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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
四季の彩り・冬~X’mas遊戯~ 四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

リアクション

 25−4

「どういったアトラクションがあるんでしょう? 楽しみですね」
 ケープ付きのニットワンピースに身を包み、沢渡 真言(さわたり・まこと)はデスティニーランドの門をくぐった。優待券と隣接するホテルの宿泊券が当たったから、とマーリン・アンブロジウス(まーりん・あんぶろじうす)に誘われ、今日は泊りがけでのデートである。
(デート、ですよね……)
 前を向いたまま、隣を歩くマーリンをちらりと眺める。はっきりと告白されたわけではないし、いわゆる彼氏彼女じゃないけれど、やっぱりこれは、デートだと思う。
 誘われた時、宿泊券が当たったと聞いた時、本当なんだか、と思ったし今でもあまり本気にはしていない。その時の彼の態度が白々しかったというのもあるし――マーリンが自分を想ってくれている事は、理解していたから。
 彼としても、ただ遊ぶのではなくデートという意識を持って誘ってくれたのだと思う。それに――
『……他の人達には内緒で、2人で行きましょうか』
 誘われた時にそう答えたのは、真言自身にもその自覚があったということだろう。……他の人達に内緒で、あたりが。
 真言も彼のことが、恋、という意味で好きだと思う。嫌いじゃないし、好きじゃない、とは絶対に言えない。
 だがマーリンよりももっと大好きで、ずっと傍にいたい人がいるのも事実だ。その人は真言が執事として仕えると決めた主人であり、その状態で彼と気持ちを通じ合わせてしまうのはとても不実なことではないかと思うのだ。
『好き』の種類が違う、とかいう言葉をよく聞くけれど、もしそうだとしても、マーリンが一番になるわけではない。気持ちの大きさが、主人を超えることはない。でも、仕える身である自分は、どんなに好きだとしても、その主人とは結婚出来ないのだ。
 でも、彼となら――
(いえ、やっぱり、そんなのダメです……)
 そんな思いが最近頭をぐるぐるとしていて。
 にばんめ、であることが、枷になって。
 だから、誘ってもらえたのは嬉しいけれど、どう接したら良いのかを悩んでいた。もともと、恋愛方面は真言の苦手分野でもある。
(彼はどう思っているのでしょうか……嫌われるかな)
 もう一度マーリンの様子を伺う。いつもと変わらない飄々とした表情が、そこにはある。
「…………」
 ずっと抱えている悩み。けれど、遊園地には個人的に遊びに来たことはなかったし、もう少しだけ保留にして、楽しんでもいいかもしれない。
 せっかくの、デートなのだから。
 今日だけはちょっとおしゃれして、『普通の女の子』でいても……良いよね?
「ジェットコースターとか楽しそうですね。ああ、でもいろんな施設を回るアトラクションも面白そうです」
「お化け屋敷があるぞ。行ってみるか?」
 ちょうど通りかかったおどろおどろしい建物を指して、マーリンは言う。いかにも“出そう”なその外観に、真言は「う……」と身を引いた。
「……お、お化け屋敷系はちょっと……」
 怪物系なら大丈夫だが、幽霊だけは謹んで遠慮したいところである。
(お、かわいい反応……)
 意外なところで意外な表情を見ることができて、マーリンはつい真言から目が離せなくなる。薄々思っていたけれど、今日の彼女はいつもよりも女の子らしい気がする。いや、いつもも女の子らしいがスカートはやっぱりポイントが高い。
 冬の初めの頃にしたチェス勝負の際、『私が勝ったら真言のことをよろしく』とか言ったどこぞのお母様からクリスマスプレゼントが届いたのは先日のこと。デスティニーランドの優待券と宿泊券を前にしてどうしたもんかと一応真言を誘ったが、彼女は嫌がりもせず、まんざらでもなさそうにOKしてくれた。
 そして当日の今は、こうして着飾ってきてくれている。
 クリスマスの、泊りがけの小旅行に。
 ……これはもう、告白してもいいのかな。
「今日は、執事服じゃないんだな」
「これですか? 母がクリスマスプレゼントにと贈ってくれたんです」
「……………………」
 真言は、あっさりとその出所を口にした。どこぞのお母様からのそれを純粋な贈り物と捉え、何の疑問も抱いていないようだ。
 どれだけ手を回してるんだ、とただただ感心するしかない。
 閉口するマーリンとは対照的に、裏事情など何も知らない彼女は少し恥ずかしそうな笑顔を浮かべる。
「変、じゃないですか?」
「……いいや、全然」
 その表情にどきりとしながら、正直に答える。
 全然、変ではない。そこだけは、さすがに親だなと思ってしまう。娘に似合う服を、よく心得ていた。
 お膳立てされた結果ではあったようだが、真言とこうして歩くことは彼の望むことでもあり。
 今だけは、執事ではない彼女にとっての一番の存在として隣にいたい――
 そんな事も思うのだった。

