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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~

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四季の彩り・冬~X’mas遊戯~
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リアクション

 25−7

「ルカルカさん、金団長をお連れしました」
 遊園地内を見て回り、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)との待ち合わせ場所に蓮華鋭峰を案内した。時刻は夕暮れ、朱色の陽は既に殆ど落ちていて、夜の訪れまでもうすぐ、という頃合だ。
「ありがと♪ 楽しかった?」 
「はい。あくまでもお供ですので、あまり楽しいと公言するのも、と思うのですが」
 充実した時間が過ごせたのか、蓮華は鋭峰を意識しながら、どこか恥ずかしそうにルカルカに言う。
(お供?)
 その言葉に内心で首を傾げたが、ルカルカは彼女からバトンを受け取り鋭峰の前に進み出る。
「団長、クリスマスに少し私とプライベートな時間を過ごしませんか。ご案内したい所があるんです」
「…………」
「団長?」
 しかし言葉は返って来ず、微笑んでいたルカルカはきょとん、と鋭峰を見返した。彼は微塵も表情を変えず、僅かな沈黙の後で彼女に言った。
「私は今日、プライベートな時間を設けるつもりはない。用事というものが視察に値しない内容ならば戻らせてもらうが」
「あ……」
 蓮華を見遣ると、彼女は鋭峰の後方で苦笑気味に頷いた。事情を察し、改めてルカルカは言い直す。少しだけ、気を引き締めた。
「申し訳ありません。実は、ダリルがデスティニーランドのコンピューター管理室でアルバイトをしているので、そこにご案内したいんです。管理者の方には、許可を取ってあります」
「…………」
「遊園地という場の縁の下を御覧になるのも、視察として有意義ではないかと」
「…………」
 話を聞き終えても、鋭鋒は暫く口を開かなかった。充分の間を空けてからルカルカに言う。
「それならば、一目見ておくのも悪くない」
「ありがとうございます。こちらです」
 2人は遊園地の奥へと歩いていく。蓮華はその背に礼をして、彼女達とは反対方向に歩き出した。今日の思い出を、大切なお土産にして。

「団長、慰安旅行、楽しかったですね」
 管理室に行く道中、ルカルカは先日、ニルヴァーナの地下街、アガルタへ旅行に行った事を思い出して話しかけた。随分と大人数が参加した中で、彼女は幹事を務めたのだ。
「私は色々忙しかったけど、皆が楽しんでくれて嬉しかったです」
「……アガルタではご苦労だったな。私も、ニルヴァーナの現状を見るという意味で、今後の糧となるものだった」
「ご満足いただけたようで良かったです。たまには、ああいう旅行もいいですよね」
 慰労の言葉を貰えたのが嬉しくて、ルカルカは心持ち声を弾ませる。
「中継基地には此処とまた違うニルヴァーサル・スタジオというテーマパークが出来たので、いつか是非ご一緒したいです。長曽禰中佐監修のバトルシミュレーターもあるんですよ♪」
「……シミュレーターか。テーマパークはこうして今日、様子を確認することができたが。……今度、中佐に話を聞いてみてもいいかもしれんな」
 淡々とした口調で、鋭鋒は答える。そこで曲がり道に差し掛かり、ルカルカは「こっちです」と施設のある方に彼を誘う。
「スタッフの方が待機してくださっています。ところで団長、通信塔がある中継基地の、国軍及び教導団の駐屯地についてですが……」
「大尉」
 そして、管理施設の入口に立つスタッフの姿が見えたところで鋭鋒はルカルカの話を遮った。お辞儀をするスタッフに真っ直ぐに歩を進めていく。
「今、私が視察しているのはシャンバラの空京にある遊園地だ。何か確認したい事項があるようだが……今回の視察とは関係の無いニルヴァーナについての話は、後日で構わないか?」
「す、すみません……」
 少し厳しい色を帯びた鋭鋒の声に、ルカルカは慌てて謝った。教導団外でということもあり、あくまで軽く、と雑談の中での話のつもりだったが、その内容自体が良くなかったらしい。また、それが雑談の範疇を超えた確認事項だということを、見抜かれていた節もある。
「シャンバラ教導団の金鋭鋒だ」
「お待ちしておりました。中へご案内いたします」
 スタッフと共に、鋭鋒は建物内へ入っていく。ルカルカも、その後に続いた。

