リアクション
■ 夏の思い出 ■
「覚悟はいい?」
そう言った郁乃の、楽しそうな、しかし何か企んでいるような気がしてならないその笑顔に、秋月 桃花(あきづき・とうか)は、心なしか身構えた。
「な、何の覚悟ですか?」
「勿論、日焼け止め!
しっかり塗らないとね。真夏の太陽は紫外線が強烈だよ」
それに何の覚悟が必要なのかしら……と思った桃花に、郁乃は更ににっこりと笑う。
「塗ってあげる」
「あの……できれば……お手柔らかに……お願いします……」
何だか、断れない。怖い……じゃなくて、そんなこと言える雰囲気じゃない。
……覚悟?
その日、桃花達は、皆で海にバカンスに来た。そして遊ばれた。
バカンス中、桃花は皆に代わる代わる、ビーチに行く時も散歩に行く時も、事ある毎に、日焼け止めを隅々まで塗られまくったのだ。
お陰で、日焼けは全くしなかったのだが。
最初は恥ずかしくて溜まらなかったものの、慣れって怖い。
諦めから、その内段々、郁乃に日焼け止めを塗って貰えるのが気持ちよくなってきて、数日後には、桃花の方からお願いしていた程だ。
「郁乃様、日焼け止めを塗って貰えますか?」
……
「きゃああああ」
「何悶えているの?」
桃花の手元を覗き込んだ郁乃は、彼女が持っている一枚の写真を見て、納得する。
くすりと笑って、ねえ、と耳元に囁いた。
「今年も海へ行こうか」
「……はい」