              ◇◇◇◇◇◇

「お母様、これなんて可愛らしいです」
「なんだか抱き心地が良さそうですね〜」
 沢山のぬいぐるみやマグカップ、日常小物等のキャラクターグッズが並ぶショップもまたクリスマスらしさで溢れていた。この時期にしか店頭に並ばない、デスティニーランド内のみで販売されるグッズも数多くあり、それを目的に来園する人々も少なくはない。
 その中で、ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)ミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)も可愛らしいグッズを手に取って和気藹々とした空気を作っている。
「ミリィ、ミリアさん」
 それを微笑ましく見守っていた涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は、壁に並んだ耳付きカチューシャの前で足を止め、彼女達に声を掛けた。白猫だったり宇宙人だったりうさぎだったり、色々な種類が揃う中で、黒の丸い耳とリボンのついたデザインを選んで2人に渡す。
「2人共、今日はこれをつけて回りませんか」
「あ、わたくし、実はこういうのつけてみたかったんです」
「カチューシャですか〜。私は、ちょっと恥ずかしいですわ〜」
 乗り気になったミリィに対し、ミリアは少し困ったような笑みを見せる。とはいえ、ためらいもあるが興味もあるようで、ほんの一押しで装着してくれそうだ。
「大人の人でもつけている人はたくさんいるので、大丈夫ですよ。こういうのは、ここでしか楽しめませんし、記念ということで」
「そうですか〜? じゃあ……」
 涼介の言葉を聞いて設置された鏡の前で簡単に合わせてみて、ミリアは購入を決めたようだ。それから、カチューシャを持ったまま、近くのアイテムをきょろきょろと見回す。
「その代わり、涼介さんも何かつけてくださいね〜。えーと……」
「お父様には、これなんてどうですか?」
 ミリィは青い帽子を被ったアヒルの顔の帽子を選んで涼介に差し出す。黄色い嘴が可愛らしい。
「わかりました。今日はこれを被って過ごしましょう」
 2人のリクエストにはきちんと応えてあげたい。家族でこうしてキャラクターグッズを選んでいるこの時が何だかとても幸せで、涼介は快く頷いた。
「招待券とクリスマスキャンペーンの時期が重なっていて幸運でしたわ」
 そうして、3人は頭に耳とアヒルをつけてショップを出た。ミリィもミリアも、カチューシャが良く似合っている。普段は見られない可愛らしい姿に、何だか遊園地に来たというしみじみとした実感が沸いて涼介は自然と笑顔になった。嬉しそうなミリィの声に、誘って良かったなと彼は思う。デスティニーランドの招待券を貰っていたと思い出したのは今日の朝で、有効期限が年内のそれを使って、3人で来園することにした。昨日出席したパーティーでは夫婦で楽しい一夜を過ごしたし、今日はミリィを連れて家族水入らずで楽しもうと思ったのだ。
 せっかくのクリスマスなのだから、家族全員で楽しみたい。
(そういえば、遊園地に来るなんていつ以来だろうか。最後に行ったのはデスティニーランドじゃないけど確か3年前だったかな。ホレグスリの一件を一緒に解決した人に誘われたんだっけ)
「涼介さん〜?」
「お父様? 聞こえてました〜?」
「あ、ごめんごめん、なんだっけ」
 ミリアとミリィに揃って覗き込まれ、涼介は慌てて意識を引き戻した。
「メリーゴーランドに行きましょうって話してたんですわ〜。どうですか?」
「メリーゴーランド……いいですね。行きましょう」
 家族でほのぼのと白馬に乗る様子を思い描く。昔を思い出すのはまた今度にして、今は彼女達と楽しむことにしよう。
(今日はクリスマスなのだから、可愛い私の女神と天使のわがままは聞いてあげたいな)
 行きたい場所を話し合うミリアとミリィの隣で、涼介はそんな事を思った。

