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【創世の絆】冒険の依頼あります

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◆第四章1「サル捕獲大作戦と見学者」◆


「無いっ無い無い無い無い無い無い。無いぞ!」
 今日も今日とて「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」などと高笑いし、周囲の一般人の方々から心配そうな目線を集めていたドクター・ハデス(どくたー・はです)が、必死に白衣の中を探している。
 次々に出てくる工具たち……手品師になれるのでは、と言いたくなるほどに出てくる出てくる。
 しかし探し物はなかった。
「くっ、いつも肌身離さず持ち歩いているというのにっ!」
 盗まれたのは、彼にとってとても大事な厨二病満載のノート……あ、いや。オリュンポスの作戦計画書である。
「お、おのれっ、誰の仕業だっ?
 シャンバラ国軍かっ? 鏖殺寺院か? それとも、組織のエージェントか!」
 いいえ。犯人は猿型ギフトです。
 もう基地内で周知の盗人だが、ハデスは知らないらしい。
「とっ、とにかく、我らオリュンポスの極秘情報を知られるわけにはいかんっ! 咲耶、アルテミスよ!
 すぐに犯人を探し出し、極秘文書を取り戻すのだっ!」
 どこかを指差したハデス……シーン。返事はない。空気のようだ。
「なんということだ。咲耶とアルテミスまで奪われたというのか」
 いいえ。2人はシャワーに向かいました。
 天の声は、彼には届かない。ゆゆしき事態だ、と悪魔のデメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)を呼びだす。
「えー、盗まれたものの調査ー? めんどくさいから、やだー」
 急に呼ばれたデメテールは、あっさりきっぱり断って、持参のお菓子に手を伸ばす。
「デメテールはお菓子食べてダラダラしてたいな〜……?」
 が、痛恨のミス。お菓子に触れることはできなかった。持ってきたはずのお菓子が、消えていた。
「がーんっ!
 このデメテールのお菓子まで盗むとは、犯人、ゆるすまじー!」
 捕まえてやるー、と罠を作りだしたデメテールを「そうだ。その意気だ」と応援するハデス。

「あー、さっぱりしたー。
 ニルヴァーナだと水も貴重だから、久しぶりのシャワーは気持ちいいわよね、アルテミスちゃん」
 シャワー室から出てきた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)はとても心地良さそうに髪をタオルで拭きながら、隣にいるアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に話しかけた。
 アルテミストも笑みを浮かべて答える。
「はい。本当に……あれ?」
「どうしたの、アルテミ……あら?」
 2人は着替えようとして動きを止める。そして、先ほどのハデスのように「無い無い無い」と繰り返し、着替えをひっくり返す。
 顔色が悪いようだが、どうしたのだろう。
 着替えから顔を上げた咲耶が、茫然とつぶやく

「服はあるけど下着が……ま、まさか、下着泥棒っ?」
 こうして2人もまた、必死に犯人探しに追われることになった。……スカートの裾を押さえながら。

 途中、アルテミスがデメテールの罠に引っ掛かったのは、ご愛嬌である。

「なぜこのようなところに罠が!」
「やった、犯人捕まえ……ってなんで、アルテミスが!」
「なんということだ。まさかお前が計画書を」
「良く分からないけど、違うからね。兄さん」


* * * * * * * * * *



「なんだか騒がしいわね……まあ、いつも騒がしいけど」
 首をかしげたのは、見回りをしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。工事現場で働いている者たちをその声で激励しつつ、基地の構造を把握していたのだが、いつもとは違う空気を感じた。
「誰かに聞いて……っ! ちょっと、どうしたの?」
 話を聞こうと人の姿を探していたら、ぶるぶると震える小柄な影を見つけた。気分でも悪いのだろうか。

「変態さんなおさるさんは、駄目なの!」

 小柄な影。及川 翠(おいかわ・みどり)が天へと拳を突き上げているのをしばし呆然と見た後、どうやら気分が悪いわけではなく、怒っているのだと理解。その視線の先を追いかければ、掲示板に張られた一枚の紙に目が行く。
「なるほど」
 サル型のギフトが『人が恥ずかしがるようなもの』を盗んでいるらしい。その中には下着もあり、翠が言っている変態とは、このことだろう。
(下着を盗むって、変態さんだよね……? 変態さんは、捕まえて成敗するの!)

