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リアクション
IIII 演習
大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)と琳 鳳明(りん・ほうめい)が、演習の準備に精を出している。
「藤堂って中尉だよな?
元々奴が監督なのに、なんでそれより階級が上の連中がゴロゴロいるんだ?」
鈴に渡された名簿を見て、都築少佐は首を傾げた。
「今、風邪が流行っていますので。代役が参加されているのですわ」
「ああ、成程。
んじゃ、この連中の成績は、代役頼んだ奴の成績としてつけるか」
「わたくしは、監督の助手を務めます」
「そうか。じゃあ任せた」
こっちは陣地を動けないしな、と言う都築に頷いて、鈴は飛空艇で空から演習の様子を監督する。
「本日はよろしくお願いします」
白竜が、都築少佐に敬礼した。
「おう。お手並み拝見だ」
と、都築は笑って頷く。
「皆さん、頑張ってくださいね。
演習終了後には、打ち上げ会を企画しています。
この後のご予定がなければ是非参加してください。
尚、旗を取った人には都築少佐が奢ってくれるそうですよ」
そう言って店の名を告げたセラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)を、都築はきょとんと見たが、セラフィーナはそ知らぬ表情である。
まあいいか、と都築は何も言わなかった。
支払い全部、と言われるより余程マシというものだ。と、思いつつ、結局全部支払うことになるのだが。
「ダリルはお仕事の後誰かと会うみたいだし、ルカも遊んで来ようっと♪」
演習欠員の話を聞いて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もその人手に名乗りを上げた。
訓練を楽しく思うルカルカにとって、演習場は遊び場だ。
「俺も参加していいのか?」
ニキータに引っ張って来られたトオルが訊ねる。
「勿論よ。あ、服を汚したくないでしょうし貸すわよ」
「それは別に構わねえけど……教導団の戦闘用軍服? 着たいっ! 借りる!」
「ミーハーねえ。
サイズ合わなくなったあたしのお下がりでよかったらあげる?」
くすくす笑って言うと、トオルは喜ぶ。
「ユーズドの本物? 貰うっ」
「ちなみに得意な攻撃技って何?」
「速射が得意だけど。でも最近は、狙ってじっくり撃ってるかな?」
「オッケー。後衛で行きましょうか」
演習だからと、油断はしないし手も抜かない。
青・テオフィロスチームの前衛で参加するジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、それがどのような演習でも、手加減するつもりはなかった。
戦場で敵が手加減してくれるわけもなく、そこは、殺し合いの場だ。
訓練だからと甘く見る者は、本物の戦場も甘く見る。そういう者が、死んで行くのだ。
場所取りを終え、息を殺してブッシュに潜み、時計の針を確認する。
(3……2……1……)
演習開始。
ジェイコブは、低く構えてブッシュを飛び出した。
トオルとニキータは、左サイドを前進しながら、前衛の羅儀と合流した。
前方からは、猛然と垂が突っ込んで来る。
「三対一かよ、上等!」
先制を取ったのは、ニキータだった。
獣の如き猛攻を、垂は全て受け止めきれずに喰らう。
「目には目を、だぜ!」
しかし返す攻撃で、垂も同じ連続技を仕掛けた。
着実に敵の数を減らす為に、相手を一人に集中して狙う。
「ちっ!」
標的になったトオルは、後退せずにむしろ飛び込んだ。
そして反撃するトオルの後ろから羅儀が回り込み、剣撃を仕掛ける。
三人の攻撃を集中的に受けて、垂が怯んだ。
「行かせて貰うわ!」
的となる為にわざわざ前に出たトオルの意を汲んで、ニキータは接近戦ではなく、グラビティコントロールで後方から仕掛けた。
重力に潰されながらも、垂は同様の攻撃を放つ。
それを受けてトオルは倒されたが、少し遅れて、垂へのとどめは羅儀が刺した。
「あー、死んだ」
「飛び出すからよ」
舌打つトオルに、ニキータが言う。
「何かどっちにしろ死にそうだったからさ。どうせなら役に立とうと思って」
次の為に、少しでもニキータ達の体力を温存させられればと思ったのだが。
鈴の連絡を受けてセラフィーナが駆け付け、脱落したトオルと垂の傷を治療する。
「演習が終了するまで、待機していてくださいね」
「了解」
トオルはセラフィーナに頷く。
「あなた、回復は?
