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リアクション
※ このページには、過激なシーンを含む描写がありますので、ご注意ください。
I 濃密な朝
腰のだるさと、腹上に何かがのしかかる重さに霧島 玖朔(きりしま・くざく)が目を開けてみると、昨夜甘い一夜を過ごした二人のパートナーの内の一人、悪魔のアンナローゼ・リウクシアラ(あんなろーぜ・りうくしあら)が、裸にワイシャツ一枚という姿で、自分の上に馬乗りになっているのだった。
「おはよう、玖朔」
見下ろして、アンナローゼは微笑む。
「……何だよ? 昨日散々ヤッただろうが」
まだ足りないのか、と言う玖朔に、「違うわよ」と言い返す。
「これは、契約更新の儀式なの」
「契約更新?」
アンナローゼは、体を倒し、胸を玖朔の体に押し付けながら、人差し指で自分の口をつついて、そうよ、と言った。
「悪魔との契約には、定期的な更新が必要なのよ。知らなかった?」
初耳だ。
こんな要求を受けたのは初めてだし、と、玖朔は寝起きのぼんやりした頭で首を傾げる。
勿論嘘である。
契約は、一度交わせば、一生のものだ。アンナローゼの要求は、ただの口実である。
だが、考えるのも面倒くせえ、とばかりに、玖朔はアンナローゼの腕を引っ張り込んで、体勢を入れ替え、その唇に喰らいついた。
呼吸もままならない程の激しい口付けに、アンナローゼの瞳が陶然となる。
こんなもんか? と、ようやく玖朔が口を離せば、くたりと力を抜いた。
「これでいいのか?」
「……ええ。いいわ。契約更新よ」
玖朔が起き上がり、ベッドを出ても、アンナローゼはそのままベッドの中に潜り込む。
「……ふふ」
玖朔のぬくもりが残っている。
ぼんやりとその暖かさを堪能しながら、アンナローゼは二度目の眠りについた。
二人よりも先に目覚めていた英霊の伊吹 九十九(いぶき・つくも)は、寝室でアンナローゼに抜け駆けされていることにも気付かず、寝起きの裸体に魔法のエプロンのみ身につけて、台所で朝食の支度をしていた。
寝室を出た玖朔は、匂いを辿って台所へ行くと、九十九の背後から、胸を鷲掴む。
「あん」
「おはよう。今日もいい身体してんな」
「何言ってるのよ、昨日と同じ……あっ」
「昨日と同じ、いい声してんな」
「馬鹿。今料理中なのよ」
拒んでみるものの、玖朔がやめないだろうことは解っていた。
ここから行為がエスカレートしていくのは、いつものことだ。
玖朔の手は、九十九の角を辿って胸に戻り、揉み解すのに飽きると、その下へと進んでいく。
唇が首筋を甘噛みして、「んっ」と九十九は甘い声を漏らした。
(……何だ? 今日は素直だな)
玖朔は内心で首を傾げる。
いつもなら、胸を掴んだ時点で怒り狂って来るのだが。
(ま、こんな日もあるんだろう)
折角の機会だ、気にしないことにして、玖朔は楽しむことにする。
この理想的なシチュエーション、男としては、最後まで頑張らなくては。
一方九十九は、無駄な拒絶をしても結局行き着くところは同じなら、もう今は楽しんでしまおう、と、甘えることに集中することにしていた。
振り返り、自分から口付ける。
キスをしながら、テーブルの上に押し倒されて、エプロン生地を胸の谷間に挟まれ、本格的に嬲られた。
「あ、あ、んんっ……」
くすくす笑いながら、玖朔の手が、足の間に伸びてくる。
「あっ、ああん……駄目、そんな激しいとぉ……ぁあっ、ん、あの娘、起きちゃうよぉ……♪」
九十九の言葉に、玖朔はちらりと寝室のドアを見た。今は二人で楽しみたいところだ。
「ね、バスルームで……」
「そうだな」
九十九の言葉に頷いて、玖朔は彼女を抱き上げ、バスルームへ連れ込むと、続きを再開した。
水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、ぼんやりと目を開けた。
(……ここ、何処だっけ……)
見憶えの無い、無機的な部屋。
気だるく、どこか虚ろな朝。
素肌に掛かる、身体に馴染まないシーツ。
そして、隣には、誰かがいた、痕跡。
ゆかりは次第にクリアになっていく頭で、状況を思い出した。
(……ああ、やっちゃった……)
昨夜、同じ教導団の男と一夜を過ごしたのだ。此処はホテルの一室だった。
「それにしたって、黙って帰るとかないんじゃない?」
相手の男を口汚く罵りながら、ゆかりはシャワーを浴びて、情事の痕跡を消す。
そして、はたと、パートナーの魔女、マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)のことを思い出した。
「マリー、怒ってるわよね……。昨日は早く帰るって言ってあったのに……」
だが、まっすぐ帰宅する気になれなかったゆかりは、バーでカクテルを何杯か飲んでいたところを、同じ教導団の男に声を掛けられて、酔った勢いでそのままホテルに直行したのだ。
ゆかりは頭を抱えた。
そっとドアを開け、こっそりと中に入ろうとする足掻きは、無駄な努力に終わった。
「お早いお帰りね」
ドアの向こうには、マリエッタが立っている。
「ま、マリー……ただいま」
乾いた笑いのゆかりに、マリエッタはにこりと笑った。
「早く帰るって言ってたのに遅いから、残業かと思って問い合わせたら、もう帰ったって言うし。
怒らないから、昨夜何処に行ってたのかあたしに教えなさい」
天使のような微笑だが、その頭から角が生えているのがゆかりには見えた。
「えーと、その、急な任務で……」
「首筋にルージュがついてるわよ」
「え? 相手男だったのに」
「カーリー!」
カマかけにあっさり引っかかって、思わず首筋に手を当てたゆかりはびくりと肩を竦める。
キッチンのテーブルに向かい合い、その後は説教タイムが始まった。
「あなたは24歳だし、よそで男と寝ようが女と寝ようが勝手だけど、せめて今夜は帰らないと一言メールでもしたらどうなの。
携帯電源切れてて繋がらないし、あたしは一晩中、本当に……本当に……」
本当に、胸が張り裂けるほどに心配したのだ。
探し回って、疲れて眠ってしまっていたら、玄関のドアの開く気配。
何事もなく、コソコソゆかりは帰って来た。
「ごめんなさい」
目を真っ赤にして、泣きながらの説教を甘んじて受けた後に、ゆかりは買っておいたケーキの箱を差し出す。
「これ、お詫び」
「こんなもので釣られたりしないんだから」
マリエッタはじろりとゆかりを睨んだが、箱は開ける。
3個入ったケーキは、2個がマリエッタの分だ。
「全くもう。ちゃんと反省して」
「解ってます。ごめんなさい」
それでも、しっかりケーキを食べる姿を微笑ましくも思いつつ、心配をかけたことには本当に申し訳なく思って、ゆかりはもう一度謝った。
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