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若葉種もみ祭開催! ~パラ実分校学園祭~

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第11章 『桃雪姫』午前の部

 お昼休憩後、若葉分校ホールにて、劇『桃雪姫』午後の部が始まろうとしていた。
「演劇に対する知識はあなた達よりあるし、いいわよ演ってあげる『桃雪姫』」
「マジっすか、姫っすか!?」
 ごくりと分校生達が唾を飲む。
「やーねえ、そんなの柄じゃないわ、お妃様やるわよ、楽しそうだし」
 そう笑ったのは、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)
 元若葉分校の分校長だ。
「それはそれで、すっごく合ってる気がする」
「確かに」
 うんうん頷く若葉分校生達。
「でも、気に入らない点が一つあるわね……」
「なんっすか?」
「こ・びとが貧相すぎるからもっと顔のいい奴に変えてちょうだいな」
「! !!!! それはダメだー」
「断固拒否!」
 ブラヌと分校生達がブーブー文句を言う。
「まあ、ブラヌはかわいそうだから残っていいけど」
 亜璃珠がそう言うと、ブラヌを突き飛ばして他の分校生達が抗議する。
「この分校は番長を始めとして(自称)イケメン揃いだ。貧相に見えるのはてめーの好みの問題だ!」
「そうだ、そうだー!」
 ふうとため息をついて、飽きれたような顔で亜璃珠は言う。
「バカねえ、長期的な視点でモノを見なさい。逆ハーレムって言うのかしら、日本じゃ人気だったのよ、そういう改変モノ。この場でだけ、あんなちんちくりん一人の唇を奪うより、イケメンを増やして女子の気を引いて入学者を引いたほうが理想的じゃない
 あと何より私が殺す気にならないし、適当なことやってたらアイリスに殺されるわよ」
「いや、午後の部は瀬蓮ちゃんあんまり出ないんだ。だから大丈夫」
「……じゃ、姫は誰よ?」
「それは、始まってのお楽しみということで!」
 ふーん、誰でもやることは変わらないけど、と亜璃珠が言おうと思ったその時。
「ダメダメ間違ってる、この台本!」
 突如、楽屋に訪れた少女――桐生 円(きりゅう・まどか)が本を床に投げ捨てた。
「入学者を増やす為に必要なのは、パラ実向けのバイオレンスと女子に受けるイケメンと耽美なストーリーなんだよ!」
「は、はあ」
 ブラヌと悪友達は円の勢いに圧倒されて後退る。
「今からボクが正しい『桃雪姫』を教えてあげるから」
「は、はあ……」
「地球ではこういうストーリーなんだよ!」
 そして円は、劇とはなんなのか桃雪姫とはなんなのか、熱く熱く語っていったのだった。

「優子隊長が企画した劇に間違いないよね?」
 ホールの前で、秋月 葵(あきづき・あおい)はポスターを見ながら首をかしげる。
 噂では、濃厚な女の子同士のキスシーンがある劇だとか。
「アレナちゃん姫役で参加するんだよね? 優子隊長は……王子の方がイメージに合うかな? どの役をやるのですか?」
 葵は共に訪れたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)と、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に尋ねた。
「はい、姫役お願いしますって、連絡いただいてます! 白雪姫の本、良く読んできました」
 アレナは笑顔で答えた。
「私は……何も聞いていないし、出るつもりはないよ」
 優子は苦笑しながらそう言った。
「だが、私の名前を使って、変な劇をやるというのなら……その時は止めさせてもらうが」
 キランと優子の目が輝き、葵はゾクッとした。
 葵は優子を苦手としていたが、最近はそういった苦手意識は随分と無くなっていた。
 でも任務中や、こういう鋭い目をするときには怖いと感じてしまうこともある。
「そうですか……アレナさんは、姫役で出演されるのですね」
 実行委員として監視をしていたユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)が真剣な顔つきで近づいてきた。
「はい! 台詞とかわかりませんが、舞台で分校の人達に言われた通りに動けばいいって聞いているので、多分できると思います」
「そうですか……そうですか」
 午前の部でのことを聞いていたユニコルノは、乾いた薄い笑みを見せる。
「やはりここは呼雪に……」
 そして何やらぶつぶつ言いながら、ホールに入っていった。
「ええっと、それじゃアレナちゃん、頑張ってね♪」
 葵は笑みを浮かべて、アレナを応援する。
「はい」
「もしものことがあった場合、優子隊長が助けてくれると思うから。安心して演技に集中してね」
 アレナはこくっと頷く。
(もしものことあった方がいいかもしれない。優子隊長が監視としてでも王子役やってくれれば……合法的に隊長とアレナちゃん、キスできるんじゃないかな……この企画イケル♪)
 葵は胸をときめかせながら、舞台裏の控え室に向かった。葵自身については、この時点では小人役でもやろうかなと思っていた。
 優子はホールの隅に立ち、腕を組んで開演を待つことにしたが。
「ん?」
 この劇について優子に知らせてくれた相手――早川 呼雪(はやかわ・こゆき)からメールが届いた。
『優子さんが観賞していたらブラヌ達は大人しくしているでしょうか、それだけです。
 ここは軽くお灸をすえる為に、一計を案じましょう』
 彼の案を聞く為に、優子は指定の場所へと向かったのだった。

