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「よう王ちゃん、これから昼か? 一緒に飯食おうぜ!」
 空京大学の食堂で、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が、王 大鋸(わん・だーじゅ)に声をかけた。
「おう、あそこの窓際の席が空いてるな」
 大鋸は、ハンバーグ定食を持ち、近くの窓際の席へと向かっていく。
 ラルクも注文していた特盛のインドカレーとナンを受け取ると、大鋸の後に続いた。
 天気が良く、外で昼食をとる学生も多かった。
 花壇の近くで談笑しながらランチタイムを楽しんでいる学生や、重そうに花をつけている春の花々が、安らぎを与えてくれる。
 でもそんな風景よりも、2人は目の前の食事に夢中で。
 ガツガツ、ハンバーグを、インドカレーを平らげていく。
「そういえばもうすぐ3年なんだよなー」
 腹が多少満たされてきた頃。
 ラルクはナンを口に放り込みながら、大鋸に尋ねてみる。
「どうだよ勉強すすんでっか?」
「まーな」
「そんなに進んでなさそうな返事だな」
「そりゃ、あれだ。ロイヤルガードの仕事が忙しすぎて」
「いやいや、最近の任務で王ちゃんを見かけたことねぇが」
「特命がいろいろあるんだよ。雀荘とかカジノとか闘技場に呼び出されてなー、調査がてら、ちょっとあれだ」
「なるほど、調査名目で遊びに行ってるわけだ」
「あくまで調査だっつーの」
 言って、大鋸はガハハハッと声を上げて笑い、ラルクも一緒にしょうがないヤツだなと笑う。
「で、将来については、どう考えてるんだ?」
「ん、ああ、そっちの勉強はまあ、してるぜ。大学の単位は、仕事で役立つモンばかりじゃねえからな」
 大鋸は得意げに話はしなかったが、遊技場だけではなく、福祉施設にもボランティアで赴いて、自主的に現場を見て学んでいるようだった。
「で、お前は? 相方と上手くいってっか?」
 にやりと笑いながら、大鋸がラルクに問う。
「ああ」
 ラルクは伴侶の顔を思い浮かべた後。
 考え、微笑しながら答えていく……。
「俺は…そうだな…確実に近づいてるって感じだな。奥さんの為にも立派な医者になれるように頑張らねぇと、それに拳の道を極めるのも夢だしな。やる事が一杯で参っちまうな」
「ま、お前は頑張ってるよ」
 大鋸は、最後の一切れのハンバーグを食べながら、言った。
「王ちゃんだってそうだろ。お互いまだまだ辛い事が沢山あるだろうが、頑張っていこうぜ!」
 ラルクの言葉に、大鋸は「ああ」と、笑みを浮かべて。
「ライスが余った。カレーもらうぜ」
 と、ラルクのカレーをフォークで掬おうとする。
「っと、こっちも残り少ねぇんだ。よし、購買で菓子パンでも買うか!」
「おう、疲れた脳には糖分が必要だからな」
 特盛の食事を平らげた後、2人は急いでパンを買いに向かうのだった。

○     ○     ○


 空京大学の他に、空京にも学び舎は存在している。
 空京の温かい地球の太陽の光の下で、今日、卒業式が行われた学校があった。
「……」
 買い物の帰り道。
 荷物を抱えながら、佐野 和輝(さの・かずき)は卒業生の歌声を聞いた。
 少年少女達が、澄んだ声で巣立ちの歌を歌っている――。
(“巣立ち”という素晴しい行事であることは理解している……だが)
 和輝にとっては、『別れ』の行事という想いが強かった。
 多分、幼少期に両親を亡くしたことが原因なのだろうと、和輝は自己分析をしながら、歌声を聴いていた。
 未来へ旅立つ者達の声なのに。
 心に、寂しさを、悲しみを感じてしまう。
「和輝?」
 気づけば、一緒に歩いていたアニス・パラス(あにす・ぱらす)が、自分のことをじっと見つめている。
「ん? どした?」
「なんか凄く寂しそうな顔してるよ?」
「あ……」
 アニスの言葉に苦笑した後。
 和輝はまた少し寂しげな目で歌声の方に目を向けて。
 それから、アニスへ視線を戻し、微笑んだ。
「別れの季節だからな。胸に響く歌声だと思って」
「別れの季節……。そっか、春ってそんな季節でもあるんだねぇ……」
 和輝が寂しさを、不安を感じていることに気付いて。
「でも大丈夫!! だって――」
 アニスは笑みを和輝に向ける。
「大丈夫だよ和輝♪ アニスは、絶対に和輝の前から消えちゃわないよ! だって和輝が傍にいるから、アニスは“アニス”で居られるんだよ? それに、和輝のこと……大好きだもん♪ ……にひひ〜っ」
 少し照れながら、満面の笑顔でアニスは和輝にそう言った。
「――そっか」
 和輝は目を細めて微笑して。
「ありがとな」
 アニスに感謝した。
 大好きは、恋愛的な意味ではなく、深い親しみを感じてくれているという意味と受け取って。
 和輝はアニスを妹のように、そして大切な存在として想っている。
 寂しいという感情は、彼女の笑顔と言葉で和輝の中から消えていた。
「うん♪ それじゃ、帰ろ〜」
 アニスは早歩きで和輝の前に出て。振り向いて笑顔を見せる。
 アニスは――和輝のことを一人の男性として、好いている。
 だけれど、それ以上に強化人間の性質からくるパートナーへの依存が大分部分を占めていて。
 心身ともに和輝に依存していた。
「うん、帰ろう」
 和輝の優しい言葉と、自分を見る優しい瞳がたまらなく嬉しくて。
 また少し照れながら、アニスは。
「ここにいるからね♪」
 と、和輝の手を引いて、歩き出した。

