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【創世の絆】冒険の依頼あります

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◆第二章2「輸送車を護衛せよ!」◆


 永谷は、レッドタイフーンとの戦闘を見て、輸送車に少しその場を離れるように指示を出した。あまり離れるわけにもいかないが、近すぎては巻き添えを食らうかもしれない。
 何よりも彼らの戦いを邪魔してしまう。
『トト、大変。軟体オオカミの群れが』
 パートナーのから入ってきた緊急連絡。前方を見れば、視認できる位置に土煙があった。
 舌打ちしたいのをこらえ、落ち着いた声を上げる。部下の前で弱気な態度はとれない。
「後方のレッドタイフーンは彼らに任せ、俺たちは前方の軟体オオカミを担当する。班を組め。前衛はやつらの動きを止めろ。後衛は魔法を放て。
 だが深追いはするなよ。あくまでも俺たちの目的は輸送車の護衛であることを忘れるな!」

 そんな時に上空から聞こえる唸り声。翼の生えたイレイザー・スポーンである。輸送車の右前方からは地上を進んでいるスポーンの群れが見える。

「やらせません!」
 輸送車へと真っすぐに襲いかかろうとしていたスポーンの牙を受け止めたアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は、ちらと背後を窺った。
(レッドタイフーンは他の方たちが押さえてくれているようですね。欲を言うならば悠里殿の元まで下がりたいところですが――)
 前衛のアルトリアが下がってしまえば後ろにいるルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)佐野 悠里(さの・ゆうり)が危険にさらされる。
 連続で襲われたのは、タイミングが悪いとしか言えない。
「ならば、この身を賭してでも、守りきってみせましょう! はあああああっ」
 気合いと共にスポーンを弾き飛ばす。
「輸送車には、傷一つつけさせませんよぉ」
 インジェクターに乗ったルーシェリアから放たれた炎が、スポーンの身体を包みこむ。焦げくさい、何とも言い難い匂いが漂う。
「悠里ちゃん、決して前に出ないようにですよぉ」
「うん、分かった!」
 そして悠里の銃弾が、別のスポーンへと突き刺さる。

(師匠が前に出て、お母さんがその後ろ、インジェクターに乗った悠里が一番後ろ……お母さん達が悠里を大事に思ってることがわかって嬉しいです。だから、私も!)

 身体は小さくとも、顔を上げた彼女の決意は本物だ。
「アルトリアちゃんはそのまま地上のスポーンを足止めしてください。悠里ちゃんは空のスポーンを重点的に」
「了解しました」
「私だって、守って見せます!」
 インジェクターに乗って指示を出しつつ、ルーシェリアは剣を握り輸送車近くまで侵入してきた軟体オオカミの爪を受け止める。動きの止まったルーシェリアに他の狼が飛びかかる。
 一体を魔法で仕留めたが、残り2体がそのまま彼女へと……襲いかかる前に、まるではじかれたように後方へと飛んで行った。
 オオカミは地面へと叩きつけられるが、すぐに起き上がって来る。
「…………」
 そんな狼たちとルーシェリアの間に立つのは仮面の男。メンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)だ。どうやら先ほどのは彼がサイコキネシスを使ったらしい。
「あ、ありがとうございますぅ」
「……別に、利害一致したからこその行動であり、感謝されるようなことでもない」
 淡々としたくぐもった声は、彼の本音であった。
 イレイザー・スポーンやレッド・タイフーンやらは早めに処理しとかないと面倒な事になる。特にレッドタイフーンは賞金首になるほどだ。厄介だろう。
 メンテナンスはレッドタイフーンの戦況を見る。あれだけの人数でかかっているにもかかわらず、互角の勝負であるようだ。
 そして軟体オオカミの方は永谷たちが押さえているのを確認し、スポーンを見やった。
「先に雑魚を掃除し、レッドタイフーン組の援護に回るぞ」
「はい、分かりました、主」
「ええ、分かったわ」
 メンテナンスの言葉にピュラ・アマービレ(ぴゅら・あまーびれ)モニカ・アマービレ(もにか・あまーびれ)が頷き、スポーンの群れへと向かっていく。
「俺は好きにさせてもらうぜ」
 それだけ宣言して走り抜けていくハイドラ・アルカッソ(はいどら・あるかっそ)は、スポーンを殴り飛ばし、身体の一部に噛みつき、肉を食いちぎる。
 強者の肉体を自分の身に取り入れることによりさらなる強さを得る――そんな思考を持つハイドラにとって、スポーンやレッドタイフーンは、自分に取り入れる価値のある相手だった。
「……主、いいの?」
「かまわん」
 怪訝な顔をしたモニカに、メンテナンスは首を縦に振る。
「それよりも、さっさと片付けるぞ」