「こちらがコンピューター管理室の中枢となります」
 開いた扉から、鋭鋒が入ってくる。コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が見守る中でメンテナンス作業をしていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、その手を止めた。
「団長、メリークリスマスです」
 この部屋への入室がクリスマスプレゼントというかのように、ルカルカが言う。実際、彼女はここを、普通の人は入れない『夢の裏側』だと言っていた。
『団長は平和には労力が必要だとよく知ってるし、最新科学の塊だから興味有るんじゃないかなって思ったの』
 そうとも言っていたから、確かに、彼女はプレゼントという意識を持っているのだろう。
「沢山の画面と最新の機器。全体の把握と制御ができます。夢の国の平和は、ここが支えてるんです」
 姿勢を正して、誇りと自信のある笑顔でルカルカは説明する。それを、今はダリルの上司でもあるスタッフが静かにいなした。
「そういった説明は、こちらで行いますから」
 そうして、簡単な作業内容から、管理室で何が出来るのか等を鋭鋒に話す。一通り聞き終えると、鋭鋒はダリルに近付いた。
「作業中に労力が掛かるのはどういった部分だ?」
「そうだな……」
 ダリルは壁一面に嵌め込まれた画面に目を移す。そこには、高度から見たデスティニーランド内のアトラクションの動きや収納された乗り物、または出発していく乗り物等が映し出されている。
「それぞれが稼動した状態でのメンテなので結構大変だな。必要回路を多重に確保して行うので、時間も使うし気も使う。一旦閉鎖して一気に行う方が効率的なのだが……」
「”夢の国が休む”なんておかしいじゃん。ダメダメ」
「仕方ない話なのは分かるさ」
 後ろから突っ込みを入れるルカルカに、苦笑しながらダリルは言う。
「アトラクションの機動性を確認する以外にも、照明や音楽の調整などもここである程度は操作が可能だ」
「もちろん、主な作業は全て現場でも出来るようになっています。遠隔操作にも限界はありますからね」
 彼の説明にスタッフが補足する。そこで、ルカルカが鋭鋒に声を掛けた。
「団長。少し動かしてみますか?」
「…………」
 鋭鋒は室内をぐるりと見回し、スタッフに訊ねた。
「私はこういった事は専門外なのだが。ここで私が操作しても、問題は発生しないだろうか」
「そうですね。お客様に影響の無い範囲であれば、是非体験してみてください」
「カメラの切り替えや、電飾の色変更なら支障は無いだろう」
 スタッフの声を受け、そう言ったダリルが場所を空ける。鋭鋒は作業盤の中央に立つと、目に興味深そうな光を宿してダリルの次の言葉を待った。
「その釦の並びが各色を示し、この釦が実際に光る施設だ。今なら、ここが白色だから青に変更してみてくれ。光り方にも色々とパターンがあり……」

「お疲れ様でした。では、外までご案内します。……じゃあ、後はよろしく」
 視察が終了すると、スタッフはダリルとコードに言って扉を開けた。
「団長、教導団本部への帰還にお供しますね」
 ルカルカと鋭鋒も部屋を出る。空京からヒラニプラに戻る道の途中には、ショッピングモール『アムリアナ・プロムナード』がある。帰りに鋭鋒とそこへ寄ってみようと思いながら、ルカルカは階段を降りていった。団長には、普通の人っぽいクリスマスも差し上げたい。彼は1人の青年でもあるのだから。
 ――3人が居なくなると、ダリルは作業を再開した。コードに指示を出しながら、効率的に進めていく。
「……ったく、どんな性能だよ」
 彼の手の動きから目を離さず、コードは言った。ダリルに、というより思ったことが口に出たという感じだ。ダリルの技術力はコードから見て凄まじいの一言に尽きる。
「お前の成長速度も脅威的だぞ」
「……実力は遠く及ばないだろ」
 ルカルカと契約してから1ヶ月。コードは既に、シャンバラでも屈指の力を見につけていた。数万人に及ぶ契約者とパラミタ人を総合しても、強さにして50番以内には入るだろう。だが、ルカルカやダリルに敵わないことに、コードは悔しさを感じていた。
(こいつは”電脳支配”で別の機械も同時に動かすから、電脳の魔術師とでも言う操作速度が倍化するんだ)
 今も電気信号を送っているのだろう。ダリルが触れていない部分が時たま動き、勝手に作業が進むことがある。もっとも、必ずしも成功する訳ではないようだが。
「なぁ、それってどんな感じなんだ?」
「能力の呼称としては『支配』と名づけたが、一体化と言った方が近いな」
 興味本位に訊いてみる。ダリルは特に考える様子も見せずに返答した。そして、懐から魔珠『タクティリス』を出してコードに渡した。
「使ってみるのが一番早いだろう」
「……いいのか?」
「今お前が作業中のその部分に使用すれば問題も出ないだろう。壊れることはない筈だ」
「…………」
 タクティリスを持って暫し考え、コードは電脳支配を使ってみることにした。集中してみるが、どうにも上手くいかない。見守っていたダリルのアドバイスが聞こえてくる。
「機械言語で思考した方がいいぞ」
「……いや、それ無理!」
 そんな事が出来るのは知識を持つダリルだけだろう、とコードは突っ込みを入れる。剣の花嫁という種族は確かに人工生命だが、機械的な部分は無い。他の剣の花嫁達にも到底不可能な事に思えた。実際、不可能だろう。
 機晶生命体であるギフトも機械と呼べるだろうが、人型である自分に使えるかと言われれば否である。第一、そういった『言語』をコードは意識したことがない。
「高度な自立AIには自我とも言える物がある。俺達と根本的な差はないんだ」
 だが、何処か優しい目で、ダリルはコードにアドバイスした。
「…………」
 それを当然として話す彼を見て、コードは理解した。
 ダリルは自らを”人と機械のハイブリット”だと認識しているのだ。