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リアクション
■ 百合園サッカー部 試合前の一コマ ■
スコアブックを片付けていて、間に挟まれていた物がヒラリと床に落ち、拾い上げた芦原 郁乃(あはら・いくの)は思わず顔を綻ばせた。
「あっ、これ、いつのだっけ……? アルバムに挟み忘れてたんだなぁ」
百合園サッカー部に在籍する郁乃達の、試合前に撮った写真だった。
チームスポーツは、対戦相手を探すのが大変だ。
契約者の通う学校以外に、日本で馴染み深いようなタイプの学校はあまり無いし、部活動をしている学校は更に少ない。
空京あたりに行けば、学校部活関係なく、スポーツチームとして楽しんでいる人も多いけれど、ヴァイシャリーとなるとぐっと少なくなるのである。
かくいう自分も、蒼空学園生なのだが、『百合園女学院サッカー&フットサル部』にのみ在籍している、というイレギュラーなのだ。
「荀灌の顔、緊張してるなー、きっと入ったばっかの頃かな。
それにしても、レロシャったらあくびしてる。キャプテンはそっちに気を取られてるし……ふふっ」
「何を見てるんですか?」
郁乃の横から、ひょい、と、現れた荀 灌(じゅん・かん)が手元を覗き込む。
「あ、試合前の写真ですね。やだ、私緊張してますねー」
「これ、いつのだか憶えてる?」
「んんー、いつでしたでしょうか……私が入部して間もないですよね、これ」
「うん。だと思う」
二人は写真を懐かしむ。
「お姉ちゃん、ワクワクが止められないって感じですね」
「見ての通りよね。まぁ今も相変わらずだけどね」
何とか対戦相手を見つけて、試合をした。
勝っても負けても、本当に楽しかった。いや、勿論負けたら悔しかったけれど。
「私はお姉ちゃんの『みんながんばろうね』にはいつも元気づけられるんですよ」
荀灌がへへ、と笑う。ありがと、と郁乃は少し照れつつも。
「そいやね、ちょっと最近気付いたんだけど…」
「なんですか?」
「わたしのキャッチフレーズの『小さい牙』なんだけど」
「はい」
「わたしの口癖の『ちっちゃいからってバカにすると痛い目見るんだからぁ』にちなんでるんだけど……小さいはいらなかったよね」
「たしかにチーム全体的に身長は小さいですもんね。でも牙だけでは言いにくいですから……」
「しょうがないということにしとくしかないかな……」
もっとこう、勇ましくかっこいい“ホニャララ牙”にすべきだったかも。今更変えられないけれど。
ひとしきり、そんな話で盛り上がりつつ郁乃は、得がたい仲間や友人に出会うきっかけにもなったこの百合園サッカー&フットサル部に入って、大正解だったと思うのだ。
あの時の自分に出会えたら、にっこり笑って言ってあげたい。
「GJ!! わたし!」
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