              ◇◇◇◇◇◇

「そういえば、シェリエは気になる野郎とかいないのか?」
 昨日の約束通りに遊園地前で合流し、フェイはシェリエとショッピングモールを回っていた。買い物を楽しむ傍らでカフェの事やディオニウス家の2人の姉妹の近況を聞いたり、今頃「りあじゅう」しているであろう匿名 某(とくな・なにがし)達の話をしたり。
 話題の1つとしてフェイがそう訊ねてみたのは、そんな折のことであった。いつぞやに楽器集めが終わったら彼氏を作りたい、とか言っていた事を話の流れでふと思い出し、何の気なしに聞いてみたのだが――
「残念ながらまだいないわね。いたら、あなたの誘いに乗る前に予定が埋まってたと思うわよ」
「そ、そうか……」
 笑顔で言われ、無意識に固めていた緊張が解れていく。
(……なんでだろう)
 他意の無い質問だったのに答えを聞いた途端にほっとして、それが納得いかずにフェイは自問する。仮に、『いる』と言った時のシェリエを想像したらむかっと嫌な気分になる気がして、何だか彼女はもやもやとした。
(結いっ子の幸せを願ってる私らしくない……)
 もやもやを残したまま、少し元気をなくす。脳みその90%以上が下心と無駄な自信で出来ていそうな筋肉もりもりの男が歩いてきたのはその時だった。
「ん?」
 魅力の「み」の字も感じられない筋肉男は視線に気付いたのかこちらを向き、ばっちりとフェイと目を合わせると一瞬で隣のシェリエにその対象を移す。直後、目玉が飛び出さんばかりに彼――むきプリ君はシェリエの胸をガン見してむほっ、と鼻の穴を膨らませた。普段なら、ここぞとターゲットにする巨乳美女だ。
「きょ、巨乳女! いやいや……ぶほっ!」
 スケベ顔全開で飛び掛からんばかりの欲望を放散させるむきプリ君に、フェイはえぇい、と全力のドロップキックをお見舞いした。汚い筋肉野郎はキレイに数メートル飛んでKOされる。何だかちょっと、すっきりした。
「さあシェリエ、次はどこへ行こうか」
「そ、そうね、次は……」
 シェリエは後ろを気にしながらも、特に引き返す気にはならないようでフェイと並んでむきプリ君から離れていく。彼女もスケベな表情はしっかりと目撃していて、同情する気はあまり起きなかった。
 一方、憂さ晴らしを終えたフェイも何事も無かったかのように笑みを浮かべてシェリエとの話を再開する。筋肉男の存在など既に忘却の彼方だったが少し気になることもあって。
 シェリエの魅力は巨乳じゃなくてさらさらの青い結い髪だと思うのだ。
 同時に、そう思う心が綾耶を愛でる時とは微妙に違う気がして、やはり、何となく何かが引っ掛かる気がした。

              ⇔

「むぅ……? む? 俺はいったいどうしたのだ?」
 そして2人がいなくなった後、むきプリ君はのっそりと起き上がった。ショッピングモールを歩く人々が半円を描くように避けて通る中、道に座ったままに首をぶるぶると振ってきょろきょろとする。当たり所が良く、先程目撃した巨乳の思い出を忘れてしまったらしい。立ち上がって、顔がひりひりする事を不思議に思いつつ歩き出す。昨日に引き続き客の数は多く、クリスマスらしく気合を入れた服装の女子達が視界から消えることはない。
 いつもなら欲望のままにホレグスリを口に突っ込むところだが、今日のむきプリ君は一味違う。上玉にはつい本能丸出しの目を向けてしまうがそれだけであり、ホレグスリを飲ませようとか自分のモノにしようとかは考えていなかった。行動に移しかけても自重する。というのも、これから――
「ムッキー、来てくれて嬉しいぜぃ!」
「う、うむ……」
 自分を好きだと言って憚らない、秘伝 『闘神の書』(ひでん・とうじんのしょ)と、2人でクリスマスを過ごす予定だからだ。

