リアクション
「よう王ちゃん、これから昼か? 一緒に飯食おうぜ!」 ○ ○ ○ 空京大学の他に、空京にも学び舎は存在している。 空京の温かい地球の太陽の光の下で、今日、卒業式が行われた学校があった。 「……」 買い物の帰り道。 荷物を抱えながら、佐野 和輝(さの・かずき)は卒業生の歌声を聞いた。 少年少女達が、澄んだ声で巣立ちの歌を歌っている――。 (“巣立ち”という素晴しい行事であることは理解している……だが) 和輝にとっては、『別れ』の行事という想いが強かった。 多分、幼少期に両親を亡くしたことが原因なのだろうと、和輝は自己分析をしながら、歌声を聴いていた。 未来へ旅立つ者達の声なのに。 心に、寂しさを、悲しみを感じてしまう。 「和輝?」 気づけば、一緒に歩いていたアニス・パラス(あにす・ぱらす)が、自分のことをじっと見つめている。 「ん? どした?」 「なんか凄く寂しそうな顔してるよ?」 「あ……」 アニスの言葉に苦笑した後。 和輝はまた少し寂しげな目で歌声の方に目を向けて。 それから、アニスへ視線を戻し、微笑んだ。 「別れの季節だからな。胸に響く歌声だと思って」 「別れの季節……。そっか、春ってそんな季節でもあるんだねぇ……」 和輝が寂しさを、不安を感じていることに気付いて。 「でも大丈夫!! だって――」 アニスは笑みを和輝に向ける。 「大丈夫だよ和輝♪ アニスは、絶対に和輝の前から消えちゃわないよ! だって和輝が傍にいるから、アニスは“アニス”で居られるんだよ? それに、和輝のこと……大好きだもん♪ ……にひひ〜っ」 少し照れながら、満面の笑顔でアニスは和輝にそう言った。 「――そっか」 和輝は目を細めて微笑して。 「ありがとな」 アニスに感謝した。 大好きは、恋愛的な意味ではなく、深い親しみを感じてくれているという意味と受け取って。 和輝はアニスを妹のように、そして大切な存在として想っている。 寂しいという感情は、彼女の笑顔と言葉で和輝の中から消えていた。 「うん♪ それじゃ、帰ろ〜」 アニスは早歩きで和輝の前に出て。振り向いて笑顔を見せる。 アニスは――和輝のことを一人の男性として、好いている。 だけれど、それ以上に強化人間の性質からくるパートナーへの依存が大分部分を占めていて。 心身ともに和輝に依存していた。 「うん、帰ろう」 和輝の優しい言葉と、自分を見る優しい瞳がたまらなく嬉しくて。 また少し照れながら、アニスは。 「ここにいるからね♪」 と、和輝の手を引いて、歩き出した。 ○ ○ ○ 「この時期になると、やっぱり少し寂しい気持ちになるよね」 「うん、学校に顔を出す生徒の数も減るしね」 フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)と、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)は、イルミンスール魔法学校の図書館で、一緒に調べ物をしていた。 「ちょっと休憩にしようか」 と、フィリップが本を閉じて、背もたれに背を預けて目を閉じ、ふうと息をついた。 「卒業かあ……」 フレデリカはふと窓の外を見る。 外のテラスには、ベンチがあって。 1組の男女が肩を寄せて座っている。 木漏れ日を浴びながら談笑しているそのカップルは、とても幸せそうに見えた。 「フリッカは、学校を卒業したら騎士団で要職を目指したり、議員を目指したりするんですか?」 目を開けて、穏やかにフィリップがフレデリカに問いかけてきた。 「え……。うん、それはそうなんだけど」 それはフレデリカにとって、義務だ。 彼女の夢は別にあって……。 「フィル君は、どうするの? 夢、あるんだよね?」 「うん。僕は、魔法を極めて、いつか流派を立ち上げたいんです。だから、卒業をしたとしても、ずっと魔法を学び続けます」 フィリップは魔法の魅力や、自分のアイディアを、目を輝かせながらフレデリカに語った。 フレデリカはそんなフィリップの言葉を、一言一句聞き漏らさないよう、熱心に聞いていた。 「フリッカは、要職に就くことや議員になることは、夢とは少し違うんでしょうか?」 「うん、それは生まれ持った使命で、義務だから……」 「それじゃ、本当の将来の夢は?」 フィリップが微笑んでフレデリカに尋ねる。 「えっ? し、将来の夢?」 フレデリカは何故か緊張して聞き返す。 「はい、よろしければ教えてください」 「……笑わないで聞いてくれる?」 こくりとフィリップは頷き、戸惑いながらフレデリカは話していく。 「えっと、その……『素敵なお嫁さんになる事』なの」 途端、フィリップの微笑が明るい笑みへと変わってった。 「って!『笑わないで』って言ったのにぃ!」 フレデリカは真っ赤になって言い、恥ずかしげに顔を覆った。 「えっと、笑ったんじゃないんです。素敵な夢だなと思ったら自然と笑顔が出てしまって。気に障ったのならごめんなさい」 「そ、そんなんじゃないけど」 フレデリカはちらりと外のカップルに目を向ける。 女の子は優しい雰囲気の子だった。きっと可愛らしいお嫁さんになるだろう。 自分も……そんな風になりたいな、と。 想いの人であるフィリップの隣にいると、強く思ってしまう。 「目指すことは難しくなくても、叶えるのは決して簡単じゃない夢ですよね、それ。そしてフリッカにとっては、目指すことも難しいのかな?」 使命や義務があるから。 フレデリカを気遣ってのフィリップの言葉を、フレデリカは嬉しく思いながら、答える。 「1人じゃ叶えられない夢、だから。でも……目指すことは、出来るはず」 フィリップをまだ赤みの残る顔で真剣に見つめるフレデリカに、フィリップは優しい笑みを向けた。 「夢を叶えるためにも、僕は、知識を身につけておきませんと。フリッカは……負担を背負わずに、ゆっくりとした時間を持つことをお勧めします。こういう本とかを楽しんで欲しいな」 言って、フィリップがフレデリカに渡したのは、パラミタの小動物図鑑だった。 「えっ、この仔……か、可愛いっ」 図鑑を見て、年相応の可愛らしい笑みを見せるフレデリカを、フィリップは穏やかな表情で見守っていた。 |
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