○     ○     ○


「この時期になると、やっぱり少し寂しい気持ちになるよね」
「うん、学校に顔を出す生徒の数も減るしね」
 フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)と、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)は、イルミンスール魔法学校の図書館で、一緒に調べ物をしていた。
「ちょっと休憩にしようか」
 と、フィリップが本を閉じて、背もたれに背を預けて目を閉じ、ふうと息をついた。
「卒業かあ……」
 フレデリカはふと窓の外を見る。
 外のテラスには、ベンチがあって。
 1組の男女が肩を寄せて座っている。
 木漏れ日を浴びながら談笑しているそのカップルは、とても幸せそうに見えた。
「フリッカは、学校を卒業したら騎士団で要職を目指したり、議員を目指したりするんですか?」
 目を開けて、穏やかにフィリップがフレデリカに問いかけてきた。
「え……。うん、それはそうなんだけど」
 それはフレデリカにとって、義務だ。
 彼女の夢は別にあって……。
「フィル君は、どうするの? 夢、あるんだよね?」
「うん。僕は、魔法を極めて、いつか流派を立ち上げたいんです。だから、卒業をしたとしても、ずっと魔法を学び続けます」
 フィリップは魔法の魅力や、自分のアイディアを、目を輝かせながらフレデリカに語った。
 フレデリカはそんなフィリップの言葉を、一言一句聞き漏らさないよう、熱心に聞いていた。
「フリッカは、要職に就くことや議員になることは、夢とは少し違うんでしょうか?」
「うん、それは生まれ持った使命で、義務だから……」
「それじゃ、本当の将来の夢は?」
 フィリップが微笑んでフレデリカに尋ねる。
「えっ? し、将来の夢?」
 フレデリカは何故か緊張して聞き返す。
「はい、よろしければ教えてください」
「……笑わないで聞いてくれる?」
 こくりとフィリップは頷き、戸惑いながらフレデリカは話していく。
「えっと、その……『素敵なお嫁さんになる事』なの」
 途端、フィリップの微笑が明るい笑みへと変わってった。
「って!『笑わないで』って言ったのにぃ!」
 フレデリカは真っ赤になって言い、恥ずかしげに顔を覆った。
「えっと、笑ったんじゃないんです。素敵な夢だなと思ったら自然と笑顔が出てしまって。気に障ったのならごめんなさい」
「そ、そんなんじゃないけど」
 フレデリカはちらりと外のカップルに目を向ける。
 女の子は優しい雰囲気の子だった。きっと可愛らしいお嫁さんになるだろう。
 自分も……そんな風になりたいな、と。
 想いの人であるフィリップの隣にいると、強く思ってしまう。
「目指すことは難しくなくても、叶えるのは決して簡単じゃない夢ですよね、それ。そしてフリッカにとっては、目指すことも難しいのかな?」
 使命や義務があるから。
 フレデリカを気遣ってのフィリップの言葉を、フレデリカは嬉しく思いながら、答える。
「1人じゃ叶えられない夢、だから。でも……目指すことは、出来るはず」
 フィリップをまだ赤みの残る顔で真剣に見つめるフレデリカに、フィリップは優しい笑みを向けた。
「夢を叶えるためにも、僕は、知識を身につけておきませんと。フリッカは……負担を背負わずに、ゆっくりとした時間を持つことをお勧めします。こういう本とかを楽しんで欲しいな」
 言って、フィリップがフレデリカに渡したのは、パラミタの小動物図鑑だった。
「えっ、この仔……か、可愛いっ」
 図鑑を見て、年相応の可愛らしい笑みを見せるフレデリカを、フィリップは穏やかな表情で見守っていた。