「よし、俺のホレグスリを試す被験者は……」
 同じ頃、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)もまたディスティニーランドを訪れ、園内を1人散策していた。その目的は言葉通り、遊園地を満喫することではなく薬の効果を試すことである。動機は違えど、ホレグスリを口に突っ込む相手を求めているという点ではいつものむきプリ君と似て――
「……っと居たな」
 否、ターゲットにする人物が明確であるだけむきプリ君やそして彼の父、チッチーよりは無害かもしれない。
 ということで、ホレグスリを無許可で堂々と売り歩くチッチーを見つけたラルクは、とりあえずは彼で試してみようと気安い調子で声を掛けた。
「ようチッチー。ちょっとホレグスリを試してみてくれ」
「ん? 何だ、ホレグスリならこの前早速1本飲んだぞ!」
 既に試し済みのチッチーは、声高に豪快に笑い、販売中のホレグスリの箱を軽く叩いた。
「そして、ここにも山とある! ホレグスリはいいものだ! 他者への博愛精神が芽生え性欲が増幅され、それに抗うことなく自らの欲望に素直になれる! 精神が開放されて薬が切れてもすっきり爽やかだ!」
「い、いや……それじゃなくてな」
 何だか随分と誇張が入っている気がしないでもない口上だ。冷静に言葉の意味を分析するとかなりろくでもない事を言っているのだが、謎の聞こえの良さに園内を歩いていた人々が足を止めて振り返る。「ホレグスリ?」「1つ買ってみようか」とぽつぽつと近付いて来ては買っていく。チッチーは何故か成敗されるようなこともない傍目普通の筋肉売り子で、客の流れが落ち着いてからラルクは話を再開した。
「試してほしいのは俺が独自に改良したホレグスリ2だぜ!」
「何!? ホレグスリ2だと!!」
 チッチーは分かりやすく食いついた。くわっ、と目を剥いて迫ってくる。直近数センチ先にある彼の四角い顔と対面したまま、ラルクは説明した。
「ああ。……と言っても試作品だがな。一応解毒剤も持ってるが、従来の解毒剤が効かないタイプだ。効能がかなり上がってて、より深く相手を求めるようになるぜ。夫婦仲解決間違いなしだ」
「ほうほう、夫婦仲が解決する程の一体感か! よし、喜んで試してやろう!」
 ラルクの出したホレグスリ2の瓶を強奪するかのように受け取ると、チッチーは遊園地内を大股で歩き出した。ラルクはチッチーの視界に入らないよう、距離を置いて後からみ守る。まだ瓶の蓋を開ける気配は無いが、これ以上下手に関わると自分が餌食になりそうだと思ったからだ。
 程なくして、チッチーはスマートフォンを取り出して誰かに電話を掛け始めた。
「ムッターか? 儂だ! これから会うぞ! 予定より早いが楽しもうではないか!」
 ホレグスリ売りの後に約束でもしていたのか、がっはっは、と大笑いをしてどこかへと向かっていく。やがて、彼は待ち合わせ場所として名高い、キャラクターの形に剪定された常緑樹の前で立ち止まった。そこでホレグスリ2を一気飲みすると、周囲に集まっていた人々の中でも一際目立つ、プラチナブロンドの年齢不詳美女に一直線に突撃していく。
「あ・な・た☆」
 そして、一音一音の間に正確にはハートマークを挟んでいた彼女を、チッチーは遠慮会釈なく力強く抱きしめた。骨がばきぼきになっていてもおかしくないように見えたが幸いなことに無事なようで、美女はチッチーの中にすっぽりとおさまったまま、問い掛ける。あなた、と呼んだということは多分、彼女が妻でありむきプリ君の母なのだろう。
「ムッキーの手伝いは終わったの? ホレグスリは……うん、もう飲んじゃったみたいね」
「ふおぉおう! 特に強力なものを飲んだぞムッター! 待たせて悪かったが、さあお前もこれを飲んで儂と濃厚なクリスマスを過ごすのだ!!」
「待って、まだここじゃあ早いわ。ホテルまで我慢して……あっ……ごくん」
 ――いつの間にか、周りを歩いていた来園客がほぼ漏れなくギャラリーと化していた。後から来た人々が何事かと観ようとしてもギャラリーは一分の隙も無く全ての空間を埋め、おっさんの叫び声と女性の艶やかな声が漏れ聞こえるだけだ。人の壁をこじ開けて何とかその光景を目撃したラルクはチッチー達の様子を薬服用の経過観察としてきっちりとノートに記録した。だが、そのうちチッチーは売り物のホレグスリをギャラリー達の口に笑いながら突っ込み始め――
 通りかかった警備員が人垣の中の異変がただ事ではないと気付いて走り寄った時。
(おっと、そろそろヤバそうだな)
 ラルクは素早くチッチー達の傍に行って、2と元祖、それぞれの解毒剤を口に突っ込む。
「む、む……?」
「こ、これは……? きゃあっっ」
 ムッターと呼ばれていた美女は我に返ったようで慌てて嬌声のような悲鳴を上げてきていたコートの前を閉めてスカートを調えた。冬であり、パンツスタイルでなかったのが幸いしたようだ。だが、彼女はプリンプト家の中でも比較的良識があるようで、衆人環視の真ん中で夜の営みを見られて平気というわけではないらしい。顔を沸騰させて、大人らしさの消えた幼顔で涙目になっている。
 彼女はキッとチッチーを睨み、恥ずかしさ全開の声でこう言った。
「もう! だから待ってって言ったじゃない! そもそも、“こう”するつもりだったならなんでホテルで待ち合わせなかったのよ!」
「おお、その手があったか! まあいいではないか儂達の愛の営みを見ることで新たな愛が……」
「生まれないわよ! 生まれたとしても私にそんな自己犠牲の精神は無いわよ! このエロ筋肉バカ!」
「だが、儂のそんな所に惹かれたんだろう……?」
「そ、それはそうだけど……でも……もう、バカ♪」
 2人はその後、ラブラブのハートマークを飛ばしながら遊園地でのデートを比較的普通に敢行した。ホレグスリ2には夫婦喧嘩を発生させる効果もあるようだが、仲を取り持つ効果も確かに……ある、のかもしれない。