「ねぇ。私があちこちの抜け道をふさいで追い詰めるから、あなたは罠を張って捕まえてくれるかしら?」
 治安(?)維持も大事な役目。そう思ってリカインが話しかけると、翠はようやくリカインに気付いたらしい。不思議そうに見上げてから、目を輝かせてうなづく。
「ありがとなの! じゃあみんなでここに罠作るの」
「ええ。お願いね」

(猿となると当然人間より小さいはずよね。なら)
 リカインは人では通れないがサルなら通れる個所を見つけ出し、そこを次々ふさいで行った。

「なんとかして、被害の拡大を食い止めたいところね」
 翠から話を聞いたはミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、協力を快諾した。
「なるほどぉ〜、おサルさん型ギフトさんですかぁ〜。随分とぉ〜変態さんなおさるさんのようですねぇ〜……翠ちゃんじゃありませんけどぉ〜、お仕置きが必要でしょうかねぇ〜」
「不埒物な泥棒さんなら、多少痛い目に遭ってもらっても問題ないですよね?」
 スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)徳永 瑠璃(とくなが・るり)もまた、同意した。
 物騒なひと言も聞こえたが。
 こうして始まった変態サルの捕獲大作戦。
 まず翠と瑠璃が、あえて分かりやすい罠を作り。その奥にミリアとスノゥが判りにくい巧妙な罠を作る。分かりやすい罠を避けたら、その先に……という二段構えだ。
「うん。こんなものかしら」
「変態サルさん、捕まえるのー。お仕置きなのー」
「お仕置きです!」
「捕まるとぉ〜、良いですねぇ〜。たっぷりとお仕置きもしないといけませんしぃ〜」
 罠を作り終えた4人もとへ、リカインから連絡がはいる。だいたいの抜け穴は閉じたらしい。そして目撃情報から、サルがもうすぐここにやってくるだろう、とのこと。
 4人が身を隠し、目をとがらせてサルを待ちかまえていると……ヤツはきた。

 彼女たちの想像よりも小さく、愛らしい目をしている。だがヤツは、罠に設置されたパンツを遠慮なくつかみ、逃走。
 話に聞いていた通りにすばしっこく、また賢い。翠たちの罠を飛び越える。
 だが罠はもう一つ。サルの足が沈む。

「キキっ?」

 やったか?
 喜びかけたのもつかの間、サルは尻尾の先を器用に使って、落し穴から脱却。そのままものすごいスピードで去っていく。
「待つのー! 変態さんなおさるさん」
「待ちなさい!」
 もちろん、みすみす逃す彼女たちではない。全速力で追いかけ始めた。


* * * * * * * * * *



「総合病院。どこまで進んでるかなぁ」
 期待と不安の入り混じった声を上げた五百蔵 東雲(いよろい・しののめ)は、「どう思う?」とパートナーを振り返る。
 パートナー、リキュカリア・ルノ(りきゅかりあ・るの)は「ふぇっ?」と驚いて東雲を見た。
「ん? どうしたの?」
「ボ、ボ、ボクのアレが……ボクのアレがないんだよ!」
 今度驚いたのは東雲の方であった。慌ててポケットを逆さにしたり、カバンをさぐったり、と忙しそうな様子を目をぱちぱちさせながら見つめる。
「アレって、何?」
「え、……な、なんでもいいでしょ! ああっそんなことより、誰だ盗んだ奴はあああああ!」
 どうやら2人は、まだサルのことを知らないようだ。
「探してくる!」
 止める間もなく、リキュカリアは走り去って行った。なんとしてでも、早急に取り返す必要があったからだ。
 何を盗まれたか?

(東雲の写真だなんて言えるかぁあ! しかも女装時のだなんて言えるかぁあ!)

 たしかに言えるわけがない。しかし、なぜそんなものを持っていたのかは謎である。

 置いていかれて途方に暮れた東雲は、どうしよう、と首をかしげた。そんな彼の目の前で同じように首を傾げるサル。背中には緑色の風呂敷。
「でも泥棒って誰だろう……あれ? こ、こんなところに可愛いお猿さんが……!」
『ウキ?』
 東雲の瞳が若干、どころか眩しいほどに輝いた。
「な、撫でて良いですか? 抱っこして良いですか? 編みぐるみのモデルにして良いですか!?」
 矢継ぎ早に問いかけた東雲に、サルは不思議そうな顔をしたが、東雲が差し出した指ちろっと舐めた。ぎゃーっと内心で嬉しい悲鳴を上げる東雲。
 そっーと抱き上げる。
「可愛いなぁ。……でもキミはどこから来たの?」
 サルが東雲にこたえるように、とある方角を指差した。東雲がそちらを向く。

「変態さんは待つなのー」
「もう泥棒なんてさせないわよ」
「ふふ、お仕置きですよぉ」
「成敗です!」
「貴様かぁっ我がオリュンポスの作戦計画書を盗んだのは!」
「下着泥棒!」
「素直に盗んだした……盗んだものを返すのです」

 鬼気迫った顔をされた方々がこちらへ向かった来るではありませんか。――正直言おうか。とっても怖い。

「良く分かんないけど、ごめんなさい〜」
「あ、ちょっと!」

 そして東雲はサルを抱えたまま、半泣きで走りだしたのであった。