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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

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【ダークサイズ】灼熱の地下迷宮

リアクション

「だから、あんたちょっとくらい手伝いなさいよ!」

 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、業を煮やして弥涼 総司(いすず・そうじ)に声を荒げる。
 遺跡から繋がるフレイムタンへの入口には、奥の溶岩から延々と高熱が流れ込み、入口の両脇からは、溶岩が遺跡を浸食しようとじりじりと迫ってくる。
 遺跡もそもそも暑いが、フレイムタンからの熱が加わると、この広い遺跡内もさらに温度が上がりそうである。
 とにかく、せめて溶岩の流れ込みを止めて隔壁でも造らないと、拠点としてはどうにもならない。
 祥子が【ブリザード】で溶岩を狙い撃ちし、【ブルーブレードドラゴン】で溶岩の熱を押し返し、同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)も【ブリザード】を放つ。
 共に【禁じられた言葉】で能力を上げており、ここが優先事項だと判断したレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)とモモも手伝うが、どうにも人手が足りない。
 そんな女性4人の奮闘を、総司は付近の岩に腰かけて両手を口元で組み、真剣な眼差しで見ている。

(思った通り、汗がにじんで服が体に張り付いてきたぜ……3人とも、いいラインを持ってやがる。それに引き換え、モモにはがっかりだぜ。テルマエ、何だっけ、ロマ、テル……アオヤマ・テル、いや、テラシマ・スス、違う、サイゴウ・テルヒ、いや……とにかくアレみてえに薄布一枚で、ボディラインがはっきり出てるっていうのに……まるで棒じゃねえか……!)

 総司の頭の中は完全な覗きモードで、祥子の叱責などまるで耳に入らない。
 そんな総司の目の前に、タンクトップの大きな乳房が現れる。

「あのう、できれば住宅地域から、隔壁に使えそうな石材を運んで来てくださいません?」

 イライラしている祥子に気を使い、静かな秘め事が総司に要請にやってきたのだ。
 総司は彼女の顔など見ず、胸を真剣に凝視したまま、

「マジでぇ? オレそういうキャラじゃないんスよね〜」

 静かな秘め事に続いて、もう1セットのおっぱいが、総司の目の前にやってくる。
 レキはあごまで滴る汗を手の甲で拭い、

「じゃあさ、氷系のスキル飛ばしてよ。とにかく溶岩の動きを止めないと、堤防作れないんだよねー」
「ん〜、オレ【アルティマトゥーレ】くらいしかねえけど?」
「アタックの強いスキルだね……でもないよりいいや! じゃあお願いね」
「ただ今日、装備してきてねえんだわ」
「……」

 総司が完全に役立たずなのが判明し、レキと静かな秘め事はとうとう言葉を失う。
 あげく、【シャンバラ山羊のミルクアイス】をほおばりだし、結果祥子の神経を逆なでしている。

「あんたねぇ……」
「食う?」
「いらないわよ。食べさしじゃないの」

 祥子がさらに文句を言おうかと総司に歩み寄ろうとすると、足音のような地響きが聞こえてくる。

「母様、これは?」
「まさか、イレイザーが攻め込んできたんじゃないでしょうね。静香、レキ、モモも。戦える?」
「戦えるも何も、この人数じゃ……」
『はーははは! オレに、任せとけー!』
「!?」

 見ると、その声と足音の主は、大量の石材を抱えるクマである。
 祥子と静かな秘め事の目が一瞬点になる。

『く、クマー!?』
「その声は、クマチャンじゃないですか」

 と、モモがパワードスーツの中の人を見抜く。
 レキはというと、クマの隣のでかい黒猫を見て、敵ではないとすぐに分かる。

「チムチムー、おかえりー!」

 石材の調達で偶然、住宅地域でクマチャンと合流したチムチム・リー(ちむちむ・りー)

「ただいまアルー。レキ〜、氷術かけて欲しいアルー……」

 立派な毛並みのチムチムには、この遺跡の環境は熱がこもって辛い。
 レキの傍に着いて石の柱を降ろすと、尻もちをつくように座り込んでしまった。
 クマチャンが熱に参ったチムチムに、

「暑そうだね。背中のジッパー降ろしてやるよ。さすがにその中は蒸すでしょ」
「やめるアル。ジッパーとかそういうものはないアル。中とかそういう概念は意味分かんないアル」

 と、チムチムはクマチャンの手を払う。
 クマチャンも石材を降ろし、

『綾香にもらったクマード・スーツだ。いやすごいねぇ、こんだけ運んでも疲れない』

 クマード・スーツの中から、クマチャンの声が反響気味に聞こえてくる。

「びっくりさせないでよ」

 祥子がため息をつきながらも、

「でも助かりましたわ。これで一気に溶岩の堤防が作れます」

 と、静かな秘め事が両手を組んで片足を上げる。
 クマチャンはすっかりいい気になっていて、

『チムチムのぶんもじゃんじゃん運んじゃうぜー。どう組めばいい?』
「そうですわね。溶岩を押しとどめる隔壁はこのラインで。できれば溶岩道も組み込んで、フレイムタンに流し返す形にしたいですわ……」
『よっしゃ。任せとけ』

 静かな秘め事は【超知性体】から【土木建築】を引きだして、堤防の設計を頭の中で行いながらクマチャンに指示を出す。
 レキは、地面を踏みしめながら、祥子に向かう。

「やっぱり、遺跡の中に向かって、微妙に坂になってるよね」
「そう思う? 少し盛り土しないとだめかしら……」
『持ってくる!』

 話を聞いたクマチャンが、喜び勇んで付近の土を掘り起こし、運ぶ。
 土木作業にクマチャンという意外な援軍に、祥子も一息つきながら、

「こっちは何とかなりそうね。次は拠点全体の構成よねー。火山のエネルギーを利用しないのももったいないし……地熱とか温泉とか……」

 と、つぶやく。
 クマチャンがそれで思い出し、

『そういやモモ。ネネとレティシアが探してたよ。なんか温泉がどうとか』
「あっ、そうでした。水源を利用した温泉を作ると言われてたんでした。では祥子さん、私行きますね」

 モモは汗も乾かさずに、神殿の方へ走ってゆく。

「温泉! そうそう、ボクも岩盤浴作りたいんだぁ。チムチム、行くよ!」
「ちょっと休みたいアル。後で追いかけるアル〜」

 と、熱でへばっているチムチムを置いて、レキはネネを追っていく。
 それに反応する総司。

「ネネと温泉……だと?」

 と、彼はふらふらとモモとレキの後をつけて行った。

「にしても、すごいわね……外観以外は」

 祥子がでかいクマのぬいぐるみ、クマード・スーツを見て感心している。
 クマチャンは腕を力こぶを作るように曲げて、

『いいだろー。ハッチャンとダイダル卿がいない代わりに、力仕事は全部俺がやってやるぜ』
「クマチャンさん。この石材はこう、カーブになるようにしたいですわ」
『おっけーおっけー』

 と、クマチャンはクマ・クローこと【狂血の黒影爪】を駆使して、石材を切り出す。
 祥子は少し拍子抜けのような感じがしながらも、

「意外にスムーズに済みそうだわ。クマチャン、やっちゃって!」
『ラジャー!』