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リアクション
もうひとつのの経路
PM16:00(タイムリミットまであと8時間)
ざああ。
ざああ。
波の音が聞こえる。
しかしその音に耳を傾ける間もなく、襲い掛かってくる虚無霊。
「はあっ!」
船上のセルマ・アリス(せるま・ありす)が超速でその攻撃を回避すると、次々と倒していく。
「ルーマ、上っ!」
「ああ」
少し離れた場所でセルマを見守っていたミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が、殺気を看破しセルマに伝える。
その声に応じ、すぐさま虚無霊を撃破するセルマ。
彼らの隣では、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)とミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)の援護を受けながら桐生 円(きりゅう・まどか)が戦っている。
「各々の力はたいしたことないけど、数が多いのがやっかいだね」
「……でも」
「ん?」
虚無霊と戦いながら、小さく呟いたオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)の声に、フランソワ・ショパン(ふらんそわ・しょぱん)は思わず反応する。
「でも、味方同士で疑心暗鬼になったり、傷つけ合ったり……あんな絶望に比べれば、虚無霊なんて、それに無人イコンなんて、メルヘンだよ」
ふ、とオデットの言葉にフランソワの唇が緩む。
戦いながら見せる笑顔は、それでも不思議と優しげだった。
「すまないね、戦闘の方は任せた!」
先頭で、舵を握っているのは弁天屋 菊(べんてんや・きく)。
そう、彼らは菊が所有する黒船に乗っていた。
浦賀から、横須賀基地を目指しているのだ。
「こうなったら、一刻の猶予もない。横須賀行きについて、あたしに任せちゃくれないか?」
聡の話を聞き、理子とハイナに菊が詰め寄ったのはほんの1時間程前だった。
船で、横須賀に行く。
最初にその案に懸念の色を示したのはアルクラントだった。
「船か……逃げ場は、ないですな」
そう。もしも死人が混じっていたら……
そこに助け舟を出したのは、壮太だった。
「いいじゃねえか。先行組として精鋭だけが船で横須賀に向かってもらう。そして、無事到着できたなら少しでも奴らの戦力を削ってくれれば……」
言外に、いざとなったら別働隊は全滅しても構わない、という含みがあった。
「いや、海上なら敵は限られてくる。だったらいっそ全員で向かえば……」
「アレを見ても、同じことがいえるかい?」
壮太は海の上を指差す。
そこには、多数の虚無霊。
会場も陸地も危険な事に変わらない。
それならば、要人の側により人を配備していられる地上に重点を置くべきだと壮太は考えていた。
「ボクは行くよ。皆の為に、少しでもコームラント・ジェノサイドを倒す」
円の口調に迷いはなかった。
「ああ。それに疑心の中にいるよりも、明確な敵を相手にした方がまだ気が紛れそうだしな」
セルマの言葉に、ミリィも黙って頷く。
「いい事言うじゃない」
「そうだね。私も、そう思うよ」
フランソワとオデットも、一歩前に出た。
「分かった。そんじゃ、あたしに任せてもらおうか!」
円たちの覚悟を見て、菊も胸を叩く。
「おう……菊さんよ、その」
出発しようとする菊に、甚五郎が声をかけた。
「何だい?」
「美味い飯、ありがとな」
その言葉に、菊はにやりと笑う。
「また作ってやるよ」
「ああ。……次の朝食までには、済ませよう」
あの時の会話を思いだし、菊の唇に笑みが浮かぶ。
しかしすぐにその顔は引き締まる。
目的地が、見えてきた。
間もなく、横須賀基地に到着する。
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