              ⇔

 一通り園内を見て周り、カフェ・ディオニウスに戻る時間も近くなり。
「今日は楽しかった。あの、これ……クリスマスプレゼント」
 フェイはシェリエに小さな包みを手渡した。買い物袋を腕に提げなおしてその贈り物を受け取ったシェリエは、包みを開けて嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「ありがとう。『信頼のブローチ』ね」
「私は魔鎧でも魔道書でもないが、シェリエの事は信頼してるからな。大切な…………友達として……」
 言いながら、どこか自信が無さそうにフェイの視線が下がっていく。友達、という言葉の前に少しだけ、二重の意味が入った迷いが混じる。
 シェリエにとっては、前までは楽器集めの協力者で、今はただのカフェの常連さんなんだろうけど――というシェリエから見た自分との関係を考えて。それと、もう1つ――
「もしシェリエが嫌じゃなかったらその……友達に、なりたいんだ」
 彼女自身理由は分からなかったが『友達』という表現がどうも、なんとなくしっくり来ないという気がしていて。でも、他に適切な言葉も知らなくて。
「そして、またこうやって一緒に楽しい思い出を作りたい……いい、かな?」
 だから、やむをえず一番近い言葉で表現しているのだがそれは口に出さないまま、フェイはシェリエの表情を伺う。すると、シェリエは意外な事を聞いたというように瞬きした。
「いいも何も、今さら何言ってるのよ。こうして遊んだ時点で、もう充分に友達じゃない。ね♪」
 そう笑い、腕に提げていた買い物袋を掲げてみせる。中には今日購入した、茶葉や食器を始めとした彼女の趣味に連なるものがたくさん入っていて。
 それが、全てを物語っていた。