 イレイザー・スポーンへと目を向けた彼の頭上に、影が落ちた。

 現れたのは、鳥……いや、ただの鳥ではない。それは、

「ギフト?」

 鳥型のギフトと思われるソレが、一体のスポーンへと襲いかかった。鋭いくちばしで。爪で。時には翼で起こした風の刃で。スポーンの身を切り刻む。
 そしてその肉を食らい始めた。
 周りで他のスポーンが暴れていようと。契約者たちがそのスポーンと戦っていようと、まるで関係ないと言わんばかりに。堂々と、スポーンを食らう。
「とりあえずのところは、敵ではないようだが」
「気をつけていた方がいいですねぇ」
 メンテナンスの言葉にルーシェリアは同意の声を上げつつ、アルトリアが押さえていたスポーンへと魔法を放つ。メンテナンスもまた、輸送車に敵が近付かないように注視しつつ、鳥型ギフトの動きを見ていた。
 基本的に、戦闘はパートナーたちに任せているようだ。

 しかしギフトはスポーンを食べて満足したのか。飛び去っていく。……そしてその頃には、スポーンの群れも残り一体となっていた。


* * * * * * * * * *



「行くわよ! はあああっ」
 理沙が手にした漆黒の翼を振るい、レッドタイフーンへ羽を飛ばへば、背中の方ははじかれたが、足元や腹に羽が突き刺さった。
「――そこっ!」
 その様子をじっと見ていたが撃った銃弾のいくつが、レッドタイフーンの身体を貫通した。右足の付け根ははじかれ、横腹の一部には突き刺さる。
 表皮の色と長い毛で分かりにくいが、どうやら生身の部分と金属で覆われた部分とがあるようだ。
「はい、これで大丈夫ですわよ」
「悪い」
「まったく。あなたが一番無茶してどうするのです、カイルさん」
 負傷していたカイルの傷を治療したチェルシーが少し怒りながら言うと、カイルはわずかに気まずげな顔を見せた。
 そのまま無言で理沙の横に立つ。
「カイルっ? もう大丈夫なの?」
「ああ」
「それはよかった、けど……もうどんだけタフなのよ、あいつ!」
 舞が言うとおり、レッドタイフーンはあちこちから血を流しつつも、体力はまだまだ有り余っているようだ。
「イノシシさん、こちらですよ」
「……フレイ、離れろ! ブリザード」
 素早い身のこなしでレッドタイフーンを引きつけていたフレンディスに、ベルクが声を上げ、フレンディスへと伸びる炎をベルクのブリザードが凍りつかせる。その間にフレンディスは後ろへと飛び退る。
「たあああああっ」
 入れ替わりにレッドタイフーンと肉迫したレティシアがその巨体をなぎ払う。宙へと舞い上がったレッドタイフーンに追撃をするレティシアだが、キャノン砲から轟音を立てて砲弾が放たれたことで追撃を諦め、回避する。
 再び地面へと降り立ったレティシアは楽しげに笑っていたが、その息は少し乱れている。
 彼女だけではない。
 皆、どこか披露をにじませていた。
「ったく、予想以上にタフだな。三下のくせによぉ」
 恭也が挑戦的なセリフを言うが、バズーカが少し重そうに見えた。

 だが、誰も負ける気はしていなかった。
「間にあったかよ」
 イレイザー・スポーンの群を壊滅させたハイドラたちが、レッドタイフーンとの戦いに加わったからだ。
「輸送車の護衛は俺たちに任せてくれ」
 部下を引き連れた永谷の言葉を合図に、レッドタイフーンとの戦いが再開された。

 10分後。地響きを立てながら、レッドタイフーンは地面へと倒れたのだった。