リアクション
「お待たせしました……っ」 ○ ○ ○ 『ヴァイシャリーにも春が訪れました。 可愛らしいピンクのこの花は、桃の花。 一緒に映っている綺麗な女性達は、百合園女学院の卒業生。 すっごい綺麗な光景でしょ?』 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、ヴァイシャリーを巡って、風景や人々、百合園生達を撮って、エリュシオンにいる高原 瀬蓮(たかはら・せれん)とアイリス・ブルーエアリアル(あいりす・ぶるーえありある)宛ての手紙を書いた。 「瀬蓮ちゃんも、アイリスも百合園女学院とヴァイシャリーが好きでしたから……」 学院や街の様子を手紙で教えてあげたら、喜んでくれるかな。 そんな風に考えて、美しい花々と、美しく旅発つ百合園生達の姿を同封した、手書きの手紙を送ったのだった。 その数日後。 「お返事が来た、返事が来たよ〜!」 美羽の元気な声が、空京のロイヤルガードの宿舎に響き渡った。 美羽、それからパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も、彼女の部屋に集まって、美羽に届いた手紙を見せてもらうことにする。 「美羽さん、瀬蓮さんとアイリスさんと良く遊んでいましたよね」 昔を懐かしむように、ベアトリーチェは言って、ティーセットを用意して紅茶を淹れていく。 瀬蓮とアイリスが百合園女学院に通っていた頃。 美羽は瀬蓮と親しくしており、よく一緒に遊んでいたのだ。 ベアトリーチェはアイリスと共に、二人の保護者のようなポジションで、行動を共にしていたことを思い出す。 「話には聞いていたけれど……あ、ありがとう」 コハクはベアトリーチェが淹れてくれた紅茶を受け取って、嬉しそうに封を開けている美羽を見詰めた。 コハクがアイリス達と出会ったのは――美羽とは違い、シャンバラとエリュシオンの対立が始まった頃だ。 だから、彼女達と一緒に遊びを楽しんだり、ゆっくり時を過ごしたことはない。 顔を合せたのは、敵地か、戦場だけだった。 「デジタルフォトフレームが入ってる! 画像レターだよ、これ。うわ〜っ」 美羽の嬉しそうな笑顔に、コハクはそっと息をついて。 淡い微笑を浮かべる。 (今度は僕もアイリスたちとゆっくり会いたいな) そんなことを考えながら、美羽に、レターを見せてもらう。 送られてきたフォトフレームには、沢山のエリュシオンの風景と、それを紹介する瀬蓮の声が入っていた。 『お手紙ありがとう、美羽ちゃん! エリュシオンも春真っ盛りだよ。これはエリュシオンの桃色の花。綺麗でしょ? 百合園女学院にも似合いそうな花だよね。卒業式にはもう間に合わないから、新入生へのお祝いとして贈ろうかな! 美羽ちゃんは、パートナーの皆とお花見してる? 日本はそろそろ桜が咲くころだよね。エリュシオンでも桜が満開な場所、あるかなぁ。ニルヴァーナには、桜植えたいよね。あっ、私達ニルヴァーナに行くことになったんだよ』 そんな、瀬蓮の元気な言葉が沢山詰まった画像レターだった。 ニルヴァーナ行きに関しては、少し複雑な思いも感じられたけれど……。 最後に表示されたのは、アイリスと腕を組んで微笑んでいる彼女の姿だった。 「瀬蓮ちゃん、元気そうだね。よかった」 美羽の顔にも、瀬蓮と同じような微笑みが広がって。 「すぐそばにいるような気持ちになりますね」 紅茶を飲んで、ベアトリーチェもゆっくり微笑み。 「ニルヴァーナで会えるかも。一緒に活動できる日が来るかもね」 そう、コハクも笑みを浮かべた。 うん、と頷いて。 大切に、美羽はもう一度最初から、写真と、瀬蓮の声を聴いていく――。 ○ ○ ○ (お義父さんの贈る言葉ってどんなのだろう?) リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)は、前を歩くスプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)の大きな背を見ていた。 リアトリスが所属する天御柱学院でも、先日卒業式が行われた。 多くの卒業生は、パラミタへと巣立っていくのだろう。 そんな卒業生宛てに、スプリングロンドはビデオレターを作るのだという。 「お手伝いできることがあったら、言ってね」 義父の背に向かって、リアトリスが言うと。 「そうだな。撮影を頼んでいいか?」 「うん、場所はどこにする? 校庭がいいかな」 「ああ」 2人は天学の校庭へと出て、場所を選んでいく。 天学は他校に比べて、自然の植物が少ない。 だが、一角に2人が求めている場所があった。 整えられた草木の間に、一本だけ桜の花が咲いている。 「あの桜の木の前なんかどう?」 「……美しい、花だな」 桜を見上げた後で。スプリングロンドは木へと近づき、前に立った。 (戦場で多くの命を奪った人間が贈る言葉か、なにかあるだろうか?) そんな考えは、録る直前の今も変わらない。 「んーと」 リアトリスは借りてきた機材を持って、桜とスプリングロンドが写る場所へと移動する。 「うん、この辺りがよさそう。それじゃ、とるよぉ〜!」 そう声をかけて、リアトリスは録画を開始した。 桜の木の下で、小さな舞い降りる花びらを浴びながら。 スプリングロンドはゆっくりと語る。 「自分は昔、傭兵をやっていて多くの人間を生きるために殺してしまった。――多くの人間を不幸にしてしまった」 リアトリスが構えるカメラをまっすぐ見ながら。 その先の、映像を見るであろう若者達を思い浮かべながら、続けていく。 「これからどんな人生が待っているかわからないが自分を最後まで生き抜いて欲しい」 そして、一呼吸おいて、重く強い声で言う――、 「一つでも多くの幸せを作れる人間になれ、俺みたいな大人にはなるな」 彼が言葉を終えて数秒後。 「お疲れ様!」 録画止めて、リアトリスは笑顔でスプリングロンドに声をかける。 「ああ、お疲れ」 スプリングロンドはそう答えて、桜の木の前から、リアトリスの前へと戻って来た。 「編集して贈ろう。誰かに届けるために」 ビデオカメラを受け取ると、スプリングロンドはリアトリスと共に帰路につく。 彼の言葉は、きっと誰かに届く。 その声は、卒業生の誰かの心に響くだろう。 |
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