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リアクション
「もうあまり時間はありません」
ラズィーヤが校長室に戻ると、奥のソファーにて、百合園の一般生徒であるシェーンハイト・シュメッターリング(しぇーんはいと・しゅめったーりんぐ)を交えて、相談が行なわれていた。
「ラズィーヤ様も、どうぞこちらへ」
百合園女学院生徒会執行部、通称白百合団の団長である桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)が立ち上がり、ラズィーヤを自分の隣へと誘う。
ラズィーヤがソファーに腰掛けると、生徒会長の伊藤 春佳(いとう・はるか)がお茶を淹れに席を立った。
「その柱に彫られた騎士について、調べてみようと思います」
白百合団に協力を申し出たシェーンハイトは、怪盗舞士がシャンバラ古王国で、女王に仕えていた騎士の1人、ファビオという男性である可能性が高いという情報を白百合団から得ていた。
「ただ、歴史が必ず真実とは限らない……当時の為政者に都合の良い内容に書き換えられることもありますから。一般的なことでしたら図書館などで歴史の本でも紐解けば書かれているでしょうか? 皆様、とくにラズィーヤ様は何かご存知ではありませんか? 当時、どこで、何があって、その人物達はどうなったのか。能力。悲恋や激昂、嘆きなど何故その名を冠しているのか。現代に彼らの子孫という方々もいるようですので、系譜などあればそれも……」
「団員でも調べに回って下さっている方がいますが、調査は難航しているようです。子孫は……私のパートナーである、ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は、『激昂のジュリオ』様の子孫だと聞いています。ジュリオ様は死んではいない、大戦に備えどこかで眠っているんだと、ルリマーレン家では伝えられているようですが、それ以上のことは存じません」
シェーンハイトの問いに、鈴子はそう答え、静香はラズィーヤに目を向ける。
「家の書庫に記録が残っているかもしれませんわ。随分昔のことですし、探し出すのは大変ですけれど……シェーンハイトさんにお願いしてもよろしいかしら?」
ラズィーヤの言葉に、シェーンハイトは強く頷いた。
「私でよろしければ、お手伝いいたします。ただ、もう時間がありませんので、調べたことを迅速にお伝えするためにも、どなたかの連絡先を教えていただけないでしょうか? 情報は速度が命です。その一分一秒が生死を分けるほどに……」
「私の電話番号とメールアドレスでよろしければ」
鈴子が電話番等とメールアドレスが書かれた名刺を取り出して、シェーンハイトに手渡した。
「使用人もお付けいたします。わたくしにはそちらから連絡が届くようにいたしますわね」
「はい、よろしくお願いいたします」
ラズィーヤの言葉に、シェーンハイトは緊張気味に頷いた。
紅茶を淹れて戻った生徒会長の春佳を交えて、再び相談と状況確認をした後、シェーンハイトはラズィーヤに呼ばれたヴァイシャリー家の執事と共に、ヴァイシャリー家に向かったのだった。
白百合団員のティアレア・アルトワーズ(てぃあれあ・あるとわーず)は、日を改めてラリヴルトン家を訪れ、レッザ・ラリヴルトンと面会を求めた。
「やあ」
「ごきげんよう」
通された応接室に現れたレッザはいつもより幾分穏やかな表情をしていた。
7歳のティアレア1人で訪れたせいだ。
「どうぞ、座って」
「はい」
レッザに勧められて、ソファーに腰掛けると、メイドが林檎ジュースを持って現れ、ティアレアの前に置いた。
「ありがとうございます」
礼を言って会釈をした後、ティアレアはメモ帳をいそいそと取り出す。
「頑張ってるね」
微笑ましげに言う彼は、やはりいつもより優しい。
普段は少し気を張っているのかもしれない。父のこともあり、思い悩むこともあるのだろう……。
「今日は、シャンバラの女王に仕えた騎士達について、お聞きしたくて来ました」
ティアレアは林檎ジュースをちょっと飲んで、笑顔を浮かべながらレッザに問うのだった。
「言い伝えとか、おとぎ話とかでもいいので、知っていることがありましたら教えて下さい」
「俺の知っていることといったら、学校で習ったことくらいだけど……」
レッザはそう前置きをして、ティアレアに話していくのだった。
賢しきソフィアは女性。参謀的役割を担っていたらしい。
麗しきマリルはと美しきマリザは妖精族の、特殊な能力を持った双子の姉妹。
悲恋のカルロは魔術師の男性。愛した女性と結ばれることはなかった。
激昂のジュリオは豪腕剣士。非常に体格の良い男性ヴァルキリー。
嘆きのファビオは風の魔法を得意とする、魔法剣士のヴァルキリー。
「魔法剣士……? でも、映像の怪盗舞士は剣持っていませんでした」
「そうだね。手に入らなかったんじゃなくて、目的に剣は必要なかったんじゃないかな。邪魔だから持っていかなかっただけかもしれないけどね」