 数十分後。
 舞台に明かりが点り、劇が始まった。
「鏡よ、この世で一番美しいのは誰?」
 派手なドレスを纏い、扇を手に鏡に撫でるように触れて、王妃亜璃珠は尋ねた。
 観客席から「おおー」と感嘆の声が漏れる。実に、はまり役だった。
「一番美しいのは、森で暮らす桃雪……」
 ガシャン
「このロリコン野郎」
 即、王妃亜璃珠は鏡を叩き割った。
「でもまあ、とりあえず。殺しておきましょうかね、桃雪姫……達」
 そして王妃亜璃珠は庭に生っていた林檎をむしり取って、籠の中に入れる。

「迫真の演技だねー、呼雪」
 観客席で、ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が隣に目を向けると。
「あれ? さっきまでいたのに」
 一緒に観賞していたはずの呼雪の姿がなくなっていた。
 何処に行ったのだろう? 探しに行った方がいいだろうか……。
 そう考えているうちに、舞台の準備が整い、次の場面が始まる。

 場面は変わり、森の中の小さな家。
「こ・びとさん、お食事作りました」
 桃雪アレナ姫は、森の中でこ・びとのブラヌと楽しく暮らしていた。
 お城に居た頃は、王妃亜璃珠に壮絶にいじめられまくりで、毎日泣きべそをかいていた彼女だが、ここに来てからは、笑みを絶やさず、幸せに暮らしている。
 それというのも。
「もう食べちゃったけどね」
 にこっと笑みを見せたのは、桃雪瀬蓮姫だった。
「ごちそう様でした〜、美味しかったね」
 桃雪葵姫も満足げな表情だ。
「あ、ブラヌ。片付けお願いね」
 桃雪シアル姫は寝そべって雑誌を読みながら、ブラヌにそっけなく言った。
 そう、意地悪な妃はおらず、お友達の桃雪姫達がここには沢山いるのだ。
「こんにちはー……ん?」
 訪ねてきた王妃亜璃珠が眉を顰める。
「なんかイケメンじゃなくて女の子ばかりなんだけれど?」
「桃雪姫が一人だけだと誰が言いました?」
 その時、置き物かと思ったピンク色の何かが動いた。
「……ロザリンド」
「誰ですかそれは。私の名前は桃雪No.5パワードスーツ姫!」
 ソレが槍を空へと掲げた。
 それは言わずと知れた筒状のパワードスーツを纏った、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)なのだが。
 今日は金髪の鬘と、フリル付きの布を堂に巻いて、桃雪姫に扮し……たつもりだった。
「嫌ですわ。あの忌まわしきGのように増えるなんて。ホウ酸団子……もとい、この林檎で処分しませんと」
 王妃亜璃珠は額を抑えてそう言いつつ、籠の中の林檎を配ろうとするが、数が足りない。
「あなたたち、美味しい林檎をあげるわ。いい? 包丁で切って皮をむいて、1切れずつ一斉に食べるのよ!」
「はい、王妃様」
「わかりました♪」
「うん、ありがと」
「ブラヌ、早く剥きなさい」
 桃雪姫達は素直に返事をして、ブラヌが林檎を剥いてくれるのを待った。
「これのどこがハーレムなんだろう……」
 ブラヌは呟きながら、姫達の為に林檎を剥いてあげるのだった。
「……ん!?」
「あっ」
「ううっ」
「……寝るわ」
 林檎をかじった姫たちが、ばたばた倒れだす。
「ああっ、なんということでしょう! 妃が持ってきた林檎にホウ酸が入っているなんて!」
 桃雪ロザリンはパワードスーツに押し当てただけだけれど、演技でくるくる回り、どおんと倒れる。会場が揺れた。
「……来た、来たぞ俺の出番!」
 ブラヌがすくっと立ち上がる。
「姫達に散々こき使われて来たんだ、これくらいの報酬当然だよな! てゆーか、姫が中毒……いやいや妃の呪いで倒れた! 大変だ。王子が来る前に、3人だけでも助けねぇと!!」
 ブラヌのターゲットは、葵、アレナ、瀬蓮だった。