というか怪我してるのか解らないけど」
「怪我っていうか、体力削られてる感じかな。回復は持って来てないんだよな」
ニキータの問いに、パワードスーツ姿の羅儀が答えた。
「あたしも、他人の回復は持ってないのよね。
とはいえ自分の回復も、万全まで待ってたら演習終わっちゃうわ」
このまま行くしかない。
頑張れよー、と言うトオルをその場に残して、二人は中央に進んだ。
「今はどんな感じです?」
演習に参加予定だったが急用で間に合わず、今到着したジェイコブのパートナー、剣の花嫁のフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が、待機中のセラフィーナに訊ねる。
ヘッドセット型の無線で、上空から全体の様子を監督している鈴と連絡を取ったセラフィーナは、現状を説明した。
「ジェイコブ曹長は、後方待機にてまだ生きてます。
青は現在6の5。赤が5の4ですね」
ちなみに垂は負けた後、うちの隊の掃除に合流してくる! と言って既に帰っている。
ジェイコブの姿を探して、フィリシアはきょろきょろと辺りを見てみるが、フィールドは広く、セラフィーナ以外の誰の姿も見えない。
「……頑張ってください……」
せめてフィリシアは祈った。
ニキータと羅儀は、陣の前に待機するブルーズとヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)に発見された。
「ブルーズ、来たわ」
真っ先に行動したのはヒルダだが、ヒルダは自分からは動かず、守りに入る。
なので実質先制を取ったのはブルーズだった。
ブルーズは、すかさず魔人のランプから、体長10メートル程の巨人を喚び出す。
「ちょっ!」
ニキータ達は慌てた。
羅儀は何とか躱したが、ニキータは、どしんとまともに踏み潰される。
「あいったぁ……。クリットしたかも……」
うっかりまともに喰らってしまった。やはり死亡判定が出てしまい、そのまま横たわる。
ハッタリ半分の攻撃だが、上手くいった。ブルーズは安堵する。
残った羅儀との攻防で、守りに徹したヒルダは最後まで受けきれずに倒れ、ブルーズと魔人対羅儀との戦闘で、先に死亡判定が出たのは羅儀だった。
「くそ、思ったより堅かった」
「時間切れで魔人が消えた時は一瞬焦ったが」
羅儀の言葉に、他の手を用意していなかったブルーズがそう返す。
「これで青の攻撃部隊は全滅だな。向こうはどうなってるかな?」
羅儀は振り返って、青チームの旗がある方を見やった。
「しまった、突破されたか?」
茂みに身を潜めつつ、サイドから来る敵に備えていたジェイコブだが、突撃して来る様子が無いのを見て、中央へ移動した。
たが、そこは既に抜けられた後だった。
陣地に向かって下がると、逆サイドから中央に来た白竜と合流する。
「敵は」
「抜けられたようだ」
白竜の問いに答える。
白竜は後方を振り返った。
ということは、敵は既に旗に到達しているか。今から走っても間に合うまい。
「あれっ、テオフィロスじゃない」
丈二と共に敵陣にまっすぐ突っ込んで行きながら、鳳明が言う。
青チームの旗を護っていたのは、テオフィロスではなくルカルカだった。
どちらにしろ、強敵には違いない。
けれど二人の策は一つ。正面から、だ。
最初に旗の位置まで下がった後、待機していたルカルカは、陣地にインビジブルトラップを設置し、気を溜めた。
「きゃっ!」
鳳明達が、仕掛けておいたトラップに引っかかった瞬間、ルカルカは龍気砲を撃つ。
喰らったのは、丈二だった。
「……くっ」
辛うじて倒れはしなかったものの、丈二の受けたダメージは大きかった。
そこへすかさず、相手を動きを見る為にあえて後手に回った鳳明が、反撃に出る。
何とか格闘戦に持ち込んで押さえ込み、関節技に持ち込めれば、と鳳明は思った。
次の攻撃を受ければ負ける。
一方、自分のダメージをそう判断して、今出来ることは、鳳明への援護か、と丈二は思った。
そしてルカルカの目を自分に向けさせることだ。
「少尉、後は頼みますっ」
銃剣銃を手に、丈二はルカルカに突っ込む。
ルカルカは、攻撃を受けながらも、次の攻撃で丈二にとどめをさし、そしてその隙に、鳳明は横からルカルカに飛び掛った。
が、ルカルカを地に倒したところで、ルカルカの操るフラワシが、投げ放ったシリンダーボムを鳳明の背後で爆発させる。
「あっ!」
ダメージを受けた鳳明とすかさず体勢を入れ替えて、ルカルカは鳳明にとどめを刺した。
「あーん、もう、負けちゃったあ」
鳳明はじたばたと悔しがる。
「健闘したのであります」
丈二の言葉に、そうだね、と頷く。
終わった後の打ち上げを楽しみに頑張った。
「よし、終わりだっ」
がば、と起き上がった。
「やれやれ、終了か」
都築が伸びをひとつする。
「決着付かなかったな」
「まだだ」
という声に振り向けば、横手からテオフィロスが現れた。
「は? お前何で此処にいるんだよ」
「こちらのチームに、旗を取りに行く者が居ないと言うのでな。
確実に負けると解っている勝負などつまらないだろう」
旗の位置にルカルカが下がって来た時点で、テオフィロスは旗を彼女に任せて前線に出て来たのだ。
「お前が出て来た時点で、こっちの負けが確実だろうが、つまらねえ」
「彼等の勝負がつくまで待った。あとはお前が俺に旗を渡さなければいい」
テオフィロスの言葉に肩を竦め、都築はテオフィロスに向けて旗を放った。
「俺は戦闘に向いた指揮官じゃない」
「どうだか……」
いずれにしろ、とりあえず勝利は青チーム、ということになった。
「お疲れ様でした。
間に合わなくて申し訳ありません」
戻って来たジェイコブに、フィリシアが謝る。
首を横に振って、ジェイコブはひとつ息を吐いた。
「勝てなかった、か」
結果は、『負けなかった』。
旗は護れたが取れなかった。最後のテオフィロスはオマケだ。
「オレ自身もまだまだということか。読みが甘かったな」
「生き延びましたよ」
「それもひとつの結果か」
フィリシアの言葉に、ジェイコブは苦笑した。
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