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リアクション
■ 二人の蛇遣い座 ■
それは三千のパラレル・ワールドの内の何処か“妄想の世界”で、本当にあったかもしれない話――
サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)。
真の名を、サビク・アル=アウワルという。第一のサビク、という意味だ。
シャムシエル・サビク(しゃむしえる・さびく)は、真の『十二星華・蛇遣い座』ではない。サビクこそが、五千年前、その名で呼ばれた者だった。
十二星華は、『女王器を使う為のスペアキー』として作り出された存在だが、彼女は違う。
十二星華達が叛意を抱いた時、それを駆逐し、処分する為の始末屋。それがサビク・アル=アウワルの役割だった。
故に、自らの星剣はなく、存在も秘された、例外的存在なのだ。
……勿論、使うことは出来る。現在は、『ノイエ13』に、新造の星剣が装備されている。
「――だから、ボクの存在を知っているのはアムリアナ陛下くらい……いや、もう過去形だね。
忘れられた存在なのさ、ボクは。
何より十二星華は良い子達だったから、ボクの出番はなかった。古王国の時代には」
アムリアナ・シュヴァーラという人物は、もういない。
今は記憶を失い、ジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)として新たな人生を歩んでいる。
だからもう、サビク・アル=アウワルという十二星華の処刑人について知る者は、誰もいない。
どのようにしてその存在を知ったのか、近年、眠りについていたサビク・アル=アウワルの能力に目をつけた者がいた。
テレングト・カンテミールである。
カンテミールは、サビク・アル=アウワルをベースにして、新たな十二星華、シャムシエル・サビクを新造した。
シャムシエル・サビクは十二星華を簒奪、サビク・アル=アウワルは、古よりの使命に従いそれを追い……そして、敗北した。
「……ボクは契約の力を求め、シリウスを訪ねる直前まで、生死の境を彷徨っていた。
ま、ここでも表舞台には出られなくなってしまったというわけさ」
「中々面白い話だったな!」
サビクの話は終わった。引き込まれて聞いていたシリウスは、ほっと息を吐き出す。
本当か、嘘か、そんな前置きで始まった、サビクの怪しげな昔話。
「キミは、ボクの話を信じるかい?」
「そりゃあ勿論、オレは信じるに決まってる! ……でも」
「ふふ、解ってるさ」
他の人にはこんな話、とんだ妄想だと笑われるのがオチだろう。
それは空音か空想か――サビクは物憂いげに笑った。
それは三千のパラレル・ワールドの内の何処かで、本当にあったかもしれない“妄想”――