイザーちゃああああん。キミはいよいよ息絶えるわけだけど、それが何故だか理解できるか〜〜い? アオ!」

 いちいち妙なシャウトを挟むあたり、言いようもないウザさを感じる。
 そして、おそらく伝わってないであろう説法をやはりシャウトで締めくくる。

「アウ! それはねぇ〜、ダークサイズとオリュンポスとサァンフラワーを包む〜、人間の崇高な感情のためさ〜。それは〜〜〜、ズンズンチャチャスチャズンズンチャ、アイ(愛)!」

ぷちっ

「あっ……」

 マグマイレイザーは最後の力を振り絞って、腹の上のマイキーに巨大な掌を振りおろした。
 最後に唯一の犠牲者(?)を出しながら、総力を挙げた猛攻で、マグマイレイザーは命を終える。

「くそ……何か最後のとどめ、マイキーが刺したみたいになってないか……?」

 セリスはものすごく釈然としない。

「お、お待たせしましたぁー!」

 ようやく再起動が終わった二十二号と共に、吹雪が走ってくるが、いましがたマグマイレイザーを倒したばかり。
 二十二号は、吹雪を叱るように、

「吹雪、なんとしたことか。全く活躍できなかったではないか!」
「おまえのせいだぁー!」

 と、吹雪ははけ口を失った【ウルフアヴァターラ・ソード】を、とりあえず二十二号に叩き込んだ。