こくりと頷いて、ティアレアはレッザのその意見もメモにとった。
「いっぱい調べたよ〜」
話を聞かせてもらったお礼を言って、ティアレアがラリヴルトン家を出ると、図書館で騎士について調べていたパートナーのアルメリア・ソプラゼ(あるめりあ・そぷらぜ)が走り寄ってきた。
「ほら」
アルメリアはティアレアにノートを見せる。
司書に助けてもらいながら、アルメリアはノートに調べたことを纏めたのだった。
「それじゃ、今日の分を、学校に報告しましょう」
「うん」
ティアレアとアルメリアは微笑みあって、学校の方へと歩いていく。
まだ小さい2人だけど、白百合団員として彼女達も立派に活動し貢献していた。
「うーん……」
蒼空学園のあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)は、段ボール姿で今日も騎士の橋を訪れていた。
パートナー達と図書館や聞き込みで、騎士達について調べていたのだが大した成果はなかった。
「鏖殺寺院が暗躍を再会したのに呼応するが如く、女王の騎士「ファビオ」が復活したのは、女王の騎士達がラズィーヤ女史を時期女王と認めたってことなのかなと思ったけど……」
ファビオがラズィーヤに送った花とカードは、彼女を主と認めたから。だから彼女だけに他の予告状とは違い花をたくさん詰めて小包で送った。
漠然とだけれど、そんな気がしていた。
「全ての騎士様が蘇り、王国再建に力を貸していただけますように」
アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)は、雑巾とバケツを持って訪れては、シャンバラの騎士が掘られた柱を、1本1本丁寧に磨いていくのだった。
「同じ騎士として、共に騎士道を語りたいで御座るな」
一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)は、筐子の肩の上で騎士達を眺める。
「よろしくお願いいたしますわ、ファビオ様」
ファビオの像、その周辺の6人の像を磨き上げると、アイリスは手を合わせて祈りを捧げる。
「お帰りを、お待ちしております」
「……でも、全員が死んだわけじゃなさそうなんだよね。直系の子孫がいるのは激昂のジュリオだけみたいだけど」
筐子はジュリオの姿を見ながら、腕を組む。
「ヴァイシャリーにもあるのでござろうな、女王器」
一瞬防師がそう呟くと、筐子は強く頷いた。
「あると思う。女王は力を持っていないと他国に対抗できないけど……女王器があれば、ラズィーヤ女史も女王になれるんじゃないかな? そしたら、ラズィーヤ私設騎士団を結成して、ラズィーヤ女史を推したい!」
「うむ、ラズィーヤ万歳」
「万歳」
「万歳です」
筐子達は、夢を抱きながら、万歳を三唱するのだった。
○ ○ ○ ○
人目を盗むように、予約を入れてあった喫茶店の個室に少女達は集まっていた。
「……本当に、盗る気はあるのか?」
百合園の
メリナ・キャンベル(めりな・きゃんべる)が、
アユナ・リルミナルに問いかける。
戸惑い、揺らぐ瞳を見て、メリナはこう言葉を続ける。
「メリナが盗ってきてもいい。メリナも昔はよく生きていくために金や食べ物を盗んでいた。それなりに盗みのテクニックはあるつもりだぞ」
すぐ、アユナは首を大きく横に振った。
「アユナがやらないと。約束したから……」
「それじゃ、一緒に」
「楽しみね」
百合園の
稲場 繭(いなば・まゆ)がアユナに微笑みかける。パートナーの
エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)は楽しげだった。
「パラ実との混乱に乗じて盗みませんか。……ただ、必要以上に人を傷つけるのだけはやめましょう? それは舞士も喜ばないと思う」
百合園の
高潮 津波(たかしお・つなみ)は、メンバーにそう提案をした。
「わたしは騒ぎを起こして囮に回ります。アルバムを入手できたら……舞士にとにかく届けよう」
「……攻撃されるかもしれないよ。こっそり盗んだ方がいいんじゃないかな」
不安気なアユナに、津波はくすくすと笑う。
「大丈夫よ? 駄目そうなら白百合団に降参して泣いて謝っちゃうし。……それより次に舞士に会うときが、想いを全部ぶつけるチャンスよ。後悔しないで」
不安気な瞳のまま、アユナは首を縦に振った。
「もしもの時のためです……これをつけてください」
繭は皆に、顔面を覆う仮面を配る。
仮面を手に、考え込んでいるアユナの側に、メリナは少しだけ寄って、頭の上に手の平を乗せた。
「明後日から、アユナ達も立派な怪盗だな」
明るく楽しげに言うと、場の雰囲気が少しだけ和らいだ。
「ありがと、皆……アユナ、頑張らなきゃ、頑張らなきゃ……! バレちゃったら……終わったらアユナも泣いて謝る。皆のこと許してもらえるようもっと頑張る、からね……ごめんね」
ハロウィンは明後日に迫っていた――。
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