 まずは、一番近くにいた、葵に飛び掛かる。
(やばっ!)
 葵が抵抗しようと思ったその時。
「ふ……ふふふふふ……」
 舞台に暗雲が立ち込め、禍々しい化け物たちが周囲に漂った。
 会場がざわめき、観客達から悲鳴があがった。
「我は黒雪」
 声が響き、真紅と漆黒のドレスを纏った長髪の女性が舞台に現れる。
「この世を混沌に陥れてやろう」
 トリプルティアラを被ったその美しき姫は、儚げでどこか虚ろで。
 呪われているようであった。
「6人目の桃雪姫だな。よし、お前からチューで癒してやるぜッ!」
 ブラヌがジャンプして黒雪――ユニコルノに女装させられた呼雪に飛び掛かっていく。
「貴様ごときに、何が出来る」
 ぺしん。とハエを叩き落とすかのように、黒雪はブラヌを平手で叩き落とした。
「ぐぐぐ、なんて強力な呪いなんだ……っ」
 ブラヌが黒雪の足に縋り付き、手を太腿に這わせていく。
「……〜!!」
 それはそれはおぞましい感触だった。ぐあしっ、ぐあしっ、ぐあしっと黒雪はブラヌを踏みつぶす!
(というか、これどう収拾をつけるのだろう)
 黒雪――呼雪は女の子達のピンチに飛び出してアドリブをかましたものの、その先のことは考えてなかった。 
「さあ、姫達よ。まずは我と共に妃を倒し城を乗っ取るのだ!」
 とりあえずこのまま劇を続けるしかないと、黒雪は夢想の宴で化け物を漂わせる。
 倒れていた姫達が呼雪の演技に乗って、ゆらりと起き上がっていく。
「黒雪さんは呪われて女の子になっちゃったのですね。一緒に王子様に助けてもらいましょう!」
 桃雪アレナがにっこり微笑んで言った。
「そう、桃雪アレナ姫を助けられるのは王子様だけなのです。あたしはもう平気だけどね♪」
 桃雪葵は舞台そでに向かって、言った。
「ブラヌ、もっとちゃんと掃除しなさい、服が汚れたわ」
 桃雪シアルは汚れを払いながら立ち上がる。
「お、王子のき、キスですか……」
 桃雪ロザリンは、両手を目に当て、パワードマスクに貼り付けてきた大きな付け唇をぶるぶるふるわせている。
「王子か。果たして王子に我らの呪いが解けるか――」
 黒雪が裏声でそう言ったその時。
「そうはさせないわ! おのれ桃雪姫ズ! どうでもいいブラヌはともかく、王子のキスで呪いを解いてもらおうなんて……!」
 モヒカン達をひきつれて、王妃亜璃珠が乱入してきた。
「来ると思っていたよ、王妃!」
 すくりと立ち上がったのは、最後まで寝ていた桃雪瀬蓮だった。
 彼女の顔には何故か鬼の面。
 そして手にはチェーンソーを持っていた。
「王子様なんて居ないの。……ええっと、救いの手なんて存在しないの! 救えるのは自分だけ。瀬……桃雪はキレました。自分で、意地悪する貴女をぶったおします」
 チェーンソーを手に、桃雪瀬蓮姫は、亜璃珠に向かっていく。
 エンジンのかけ方は分からなかったというか、使い方は知らないので動いていない。そのまま瀬蓮はえいえいと亜璃珠に叩きつけようとする。
「お話になりませんわ。さあ、あなた達、王子の居場所を言いなさい! 私が先に奪ってやるわ」
 亜璃珠は桃雪瀬蓮姫を片手であしらうと、モヒカン達に命じて姫たちを囲ませる。
「く……ぅ、1人だけでも、俺の、こい、人に……アレナ、ちゃん!」
 ブラヌが死力を振り絞り、バッタのようにジャンプ。アレナに飛びついた。
「んちゅー」
「『い』を撃ち抜いて、故人(こじん)にして差し上げます!」
「ふぎゃ!」
 ギリギリのところで、ユニコルノがサンダーショットガンでブラヌの額を撃ち、倒した。
「アレナ姫ご無事ですか?」
 モヒカンの包囲網を潜り抜け、ユニコルノはアレナの救出に向かった。
「ユノ姫、私はご無事です」
「いえ、私は姫では……」
「姫が全員揃ったようだな」
 その時。舞台に凛とした声が響いた。